授業改善が点から線へとつながってきている

私立の中学校高等学校で授業アドバイスを行いました。今回は、高校1年生のキャリアを意識したコースと高校1、2年生の特別進学のコースが対象でした。

キャリアを意識したコースの子どもたちの姿からは、彼らが先生方に対して信頼を寄せていることが感じられます。先生方がいろいろな場面で日常的に子どもたちを受容していることが大きく影響していると思います。先生の話が一方的に続いても聞こうとする姿勢を見せますし、指示が明確でやるべきことがわかれば、きちんと取り組みます。受け身の場面が続いても、何とか寝ないで起きていようとしている姿が見られます。説明や課題を理解できない状況でもわかろうとする意欲があります。けれども、「わからない」と声に出して訴えたりはしません。表情や行動でシグナルは出していますが先生に気づいてもらえず、結局は説明を一方的に聞かされて板書を写すだけになっていることがよくあります。子どもたちが、「落ち着いて話を聞いている」「きちんと板書を写している」からといって、それで安心してはいけません。子どもたちと先生との関係がよいので、子どもたちが理解できなくても授業が崩れていないだけなのです。わからない子どもたちに一方的に説明をしても、なかなか理解はできません。授業の中に子どもたちが「わかるようになる」、「できるようになる」場面を作ることが必要です。
そのためには子ども同士がかかわる場面を増やすことが大切です。この子どもたちはかかわり合う場面では、聞き合ったり、助け合ったりすることはできます。その時の表情も悪くありません。グループでの活動を活かすためにも、全体の場で子どもたちの出力場面を増やし、子ども同士をつなぐことで、かかわり合って学ぶ経験値を高めてほしいと思います。
また、子どもたちが少し先生に甘えすぎているように感じる場面もあります。中学校まではあまり先生にかかわってもらっていなかった子どもが多いのかもしれません。先生とのかかわり方に子どもっぽさを感じます。検討会で先生方と話していると、子どもたちをとてもかわいがっていることがよくわかります。安心して甘えられる環境なので、この傾向が強いのかもしれません。このこと自体は悪いことではありませんが、子どもたちの成長のためにも、子どもとの距離を調整して、子ども同士のかかわりを増やすようにするとよいと思います。

特別進学コースの子どもたちは、落ち着いて授業に取り組み、まじめに課題に取り組んでいますが、彼らが持っている学びへの意欲が表に出ていないように感じました。課題が子どもたちのものになっていないことが原因のように思います。子どもたちが、「わからない、どうすればよいのか」と困ったり、「目標に向かって取り組もう」という気持ちになったりできていないのです。
家庭科の授業で裁縫をしていましたが、どの子どももiPadにイヤホンをつないで、音楽を聴きながら作業していました。様子を見ていると、音楽や動画に気を取られて手元がおろそかになっている子どもはいません。大した集中力です。そして、子どもたちは、作業がひと段落つくと授業者に見せに行って確認をしてもらっています。作業をして先生のOKをもらえばよいのです。この授業の課題は子ども同士かかわる必要のない、音楽を聴きながらこなせるものでした。
子どもたちの成長のためには、互いにかかわり合って工夫することが求められる、もう一歩レベルの高い課題にする必要があります。今回の作品制作に適用できるかはわかりませんが、例えば、「グループでブランドを作り、コンセプトを決める」「個人個人がそのコンセプトに沿って自分の作品の企画する」「各自の企画がブランドとしてふさわしいかをグループで確認の後、作業をする」「完成品をブランドとして認められるかグループで最終確認をする」というような流れも考えることができます。社会で行われている制作過程を取り入れる視点を取り入れることでリアリティのある、考える必然性のある課題になると思います。総合的な探求の時間を意識して、文化祭で販売するところまでをゴールとして、販売促進、広報といった視点も加えて活動しても面白いかもしれません。
このことを一緒に参観した先生にお伝えしたところ、次の時間の進め方をどうしようかとその場で悩まれたようです。検討会の場で報告してくださいました。
LBGTに関する法律に賛成か反対かを考え、自分の意見をまとめる英語の授業の、発表の場面のことです。発表の視点をどうするかを悩んだ結果、どの発表がよいかをコンテストにすることにしたそうです。と言っても、細かい進め方を考える時間はなかったので、コンテストにすることだけを取り敢えず宣言して、子どもたちに「どうしようか?(どうすすめようか?)」と問いかけたそうです。すると、子どもたちはとりあえず賛成、反対の人数を確認することから始めて、発表方法などコンテストを進めるために必要なことを自分たちで決めていったそうです。先生がコントロールするよりも、子どもたちに思い切って任せることで彼らのエネルギーが引き出せたとようです。こちらがレールを引いてその上を無難に走らせるのではなく、子どもたちに任せてみることで学びへの意欲を引き出せることもあるのです。先生は、子どもたちが暴走しないように見守りながら、最低限のコントロールをするだけです。検討会が、こういった経験を互いに伝え合える場になったことは素晴らしいことです。毎回感じることですが、他の先生の授業から、素直に学び、柔軟に授業を変えることができる先生が増えています。そして、そのことを互いに共有する場が校内にできつつあります。この学校の授業改善が点から線へとつながってきていることを感じさせてくれる検討会でした。
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30