困っている子どもを活かす

昨日は私立の中学校高等学校で授業アドバイスを行ってきました。

高校1年生の数学は重複組み合せの授業でした。授業者は子どもたちを活躍させることを大切にしている方です。中学校の技術家庭科も受け持たれていますが、家を設計してミニチュアをつくるというように課題にもいろいろ工夫されています。
教科書はアルファベットを並べ替える問題で重複組み合せを学習しますが、これは問題のための問題です。そこで授業者は「3種類の飲料を10本買う」という状況を自分でかいた四コマ漫画で提示しました。この組み合わせは何通りあるかというのが課題です。ちょっとしたことかもしれませんが、子どもたちにはリアリティのある課題で考えさせたいという授業者の思いが伝わったと思います。
グループ活動にしましたが、まず個人で考える子どもがたくさんいます。友だちのプリントを見ながら考えたり、相談したりする子どもたちもいるのですが、見通しを持てずに活動が止まってしまいます。個人で組み合わせを書き出して自力で解けた子どももいますが、それに満足して他の子どもと関わろうとしていませんでした。
正解までたどり着けるグループが出るまで待ってから、グループごとにいくつになったかを発表させます。正解の66が数チームから出ました。授業者は66が正解だと言ってから、どうやったかをたずねます。指名された子どもは口頭で、組み合わせの図をかいたことを伝えますが、それではよくわかりません。そこで授業者が「こうやっていたね」と「Aが10だと残りは0と0で」と板書していきます。「途中で気づいた人がいた」と順番に1、2、3、・・・と増えていくことを説明し、最後は11になるので全部足して66と結論づけました。これは2年生で学習する数列の考え方であることを話して、このことに気づいたことをほめました。
授業者は活動の最初に「答ではなくどうやって考えてきたかを見たい」と思考の過程を残すように告げていました。子どもたちの考え方を大切にしようとしていたのですが、最後はすべて先生の説明になってしまいました。一般化につながる、10個並べて区切りを入れるという考えが子どもたちの中になかったので、それを説明する時間を作ろうとしたため、子どもたちで考えを共有する場面つくれなかったようです。
授業者は子どもたちから出てきそうな考えをいくつか予想して授業の構想を立てていたようですが、それらは正解のパターンでした。できた子どもが活躍する授業の流れです。そうではなく、子どもたちのつまずきを共有して全員が参加し活躍する授業を意識することが大切です。
途中でよいので、各グループが思考錯誤しているものをそのままいくつか板書してあげるとよかったと思います。「へえ、このグループはこんなことをやってみたんだ」「こんな図をかいているグループもいるね」と紹介すると、友だちの考えをもとに子どもたち自身で見通しをもつことができたと思います。
正解の解説を聞いても受け身で結論を教えられるだけです。途中からでもいいので、自分の力で解決する経験をさせることが大切です。一度活動を始めたら時間が来るまで続けるのではなく、途中で立ち止まって、困っている子どもと見通しを持てた子どもをつなぐとよいでしょう。
授業を組み立てる視点を困っている子どもに広げることで、授業は大きく進化すると思います。授業者のこれからが楽しみです。

高校2年生の生物の時間はDNAと蛋白質の話でした。
子どもを順番に指名して教科書を読ませますが、だれが読んでいるのかわからないくらい声が小さいことが気になります。授業者も「声を大きくして」と毎回注意をしますが、一向に変わりません。授業者は自信がないので声が大きくならないと思っているようですが、どうもそのようには見えません。教科書を見れば書いてあることですから、わざわざ友だちの音読を聞く必要はありません。そのことをよくわかっているので読むことに価値を感じていないのです。授業者は質問に正解した子どもをほめることはありますが、基本的に受容したり、発言を価値付けしたりしません。子どもとの関係がうまく構築されていないように感じます。また、授業者の一方的な知識や結果の説明で授業が進んで行くので、子どもたちが疑問を持ったり、考えたいと思ったりする場面がありません。「考えて」と声をかけても、知識を問うことばかりなので、知っていないと答えられません。子どもたちは積極的に参加しようとは思わないので、顔も上がらないのです。
授業者は生物が大好きだと話してくれました。教師としてとても大切なことです。子どもたちに生物に興味を持ってもらいたいと、鎌状赤血球とマラリアの関係の話に加えて、蚊に血を吸われるとなぜかゆいかといったトリビアを話しします。たしかに子どもたちは、少しは興味を持って聞いてくれるのですが、それと授業の内容がつながりません。本質的な内容で子どもたちが食いついてくれることを目指してほしいと思います。
授業者に、まず子どもたちが顔を上げて話を聞いてくれることを目指してほしいと伝えました。授業者は話の最後に「子ども目線で授業をする」と言ってくれました。素晴らしい気づきです。子ども目線で授業を見なおせば大きく進歩するはずです。授業者の「生物大好き」が子どもによい形で伝わってくれることを願っています。
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