参加者によい刺激を与えてくれた模擬授業

私立の中学校高等学校の研修に参加してきました。この日は先生方を子ども役にした模擬授業を行いました。

授業はICT活用を意識した中学校の国語の授業でした。「扇の的」の2時間分を途中省略しながら行いました。
古文に対する感覚を育てたいということで、前半は音読を中心とした活動でした。最初は、音読ゲームでアイスブレークです。ペアで本文を文節単位で交互に読み合います。1回に読めるのは3文節までです。最後の文節を読んだ方が負けです。ゲームにすることで古文を楽しく読んでもらおうという工夫です。子ども役の先生方も大いに盛り上がっていました。ただ注意してほしいのは、こういったゲーム形式にすると子どもたちのテンションが上がり、本来のリズムを大切にして古文を読むことから意識が離れてしまうことです。また、原文は授業者が事前に文節に区切ったものを用意してありました。古文では文節を意識することが大切ですので、子どもたち自身で文節を区切る活動もどこかに入れたいところでした。
この後、授業者は琵琶法師による平家物語冒頭の語りを、準備したデータをPCで再生して聞かせます。CD等でも同じことはできますが、ネット上にデータを置いておくことで扱いも簡単になり、先生全員で共有できることが利点です。語りを聞かせるだけでは受け身の活動になってしまうので、原文とくらべながら聞いて音節を区切ることをさせてもよかったかもしれません。
琵琶法師による語りだけでなく、扇の的の段を講談でも聞かせます。最近はこういった日本の文化に触れる機会が少ないことと、講談のリズミカルな語りから古文のリズムに慣れさせたいという思いです。
音読の後は、現代語訳をもとにした読み取りです。原文の横に穴埋めの現代語訳が書かれたワークシートで学習します。現代語訳は主語と述語にあたる部分が抜いてあり、主語や目的を表わす助詞の「は」「が」「を」は反転させて、原文では省略されていることがわかるようにしてあります。古文では主語や目的を表わす助詞が抜けていることを授業者が教えて、子どもたちは主語述語にあたる言葉を入れていくだけの作業です。ワークシートに沿って作業をするだけなので、子どもたちが考えることはあまりありません。
続いて内容理解に入ります。那須与一が扇の的を射ることを辞退した理由を現代語訳から読み取らせます。「風の様子」「海の様子」「船の様子」「的の様子」「距離」とワークシートには項目も指示してあります。これでは現代文から抜き出すだけの簡単な作業になってしまいます。正解を見つけるだけの活動で、ここでも思考する場面がありません。古文に慣れ親しむのがねらいなのですから、現代文だけを見ていてもそこにはつながりません。子どもたちに原文のどこに書いてあるか線を引かせ、現代語訳を参考にして考えさせたいところでした。ここでは項目を与えずに作業させたほうがよかったと思います。過不足は生じると思いますが、「まだ他にあるのか?」「それは理由として適当か?」と問いかけることで、子どもたちで考えさせることができます。

板書は一切せずにすべてスライドを使っての授業でした。ICTを活用すると効率的に授業を進めることができることを参加者は実感したようで。ここで注意してほしいのは、授業があらかじめ準備したスライドだけで進んでいるということです。そこには、この時間での子どもの考えや発言が存在していません。効率的だからこそ、子どもの考えを引き出し深めることに時間を使ってほしいと思います。子どものとのやり取りでダイナミックに授業を展開するのに黒板はまだまだ有効な道具だと思います。このことを皆さんにお伝えしました。

授業者はまだ若く意欲的で、随所に工夫のあふれる授業を見せてくれました。もちろん改善の余地はまだまだありますが、そのことを前向きにとらえてくれます。授業者の意欲的な姿に、参加した先生方もよい刺激を受けたことと思います。私自身にとっても、学びの多い時間となりました。この学校でこのような研修ができるようになったことをとてもうれしく思いました。
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