学び合いの形を考えた授業(長文)

昨日は中学校で授業アドバイスと研究協議会での助言をおこなってきました。子どもたちの学び合いを進めている学校です。市松模様の4人組でのグループ活動に加えて、子どもたちが相手を自由に選んで聞きあう活動も取り入れています。これは、4人組ではうまく話せない子どもがいるために、仲のよい友だちであれば話し合えるのではないかという発想です。

授業アドバイスは、理科の講師の授業でした。2年生の静電気の単元でした。今年度初めて教壇に立った方です。ワークシートを中心に授業を進めているのですが、その空欄を埋めることが目的化しているように感じました。子どものどのような姿を目指しているのかが授業からは伝わりません。子どもに何を考えさせたらいいかが明確でないため、一方的に子どもたちに説明し続けます。実験を見せる場面では、子どもたちは「おおっ」と反応はしてくれます。それはショーを見ている観客の反応と同じです。そこで、子どもたちに気づいたことや、疑問を問いかけることはしません。ただ見ただけ終わってしまいました。その後また、授業者の説明が続き、ワークシートの問いの答えを埋めることを学び合いの課題としました。実験から考えるというよりも教師の説明がすでに答になっているような問いでした。すぐに答が出る子どもはたくさんいます。塾などで習っていれば模範的な解答はすぐに作れます。学び合いで友だちに聞きに行く場面では、わかっている子の答を写す姿が目立ちました。説明を聞いても問い返す子どもはほとんどいません。しだいに子どもの輪が大きくなって、説明する子どもの声が大きくなってきます。聞きあい考えを深めるという姿から遠いものになっていきました。
全体でのまとめの場面で、「正解に近い人もいる」と発言しました。これでは教師が神様になってしまいます。子どもたちは教師の求める答探しをし始めます。自分の考えをまとめることに価値がないのですから、学び合いの時間は半ば息抜きの時間と化していきます。教師の求める答ではないのですが、実験から言えることが発表されました。授業者は求める答ではないけれど、そういうことも言える、面白いと評価しました。しかし、発表者は正解よりも低い評価をされたと感じたようでした。表情は明るくなりませんでした。
結局、1時間の授業の中で学び合いの時間以外で子どもの意味のある発言はたった2つでした。

また授業とは直接関係ありませんが、授業が始まる前に子どもたちが席を立って、いくつかの小集団に分かれて時間を過ごしていたことも気になりました。学び合いを進めている学校では、座席の位置で話し合うことが多いために自然に周りの友だちと人間関係ができてきます。ですから、授業の開始前はあえて別の集団をつくらなくても、自分の座席で周りの子どもたちと談笑できるのです。子どもたちの人間関係がまだできていないのではと思いました。

授業後、他の理科の先生方と一緒にアドバイスの時間を持ちました。授業者が理科の授業で目指す子どもの姿を持てていないことが一番の問題です。そこをまず授業者に問いました。授業者は素直に持てていないことを話してくれました。自分でもどうあればいいのかわからないまま今日まで過ごしてきた。そのことから逃げてきたとも。とても、好感の持てる態度でした。授業者の中でイメージがないのです。先輩やまわりの仲間と授業を見せ合ったり、授業について話し合ったりする機会もなかったのでしょう。決して授業者個人の問題ではありません。組織としてどう育てていくのかを考えることが必要だと思います。同席したベテランの先生方には教えることを、若手の方には聞きに行くことをお願いしました。授業者は明日から逃げずに向かっていきたいと言ってくれました。今後の変化に期待します。

授業研究は1年生の国語の授業でした。事件の後の主人公の気持ちをまとめる場面でした。
本文を印刷しただけのワークシートを使いました。純粋に子どもたちの作業のためのものです。根拠となる1文に線を引きそこからわかる気持ちを横に書くように指示します。個人での作業のあと、友だちに聞きに行きます。ワークシートに書かれているので、多くの子どもは友だちのワークシートを見て写します。中には自分のワークシートは見せることはせずに、友だちのもの写すだけという子どももいます。自信がないのでしょう。学び合いを成立させようとするには、間違いやわからないことが悪いことではない、むしろ良いことだという価値観を持たせる必要があります。この価値観を持たないまま学び合いを進めているところに苦しさを感じました。また、情報集めに終始していて、なぜそう考えたのかといった理由を話し合う子どもの姿はそれほど多くはありませんでした。

全体の話し合いの場面はコの字型の配置でおこないました。子どもたちの相互指名で進んでいきます。発表の後「他には?」という話型で聞きます。答える側は「○○さんと同じで、・・・」「○○さんと同じ場所で、私は・・・」「○○さんと違うところで、・・・」の3つのパターンのどれかです。同じ1文に対して、同じ意見、違う意見、違う1文に注目しての意見の3つです。ランダムに指名されこのどれかの意見が発表されます。これでは、聞いている方は混乱します。考えが深まりません。このような進め方しかできないのであれば、相互指名は無意味です。「同じ考えの人」とつなげ、同じ文でも「違う気持ちと考えた人」の意見を聞き、「その意見に対してどう考える」と深めていくことが求められます。これは、教師でも難しいことです。少なくともそういう進め方を指導していなければなりません。子どもの挙手の仕方も気になりました。「他には?」と言った後すぐに手が挙がることが多いのです。これは、相手の発言の途中で、自分の言いたいものが3つパターンのどれになるかを判断してすぐに挙手できるように準備しているからです。子どもたちは明らかに発表することに価値を置いています。そうではなく、友だちの意見を聞いて考えることに価値を置く必要があります。そうすれば、友だちの意見を消化する時間を取るため、手の挙がるタイミングは遅くなっていきます。結局子どもたちの考えが絡み合い、深まることはありませんでした。

最後に授業者がまとめるのですが、「みんないろいろいいことを言ってくれた」という評価だけで授業者の言葉でまとめていきました。「みんな」という言葉は逃げの言葉です。固有名詞で、誰のどの発言か評価しなければ自分が評価されたとは思いません。教師の言葉でまとめられていくのでは、自分の言葉でまとめることに価値はなくなります。教師の求める正解探しになっていきます。教師がまとめるのであっても、その言葉は子どもからでてきたものであるべきです。「○○さんがこういってくれたよね」と固有名詞を挙げて、その言葉をそのまま使ってまとめるのです。教師が一人ひとりの意見をしっかり聞いておかなければそう簡単にはできません。教師がしっかり聞く姿勢を見せることで子どもたちも聞くようになるのです。もし固有名詞が出なければ、「・・・と言ってくれた人がいたね。だれだっけ、覚えている?」と子どもに聞けばいいのです。こうすることで、友だちの考えをより意識するようになるのです。

また、この学級の子どもたちの雰囲気は決して悪いものではないのですが、授業の開始前に「バカ」といった攻撃的な言葉を耳にしました。子どもたちが自己有用感を持って安心して暮らせる環境にはまだなっていないのかもしれません。この学校の先生方が子どもをポジティブに評価する場面が少ないことと関係があるようにも思いました。

授業検討会は、全体でおこなうものでした。共有化し全体で考えるべきよい意見や気づきが出てきましたが、時間の関係もあって次の話題に移っていきます。授業と同じく焦点化して学びを深めていく必要があります。
友だちに聞きに行く場面で子どもたちが素早く動いていたという気づきがありました。それに対して担任から、素早く動いていたのは上位の生徒であるという指摘がありました。彼らは仲のいい友だちというよりは、力のある友だちを選んでいるというのです。効率的に情報収集をしているというわけです。担任の目はさすがです。話し合うよりも答さがし、答を写すことが中心になってきているのです。また、市松模様の4人組では隣が異性なのでなかなか話し合わないという意見もありました。そのために、聞きやすい友だちに聞きに行く形をとったわけですが、その結果が4人組で話し合うことができることにつながっていくのかも問われることです。
これらの意見を受けて私からは次のようなことを話させていただきました。
聞きに行く形では、じっくり話し合うことはしづらい。ともすれば、誰かを中心に人が集まってしまい、一方的な説明会になってしまいます。適正な人数でじっくり聞きあうようにコントロールすることはなかなか難しく、また、話し合いがしづらいことから、課題が一定数の子どもがすぐ答えを出せるようなものにならざるを得ない傾向があります。この形態から出発して、子どもたちが4人組で誰とでも話し合えるようになる道筋を考える必要があります。子どもたちに話し合う必然性を持たせること、話し合ったことに意味がある、役に立つという実感を持たせることが必要です。そのためには、教師の価値づけが大切です。わからないと聞けること、間違いを大切して評価することを通じて、安心して自分の考えを言える、間違えることができる教室にすることが必要です。

先生方はとても熱心に話を聞いてくださいました。特に、授業の場面をとらえて具体的に受け止め方や進め方といったスキルを示すととてもよい反応をしてくださいました。こういった授業技術を整理してお伝えする時間も必要なのかもしれません。先生方の反応がよいためついつい時間をオーバーして失礼なことをしてしまいました。反省です。

これからこの学校としばらくおつき合いさせていただけそうです。素直で前向きな先生方がたくさんいらっしゃいます。目指す子どもの姿をより明確にして、その姿と学び合いの形、あり方の関係を整理することが必要と感じました。この学校のお手伝いをさせていただくことで、私も学び合いについてより深く学べると感じています。これからがとても楽しみです。
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