何を考えさせたいのかをはっきりさせる

夏休みに開かれた、市の少経験者研修でのことです。

この研修は、2、3年目の先生を対象に行われるものです。道徳の授業づくりがテーマです。午前中に3つのグループごとに代表が行う模擬授業の指導案を検討し、午後に互いに模擬授業を見合って検討するというものです。

小学校の低・中学年のグループの模擬授業は、雨上がりの公園のベンチに泥のついた靴のままで登って紙飛行機で遊んだ子どもが、後から来てそのベンチに座った小さな女の子の服が泥に汚れたのを見てはっとするという内容の資料をもとにしたものです。
授業者は資料を配って、範読をします。落ち着いて読み上げるのですが、特にその時の子どもの気持ちを強調したりはしません。道徳では、子どもが主人公や登場人物の気持ちと同化することが大切です。範読しながら、「紙飛行機は高いところからの方がよく飛ぶもんねえ」「よく飛んだら楽しいよね」といった言葉を足したり、話しかけたりするとよいでしょう。読み終ると登場人物の絵を黒板に貼って内容の確認を行います。「この男の子誰だったか?」と問いかけます。子ども役は資料を見て確認します。子ども役になりきっていたのかもしれませんが、漫然と聞いていてもなかなか記憶には残りません。資料が手元にあることで安心して聞き流しやすくなるので、資料を渡さず、教師が範読しながら都度内容を確認していくとよいと思います。

授業者は子ども役が答えるたびにあらかじめ用意した紙を貼っていきます。あらかじめ紙を用意してあるというのは、答が決まっている、教師が知っているということです。この場面は明らかに正解があるので違和感はないかもしれませんが、教師の求める正解探しを刷り込んでいくことにつながる可能性があります。他の子どもたちにも確認をしてから、手書きで板書するとよいでしょう。
子どもに対して紙飛行機を飛ばした経験などを聞いて、絵を見せながら楽しそうだねと話の内容を子どもたちに引き寄せようとしますが、先ほど述べたように範読と同時に行った方が話に入り込ませやすいと思います。
主人公の2人がはっとした絵を見せて、「なんではっとしたの?」と問いかけます。子ども役はまわりの子どもとつぶやきますが、授業者はその様子を見ています。隣同士で相談させるのか、つぶやきを拾って広げるのかはっきりさせたいところでした。

しばらくしてから、挙手に頼らず指名します。「汚しちゃったから、困った人がいるんだなあと気づいた」という答に対して、他の子どもに「○○さん、誰が困ったの?」と聞きます。他の子どもにつなぐのはよいのですが、指名する前に全体に対して問いかけて、全員の課題にしておく必要があります。自分が指名されないと他人事だと思ってしまうからです。
「女の子」という答にたいして、何で困ったのと問い返しますが、これは内容の把握です。「泥がついた」「お尻に泥がついたらどんな気持ちになる」とやりとりが続きますが、この授業で何を子どもに考えさせるのかがずれているように思います。主人公たちがした行為がよいか悪いかではなく、「泥がついた靴で乗ったらあとから来た人が困ることはわかるよね。どうして、やっちゃったのかな?」と、このようなことにならないためにどうすればよいかを考えさせる必要があります。そのためには、主人公たちは悪気がなかったにもかかわらず、他の人の迷惑になる行動をしてしまったことを早く押さえなければなりません。この授業では、「後の人のことを考える」「ベンチは座るところだから乗ってはいけない」といったところに論点が行ってしまいましたが、「悪気がないのに他の人に迷惑を掛けてしまうことがないようにするためには、どうすればよいのか?」を問いかけて、子どもたちなりの言葉から、自分の行為の結果を想像することが大切であることを共有するとよかったと思います。

子ども役の言葉を受容して、つなげようとしていましたが、何をつなげる、どこを深めるかがはっきりしていなかったのが残念でした。道徳では「何がいけないことか」いう善悪だけでなく、「そういったことをしてしまわないために何が必要なのか」を考えさせることが大切です。このことを意識していただくようにアドバイスしました、

この続きは次回の日記で。
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