インパクトのある道徳教材で考えを深めるのは難しい

前回の日記の続きです。

8年生(中学2年生)の道徳の授業は、家族をテーマにしたものでした。
使用した読み物教材は、母親の顔の醜い火傷の後を嫌っていた主人公が、その火傷が自分を火事から守るために負い、主人公の負担にならないように家族がそのことを秘密にしていたのだと知り、母親の愛情を知るというものです。

授業者は、休み時間にちょっと気になる様子の子どもに笑顔で声をかけます。また、その様子を見ていた友だちが笑顔で声をかけていました。よい人間関係があります。子どもたちは全体的にちょっとテンションが高く子どもっぽいように見えましたが、時間がくるとすぐに自主的に席に着き、静かになりました。よい規律ができているようです。

最初に家族についてどんなイメージがあるかを問いかけます。漠然としたものですから、「大切」「かけがいがない」「いないと生活できない」といった表面的な言葉が続きます。授業者はそれを軽く受容して、すぐにこの日の教材のタイトル「美しい母の顔」を板書して資料を読み始めました。机の上には何も置かずに、聞くことに集中させます。
余計なことを言わずにすぐに教材に入ったのはよい進め方だと思います。子どもの発言を下手に切り返すと「今日の道徳はこういうことを言ってほしいんだな」と子どもたちが、授業者の意図を読んで発言してしまいます。

途中で話を止めて「顔がただれているのはどうしてだと思う?」と問いかけます。子どもたちを飽きさせずに集中させる方法の一つですが、その後しばらくは問いかけることなく読み続けました。時々顔を上げながら机の間を歩きますが、歩くことにあまり意味はありません。子どもたちは集中して聞いているので、前に立って一人ひとりの反応を見ることを意識する方がよいでしょう。
母親が忘れ物を学校に届けてくれた時に、主人公が冷たい態度をとったところで話を止めました。一問一答で内容を確認しますが、それよりも授業者が説明しながら、登場人物の気持ちを子どもたち自身の気持ちと重ねることを意識するとよいでしょう。主人公の気持ちに重ねるのであれば、「見られたら恥ずかしいんだよね」「届けてくれて助かったことよりも、その方が嫌なんだね」「みんなはこの人のことどう思う」「気持ちわかる?」といった言葉をかけてもよかったでしょう。

主人公が顔を真っ赤にして怒鳴りつけた気持ちを問いかけ、ワークシートに書かせます。授業はこの後真実を知って主人公が泣いている時の気持ちを問うのですが、ワークシートにはこの発問も、最後のこの後どう生きていくと思いますかという発問も書かれています。子どもたちは先が見えるので、それに沿って思考をしてしまいます。ワークシートを使うのであれば、問いは書かない方がよいでしょう。

ある程度時間をかけてから子どもたちの意見を聞きますが、「恥ずかしい」「二度ときてほしくない」「学校に来てほしくない」といった言葉が続きます。授業者はそれをしっかりと受容しますが、ここは子どもたちの意見をもとに深めるような場面ではありません。ここは時間をかけずに、次々指名して主なものを板書に残しておけば十分だと思います。子どもたちを主人公の気持ちに寄り添わせたいのであれば、「あなたたちは、どう思う?やっぱり怒鳴る?」「主人公のことどう思う?」といった問いかけをしてもよいでしょう。
続いて母親の火傷の理由を父親から聞いて、主人公が母親の膝の上で泣きじゃくるところまでを読んで、内容の確認をします。いくつの時に、どんな状況でといったことをここで押さえることは、さほど重要ではありません。子どもたちは真剣に聞いていたので、すぐに本題に入ってよいと思います。

授業者は泣きじゃくるという言葉に注目して、「泣きじゃくるって、どんなかんじ?」「やってみて」と促しますが、子どもたちはすぐには動きません。「泣きじゃくったことある?」「どんな時に?」と重ねて問いかけても言葉がなかなか出てきません。「そんなにないよね。どういう時に泣きじゃくるの?」と主人公に感情移入させようとした後、主人公の気持ちを想像してワークシートに書かせました。かなりの時間をかけますが、子どもたちからは、「命を守ってくれてありがとう」「ひどいことを言ってきて恥ずかしい」といった言葉が続きます。この話の内容であれば、どうしても同じような言葉に収束してしまうのです。
一通り意見を聞いた後、なぜ母親が事実を隠していたのかを問いかけます。子どもから「ショックを受けるから」という言葉が出てくると、同じように思うかを全体に確認して、結論づけます。ここで醜いと思っていた母の顔を美しいと思うようになった主人公は、どのように変わったのか、何に気づいたのかと問いかけ、主人公はこの後どう生きていくかを書かせます。
自分の考えを書かせた後、グループで聞き合いますが、深まる様子がありません。
発表をさせますが、「これからお母さんに尽くそう」とか「二度とひどいことを言わない」といった、どこか他人事の発言が続きます。「主人公は……」と主人公を主語にしたので、どうしても他人事になってしまうのです。
最後に感想を書かせますが、深まりのないまま終わることになりました。ここまでの活動で子どもたちに考えさせ、それを深めようとしていましたが、資料を読んですぐに感想を書かせてもあまり変わらなかったように思います。

どう展開すれば、子どもたちの心をより耕すことができるのでしょうか。家族の愛情をテーマにするのであれば、主人公ではなく母親の気持ちに寄り添って授業を進めても面白いかもしれません。娘に冷たい言葉を掛けられてもニコニコしている母親の気持ちを、「どうして、ニコニコできるの?」「普通、怒らない?」と揺さぶり想像させます。主人公が母親の火傷の真相を知るところまで読み進めた後に、冷たい仕打ちをされた時の母親の気持ちをもう一度質問し、この母親をどう思うかを問いかけ、子どもたちの考えの変化を対比することから、考えを深めさせるのです。
反抗期に入る時期ですから、ちょっとねらいを変えて、親とのかかわり方といったことを考えさせてもよいかもしれません。母親の気持ちを問いかけた後に、母親ではなく主人公のことをどう思うかを共有させます。「知らなかったから仕方がない」「そもそも母親をひどく言うのはおかしい」といった言葉を引き出し、「あなたならどう?」と最後に問いかけて自分のことを振り返らせるのです。

インパクトの強い教材だったので、同じような意見や反応になってしまい、多様な意見が出づらく、子どもの考えを深めることが難しかったように思いました。子どもたちと授業者の関係がよいだけに、そのことがよく見えたように思います。ビフォア・アフターを対比させたり、気持ちを考える登場人物を変えて異なった立場からみたりすることが一つの方法かもしれません。私もこの授業から多くのことを学ぶことができました。ありがとうございます。

この続きは次回の日記で。
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