工夫のある提案授業を観る

先週、私立の中学校高等学校の研修に参加しました。5人の先生の提案授業のいずれかを参観して個別に検討会を行い、最後に全体で集まって報告会を開くという形式です。
私はすべての授業を参観させていただきましたが、同時に行われたので、じっくりとは見ることはできませんでした。どれも1時間を通して参観したいと思わせるものだっただけに残念でした。

高校1年生の英語は、前置詞の”root sense”から言葉の意味を理解することを意識した授業でした。
最初に映画「トイストーリー」の主題歌” You've Got A Friend In Me”を、歌詞が書かれたワークシートを見ながら聞かせます。この歌は、” You've got a friend in me,”が何度も繰り返されるのですが、ワークシートは”in”のところが空欄になっています。そこに何が入るのかを聞き取らせるのです。子どもたちは集中していますが、歌なのでなかなか聞き取れません。何度か聞かせた後に、前置詞が入ると言って家の形をした穴の開いた段ボールにボールが入った小道具を見せます。再度聞かせた後、問いかけますがなかなか手が挙がりませんでした。小道具を見れば”in”と想像がつくのでしょうが、聞き取れていないので自信を持てなかったのだと思います。やっと一人が手を挙げて”in”と答えてくれました。すぐに授業者は”That’s right.”と言って、この”in” の意味を子どもたちに問いかけました。
しばし考えさせた後、たくさんの意味があると英和辞典を読み上げます。”root sense”をきちんと押さえておけばそこから理解できるという授業のねらいへの布石のようでが、この場面はあくまでも導入です。聞き取りに時間をかける必要はあまりありません。まわりと相談させて候補を絞ってから聞かせれば、もっと早く”in”が聞き取れたと思います。ヒントを出すならばもっと早く出せばよいでしょう。また、”in”が子どもから出てきた時に、「本当?そう歌ってる?」と他の子どもに問いかけてからもう一度聞かせ、自分の耳で確認させたいところでした。だれか一人が正解を言うとすぐに授業者が説明することを繰り返していると、わからない子どもは答を知るだけで自分の力でできるようにはなりません。このことを意識してほしいと思います。
続いて、空間的な意味を持つ前置詞”on/off/in/at/to/up/down/over/through”が表す状況をイラストで示したワークシートを配り、イラストと前置詞を対応させます。時間の関係でここまでしか観られませんでしたが、この後、いくつかの写真とその状況を描写する英文が書かれたワークシートで学習を進めたようです。空欄になっている前置詞を埋めるのが課題です。描写は”fall down”、”fly over”などの動きを伴うものです。静止画ではわかりにくいのですが、子どもたちのグループに与えたタブレットで指定されたURLをクリックするとその動画が再生され、英文を読み上げてくれるようになっていました。既存のWEBサイトを上手く活用しています。
最期の課題は、最初の導入場面と同じように歌の歌詞をもとにしたものだったようです。Eaglesの”Take it easy”の歌詞と訳を与えますが、その内の”Well, I’m running ( ) the road”と”I’ve got seven women ( ) my mind”の2文の前置詞は空欄になっています。1つ目の文は「ああ 俺は道を駆け下りている」という訳がありますが、2つ目は訳もありません。作詞家になったつもりでこの空欄を埋めるのが課題です。2つ目の文は、導入の” You've got a friend in me,”と似た文ですが、実は”Take it easy”の方は”I’ve got seven women on my mind”と”in”ではなく”on”を使っています。この違いを”root sense”をもとに考えさせようというのです。7人の女性の紙人形を心と書いた箱の上、箱の中に置いて見せたりといった工夫もあります。子どもたちにこの違いを意識させて訳をさせました。英語を機械的に日本語に訳すのではなく、その言葉を理解しようとする姿勢を子どもたちに育てるよい授業だと思いました。
毎時間これだけの準備ができるかどうかは難しいところもありますが、授業者の授業観がよく伝わる提案授業でした。

高校1年生の現代社会の授業は、「君たちは大人かどうか?」と問いかけて、青年期の概念や課題を学ぶものでした。
子どもたちに自分は大人だと思うか、子どもか、それとも何とも言えないかを選ばせて、その理由を問いかけます。
授業者は。子どもたちの発表をとてもよい表情で受け止めます。「なるほど」としっかり受容しますが、すぐにその意見を板書して説明を付け加えます。そのため、発言者も聞いている子どもたちも、授業者の方を見ています。板書をすぐに写す子どもも目につきます。子どもたちは意欲的なのですが、発表の場で子ども同士がつながりません。友だちの意見を聞いてどう思うか、納得するかといったことを問いかけて、授業者の板書ではなく、子どもたちから出てきた言葉で考えを共有することを意識するとよいでしょう。
「自分が大人かどうか決めるのか、まわりが決めるのか、ちょっと揺れ動いているところがあります」と言ってからペアをつくらせます。この教室では机が離れているのですが、机をまずぴったりとつけさせました。ペアの距離を適切にするよい指示です。「大人と子どもの境界線って何ですか」と問いかけ、「こうなったら大人」というものは何かを考えさせました。
日ごろから、ペアやグループでの活動をしているのでしょう。子どもたちの動きはスムーズです。同性、異性のペアかどうかにかかわらず、よく話し合っていました。子どもたちの表情がとてもよいことが印象的です。授業者はこの間、笑顔で机間指導をしていますが、どうしても子どもたちの話に口をはさんでしまいます。よい意見や、面白い意見であれば、できるだけ全体の場で取り上げて共有するようにしたいところです。
子どもたちは、時間が来るまでずっと話し合ったり、考えを書き留めたりしていましたが、授業者が話し始めると、ほとんどがすぐに話をやめ手を止めます。授業規律もしっかりしています。全体で子どもたちの意見を聞きますが、ここでも先ほどと同じように板書を写す子どもが目立ちました。
子どもたちは意欲的に取り組むのですが、「次は○○について考えてみましょう」と常に授業者から課題が出されます。簡単なことではありませんが、子ども自身で課題を見つけたり、子どもの意見を焦点化しながらそこから課題を設定したりすることを目指してほしいと思います。
基本となることがしっかりできるようになっているので、次の課題が明確になったように思います。これからどのように授業が変化していくのか楽しみです。

この続きは次回の日記で。
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30