子どもが落ち着いているからこそ授業改善が大切

今学期最後の授業アドバイスは中学校でした。

子どもたちは落ち着いて授業に取り組むことができる学校です。子ども同士の関係も悪くありません。かかわり合うこともできるのですが、特に3年生の学びに対する意欲がうすいことが気になりました。指示されたことには取り組みますし、授業者からの質問にも答えてくれるのですが、もっと知りたい、わかりたいと自ら課題に向かおうとするエネルギーが低いのです。
自習時間に、休業中の課題の問題集に取り組んでいる子どもたちの姿も気になりました。数学の○付をしている時に、答だけ見てあっていれば○をします。解答集はきちんと途中の解説もあるのですが、そこを確認したり途中の式を修正したりしている子どもはほとんどいません。また数学に限らず、できなかった問題、間違えた問題に対して、解答をそのまま写している子どもが目立ちます。自分で解けるようになるためには、解説を見てもう一度最初から自力で解くことや、教科書やノートの関連するところを調べたりして確認することが必要です。ただ、課題をやったというアリバイをつくっているようにしか見えませんでした。単純に子どものせいとは言い切れませんが、学ぶことに前向きにさせたいものです。
宿題はどうしてもやること、提出することが目的化しやすいのですが、力をつけることを目的としたものとなるような工夫が必要だと思います。

この日は、若手2名の授業アドバイスを行いました。
1年生の理科の授業は、プラスチックについての学習でした。
授業者は子どもにいろいろなことに気づかせたいと考えていました。紙パックを持ってきて、液体が漏れないのはなぜかを問いかけます。しかし、子どもたちは考える手がかりがないので、とりあえず思いついたことを言うだけです。根拠がなく発言するのでテンションは上がりがちになります。授業者は紙パックを切り開いたものを見せてその表面に何か貼りついていることを示します。ここにプラスチックの膜が使われているので液体が漏れないと説明して小さく切ったものを子どもたち触らせます。授業者は子どもたちに興味を持たせてプラスチックがいろいろなところで利用されていることに気づかせたかったのでしょうが、子ども自身が紙パックで水が漏れないことを不思議に思っていないのであまり意味がありません。
この後プラスチックが使われているものを書かせ、「できればなぜそこに使われているか」を考えようと問いかけます。そこからプラスチックの性質につなげようというのですが、考えるための材料や方法がはっきりしません。そもそもこの授業でプラスチックは最初から最後まで定義されていません。子どもから「ビニールはプラスチック?」というつぶやきが出てきた時に気づくべきだったのですが、授業者はこのつぶやきを拾うことができませんでした。
子どもたちからいくつか製品があがった後、プラスチックの「性質」を7つあげようと課題を提示します。「なぜそこに使われている」を跳び越えていきなり「性質」に発問が変わっています。また、7つと限定したことも問題です。教師が明確に答を持っていて、それを当てることが課題だと言っているようなものです。実際に、授業者は子どもからでてきた「リサイクルできる」「熱で溶ける」といった言葉を教科書にある「加工しやすい」にまとめてしまいます。子どもは推論して答えるのではなく、思いつきで答を探っているだけで、最後は授業者が提示する答を覚えるだけになってしまいます。授業者が、「覚えるのは大変だけど頑張って」と何度も言っているので増々その傾向が強くなります。授業者が願っていることと授業は大きく乖離していました。
性質を考えるのであれば、身の回りのプラスチックをできるだけたくさん子どもたちから出させるとよいでしょう。あまり出てこないと思うのであれば、こちらで用意したものを「これはプラスチック?」と問いかければよいのです。そして、「どうしてプラスチックだと思ったの?」と理由を聞いて揺さぶるのです。理由を板書しながら、グルーピングしていくことで主な性質は出てくるはずです。絶縁性などはなかなか出てきませんので、電気のプラグやコードを用意して、「なんでプラスチックを使っているのだろう?」と問いかけて見るとよいでしょう。この時、「○○ではダメなの?」と比較することでより気づきやすくなります。比較して考えるというのは最も大切な見方・考え方の一つですが、意識して教えることも必要です。
プラスチックの性質や用途は知識として教えるだけになりがちな単元です。何かしら子どもたち気づかせたいと考えただけでも大きな進歩だと思います。まだまだペーパー試験で子どもたちに点を取らようとすることから抜け出せていませんが、少しずつ授業観を育てていってくれることと思います。次回の変化を楽しみにしたいと思います。

1年生の英語は”What’s this?”の学習でした。
日本の都道府県のシルエットをディスプレイに映して、子どもたちに”Is that ○○?”と問いかけさせます。最初は容易に想像つくもので練習して、その後、想像がつきにくい県で困らせ、”What’s this?”が出てくる必然性をつくりました。予定外だったのが、すぐにはわからないと思って用意した岡山県を子どもがすぐに”Is that Okayama?”と問いかけたことです。この時授業者は思わず「マジで?」と口にしました。後から聞いたところ、自分がこの言葉を発したことは覚えていませんでした。他にも何回か言っていたのですが、全く意識していませんでした。使わないように意識するようお願いしました。
最終的には授業者が、こういう時には”What’s this?”と聞くことを説明して、練習に入ります。
“situation”を意識して、必然性のある導入をしようとしたのはとても評価できます。ただ、授業者が日本語で説明するのであれば、あまり意味はありません。何度か”Is that ○○?を言った後、”What’s this?”と”this”と同時に指を指して”What”を導入するとよいでしょう。これに対して”It’ ○○.”と答える一連のやり取りを何度も繰り返して、自然に意味と使い方(文法)に気づかせるのです。
グループごとに用意したホワイトボートを4分割し、そこに一人ずつ動物の絵を描かせます。その絵を使って、”Is that ○○?” ” What’s this?”の練習をするのです。絵を描くのに多くの時間を使い、子どもたちが英語しゃべるのは一人1、2回です。しかも、”Is that ○○?ですぐに正解が出るので、肝心の” What’s this?”はほとんど使われません。英語学習の本来の目的と関係ないことでテンションを上げたり時間使ったりしないように注意することが必要です。英語を話す密度を上げることを意識してほしいと思います。
授業者は文法の説明をどうするかで悩んでいました。文法用語の「疑問詞」を日本語で説明したり、”this”と”what” 入れ替えると図で示したりしていました。文法は大切ですが、機械的に用語やルールを覚えるのではなく、”situation”にもとづいて言葉を使いながら子どもたち自身で気づくような活動をすることが求められます。
新出単語の学習では、いきなりデジタルのフラッシュカードを使って単語を覚えさせようとしていましたが、あまりよいとは思いません。どうしても文字と連動して視覚で言葉を覚えるので、言葉を聞き取る力が育たないのです。「聞く」「話す」が先で、「読み」「書き」は後からです。言葉とそれが表すものをきちんと理解してから、フラッシュカードで読むことを練習するとよいと思います。できれば、実物や絵を見せて発音を聞かせ、フラッシュカードも日本語とではなく、絵と対応させるとよいでしょう。英語を日本語と1対1に対応させて日本語に直して理解するのではなく、言葉の表すものや”situation”で理解することを目指してほしいものです。
また、“for”や“of”のような前置詞も注意が必要です。教科書の本文には”recipe for curry”と”block of curry”が出てきますが、どちらも「カレーの……」と訳して日本語で説明してしまうと“for”と“of”の違いはよくわかりません。「どう違うの?」と疑問に思う子どももでてくるはずです。使い方や意味をきちんと理解させる場面をどうつくるかが課題です。

この日、休み時間に先日道徳についてアドバイスした先生が報告に来てくれました。ずっと道徳の授業が上手くいかずに悩んでいた方です。発表者の意見を他の子どもにどう思うかとつないでみたところ、友だちの意見を意識して聞くようになったそうです。振り返りにも、「友だちの考えを聞けてよかった」という声があり、授業を変えるきっかけをつかんだようです。この日の姿は道徳が上手くいかないと暗い表情で相談していた前回とはまるで別人でした。先生の前向きな姿に私もエネルギーをもらいました。

子どもたちが落ち着いて授業に参加している学校だからこそ、より多くの課題が明確になります。子どもが落ち着いていることに安心せずに授業改善を意識してほしいと思います。
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