3年間のまとめをお話しする

3月の上旬に、3年間授業アドバイスをしてきた中学校でまとめの話をしてきました。

若手を中心に授業アドバイスをし、学校全体としては先生方に個別にアドバイスはせずに、教務主任に感じたことを伝えてきました。今回が最後ということもあり、全体に対して私の感じたこの学校のよいところと今後に向けての課題をお伝えしてきました。

子どもたちはとても落ち着いていて、教師の話をよく聞いてくれているように見えます。こういう学校で多いのが、話を聞いてくれるので教師が気持ちよく話ができ、そのためしゃべりすぎるということです。実際には、子どもたちは消費者的で、試験対策に役に立つことを優先していることが多いのです。例を挙げれば、授業者が話をしていても、板書やワークシートの答を写すことを優先しています。また、グループ活動なども最後は教師がまとめることを知っていて、それを写して満足しているように見えます。子どもたちの主体性を育てることが課題です。
先生方は、明るい雰囲気で子どもたちを大切にしています。子どもたちとの関係もよく、学力をつけてやりたいという思いも強く感じ、授業の工夫も見られます。ただ、授業中に子どもたちをあまり見ていないことが気になります。もちろん子どもたちの方を向いて授業をしているのですが、一人ひとりの様子を細かくは見ていないように思えるのです。別の言い方をすれば、自分が期待する答や反応を待っていて、子どもたちの状況で流れを変えようとしていないのです。一問一答が多く、先ほどの子どもたちの様子とも関連しますが、「覚えておきなさい」といった言葉が多く聞かれます。また、授業のゴールが明確でないことが多いようにも感じます。この時間に子どもたちにどういう力をつけたいのか、それをどう評価しているのかということが伝わってこないのです。

子どもたちの主体性を育てるために、まず学びの意味とあり方を伝えることが必要だと思います。何のために学ぶのか、これからの時代に必要なのはどのような力なのかをいろいろな場面で語ることが大切だと思います。先生方は学校の学習面での成功者が多いと思います。教えられたことを覚えて試験で点数を取ることで今のポジションを手に入れている方がほとんどでしょう。しかし、社会ではそのような価値観はすでに過去のものになっています。それが曲がりなりにも通用しているのは、学校だけかもしれません。先生方の成功体験を一度リセットしてほしいと思うのです。
授業において子どもたちの主体性を持たせるためには、試験対策などではなく、純粋に知りたい、学びたいと思わせることが大切です。「えっ」「それってどういうこと」と子どもたちに疑問を持たせたり、「これを見て、あることに気づいた」というように発見への過程を疑似的に体験させたりするような工夫を意識してほしいと思います。

この学校ではワークシートが多用されています。ワークシートが多用されている地区の特徴として、授業に困難がある学校が多い傾向があります。ワークシートがあれば、ノートを持って来ない子どもも作業はできますし、穴を埋めるというわかりやすい目標があるので授業に参加させやすいからです。しかし、穴を埋めてしまえばそれで満足してしまうということも言えます。この学校では子どもたちは落ち着いていて意欲もありますので、ワークシートのそのような特性に頼る必要はありません。であれば、その在り方を変えることを考えてほしいと思うのです。用語や答を埋めるのではなく、答を導く過程や見方・考え方を記述させる。はじめのうちは考える視点をワークシートに書いておくが、視点が身についてくれば、自分でワークシートに視点を書かせてから課題に取り組ませる。こういったワークシートに変化させていってほしいのです。いつも同じ形ではなく、変化させながら、最後は白紙になるのが理想だと思います。

この学校ではグループを活用する場面を多く目にしますが、いくつか気になる点があります。一つはグループで話し合う前に自分の考えを持たせようとし過ぎることです。考えを持たせること自体は悪いことではないのですが、自分で考えられない子どもにはその時間が苦しいものになります。グループ活動に入る前に意欲をなくしてしまうこともあります。また、グループでの話し合いで、考えを発表することから始めると参加することができなくなります。一方自分の考えをはっきり持つと、それにこだわったり、主張しすぎたりする子どもがでてきます。他者を説得することにこだわり、対話が成り立たなくなることもあります。自分の考えを持たせることにこだわらず、自分の考えを持たせるためにグループ活動をいかすという発想も持ってほしいと思います。具体的には、まず課題についてグループで話し合った上で自分の考えをまとめるといった方法です。続いてもう一度グループに戻して意見を聞き合ってもよいですし、個人の考えを全体で聞き合ってもよいでしょう。
もう一つは、グループで考えを一つにまとめることが多いことです。一つにまとめようとすると、力の強い子どもの意見がどうしても通りやすく、他の子どもはそれに従うだけとなります。それではグループで考えを深めていくことにはつながりません。グループ活動には子どもたちに自分の考えを持たせる、深めるという側面があることを忘れないでほしいと思います。
発表の場面も、順番にすべてのグループに発表させることがほとんどです。同じような発表が続きだれてしまうこともあります。何より時間がムダに使われることが多いのです。ボード等を使うのであれば、意見が近いグループのそばにボードを貼るといったことをしたり、口頭での発表であれば、「今のグループと近い意見のグループはある?」と似た意見をまとめて発表させたりするとよいでしょう。子どもたち自身に考えや意見をカテゴライズしたり焦点化したりすることを意識させるのです。最初の内は教師主導でよいので、子どもたちに深く考えさせたいことを明確に対立させたり、焦点化したりしてほしいと思います。浅い意見で終わるのではなく、そこからもう一度子どもたちに考えさせるのです。そのためにも時間が必要です。発表をコンパクトにすることが重要なのです。多様な考え方に触れることで、考えが深まることを経験させ、その価値に気づかせてほしいと思います。

「主体的に学習に取り組む態度」の評価について少し話をさせていただきました。
文部科学省の資料を基に、「粘り強い取組を行おうとする側面」だけなく、「自らの学習を調整しようとしている側面」が認められなくては評価されないことや主体的に学習に取り組んだ結果、「知識・技能」「思考・判断・表現」に成果が表れなければおかしいこと、そのために一人ひとりへの支援が大切になるということをお話ししました。まだ最終決定していない部分もありますが、方向性として知っておいてほしいと伝えました。

最後に質問を募ったところ、若手二人から質問をいただきました。
一人は、「グループ活動は自分の考えを持たせてから相談させると言われてきたが、私の話を聞いて先相談させた方がいいのか、どうすればいいのかわからなくなった」というものです。どちらかが正解でなく、子どもたちの実態に応じていろいろと使い分けるようにとお答えしました。引出しを増やすと思ってもらえばよいと思います。

もう一人は「『主体的に学習に取り組む態度の評価』に関連して調整が重視されるというが現実にどうすればよいのか」という質問でした。実際、個々に対応することは現実的ではないと思うことと、システム的に子ども自身が自分の課題に気づき、調整できるようにする工夫が必要になるであろうとお答えしました。

3年間を振り返って、お役に立てたのかどうか自信がありませんが、ただ、一人の講師の方が3年間でとても大きく成長されたのを見ることができ、そのことをうれしく思っています。今年度採用試験に合格されたそうなので、新年度は新天地で活躍されることを期待しています。
新年度からはとても素晴らしい方に私の役割を引き継ぐことができました。この学校の進化をその方から聞けることを楽しみにしています。
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