学校再開後の授業アドバイス

中学校の授業アドバイスを行ってきました。学校が再開してちょうど2週間たった週明けでした。

全体的に気になったのが、速く進めたいという気持ちが先生方の授業に表れていることでした。意識はしていないのかもしれませんが、一方的な説明が多く以前と比べて早口であったり、指示の確認がなかったり、子どもが聞く姿勢を取れていないのにしゃべったりしています。説明が中心で進んでいる授業が多く見られました。どこの時間を削って、何に時間をかけるべきなのかを工夫することが大切です。
一部の先生を除いて、プロジェクターをあまり活用していません。先生が手で板書したことを子どもたちが写している場面を多く見ました。速く進めようという焦りか、子どもたちがまだ書き終っていないのに授業を進めていることもあります。子どもたちの発言や考えを書き留める板書ならよいのですが、あらかじめ決められた内容であればスライドで順番に示すだけで時間は大幅に節約できます。板書を写すのも、リアルタイムに手で写すことに意味がないのであれば、スライドを印刷したものを後から配ればよいのです。この授業で大切なことは何か、どんな力をつけたいのかを今まで以上にしっかりと押さえ、そのために必要な活動は何かを考え、ムダな時間を省く工夫が必要です。
また、教科書の内容を全部授業で扱わなければいけないという思い込みもなくすことが必要です。岐阜聖徳学園大学の玉置崇教授もおっしゃっていましたが、教科書は自学自習できるように配慮されています。子どもたちを信じて、思い切って委ねるという発想もあるのです。大切なのは、子どもたちに教科書を使って学ぶ方法を教えることと、その意欲を持たせることです。それは理想論で、家庭環境も含めて自学自習が困難子どももいるという声もあるでしょう。そういう方に私は声を大にして言いたいことがあります。「あなたの授業ではそういう子どもたちをちゃんと拾い上げて、学習内容を習得させているのか?」「教室にいて単に履修していることで良しとしているのではないか?」ということです。新型コロナウイルス出現以前でも、100%の習得は不可能です。100%でなくても今やれる工夫をし、自学自習が困難な子どもには、彼らに応じた工夫をすることが大切なのではないでしょうか。個別最適化という言葉が言われていますが、これもその一つだと思います。
教科によっては、単元そのものをカットするという発想もあると思います。教科を通じて子どもたちにつけたい力は、その単元でなくても他の単元でもつけることが可能なこともあります。例えば国語であれば、小説でつけたい力はすべての小説の教材を扱わなくても身につけることは可能だと思います。いずれにしても、今まで以上に教材研究が大切になっているということです。

先生方が手を抜いて工夫していないと非難しているのではありません。空き時間に教室の消毒をするといった、余分な仕事が増え余裕がないのです。そのことは、授業中の様子からもうかがえます。以前と比べて笑顔や子どもたちをほめる言葉が少なくなっているのです。子どもたちを受容する言葉も減っているように思いました。先生方の負担を減らすために消毒等のお手伝いをしてくれる方を手配していると聞くこともありますが、すべての地域というわけではありません。こんな時期だからこそ、先生方に少しでも授業に専念できる環境を整えてほしいと願うのは贅沢なことなのでしょうか?

プロジェクターを上手く活用し、スライドを学年担当の先生と共有している教科もありました。教材研究の時間を相対的に減らし、指導内容を共有するよい工夫です。この日の授業では、最後に子どもたちにまとめを書かせたのですが、それを上手く全体で共有する時間がありませんでした。このことについて授業者から相談がありました。子どもたちが板書を写すのに時間が取られていたので、先ほど述べたような板書のスライド化と配布の話をしました。まとめの共有については、先生用のタブレットを使って子どもたちの書いたものを撮ってスクリーンで共有する方法をお伝えしました。手軽さや解像度に問題があれば、先生方が持っているスマホの方が高機能で使い易いかもしれません。個人の物を使うのは本来お勧めできないのですが、ルールを変更しても使えるものは使うという発想も大切だと思います。
今まで比べて子どもたちに発言させる機会が減っています。書くことが相対的に増えていると思います。書いたものを共有する方法を工夫してほしいと思います。一人一台のPC環境が学校にやってくればこういった問題もかなり解決されると思いますが、その時を待つのではなく、今できることを工夫することで大切です。整備されてない環境でも挑戦することで何が大切か、また何があればよいのかを知ることができ、一人一台のPC時代の授業づくりに直結していきます。次のステップへとつながっていくのです。

各学年の様子はそれぞれに異なる課題を感じるものでした。
3年生は子どもたちの落ち着きがないように感じました。休校中に学習への取り組みに差ができていたのでしょうか、授業が情報過多になっていることもあり、先生の話を聞いているうちに集中力をなくす子どもが目立ちます。その一方で、個人作業になると友だちとかかわろうとする姿が目立ちました。グループ活動が難しく受け身の時間が多いことが子どもたちのエネルギーを下げることになっているように感じました。授業についていくのが苦しくなっている子どもだけでなく、部活動の大会がなくなり目標を失くしている子どももいます。こういう子どもたちをケアするためにも、先生が個々の子どもたちとかかわる時間をつくることが必要に思いました。
また、今回の新型コロナウイルスの影響で経済的な不安を感じている子どもも増えていると思います。進路指導面では、各高等学校独自の経済支援の情報などが子どもたちにわかりやすい形で提供できることをお願いしました。

2年生は、指示されたことややるべきと思っていることはきちんとやることができていました。逆に言えば、指示や作業の意味が不明確だったりすると、集中せずに授業に参加しません。先生の話を聞かずに、板書を写すだけといった学級も目にしました。学校が再開して2週間でこの状態というのは少し心配です。この学年の子どもたちは、消費者的な態度をとることがあります。先生によって態度を変えるようになる危険性があります。子どもたちに何が大事かを伝え、子どもたちのよい行動を価値付けすることをもう一度学年全体で取り組んでほしいと伝えました。

1年生は一見すると落ち着いて見えますが、学習規律がかなり危ない状態に見えました。もちろん席を立ったりすることはないのですが、先生や友だちの発言をきちんと聞いていないように見えます。顔をあげない子どもが目立ちますし、顔を上げていても先生や発言者を見ていない子どもがほとんどでした。先生方がこのことに気づいていないのか、気づいていても授業を進めることを優先してしまっているのかはわかりませんが、子どもが集中していないのに話し続けます。この状態を続けると学級のコントロールが効かなくなり、早晩荒れてくることが心配されます。子どもたちとの関係をきちんと構築し、中学校の学習規律を定着させることが必要です。まずは、どういったことが大切かを伝え、それができたことをきちんとほめることから始めてほしいと思います。叱ってできない子どもを減らすのではなく、ほめることでできる子どもを増やす発想で、学習規律を定着させてほしいと思います。

次回は9月に訪問しますが、子どもたちのよい姿をたくさん見られることを期待しています。
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