何を焦点化すれば考えが深まるのか

ずいぶん間が空きましたが、前回の日記の続きです。

9年生(中学校3年生)の道徳は、下級生からのバレンタインデーのプレゼントを、好意を持っている女生徒の目を気にして受け取らなかったという読み物をもとにした授業でした。

明るい雰囲気の教室です。コの字の隊形で、範読しながら子どもたちに主人公の行動の裏にある気持ちを問いかけます。子どもたちはよく反応し、笑い声もよく起こります。主人公の気持ちにしっかりと入り込んでいました。また、話の内容にテンションが上がっても、授業者が話の続きを読み始めるとすぐに集中します。よい授業規律がつくられています。

授業者は下級生からプレゼント受け取ってくださいと言われたところで、「あなたなら受け取りますか」と質問しました。授業者は、主人公が好意を寄せている女生徒が見ているかもしれないという記述の手前で話を止めています。あえてここで止めたのはこのことを使ってこの後子どもたちを揺さぶるためでしょう。どう進めるのか楽しみです。

ワークシートで作業をさせた後、自分の考えが「受け取る」「受け取らない」のどちらかを黒板の数直線上に貼らせます。一人を除いて全員が「受け取る」です。受け取らないという子どもの考えを黒板に書きます。「自分には好きな人がいるのに受け取れない」という考えです。続いて他の子どもの考えを聞きます。「相手に悪い」と相手の気持ちを思いやる意見に続いて、「受け取るのはいいけどつき合うのは困る」という考えが出てきます。それに対して「つき合いだしてから好きになれるかもしれない」という意見も出てきます。授業者はどの意見に対しても「なるほど」としっかりと受容するので子どもたちは安心して意見を発表してくれます。
ここで授業者は、好意を寄せている女生徒が見ているかもしれないと揺さぶります。それでも「受け取る」か、まわりと相談させます。子どもたちはすぐに食いついて話し始めました。ここで揺さぶるのであれば、それまでの意見を「相手のことを思って」受け取るということと、「自分の気持ちを優先して」つき合うつもりはないという2つの視点に焦点化しておくと、この後、考えが変わったのはどの視点が影響したのかを考えやすかったかもしれません。

子どもたちは、積極的に話し合っていました。揺さぶりはうまく機能したようです。意見が変わった人に貼り変えるように指示します。貼り変えたのは数人です。授業者は「本当に受け取る?見られているかもしれないんだよ」「もし、本当に見ていたら?」と揺さぶりますが、子どもたちはほとんど動きません。
続いて、「受け取る」「受け取らない」のいずれにしても、まわりの人の意見を見てもよいから、相手にどんな言葉をかけるかを書くように指示します。一通り書いた後、席を立って友だちの掻いたものを見にいかせます。その時、「なるほど」「これはいい」と思ったものがあれば、メモするように指示しました。子どもたちは、友だちの言葉に対していろいろとつぶやきながら移動します。思ったことを気軽に話せるよい関係に見えます。見終わった後、それぞれが書いたものを黒板に貼ります。

「(プレゼントを)受け取る」から、「気持ちだけ受け取る」に変わった子どもにその理由を聞きます。相手のことを考えて誤解しないようにと考えたからです。続いて「何チョコのつもりで渡しているの?」と聞き返す言葉を取り上げます。相手の返答で対応が変わるということのようです。授業者は前に出させて、自分が相手役になりロールプレイを行います。「義理チョコです」と答えて、対応を迫ります。しかし、チョコだけでなく手編みのセーターも一緒だったことを考えると、すぐに「大好きなので受け取ってください」と迫ってもよかったと思います。とはいえ、ここでロールプレイをして子どもに考えるように迫ったのはとてもよかったと思います。
今度は、「チョコが好きだから、うれしい」「ありがとう」という言葉を取り上げます。今度は、「誤解されたらどうしよう」と迫ります。ロールプレイで「ありがとう」に言葉に対して「やった」というアクションします。そこで、相手が純粋に心から喜んでいるけれど、どうすると迫りました。いろいろと揺さぶることで、考えを深めようとしていました。
ここでちょっと攻め方を変えて、友だちの書いたものでよかったと思ったものを聞きます。「ありがとう。でも、もし受け取ったらつき合うみたいなことになるならいらないよ」という言葉が取り上げられました。選んだ理由は、「もし付き合うことになるなら受け取らないというのは相手のことを考えているから」というものです。相手のことを考えていると言いながら、判断を相手に委ねるというちょっとずるい考えにも見えます。「はっきりとつき合う気はない」というのとどう違うのかと迫りたいところです。この他にも、「別に好きだから受け取るわけではない」という言葉も取り上げられます。全体的に、「受け取る」という子どもたちは自分を守るような言葉が多いことが気になりました。真正面から相手の気持ちを受け止めて言葉を返す子どもは少ないのです。
子どもたち個々の言葉を取り上げて、切り返していきますが、子どもたちの考えはなかなか深まらずに終わってしまいました。

授業者は、子どもたちを揺さぶることや、より深く考えさせるためにロールプレイをするなど、ずいぶんと工夫をしていました。しかし、子どもたちの考えに「相手のことを思う」「自分の気持ち(都合)を優先する」という2つの視点があることが整理されていませんでした。そのため、どうしても個の考えに対する切り返しになって、共通の課題として全体で考えられませんでした。2つの視点に焦点化して、「相手のために」と言っても、自分を守ることになっている言葉もあることに気づかせたいところでした。
その言葉を言った後、相手はどんな行動をとるか、どうなるかを問うとよかったかもしれません。相手のことを思った言葉がどのような結果をもたらすのかを想像させるのです。そうすることで、自分の考えが本当に相手のことを思ったことになるのか深く考えることができと思います。

授業者は、よく教材研究をして授業に臨んでいました。よい学級も作れています。子どもたちは、よく反応し考えてくれました。どう揺さぶるかももずいぶん考えていたようです。だからこそ、具体的にどこに切り込むと気づけるのか、何を焦点化すれば深まるのかを考えさせられるのかが課題として明確になった授業でした。
いつも前向きに授業改善に取り組む先生です。今後の成長がますます楽しみになりました。
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