授業改善から学校改革へ

私立の中・高等学校で、教科主任との懇談と授業アドバイスを行ってきました。

高等学校で今年度から取り組んでいる外部試験の結果の報告を受けました。1、2年生を対象にしたものですが、まず目につくのが、2年生と1年生でスコアの度数分布が大きく異なっていることでした。1年生は下位層が非常に大きく、その一方で上位まで分布が伸びています。一方2年生は下位層が1年生と比べてかなり少なく、上位層も広がらず、スコアの分布の幅が小さくなっています。1年生は入学後間もない状況での試験なので、入学時の素の状況を表わしているものと考えられます。2年生については、入学時は現1年生と同じような傾向の分布だったとすれば、入学後、学習意欲が高まった結果、下位層の成績が向上したと考えることができそうです。また、試験と同時に実施された授業や学習の実態調査の結果を見ると、子どもたちの授業への取り組みに前向な傾向が見られます。このことも、この考えを裏付けているように思います。もちろん、学年ごとの独自の傾向と見ることもできますので、今後継続的にデータを見ていくことが必要だと思います。
また、授業に対する集中度の高いコースの子どもたちは、その一方で家庭学習の時間が一番少ないという面白い結果がありました。授業を受けてそれで満足しているのかもしれません。ともあれ、このコースに限らず家庭学習時間の少なさが課題と思われます。これからの時代は、問題集の何ページをやるといった問題演習的な宿題を課すのではなく、授業と直接関係が無くてもよいので、子どもたちが学外で主体的に学びに取り組むようなものを用意する必要があると思います。
一人一台のタブレットがあるので、そこに学びのためのポータルサイトを構築することを提案しました。具体的には、「先生方や子どもたちがお勧めの本を紹介する」「授業から一歩進んだ課題を提示する」「ボランティア活動の紹介やお誘い」といった「招待」、「活動の結果の報告や感想」「それに対してコメント」といった「共有」「価値付け」をするようなサイトです。個人のページからは自分のこれまでの取り組みが、学校のページからは全体の取り組みが一覧できるようなものをイメージしています。どのような形で実現できるかわかりませんが、前向きに取り組んでいただけることを願っています。

教科主任の方との個別の懇談では、どの教科からも授業を変えようという前向な姿勢を感じました。
子どもたちの書く力がついてきているのは、いろいろな教科で書くことを意識した取り組みがなされているからだといううれしい報告もありました。学校全体で目標が共有されてきていることを感じます。
教科として目指す部分と先生方の個性をどう折り合いをつけていくのかが課題だと感じられている方もいました。大切なのは、まず教科としての目指す姿を納得いくまで話し合うことだと思います。実現方法についてはどれが正解ということはありません。互いに授業を見合いながらそれぞれが日々授業改善していくしかないと思います。互いのよさを学び合うことを意識できればと思います。
一方で教科としての連携が進んできたという報告もありました。その教科の複数の科目を受講することで、教科として身につけさせたい力が子どもたちに蓄積されていくようになれば、大きな成果だと思います。
また、子どもたちが私たちの思う以上に、これまでの暗記中心の学習観に支配されていることが話題になりました。そこから脱却させるために、いつも目にするワークシートの柱に「原因を考える」といった教科の目指すものを印刷しておくことも有効かもしれません。
出力型の授業を目指しているが、子どもたちがなかなか話せないという悩みも出されました。読んで理解したり、考えたことを書いたりはできるが自分の意見として話すことができないというのです。この問題は、話すことより、自分の話を聞いてもらえるという安心感を与えることを意識するとよいでしょう。授業のあらゆる場面で、「正解を求めない」「発言を否定しない」ことを心がける必要があります。学級全体が互いに受容し合える雰囲気になることを目指してほしいと思います。

中学校では、教科の壁を越えたプロジェクト型の学習を取り入れたいと考えているようです。いきなりプロジェクト型に挑戦するのではなく、プロジェクトで必要とされる力をいくつかの基本的なものに細分化して、それぞれの力をつけるためのミニプロジェクトを教科の枠の中で行うことから始めることを提案しました。その上で、自由なプロジェクトに取り組むのです。
現在、先生方の用意したテーマでゼミを行っていますが、より主体性を引き出すために自由なテーマで子どもたちに活動させたいとも考えられています。しかし、自由にした場合、活動がどこに向かうかコントロールができないという不安もあるようです。テーマを自由にしても、ゴールを明確にすることで活動の方向はコントロールできると思います。例えば「eスポーツ」をテーマにするならば、「eスポーツが普及するための施策」「eスポーツをスポーツとし認知させるためにどうするか」というように、活動のゴールを明確にするのです。あらかじめゴールのパターンをいくつか提示しておき、そこから選ばせるとよいでしょう。
中学校では、常に新しいことに挑戦しています。失敗もあるし、壁にもたくさんぶつかると思いますが、その経験が先生方に力をつけ、ひいては子どもたちの力をつけることにつながっていくと思います。先生方の挑戦に立ち会うことで、私も大いに勉強させていただいています。

いくつかの授業を見せていただきましたが、授業後アドバイスを求めてくる方は、私が指摘する以前に自分自身で課題に気づいているようでした。課題に気づいているからこそ、客観的な意見やアドバイスを聞きたいのでしょう。

子ども同士のかかわりで問題解決していく授業を目指している先生は、ただ活動させている状態から、どこをゴールにするのかの落としどころを意識するようになっていました。どのくらいの子どもたちが解ければ活動を終えるのかが難しいと悩んでいます。問題を解けたかどうかを指標とするのではなく、子どもたちがどのような状態かを意識することをアドバイスしました。「答」を共有するのではなく、解けるために必要な足場や手がかりは何かを意識して、途中でもよいので、「何を考えたか」「どのようなことをやってみたか」と「考える道筋」を共有するのです。
手探り状態でこの1年間、かかわり合いを中心にした授業に挑戦する中で、課題となることを自身で一つひとつ解決しています。まだうまくやれているという手ごたえは薄いかもしれませんが、確実に進歩していると思います。これからの伸びが楽しみです。

今まで一方的に説明していた若手の授業に少し変化が見られました。子どもたちに問いかける場面が出てきました。何を問いかけるのかを意識するだけで、授業のポイントは明確になります。授業にリズムが出てきました。ただ、問いかけた後に間を持てず、誰かがつぶやけばすぐに自分で説明してしまいます。全員が考える時間を待てないのです。結局、一問一答形式の、教師による一方的な説明になってしまっていたのが残念です。子どもたちが考え、自身の言葉で説明する授業を目指してほしいと思います。

授業改善が、一部の先生や教科によるものから、学校全体を巻き込むものに変わりつつあるのを感じます。学校改革につながる動きが加速しているようです。これからもたくさんの壁にぶつかるとは思いますが、あせらず一つひとつ乗り越えてくれることを願っています。
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