テンションの上がりすぎに注意

小学校で、経験者と若手の授業を見てアドバイスを行ってきました。初めて訪問する学校です。

共通してどの学年も元気な子どもたちが多いように感じましたが、テンションが上がりすぎる傾向がありました。その要因として挙手指名中心で授業が進むことがあるように思います。子どもたちは自信のある時はここぞとばかりに大きな声を上げて挙手します。指名されたいのでテンションが上がるのです。一方、自信のない時には挙手はしませんが、それでも発言したい子どもはその場でつぶやきます。正解であれば先生が拾ってくれるし、そうでなければスルーされるだけなので傷つかないのです。
先生は発言者の方を向いて話をしっかり聞こうとするので、発言者も先生の方を向いてしゃべります。発言者は先生に受け止めてもらえるように感じます。しかし、発言を受けてすぐに先生が説明するので他の子どもは友だちの話を聞かずに先生を見ています。先生と子どもたちの視線は交わりません。結局、発言する子どもが中心で授業が進んで行くので、多くの子どもは受け身のまま時間が過ぎているように思います。

ある教室のグループ活動では、グループで一つの結論にまとめていました。元気な女子が仕切って、他の男子はよそ事をしていたりします。指名された子どもがグループの考えを発表しますが、他の子どもたちがあまり熱心に聞いていないことが気になりました。子どもたちが活動に真剣に取り組んでいなかった可能性があります。一生懸命参加して考えたのであれば、他のグループの考えが気になるものだからです。もう一つ考えられるのが、課題がやさしすぎて聞かなくても答えがわかっている子どもが多いことです。グループの課題はやや高めにしておかないと、グループになる意味があまりないのです。
授業者は、発表が終わると子どもたちに「OK?」と確認をしてそれで次に進みます。子どもたちに発表を聞く価値を与えないと、聞こうとする意欲が低下していきます。自分たちの考えとどこが同じでどこが違うといったことを問いかけて、発表者以外の子どもたちを参加させるようにすることが大切です。

ペアで音声計算練習をしている学級がありました。答を聞く側の子どもが何もせずにただ立っているだけのペアが目につきました。この活動は聞いている子どもが正解かどうかをきちんと判断して、間違っていれば訂正してあげることが大切なポイントです。一生懸命答えているのにペアの友だちが聞いてくれないので不満の表情が表れている子どももいました。人間関係をつくることもこの活動のねらいですが、かえって悪くなってしまいます。答を聞く側の子どもに役割をしっかりと自覚させることが必要です。活動後、本人ではなくペアの子どもが結果を答えるようにすることも相手のことを意識させる方法です。活性化するための工夫を意識してほしいと思います。

ICTの活用で、ディスプレイに教科書の内容等を表示しますが、先生が子どもたちと同じように画面を見ている姿が目につきました。実物投影機などは操作の確認のために画面を見ることも時には必要ですが、子どもたちの視線と反応の確認のため前を向くことが基本です。子どもたちの様子を見ることを常に考えるようにしてほしいと思います。

この日あった研究授業は、4年生の社会科のごみ処理についてでした。
あらかじめ用意した、「生ごみ」「ティッシュ」「植木鉢」「ペットボトル」などいろいろなごみを分別する活動から入ります。70年前、40年前、現在のどのルールで分別するかをグループに割り当て、作業をしました。このごみはこの種類だと主張する子どもに引っ張られるグループ、ごみを分担して分別するグループといろいろですが、全体的に上手くかかわり合えていないように感じました。生ごみがどのようなものかもわからない子どもも結構います。相談して活動するための足場がしっかりとしていないことが要因として考えられます。
授業者が「今日は〇曜日」と言うと、子どもたちは隣の教室にごみを捨てに行きます。70年前の子どもは好きな時に捨てに行くのですが、一度捨ててしまえばあとは他のグループが移動するのを見ているだけです。
ごみ捨てが終わった後、ごみの種類について子どもたち確認しますが、知らいない、わからない子どもが結構いました。ここで説明しても、本時の活動にはあまり影響はないように思います。やはり、最初に確認しておくべきだったでしょう。
子どもたちに、70年前と今でごみの捨て方が変わった理由を予想させます。何か根拠をもって予想するわけではありません。ペアで聞き合っても、根拠を意識していないので単にしゃべり合うだけです。根拠のない言動をさせることが子どもたちのテンションを上げることにつながっていたように思います。
授業者は、子どもたちに意見を言わせた後に、「いい意見があった」「ヒントになる意見があった」といったことを口にしますが、先生の求める正解があることを示唆したことになります。無意識のうちに子どもたちを誘導しています。子どもたちは自分の考えではなく、先生が何を求めているのかを答えようとするようになっていきます。
また、ハンドサインで賛成かどうかの意思表示をさせました。授業者は全員に意思表示をさせようと、何度も声をかけます。ハンドサインでは全員に意思表示をさせることは必須です。そうでなければ、「いいです」と一部の子どもが声を上げることと差がありません。授業者がこの点を意識できていることはとてもよいと思いました。しかし、ハンドサインで大多数が賛成だからといって次に進むのは危険です。一人でも賛成のサインを示さない子どもがいれば、その子どもの考えを聞いたり、よくわからないのであればわかるような説明を他の子どもに求めたりすることが大切です。また、ほとんどの子どもが賛成であれば強い「同調圧力」がかかります。自分で判断できない子どもも、無責任にまわりを見て賛成のサインを出します。子どものハンドサインに対して、何らかの説明や根拠を問うことをしなければ、無責任な態度を助長することにつながります。ハンドサインを活かすには、相応の覚悟をもって、子どもたちとかかわることが必要です。
最後に子どもたちの発言を授業者がまとめて終わりました。なぜその意見を取り上げたのかは子どもたちにはわかりません。その意見が先生の求めていたものだと思わせて終わることになりました。

検討会はグループでの話し合いを模造紙でまとめて発表する形式でした。あらかじめ視点は決まっていたのですが、どのグループもよいところに目をつけていました。
「前半の活動は子どもたちが積極的に取り組んでいたが、それが後半の活動に活かされていたか?」「ハンドサインは有効に機能していたか?」…など、単によい悪いではなく、その視点から話題が広がっていたので、とてもよい話し合いになっていたように思います。
私からは、子どもの活動だけに焦点を当てるのではなく、その活動を通じて、「どんな力をつけたいのか」「そのために、何を考えるか」「考えるためには何を知っている必要があるのか」といったことを自身に問いかけながら授業をつくってほしいことを伝えました。また、「子どもたちは根拠なく話しているとテンションが上がる。したがって話し合いでテンションが上がっている時は決して深く話し合っているわけではない」ということに注意することが大切です。テンションが上がることはあまりよいことではないことを意識してほしいと思います。
「聞いていてどんなことを思った」「なるほどと思った」と問いかければ、挙手に頼らなくても多くの子どもに発言させて授業を進めることができます。挙手指名による一部のテンションの高い子ども中心ではなく、全員参加の授業を目指してほしいことをお願いしました。

授業者は自分の授業で上手くいかなかったことを謙虚に認識していました。前向きに授業を改善しようとする意欲があります。今回の研究授業で学んだことをもとに、大きく進歩してくれることと期待します。

この学校は今年度5回訪問の予定です。焦らずに、じっくりと先生方とつき合っていきたいと思います。
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