学ぶことの多かった1日(その2)(長文)

学ぶことの多かった1日(その1)(長文)」の続きです。

3つ目は1年生の社会科で、初任者の南北朝時代の授業でした。
まず鎌倉幕府の滅亡の復習から入ります。人物にスポットを当て、後醍醐天皇、足利尊氏、楠正成を子どもに発表させました。彼らによって新しい政権がつくられたことを押さえて本時の課題に入りました。以前と比べてとムダの少ない導入です。進歩の跡が見られます。

建武の新政が短命に終わったことをもとに、「後醍醐天皇にアドバイスをしよう」が課題でした。子どもたちに考えさせようという授業者の気持ちが感じられます。根拠となる資料は3つのことが書かれていました。「武家を軽視した政治をおこなったこと」「農民の税が軽くなる期待が裏切られたこと」「二条河原の落書(このごろ都に流行りしもの・・・)」です。
最初は個人での作業でした。手がつかない子どもが目立ちます。資料を読み取れない(特に二条河原の落書はよくわからない)ことと、アドバイスを考えるための視点が育っていないことが要因でしょう。1度作業を止めて「建武の新政」という言葉の確認をしてから、4人グループにしました。資料の読み取りや、課題解決へのアプローチを考えることをせずにグループにするのなら、個人作業の時間を取らずに、最初からグループで進めてもよかったように思います。
このとき子どもの動きが遅いことが気になりました。課題に対してどうアプローチしていけばよいかがわからないために意欲が高まっていないのでしょう。また、これに限らず、指示に対する子どもの動きが遅い傾向があります。指示をした後、徹底できるまで待とうとするのですが、待ちきれずに進んでしまうことが原因に思えます。たとえば板書を素早く写さなくても、次の場面に移っても写しつづけることができれば困りません。全員が終わらなければ次に進まなければ、みんなに迷惑がかかるのでのんびりはできません。指示を徹底するというのは、友だちを意識させ、人間関係をつくるという要素もあるのです。

グループになると、自分の答を持てた子どもを中心に話が進みます。「まず、うまくいかなかった理由を考える必要がある」と考え方を話しているグループもありましたが、少数です。やはり、アプローチの方法を全体で共有する必要があるように感じました。各グループの結論は、後醍醐天皇の施策を否定しただけの「武家を大切にする」「税金を上げない」というものでした。
全体での最初の発表は「武家を大切にする」という視点のもの1つだけでした。他のグループは税金のことも取り上げています。このグループは気づかなかったのか、あえて取り上げなかったのかも知りたいところです。税金を不満に思うのは、力の弱い農民だから関係ないと考えたかもしれないからです。
発表が終わると拍手が出ます。拍手が出ることは悪いことではないのですが、形式的になっています。なぜ拍手したのか、どこがよかったのかを常に問う必要があります。次々と発表させるのですが、1つの発表をきっかけに子ども同士をつないで考えを深める場面はありませんでした。「なぜ武士を否定するといけなかったのか?」という揺さぶる問いかけをしましたが、時間もほとんど残されていなかったので「鎌倉幕府を一緒に倒したのに否定されたらどう思う?」と感覚的なことを根拠にまとめてしまいました。

「後醍醐天皇のおこなったことは何か?」「それは誰にとってどうだったのか?」を資料から整理して置くことがまず必要です。「なぜ、後醍醐天皇はそうしたのか?」という観点も大切です。これらを根拠に、失敗したのは方向性が間違っていたのか、それとも施策が間違っていたのか明確にし、その上でアドバイスを考える。このようなアプローチを意識して授業を組み立てる必要があります。子どもが育ってくれば高いハードルでも超えることができるようになりますが、今の段階では一度活動を止めて、資料の読み取りや、アプローチの方法を共有することが必要だったと思います。

最後に、「政治(権)が長続きするコツ」を考えることを課題としましたが、時間がないためそこで終わってしまいました。この課題も子どもが考えるという意味では、なかなかよいものです。これを最終の課題にするならば、前半の時間があまりにももったいないように思います。建武の新政に関する事実を早い段階で整理し、そのことを根拠に最後の課題に取り組ませるべきでしょう。また、最初の復習も、鎌倉幕府を滅亡させた人物ではなく、滅亡した理由の確認にした方がよかったように思います。2つの政権が倒れた理由を比較することで、政権が長続きするための要因がより明確になるからです。

以前と比べて授業の目指す方向がよくなってきました。考えるための課題を意識するようになったことは進歩です。だからこそ、より深い教材研究が求められます。子どもたちが考えるために必要なものは何かをしっかり意識することが大切です。それは、資料を読み取ることであったり、考えるための視点やアプローチの方法だったりします。それを子どもたちから引き出すのか、思い切って教えるのかの判断も必要です。子どもが考えることを大切にして授業に臨み、子どもの事実から学ぶことができるようになれば、大きな進歩が期待できます。授業者が今後どのように変わっていくかとても楽しみです。

最後の授業は、同じく1年生の社会科で、ベテランの室町時代の授業でした。
コの字型の机の配置で子どもとのやり取り中心で授業が進みます。最初は南北朝時代の復習です。子どもたちに「室町はどこにある?」「京都にいた醍醐天皇はどうした?」と、ポイントとなる事実や用語を確認していきます。ほとんど全員が口を開けて答えてくれます。前回の授業の内容がよく定着していることが感じられます。その理由はすぐにわかりました。子どもたちが、教師や友だちの言葉を実に真剣に聞いているのです。
復習しながら、足利尊氏と後醍醐天皇の肖像画を貼ったあと、足利義満の肖像画を黒板に貼りました。

この日の課題は「足利義満がどのような思いで政権をにぎったか?」というものです。なかなか答えにくい課題です。授業者は3分間で考えるように指示しました。教室には子どもたちが持っているのとは別の資料集がたくさん用意されています。子どもたちは慣れたようすで、いろいろな資料集を見ています。パラパラと眺めているだけの子どもは見当たりません。すぐに目的の場所を探し出し集中して考えています。資料を基に考えることが定着しています。わずか3分で子どもたちは考えることができるのだろうか、この後の展開が楽しみです。

授業者は教壇の横に座り、柔らかい口調と笑顔で子どもの意見を聞き始めました。目線を低くすることで子どもが話しやすいようにしているのです。この学級で特徴的なことは、子どもからたくさんの言葉が出ることです。紋切り型で正解を言おうとするのではなく、一生懸命伝えようとしているのです。言葉に詰まったり、混乱したりすることもあるのですが、授業者がうなずきながら笑顔で待ってくれるので子どもたちはそれに応えようと一生懸命言葉を続けようとします。他の子どももしっかり見守っています。どうしても言葉が出てこなかった時にも、授業者は必ず「ありがとう」と言って終わります。子どもがネガティブな気持ちにならいように配慮しています。「教科書の・・・に書いてあることから、・・・」と何のどこを根拠としたかを明確にして発表する子どもも多くいました。それに応じて、子どもたちの手が教科書や資料を探します。全員が発表したわけではありませんが、発表しなくてもちゃんと参加していることがわかります。学習したことが定着するわけです。
また、授業者が子どもをよく見ていることもわかります。挙手しなくても、友だちの意見に反応して動きのある子どもを指名します。教師が話すことばかり意識していると子どもが見えなくなります。聞くことを大切にする姿勢が子どもを見ることにつながっています。
子どもから「経済」という言葉が出てきました。この時間では詳しく扱わないのですが、繰り返し強調しました。別の時間に、室町時代に経済が発達したことを扱うのでその布石です。おそらく、「前の時間○○さんが言ってくれた・・・」と固有名詞を出して取り上げることと思います。子どもの言葉をとても大切にしていることがよく伝わります。
義満が「征夷大将軍」「太政大臣」「法皇」になったということが「公家」「武家」「寺門」の最高位となったということを意味すること、日明貿易とからんで明から日本国王の印を授かったことを押さえて、そこから義満の思いを想像させました。想像なので明確な答えは出さずに終わりましたが、室町文化の「公家」「武家」「寺門」の融合という特徴や室町時代の経済の発達につながっていく内容でした。

子どもから何が出てきても受け止めて活かそうとする授業者の姿勢と、それによって子どもたちが安心して参加していることが印象的な授業でした。

授業者には、子どもが途中で詰まったときに少し待ちすぎたように感じたこと。他の子どもが真剣に聞いているので、「誰か助けてくれる?」「○○さんの言葉に続けてくれる人いる?」とつなげてもよかったこと。子どもは義満に関する事実を見つけていたが、時間が少なかったため一人では多くを見つけることができていなかった。そのため、義満の思いを考えるのに苦労していた。発表の際、子どもたちが根拠となる事実を話したあとで言葉に詰まることが多かったことからもうかがえる。まず事実だけを発表させ、発表された複数の事実を組み合わせて思いを想像させてもよかったのではないか。そう伝えました。
この先生の授業を3年見続けてきましたが、子どもの言葉で授業をつくる力がずいぶんついてきました。何があっても崩れない安定感を感じます。素晴らしい進歩をとてもうれしく思いました。

この日の4つの授業から本当にたくさんのことを学ぶことができました。どの先生も前向きに取り組んでいるからこそ学ぶことが多いのです。先生方に感謝です。
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