夏休み明けの子どもたちの様子から考える

私立の中学校高等学校で授業を参観しました。新型コロナウイルス対策で休校していた間もオンラインで授業時間を確保できていたので、夏休みは例年通りでした。長い夏休み明けで子どもたちの様子の変化が気になりましたが、よくも悪くも大きな変化は見られませんでした。

中学校では、子どもたちは元気に授業に参加していました。ICT機器も積極的に使っている授業が多く見られます。気になるのは授業での子どもたちの活動の様子が学級や授業者によってかなり差があるということです。コロナの影響を意識して、座席を動かしたりせずに進めている方もいれば、自由に席を立って話をするのを容認している方もいます。前者ではどうしても子ども同士のかかわりが減る傾向にありますし、後者では新型コロナウイルスが気になる子どもが孤立したり、仲のよい子同士の小グループに学級が分断されたりします。前回訪問時に子どもたちが小集団化しているのではないかと気になっていた学級ではその傾向が強くなっているように感じました。
授業の進め方や活動のやり方を規定したり限定したりするのは勧めませんが、何を目指して子ども同士をかかわらせるのか、そしてそれにふさわしい活動はどうあるべきかを学校や学年全体で話し合い共有することが必要だと思います。

高校ではコースごとに様子は少し異なっていました。
一般のコースの1年生は、夏休み前と大きく変わっていません。落ち着いてはいるのですが学習に対するエネルギーが乏しいように感じます。先生の指示には素直に従い作業しますが、基本的に受け身です。授業中に表情が動く場面がとても少ないように思いました。授業アンケートの回答を見ても、テストで点を取れるのをよい授業と評価している子どもが多く、消費者的な意識が強いようです。ワークシートの穴を埋めることがよい点につながると考え、先生の話を聞くよりもワークシートを完成させることを優先している子どもが多いように見えます。中学校時代の学習観がそのまま授業態度に反映しているようです。子どもたちの主体性を引き出すためには、出力を求め、その出力を肯定的に評価することが必要です。iPadを使い調べ活動をさせても、どうやって調べたか、その結果どう考えたかといったことを問いかけることをせず、そのまま授業者が説明をして進めていることが多いようです。活動しても評価される場面がなく、活動しなくても困りません。これでは主体的に活動する意欲をどんどん失くしていきます。子どもたちが活動し、考えたことが授業に反映されることが大切です。このことを学年の先生方で共通理解すると同時に、子どもたちにも学ぶことの意味や意義を繰り返し伝えるようにしてほしいと思います。
2年生も昨年と比べて学習意欲が低下しているように感じます。友だちとかかわり合う場面ではよい表情を見せてくれますが、そういった場面が新型コロナウイルスの影響で少なくなっていることが問題です。直接話し合うことにこだわらずに、iPadを活用した文字や絵によるコミュニケーションも積極的に取り入れてほしいと思います。
3年生は入試の推薦の基礎資料になる最後の試験が終わったためか、授業に集中していない子どもが目立ちました。入試という目先のことではなく、将来のことを見据えて学び続けてほしいのですが、それは簡単なことではありません。学校全体で学ぶことの意味を伝え続けることが大切ですし、それを体感できる授業設計も必要です。大きな課題として先生方に意識してほしいと思います。

幅広いキャリアを志向するコースの2、3年生では、新型コロナウイルスの影響で子ども同士のかかわりが制限されていることで、昨年と比べていろいろな場面でエネルギーが下がっているように思いました。グループでの活動ができる環境では、今まで同様の姿を見ることもできるのですが、それでも新型コロナウイルスに対しての不安からか一部の子どもは積極的に参加できていないように感じます。参加できている子どもとそうでない子どもが分断されているように感じました。先生方はこういったことを考慮しながら、かかわる場面を作ろうと苦労されていますが、ソーシャルディスタンスのこともありなかなかよい方法が見つからないのが現状です。iPad上で使える共有ツールで子ども同士をかかわらせることを提案しましが、子どもたちにとって書くことへのハードルが高いことを心配されていました。問題は何を書く、出力するかということです。「書く」のは「答」「正解」「きちんとした文章」という思い込みが子どもたちにあります。それが、書くことへの抵抗になっているように思います。まずは、この考えに「○」か「×」といった判断を書かせる。「○○がわからん」といった疑問や困ったことを書かせる。単純に「?」といった記号だけでもよいので、出力させることが大切です。「△△さんがわからないって言っている。いいねえ」と出力を肯定的に評価することを繰り返していくことで書くことに前向きになっていくと思います。書くようになれば、友だちの書いたことに下線や印をつけて、「参考になった」「ありがとう」「いいね」とコメントすることでかかわりをもたせ、そのやり取りを肯定的に評価するとよいでしょう。こうすることで、書くことでもコミュニケーションがとれるようになっていきます。こういう時代だからこそ、新たなコミュニケーションの方法を模索することが必要だと思います。
1年生では、たまたま学級編成の関係でそうなったのかもしれませんが、3つの学級の状況がかなり異なっていました。ある学級は子どもたちのよい表情がよく見られ、例年ほどではありませんが、子どもたちの前向きなエネルギーを感じました。別の学級は、落ち着いてはいますが、受け身で授業を受けている子どもが目立ちました。もう一つの学級は、集中して話を聞いている子ども、顔が上がらない子ども、授業と関係なくまわりとかかわっている子どもと子どもたちの姿がばらばらでした。先生と子どもたちの関係ができる前に一部の子ども同士の関係が強くなっているように思いました。まずは先生と子どもたちの関係をしっかりつくり、その上で子ども同士のかかわりを学級全体に広げていくことをしないと、今後の学級経営が困難になるような気がします。

特別進学のコースでは子どもたちは前向きに授業に取り組んでいました。ただ、教科によっては昨年度までの考える時間が多い授業から、講義型に変わったために一部の子どもたちが戸惑っている姿をみる場面がありました。
その一方で、3年生の難民問題について深く調べて、自分の考えを書かせる授業では、子どもたちの素敵な姿を見ることができました。特定の地域の難民問題だけでなく、各地で起こっているもの、過去のこと、すべてをきちんと理解してから取り組むようにという条件を与えられて活動を始めたところでした。どこから手をつけてよいか困っているのか、子どもたちは厳しい表情で真剣にiPadに向かって取り組んでいます。途中で集中力が切れて投げ出すのではないかと心配になりましたが、最後まで集中力は切れませんでした。1年生からこういった負荷のある課題に取り組み続けているので、ストレス耐性が高くなっているようです。鍛えることで子どもたちが育つというよい例を見せていただきました。最終的にどのようなものが出力されるのか楽しみです。
このコースでは、考える授業に肯定的な層と、受験的な問題の解き方や知識を求める層に子どもたちが分かれているようです。後者の中には、友だちにバカにされたくないといった理由で偏差値の高い大学に入ることが目的となっている子どももいるようです。そのことを全面的に否定はできませんが、学ぶことや進学することの意味を問い直すことが必要だと思います。入学時から進路やキャリアについて考える機会を多く持つことが求められると思います。

進路に関しては、受験に必要な自己推薦文を書く力が育っていないことが課題となっていました。コースによっては各教科で意識して書かせることをしているので、それなりに書くことができるようになっているようです。外部での論文発表を経験している子どもなどはかなりレベルの高い文章を書くことができます。他の子どももそういった子どもに教わったり、書いたもの見せてもらったりして学んでいます。学級数が少なくかかわる先生がまとまりやすいので、協力し合いながら教科横断的に書く指導がされているようです。
一方、学級数の多いコースでは、学年全体でまとまることが難しく、計画的に指導されていないので受験が近づいてからの付け焼刃の対応になります。何度も指導する時間がないので、先生が大幅に手を入れることで何とか完成させることもあるようです。自己推薦文であれば、自分自身の経験や身に付けた物をきちんと意識することや文章力が必要です。1年時からポートフォリオを作り、書く経験を繰り返すことが求められます。このことは、単なる受験対策ではなく将来にわたって成長し続けるために必要になってくることです。学校全体で計画的に取り組んでほしいと思います。

先生方は新型コロナウイルス対策でどうしても一方的に教える授業になりがちです。そのせいで子どもたちも依然と比べて受け身になっているようです。しかし、新型コロナウイルスの対策が必要な今だからこそ挑戦できること、すべきことがあると思います。「新型コロナウイルスのおかげで、ICT機器など必要ないという先生がいなくなった。大きな一歩を踏み出せた」という発言もありました。負の側面ばかり見るのではなく、新たな授業スキームを作る機会だと思って、前向きに授業改善に取り組んでほしいと思います。
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