自分の課題を意識して授業に取り組んでいる(長文)

私立の中学校高等学校で授業アドバイスを行ってきました。この日の対象者は次週に行われる校内研修の授業者が中心でした。

若手の高校1年生の世界史Aの授業では、以前と比べて子どもから出た言葉を拾うことができていました。自分が説明するのではなく、発言者とやりとりしながらできるだけ子どもの言葉で授業を進めようとしているのがよくわかります。この授業者の次の課題は、「今、○○さんが言ってくれたことなるほどと思う?」と、発言者と他の子どもをつなげることです。
この先生から公開授業の指導案の相談を受けました。子どもたちが考えることを意識した授業を考えていますが、どうしてもワークシートを使った知識の整理といったことに時間が取られています。第1次産業革命がテーマの授業ですが、何を考えさせたいのかを明確にして、余分なものをそぎ落とすことが必要です。
今は第5次産業革命が進行中といわれますが、ここと結びつけることができれば歴史を学ぶ意味を子どもたちが実感してくれると思います。「革命って何?」「産業革命では何が変わったの?」とビフォア、アフターを意識させる発問や、「革命を起こす原動力は何だった?」といった、産業革命と当時の社会状況やテクノロジーの関係を問うことで、子どもたちが考えることができるのではないかと思います。
前向きに授業改善に取り組んでいる先生です。当日の授業がどのようなものになるかとても楽しみです。

若手の英語の先生には公開授業を行う学級での授業を見せていただきました。
高校3年生で進路がほぼ決まった状況なので意欲がちょっと低下しています。授業者と子どもたちの関係は悪くないのですが、友だち先生になっているような気がしました。子どもを呼ぶ時に愛称で呼ぶ時があります。その一方で名前を言わずに「○○してくれた、ありがとう」とほめることがあります。何となく緩い雰囲気が学級に流れています。授業では一人ひとりを名前できちんと呼ぶようにしてほしいと思います。
子ども同士がかかわり合うような活動を目指して授業を組み立てています。今回はグループ内で担当を分け、感情を込めて物語を朗読する活動です。この課題だと、分担をした後、個別の活動になる可能性が高くなります。授業者としてはどんな感情を込めて読めばよいのかを相談させたいのでしょうが、分担ごとに個人の考えを発表して終わってしまうような気がします。かかわり合う必然性を活動に組み込むことが必要です。分担は当日の発表の時にこちらから指定するといった方法もあります。こうすることで、全員で全文を共有する必然性が生まれると思います。発表後それぞれの担当がどのような感情を込めて読んだのかをグループの他の子どもが解説するといったやり方もあるでしょう。少なくとも友だちの考えを事前にしっかりと聞いておく必然性が生まれます。今から修正するのは難しいとは思いますが、子どもたちがかかわり合うための工夫をしてほしいと思います。

若手の中学1年生の社会科の授業は、資料を読み取る学習場面でした。
与えられた資料からわかることを子どもたちがまとめます。授業者は机間指導しながら、「○○に注目したんだ」とちょっとわざとらしく声を出します。オープンカンニングを意識しているようです。資料の西ドイツがわからないと質問する子どもがいました。授業者は自分では答えずに子どもたちに問いかけます。「ベルリンの壁が崩壊した」「一日で壁ができた」「いや一晩だ」と声が上がります。「貿易って何のこと」という質問も子どもたちに説明させます。最後に本人に「わかった?」とたずね、「輸出とか輸入のこと」と自分の言葉で答えさせました。授業者が自分がしゃべることを意識して減らそうとしていることがよくわかります。子どもとつないだり、活躍の場面を与えたりしようとしています。ただ、社会科好きの子どもばかりが活躍したり、発言者以外は他人事になったりしていることが気になります。質問に対して、「○○さんの疑問、みんなは大丈夫?」と全員の共通の疑問にして、全員にかかわらせることが必要です。全員参加を大切にしてほしいと思います。
中学1年生では、今の時期を資料の読取りの力をつける時だと意識しています。子どもたちの発表に対して、資料のどこを見たかを聞いています。根拠を明確にし、気づかなかった子どもに追体験させるのはよいことです。
どこまで力がついているのかによりますが、活動に入る前に資料を見る時のポイントを整理してから始めることも有効です。力がついてくれば、事前に整理をせずに、発表の時に何を意識したか聞くとよいでしょう。子どもたちの成長に合わせてか進め方も変えていくことが必要です。資料を読み取ることができるようになれば、資料から何が言えるか、何がわかるかといった問いかけを授業に意識的に組み込んでほしいと思います。
授業者は昨年と比べて大きな進歩が見られます。今後が楽しみです。

高校1年生の国語の授業は、漢文の書き下し文を書く場面でした。
授業者はワークシートを配り、与えられた漢文を書き下し文に直すように指示します。教科書の文を問題にしているので、教科書を見ないで取り組むように指示しました。授業者は既に書き下し文のつくり方は学習しているのでできるはずだと考えていますが、子どもたちは断片的にしか思い出せないので困っています。思い出せない子どもは、手がつかないのでムダに時間が過ぎていきます。個人で考えるように指示されましたが、友だちに聞こうとする子どもも目に付きます。子どもたちは何とか答を書きたいと思っているのです。手のつかない時間が長くなると、せっかくの子どもたちの意欲がなくなってしまいます。困った時に解決するための手段を与える必要があります。
久しぶりに取り組むのですから、作業をする前に書き下し文について知っていることを確認して思い出させる時間をつくる必要がありました。ポイントを板書するなりして、困った時の手掛かりにするとよかったしょう。
指示し忘れたことを途中で説明しますが、きちんと作業を止めて注目させることをしません。子どもからの「ひらがなはどうするの?」といった質問に対して、「前にやったよね、思い出してごらん」といったことを繰り返します。思いついた時に思いついたことをしゃべっても、子どもは問題を解くことに意識が行っているので、授業者の声に集中を乱すだけです。作業前に必要なことを整理して伝えることを意識してほしいと思います。
以前からムダにしゃべりすぎることを注意しているのですが、あまり改善されていません。本人としては意識しているつもりなのですが、なかなかできずに苦しんでいるようです。自分がしゃべることを整理して、それ以外はできるだけしゃべらないことを意識することから始めてほしいと思います。

高校1年生の数学は、「2次方程式の2つの解の一方が他の解の2倍になっている」という問題に対して、前の時間に子どもたちから出てきた3つの解き方の方針をもとに解いてみるというものでした。通常は解と係数の関係をもとに解くことを教えるのですが、子どもたちから出てきた多様な考えをもとに解いて見ることで、それぞれの考えの価値が見えてきます。これからの数学の授業に求められる力だと思います。こういった授業が見られるようになったことをとてもうれしく思います。
解と係数の関係を使った解き方で答はでていましたが、解の公式を使って一方の解を2倍して等しいとする解き方で子どもたちが迷走します。公式から出てくる2つの解のどちらを2倍するのかが論点になっていました。「小さい方を2倍すればいいが、どちらが小さいのだろうか?」という疑問から、子どもたちは「もし複素数になったら大小はない」とどんどん議論が発散していったのです。授業者はできるだけ子どもたちで解決させたいので口を出すのをじっと我慢しています。子どもたちはとてもよく考え、発言してくれるようになっていました。いろいろな教科で日ごろから子どもたちの意見で授業を進めているのでしょう。しかし、結局この時間は発散したままで終わってしまいました。
授業者は子どもたちの議論にまかせましたが、どうすればよかったのかと悩んでいました。子どもたちで考えることを意識した時に必ずと言っていいほど起きる葛藤です。どのタイミングで口を出すかは別にして、「小さい方を2倍する」という間違いを放っておくと後の議論が本質的にあまり意味のないものになってしまいますから、早めに間違いに気づかせることが必要です。「なるほど、小さい方を2倍するんだ?」と確認して気づきを促すのも一つの方法です。解と係数の関係で求めた答で確認して見るというのもあります。子どもたちの議論の流れを見通して、子どもたち自身で修正できるようにその場で働きかけることができる高い力が授業者に求められます。
この時間で扱えなかったもう一つの方法は、解を整数だと勝手に仮定して因数分解の組み合わせで考えるというものです。間違いではありますが、有限な組み合わせであることに注目するのは整数の問題を考える時に有効な手段となります。この考え方も単純に否定するのではなく、うまく活かした授業にしてほしいと思います。
困難な道ではあるが、ある意味数学の授業の王道を授業者は歩もうとしていると思います。今後がとても楽しみです。

中学2年生の数学は、証明の場面でした。
子どもたちに平行四辺形の証明の穴埋め問題を解かせます。証明の穴埋めは論理に従って考えをなぞるものです。合同な三角形が何かを穴埋めさせると、図から意味なく合同な三角形を見つけて書き込む子どももいます。証明の見通しを持たせる場面が必要です。なぜ成り立つのかを考える時の思考の流れは帰納的です。証明の記述は演繹的です。方向性が違うのです。子どもたちに問題を解く力をつけるためには、思考の流れを意識させることが大切です。見通しを持つことが必要なのです。わからなかった子どもがわかるようになる場面と言ってもいいでしょう。解き方や答を知っている子どもが活躍するのではなく、未知の問題の解き方を見つける力をつけさせる授業を目指してほしいと思います。
また、今回のワークシートは自作なのですが、循環論法になっているものがありました。三角形の合同を使って角度が等しいことを示していたのですが、その角度が等しいことを使って合同は証明していたのです。これは数学の教師として特に気を付けてほしいことです。自作をすることを否定はしませんが、きちんと吟味することを忘れないでほしいと思います。

研修の公開授業の対象者ではありませんが、英語科のベテランから自分の授業に関する相談を受けました。「グループで活動をしているとどうしてもかかわれないグループが出てきてしまう。グループの構成も学力のバランスがとれるようにし、やるべき活動は明確にしているので困るはずはないのだが、どうすればよいのか」というのです。グループ活動で授業者の目指す姿が明確だからこその質問です。課題に自身で気づけることはとてもよいことです。
力のある子どもが必ずしもリーダーシップをとるとは限りません。また、司会もローテンションしているようですが、司会を決めれば司会に頼って受け身の姿勢が強くなることもあります。特に役を決めずに自分たちの課題として捉えさせることが必要です。
先生は何をすればよいかを手順を含めて明確にしていますが、子どもたちには自分たちが何をどのようにかかわればよいのかが明確になっていません。先生からすれば、グループに課題を与えたのですから相談しながら進めなければいけないのは当たり前です。しかし、グループ活動に慣れていない子どもたちでは、どのようにグループで進めればよいのかがわかっていないこともあるのです。
解決方法としては、途中で止めて、うまくかかわれているグループにどのように進めているのか発表させて全体で共有するというのが一つです。他のグループから学ぶのです。また、先生がうまくかかわれないグループに、「○○さんの考え、みんなに聞いてもらったら?」と具体的にかかわることを促すことも有効です。
うれしいことに、質問者はこの日すぐに試してみたそうです。かかわれないグループに働きかけをしたところ、子どもたちが以前よりはかかわってくれたそうです。こうしたことの積み重ねで力がついていくのです。この調子で授業改善を進めていただけたらと思います。

今回、自分の課題を意識して授業に取り組んでいる先生の姿をたくさん見られたことが大きな収穫でした。先生方の今後の成長がとても楽しみです。
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