この1年の成長を次年度に活かしてほしい

先月末に中学校で授業アドバイスを行ってきました。

3年生の社会科の授業は中学校最後の社会科の授業でした。
受験前ということで、問題演習の時間でした。問題演習の授業を見てもあまり参考にならないと考える方もいるかもしれませんが、こういった時間だからこそ見えてくることもあります。
配られたプリントの表は主に知識の問題、裏は資料を読み取って答える問題でした。表に取り組んでいる子どもたちの手元を見ると、思いのほか空欄があります。知識の問題ですから、考えたからといって答がわかるわけではありません。ここで、教科書や資料を調べる子どもがほとんどいないことが気になりました。その代りに友だちのプリントを見せてもらったり、答を聞いたりしているのです。一見すると相談しているように見えるのですが、実際には「こうじゃない」「あっそうか」といった会話です。これは日ごろの授業での姿を映しているように思われます。自分で調べたり考えたりするよりも効率的に答を得ようとしているのです。
一方裏の問題は、表と違って自分で考えている子どもがほとんどで、また表よりもよくできているようでした。授業者は、日ごろから資料の読み取りを大切にしているので、読み取って考える力がついているのでしょう。知識とのアンバランスが面白いと思いました。相対的に知識面が弱い理由は解説の場面でなんとなくわかったように思いました。授業者は、知識については「ちゃんと覚えておいてね」という言葉をよく発していました。知識は覚えておきなさいというスタンスなのです。確かに覚えなければいけないのですが、知識を定着させるためには、「なぜこの知識が大切なのだろうか?」「この知識がどこで活きるのだろうか?」といったことを子どもが考える場面や実際に知識を活用して課題を解決する場面が必要です。こういう場面があまりないのではと思いました。
また、子どもたちの様子で気になったのが、解説を聞いていない子どもが結構目立ったことです。「答がわかればよい」「私は正解だったから大丈夫」と考えているのかもしれません。たまたまかもしれませんが、授業者も少しテンション高めで一方的に説明をしていました。子どもたちは、消費者的に自分に都合のよい情報だけを求めているように見えます。今回は時間の関係でできなかったのかもしれませんが、問題を解く過程を共有し、そのことに価値を見いだすような場面がほしいと思います。
最後に社会科教師としての思いを子どもたちに語って授業を終わりました。子どもたちは静かに聞いていましたが視線が授業者に向かっていない者が結構いました。授業が終わった後、代表が花束を贈呈し、全員が大きな声で「ありがとうございました」と礼をしました。話を聞いている時の様子とこの声とに大きなギャップを感じました。大きな声でありがとうと言ったのは空気を読んでのことかもしれません。このギャップが何を意味しているのか少し気になりました。
授業者は前向きに授業に取り組んでいます。自身の課題も意識できるようになってきました。4月から、授業がどのように変化していくのか楽しみです。

2年生の女子の体育はバスケットボールの試合でした。
子どもたちは授業者の話を集中して聞くようになりました。授業者が子どもたちを見ることを意識できるようになった結果でしょう。2コート同時進行ですが、授業者は2つコートの境界の壁よりに立っていました。その位置からだとどちらのコートの様子もよく見えます。子どもたちを見ることがどの場面でも意識されるようになってきました。大きな進歩です。
子どもたちは、想像以上にレベルの高いプレイをしていました。経験者がうまいのは当然ですが、どちらかというと苦手な子どものプレイの質が高いのです。苦手な子どもはボールを触りたがりませんし、触ってもすぐにパスして動こうとはしないことが多いものです。また、やる気がある子どもも、ボールのところに集まって広がることができないというのがよく見る光景です。この授業では、子どもたちは視野を広く持って動けていました。苦手そうな子どもがパスした後、すぐ横に広がり先を走っているチームメイトの後をフォローしている姿を何度か目にしました。オフェンスの基本がよく身についています。授業者は前回のハンドボールの時に取り組んだオフェンスの練習方法を、バスケットボールでも取り入れたそうです。グループ内でオフェンスチーム、ディフェンスチームをつくり、それぞれの立場を意識させて2対2や3対3を行うものです。この練習で身に付けた基本の動きがゲームで生きていました。技術が上がることで子どもたちも今まで以上にゲームを楽しめます。このことが子どもたちの参加意欲につながっていたように思います。
ただ、ゲームのないグループの子どもたちが、目的を持たずに見学していることが気になりました。他のチームのよいところから学ぶような課題を与えておきたいところです。また、審判を設けずにゲームを進めていましたが、ファウルが取られないので事故の危険を感じました。子どもたちはエキサイトしているわけではないのですが、一生懸命にディフェンスをしようとして後ろからぶつかってしまう場面もありました。バスケットボール部員を審判に活用するとよいと思います。
授業者はこの1年で大きく成長したと思います。この1年で意識してきたことを次年度はより高いレベルで実現できるようにしてほしいと思います。

1年生の社会科は合衆国の工業の発展についての学習でした。
授業者はとても熱心に教材研究をしています。今回はシリコンバレーの地図を使って導入をしました。この地図には企業の名前とロゴが所在地に書かれており、子どもたちが知っている企業がないかと問いかけ、シリコンバレーがどこにあるのかを探させます。シリコンバレー自体は地名ではありませんが、地図帳には載っているようです。子どもたちが見つけた後、シリコンバレーは地名ではないことや、ネットやITの企業が集まっていると説明しますが、子どもたちはネット、ITという言葉は知っていても何をする企業なのかは今一つわかっていません。このことはその土地でなぜその産業が盛んになったかを考える時に必要になる知識なので、しっかりと押さえておく必要がありました。
ここでシリコンバレーからいったん離れて、フローズンベルト(いまやラストベルト)で自動車産業が盛んになった理由を考えさせます。五大湖や運河から流通面のよさには気づきますが、ピッツバーグの鉄鋼産業との関連などは、知識も資料も不足していて気づけません。結局授業者が説明することになってしまいます。続いてサンベルトの化学工業の隆盛を話題にしますが、化学工業とはどういうものか、ナフサが原料として重要といったことはやはり子どもたちは知りません。考える時間をもらっても自力では何ともならず授業者の説明を待つことになってしまいます。アメリカの産業構造が変わってきている話から、最後にIT産業に話題が移り最初の問いにつながっていきますが、子どもたちは話題の変化についていけず振り回されているように見えました。
授業者はこのことに途中で気づいていたそうです。ただ、その場で修正することができなかったようです。自分で気づけているのは立派なことです。子どもの様子から状況を判断できることは授業を進めていく上でとても大切な要素です。授業者は産業(工業)が発展するための要素を理解させたい、合衆国の地域と産業の関係や産業構造の変化に気づかせたいと実にたくさんのことをねらっていました。それを一方的に教えるのでなく、子どもたちに考えさせたいという思いもとても強くありました。そのため、やりたいことがどんどん足し算になり、とても1時間の授業ではおさまらないものになってしまいました。授業づくりはここからが勝負なのです。足し算したものを引き算して、子どもたちに考えさせるのは何か、教えるのは何か、そのための課題や活動をどうするのかを整理していくのです。
この授業であれば、産業構造の変化のグラフから出発するのも一つの方法だと思います。それぞれの産業はどの地域で盛んなのかを調べる、または情報を与えて、その理由を考えさせるのです。以前の学習で産業が盛んになるための条件を学習していたのなら、その復習を行い、それをもとに原料、流通・・・と項目を表にして、それぞれの地域がその条件を満たしているのか確認するのです。過去に学習していないのなら、この時間はその要素に気づかせることに特化してもよいでしょう。「IT産業はよくわからない。どうも自動車や化学工業とは違う要素が影響している」と気づいてくれたり、「なぜ自動車産業は衰退したのだろう」と疑問を持ってくれたりすれば成功だと思います。このあとは、もっと時間を使って子どもたちに調べたり考えさせたりしてもよいでしょうし、疑問の答を授業者が説明するのもありでしょう。合衆国の地域の大まかな地理的な特徴を理解し、産業については3年生への布石となる知識を得ることを第1目標とすれば、このような課題と流れが考えられると思います。
この流れが正解だと言っているのではありません。目標を絞った上でそれ以上は子どもたちの気づきや状況で展開を考えることをしてほしいのです。しっかりと教材研究をするとどうしても調べたことや学んだことを全部説明したくなります。自分がしゃべる量が増えてしまうのです。すべてを使うのではなく、「使えればラッキー」ぐらいに思えるとよいと思います。教材研究したことはたとえ使わなくてもムダにはなりません。引き出しが増え、対応力が上がっていきます。思い切って捨てる勇気を持つことでぐっと授業の質が上がると思います。これからの変化が楽しみです。
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