オンライン授業から学ぶ

オンライン公開による中学校数学のオンライン授業を参観しました。なんかややこしいですね。
2日間で4つの授業公開でした。公開にあたり、板書の画面、教師が見ている子どもたちの様子の画面、そして教師の動きを見せる画面の3画面を同時に配信するという工夫をしていました。この3つの画面を同時に見たり、場面に合わせてどれか一つに絞ったりといった柔軟な見方をすることができます。隙間なく参観者がいる教室で授業を参観するよりも、かえって情報が多いくらいでした。

今回の授業は、日ごろの授業と同等の授業をどうすればオンラインで実現できるのかを意識したものでした。日ごろの授業と同じように子どもたちの反応をみて進めたいために、大型のディスプレイを教師の前において、子どもたち全員の様子を見えるようにしています。黒板も子どもたちにしっかり見えるように、専用のカメラで配信できるようにもしています。私が初めてオンラインで研修をした時に、講師陣で試行錯誤した結果のシステムとほぼ同じ考え方です。大型のディスプレイを使えば、オンラインでも思った以上に参加者の表情はわかるものです。

私の感想を一言で言えば、いい方は悪いですが「通常の授業の劣化版」です。決して授業の質が低いわけではありません。どの授業も子どもたちに数学的な考え方を身につけさせることが意識された、とても工夫されたものです。教科の先生方が同じ方向に向かって、互いに研鑽していることがよくわかります。通常の環境でもこれ以上の授業はそれほど簡単ではないと思います。だからこそ、この先生方で通常の環境で授業をすれば、よりよいものになるだろうと思いました。言い換えると、オンラインのよさよりも難しさを感じることが多かった言うことです。

授業は、大きくは、個別に問題を解いて、グループ(ZOOMのブレイクアウトを利用)で考え方を聞き合い、全体で何人かの考えを取り上げ、それぞれの発表に対して「つかまえたこと」「疑問」「付け足し」を発表させて共有する流れです。
課題となる問題は、どの授業でも答えを出すのは難しくはないが、多様なアプローチがあるものでした。多様な考えに触れることで数学的な考え方を広げ、深めたいという先生方の思いがよく表れています。
どの先生も子どもの発言をしっかりと受容し、安心して自分の考えを発言できる雰囲気を作っています。グループでは自分の考えをしっかり持って友だちに説明できていました。特に2、3年生は数学的な見方が育っていると感じました。多様な考え方を認めることを意識して先生方が取り組んできた成果だと思います。考えを共有して、深める時間をできるだけ確保しようと事前に自分の考えをClassroomで提出している授業もありました。反転授業の発想です。

グループ活動に入ったあたりからオンライン授業の難しさを感じることが増えてきます。グループ活動の時間は、それぞれのグループで閉じているので、他のグループの様子はわかりません。他から刺激を受けたり、進み具合を見ながら自分たちのペースを調整したりできません。先生も、グループ全体の活動の様子はわからないので、グループの状況に応じて相談の時間を調整できません。あらかじめ設定した時間で強制的にグループを解除することになります。もっと話し合いたいのに、ちょうど議論が盛り上がっているのに突然打ち切られてしまいます。こういったことを起こりにくくするためには、グループ活動の時間を長めにとって、終了2、3分前予告する必要があります。しかし、そうするとどうしてもグループ活動の時間が押して、集団追究の時間が足りなくなってしまいます。とても悩ましいところです。
印象的だったのは先生方から出てきた「子どもたちを信じてまかせる」という言葉でした。「互いに学んでいけるはずだ」と、グループ活動を変にコントロールせずに子どもたちに任せているのです。この割り切りはとても大切です。実際、グループでの子どもたちはしっかりかかわり合えていたように思います。子どもたちがよく育っているのです。

全体の場でどの子どもの考えを取り上げるかも難しいところです。授業者の先生方もおっしゃっていましたが、オンラインで子どもの考えをリアルタイムに把握することはかなりハードルが高いものです。子どもの記述したものを共有するツールを使えばある程度可能ですが、それだけでは情報は不足します。通常の授業であればちょっと声をかけたり、途中の様子を見たりすることで情報を補えますが、オンラインではそう簡単ではありません。
ですから、あらかじめClassroomで提出させたワークシートをもとにどの考えを取り上げるかを考えて授業を組み立てている方もいました。

各グループでどのような話がされたかをすべて聞くのは時間的に厳しくなります。とはいえ、意図的に指名することは、各グループの状況をすべては把握できないのでそれもなかなか困難です。結果、取り上げる考えは挙手に頼るか、あらかじめ提出された解答から選ぶことになります。この問題を少しでも解決しようとしたのでしょう。ある先生は、途中でグループを切り替えていました。通常の授業では、座席を移動しなければいけませんが、オンラインでは簡単にシャッフルできます。シャッフルすることで、各グループで話されていたことを多くの子どもが共有することができ、多様な考えに触れることができます。交流の結果、どのようなことを考えたのか、できるだけ多くの子どもに聞きたいところですが、多くの時間は取れません。一人ひとりの振り返りを授業時間外か次の時間に共有することになると思います。オンラインのよさを活かし、効率的・効果的な共有方法を見つけてほしいと思います(既に実行されているのかもしれませんが)。

全体追究をこの学校ではとても大切にしているように思います。日ごろから子どもの意見をつないで、考えを深めることを意識しているように思います。指名した子どもの考えに対して「つかまえたこと」「疑問」「付け足し」と全体に問いかけ、先生ができるだけ言葉を足さずに発言を共有しようとしています。子ども自身に友だちの考えを価値付けさせようとしているのがよくわかります。通常であれば、子ども同士をつなぎながら進めていくのでしょうが、オンラインでは発言者以外のマイクはオフにしておく必要あります。そのため、つぶやきを拾うことができません(マイクオンでも、訳が分からなくなりますが)。表情や態度で指名するのにも限界があります。ちょっと理解できない考えに出合った時、そのことは表情に現れますがその後どうつなげるかが問題です。通常であれば、「ちょっとまわりと相談して」と投げかけることで子どもたちが動きだせますが、オンラインではかなり難易度が高いのです。そのため、どうしても先生が問いかけ、挙手する子どもの発言をもとに整理し、まとめていくことになってしまいます。先生と子どもが1対多の関係になってしまい、子どもの発言やつぶやき、疑問から考えが広がったり、深まったりする多対多の関係になりにくくなっているのです。この先生方ならば、通常の環境の授業であれば、間違いなく子ども同士をつなげる進め方をしたと思います。しかし、オンラインでは、発言をつないで進めるスキームを実現するハードルはかなり高いのです。
これとも関連しますが、子どもたちが全体に考えを伝える方法がかなり限定的だったのも気になるところでした。通常の授業では黒板に書きながら、体全体を使って説明したりできるのですが、口頭だけか、カメラに向かってワークシートをかざしての説明がほとんどです。紙のワークシートをベースにしているので、画面共有もしづらいのです。しかし、グループでの意見交換にホワイトボードの機能を使って上手に説明している子どももいました。こういったツールを使うことで、それらを保存し共有することも簡単にできます。先生方は子どもの発言を黒板にメモして共有していましたが、そういう板書の時間も節約することができます。これからの時代、オンラインで考えを伝えるスキルも必要になってきます。数学の授業だけの問題ではありません。学校全体でスキルの習得を意識することが必要でしょう。

どのようなツールを使うかは別として、オンラインでは話すことだけではなく、書くことによるコミュニケーションをスキームに加えていくことが重要だと思います。文字だけではなく、図などの視覚情報もリアルタイムに加えて考えを示すのです。通常の授業では結果や結論を共有することが多いのですが、オンラインでは途中の考えや試行錯誤の課程をそのまま共有することができます。友だちの作業を覗くことで考えを理解しあうことも可能です。友だちのいい所にスタンプを押したり、疑問や感想をコメントしたり、それを他の子どもが見たりすることで考えを深めることができます。SNSに慣れている今の子どもたちにはそれほどハードルの高いことではないように思います。オンラインだからこそ有効なスキームは何かを考え、積極的に取り入れることが大切です。

現場の多くの先生方から「早く通常の対面授業に戻りたい」という声を聞きます。その気持ちはとてもよくわかります。しかし、「対面の授業に戻りたい」が「今までの授業に戻りたい」では困ります。確実に時代は変わりました。対面だろうがオンラインだろうが、新たな授業スキームに移行していかざるをえません。
この学校では、もうすぐオンラインでの授業は終わり、通常の授業に戻るそうです。だからこそ、これまでのオンライン授業での経験を活かし、通常の対面授業をより進化させることを期待しています。これだけの授業に挑戦した先生方ですので絶対に可能だと思います。次の機会を心から楽しみにしています。
私も2日間で本当に多くのことを学ぶことができました。この機会を得たことを感謝すると同時に、ここで得たことを学校現場に伝えていきたいと思います。ありがとうございました。
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