子どもたちの成長に先生方が追いついていない?

私立の中学校高等学校で授業アドバイスを行ってきました。

この日は新しく来られた先生方の授業を中心にアドアイスを行いました。
高校2年生の英語は日本の街の紹介をグループで行うというものでした。この時間は自分たちで選んだ街の情報をネット等で集めて紹介文を作る場面でした。
子どもたちはグループでの活動には慣れているので、ある程度はかかわることはできます。しかし、男子同士、女子同士が向かい合うグループではどうしても同性だけで話し合う姿が目立ちます。5人のグループではお誕生日席の子どもが参加しなかったり、逆にお誕生日席のまわりの3人だけで話したりしている姿が目につきます。また、4人の中で一人だけが参加できていないグループもあります。グループの人数や座席配置に工夫が必要でしょう。
授業者はグループの間を机間指導しながら進行状況を気にしています。何かあると、全体に向かって指示を追加したり、直接子どもと話したりします。質問に対して、すぐにその子どもと二人で話し始めるので、グループの他の子どもはそこに参加できません。先生に聞く子どもは友だちと関係ができていないことがよくあります。先生が直接対応すると意図せずして子ども同士を分断することにつながります。授業者が対応するのではなく、子ども同士をつなぐような動きをしなければなりません。また、作業を止めずに指示をしても徹底しませんし、集中して作業している子どもにとっては雑音になってしまいます。グループ活動中は子どもたちの様子を観察して、「どのような支援が必要か」「どのタイミングでかかわるか」「いつ活動を止めるか」「止めた後どのように進めるか」などを考えることが大切です。
全体での発表場面では、聞くことを大切にするようにと全体に声をかけますが、授業者自身が発言者を見ずに下を向いてメモしていることが何度もありました。また授業者は発言をすぐに自分の言葉で言い直し感想を言います。発言を聞く意味がないので、発言者の方を向いて聞く姿勢を見せる子どもはほとんどいません。聞いている子どもたちに発言を整理させ、どう思ったのかを発表させることが必要です。
中には発言者の方を向いてしっかり聞こうとしている者もいますので、この子どもたちをほめ、活躍させることで学級全体の聞く意識を高めることができると思います。残念ながら、授業者は全体の様子を見ていないので、こういった子どもたちの存在に気づいていませんでした。発言者だけでなく、全員の聞いている様子を見ようとすることが大切です。
授業者はとても素直な方で、私からの指摘をしっかりと受け止めてくれたようです。自分の目指すものと授業がずれていることに気づいてくれれば、必ずよい方向に変わっていくはずです。次回の訪問が楽しみです。

高校1年生の現代社会の授業者は、子どもたちに主体的に取り組ませたい、発言を引き出したいということを事前に話してくれました。授業は、前時の復習の場面で2名に発言を求めた以外、子どもが発言する機会はほとんどありませんでした。穴埋め形式のワークシートをもとに一方的に授業者がしゃべっているだけで、板書も特にはありません。まだ入学したばかりで意欲のある子どもたちなのですが、次第に集中が切れていくのが見えました。ほとんどの子どもの顔が上がらなくなり、表情もなくなっていきました。
経験はかなりある方なのですが、これまでの授業観から抜け出すことができていませんでした。具体的にどのようにすればよいのかがわからないのかもしれません。まずはいろいろな方の授業を見ることから始めるとよいでしょう。
丁度この時間、同じコースの隣の学級でも社会科の授業をやっていました。授業者の質問にグループで相談し、その考えを発表します。子どもたちはいきいきと活動していました。このような子どもの姿を見ることで、授業のあり方のヒントをつかめると思います。
こちらの社会科の授業でも先ほどの英語の授業と同じように、授業者が発言を受け止めて説明をしていました。授業者が発言者のそばに移動していたこともあって、子どもは発言者をよく見て、反応していました。意図的に視線を誘導していたのだと思います。子どもたちに聞く姿勢があるのですから発言を他の子どもにつなぎたいところでした。
場面によってどうするかの判断は難しいところがあります。この授業者は子どもの言葉を大切にしようとしていますので、ここではテンポあげたかったのかもしれません。

高校1年生の国語の授業は、宿題の発表の場面でした。一人ずつ前に出て自分の書いてきたものを読み上げます。発表者の視線は手元の原稿を見て聞いている子どもたちに向かいません。一方聞いている子どもたちも顔が上がっていませんでした。発言する子ども、聞いている子ども双方に意識させるべきことを明確にしておかなければなりません。授業者は教室の一番後ろに立ってiPadを使って発表の様子を録画しています。手持ちで撮影しているので、発表者だけを注目することになってしまいます。撮影は三脚を使うか、子どもにまかせて、前方から聞いている子どもの姿を見ることが必要でしょう。
発表が終わった後、新しい単元の学習に入ります。最初に文の題名だけから内容を想像させ、それから本文を読ませる展開です。グループで想像したことを話し合うのですが、まだ慣れていないのでしょう、うまくかかわれない子どもたちが目につきます。授業者は漫然と机間指導するのではなく、どうやってかかわり合いを生み出すかを考えて支援することが必要です。話し合いの内容よりも、まずグループが機能しているかに注意してほしいと思います。
授業者はまだ経験が少ないのに、題名だけで内容を想像させる課題を考えたことはなかなかです。このことを話すと、「実はどうやって導入しようか悩んで、いろいろな先輩に聞いて見た」という答が返ってきました。先輩からの回答の中で、自分がよいと思えたものがこの課題だったようです。先輩に聞くということはとてもよいことです。他者から学ぶという姿勢を今後も忘れずに持ち続ければ、きっと大きく成長すると思います。これからが楽しみです。ここで忘れないでほしいことは、やった結果がどうであったかを先輩と共有することです。報連相という言葉がよく言われますが、相談の後どうなったかを伝えることもとても大切です。いただいたものはお返しして初めて互いにメリットが生まれるのです。

この日は高校1年生を中心に授業を見ましたが、年々子どもたちの姿が意欲的になっているように感じます。それに対して先生方の授業は従来型の講義中心のものと子どもたちの活動を重視しているものとに大きく分かれてきているように思います。特に1年生担当の先生方は前者の傾向が強いように思われました。先生が話しつづけて受け身の状態が続いても、子どもたちに積極的に参加する意欲があるので全体としては集中力を保っているように見えます。しかし、次第に集中力が切れる子どもの姿が目立ってきます。授業者による子どもの姿の違いが早くも目に付きだしました。

先生方がやりやすい授業ではなく、子どもたちが活躍する授業を目指してほしいと思います。そのためには、まず学年やコースごとに目指す子ども像を明確にし、目指す姿を実現するために授業はどのようにあるべきかのイメージを共有することが大切です。そして、そのイメージを具体的なものにするためのどうすればよいのかを学校全体で共有していくことが必要でしょう。
そのための方策として、今年度は授業公開を積極的に行うことが計画されています。教科を越えて互いに授業を見合い、子どもたちの姿を共有し、授業改善につなげることがねらいです。先生方が、互いのよいところを学び合えることを期待しています。

あるコースでは面白い試みがされていました。文化祭のオリエンテーションを兼ねているのでしょう、高校2年生が1年生を前にして昨年度披露したミュージカルを上演していました。進行も2年生が行っています。2年生のいきいきした表情が印象的でした。1年生は先輩たちを食い入るように見ています。高校生はすごいな、自分たちでできるのだろうかと、とてもよい刺激を受けていました。
面白い場面がありました。ミュージカルの途中でアクシデントがあり、上演が止まったのです。一瞬固まった2年生ですが、自分たちで走り回って状況の把握とリカバリーに努めます。この間先生方は子どもたちの様子を楽しげに見ているだけで手伝おうとしません。子どもたちを信頼していることがよくわかります。結局最初からやり直しましたが、その判断も子どもたちで行っているようでした。先生方とよい関係を築き、立派に育っていることがわかる場面でした。

この学校では、子どもたちの成長に先生方が追いついていないように感じることが増えてきました。子どもたちの成長に大きく貢献している先生とそうでない先生の差が大きくなってきたと言ってもよいでしょう。先生方が互いのよいところを認め合い、学び合うことが大切になってきています。学校の中によい手本があることを活かせるようにしていきたいと思います。
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