1年間の成長を感じた授業

先週末は、中学校の理科の授業アドバイスをさせていただきました。昨年度もアドバイスをさせていただいた方です。昨年度は小学校から中学校へ異動されたばかりで、戸惑うことが多かったように見受けられました。1年たってもう一度授業を観てもらいと手を挙げてくれたそうです。こういうチャレンジ精神はとてもうれしいことです。授業を見せていただくのがとても楽しみでした。

この日は、2年生の静電気の実験の場面でした。
最初の復習場面での子どもたちとのやり取りから、一人ひとりの発言をしっかりと受け止めようとしていることがよくわかります。発言をポジティブに評価しようとする姿勢も見られます。子どもたちとの関係もよいことが、子どもたちの表情からうかがえます。次の課題は、受け止めた発言を他の子どもにつなぐことです。「今の意見はどう?」「なっとくした」といったつなぐ言葉を意識するとよいでしょう。

面白い場面がありました、指名された男子が答えられなかったところ、隣の座席の女子が自分のノート見せて助けてあげたのです。男子は、最初はちょっと拒絶するような姿勢を見せていましたが、そのノートを読み上げて答えてくれました。男女の関係もよいことがわかります。よい場面です。ここで授業者は助けた女子をほめたのですが、答えた男子は評価しませんでした。確かに友だちのノートを読んだだけなのですから、評価に値しないようにも思います。しかし、友だちの助けを借りても答えようとした姿勢はほめるべきことです。「助けてもらってよかったね。答えてくれてありがとう」といった言葉をかけてほしかったところです。

実験の説明は教師が話すことが多かったのですが、子どもたちはしっかりと集中して聞いていました。ここでも子どもとの関係のよさが見られます。
子どもたちは笑顔で実験に取り組んでいました。男女も額を寄せ合いながらよく話し合っています。授業者は机間指導の間ずっと笑顔を絶やさずにいました。質問に対してそこでミニ授業を始めたりすることもなく、子ども同士で解決させるように働きかけたりもしています。子どもたちの様子からは、安心して授業に参加していることがよく伝わります。授業者の姿勢がこの雰囲気を作り出していることは間違いありません。昨年度は指示がなかなか徹底しなかった場面がありましたが、今年は違います。実験を終了してワークシートに考察を書く場面への切り替えの指示も実にスムーズでした。たまたまではありません。子どもたちが楽しく取り組んでいるときはなかなかやめようとはしないので、次への指示は徹底しないものです。これが徹底できるということは日ごろから指示が通るように指導している証拠です。昨年度の課題をクリアしようと意識していることがよくわかります。

考察を互いに発表して参考にするように促しますが、一部のグループを除いて中々発表し合えません。個人で一生懸命に考えているのですが、書けない子どももたくさんいます。行き詰って集中力が切れかけている子どもでてきました。書けていない子どもは発表できません。書けている子どもも、他の子どもがまだ考えている様子であれば、それを中断して自分の考えを発表はしません。ここは、「困ったら、聞き合って」とわからない子どもが自ら他者に働きかけるように指導していかなければならない場面です。

ここでも面白い場面がありました。考察が白紙のままの子どもに、「教えてもらったら」と授業者がつなぐ働きかけをしました。その子どもは、友だちに声をかけ書いている内容を読もうとしました。それを見届けて授業者は移動したのですが、友だちのワークシートを見ようとする行動を中断させる、ちょっとしたことが起こりました。子どもは気をそがれてしまい、また声をかけられた子どもも自分の作業に集中していたので自分からは働きかけようとせず、そこでつながりは切れてしまいました。声をかけた子どもは、またじっと自分のワークシート見たまま動きが止まってしまいました。アクシデントが原因ではあったのですが、授業者は声をかけられた子どもにも働きかけておくべきだったのです。「○○君聞けたね。いいよ」「○○君が聞いているよ。しっかり教えてあげてね」と2人をしっかりつなぐことが必要なのです。

実験は静電気を使って蛍光灯を光らせるというものだったのですが、教師が目的を明確にしなかったため、いろいろな方法で作った静電気で蛍光灯が光ることを確認することが目的となってしまいました。前回学習したいろいろな静電気の作り方を活用するということはわかるのですが、その結果から何を知ろうとするのかが明確でないため、子どもたちは考察に何を書いていいのかわからなくなっていました。

電極に火花が飛んでいたことに気づいた子どももいます。
反対側の電極を持っていた子どもで、手がビリッとした子どももいます。
蛍光灯が電極の周りだけでなく、全体が光ったことに気づいた子どももいるかもしれません。
静電気をたくさん蓄えようとしているグループは、明るさの違いに気づいたかもしれません。

教師が事前に目的を明確にしなくても、子どもから出てきたことから課題を見つけさせることもできます。この実験のように簡単に中断させることができるものであれば、考察までずっと実験を続けるのではなく、いったん止めて、気づいたことを発表させるとよいでしょう。先程の気づきを共有することで、子どもたちの視点を増やすことができます。
「火花はなんだったんだろう」「どうして、ビリッとしたのだろう。そのことから何が言えるのだろうか」「全体が光ったのはなぜだろう」・・・
こういう疑問もって再度実験することで、この実験のねらいに自然に近づくことができます。

静電気(電子)が流れることで電気を流すのと同じことが起こる。
ビリッとしたのは、手に電気が流れたからだ。
・・・

考察もしやすくなったはずです。

また用語についても少し気になりました。「電気」という言葉が理科の用語として明確になっていないことです。「電気」は私たちが日ごろ使っている日常用語です。そのため定義を明確にし、意識して使うことが求められます。子どもたちは「電気」と「電子」の2つの言葉を使っていました。教科書は「電気」を使っています。「電気」の実体は「電子」で同じだからいいと言ってもいいのかもしれませんが、少なくとも教師は「現象面」とその「実体」といった違いや教科書が「電気」を使っている意図を理解しておく必要があります。

授業後にアドバイスをさせていただきました。授業の基盤である人間関係がよくなってくると課題が明確になります。私の提示する課題を素直にかつ前向きに聞いてくれました。この姿勢がこの1年間の成長の原動力だと思います。
子ども同士をつなぐという課題は、何とかクリアしていけそうだが、理科の実験の扱いといった教材研究の面に関してはうまくできるか自信がないと、気持ちを素直に話してくれました。その通りだと思います。教科面に関しては、長い積み重ねが必要になります。日々、意識して教材研究をし続ける以外に特効薬のようなものはありません。もしあるとすれば、同じ教科の先生方同士で教科内容について話し合い、学び合うことを日常的にすることでしょうか。授業について互いに学び合う雰囲気が学校の中に広がっていくことを期待します。
参考までに、観察のような場面では、どのような「視点」で何と「比較」したかを意識させること。実験では、「何を知ろうとする」実験か、このことが言えるためには「どのような」実験が必要かを意識させること(「理科(実験)で大切にしたい問いかけ」参照)。モデルについては、モデルを前提として考えるのでなく、実験の「結果」、「事実」をモデルで説明できるかという視点を持たせること(「理科(モデル)で大切にしたい問いかけ」参照)。このようなことを伝えました。

この学校での授業アドバイスもこれで今年度最後となりました。先生方の授業からとても多くのことを学ぶことができました。最後に若い先生の成長した姿を見ることができたことをとてもうれしく思います。よい機会をいただけたことに感謝です。
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