答や結果ではなく過程を共有する

私立の中学校高等学校で授業アドバイスを行ってきました。
この日は来月に行われる授業研究で授業を公開する先生方に授業アドバイスを行いました。

1年生の現代社会の授業は、為替に関する課題をグループで考える授業でした。
最初に簡単な復習をします。為替とは何かを問いかけ、挙手に頼らず指名しました。指名された子どもは、「円とドルの交換」と対米ドルでの為替を答えました。授業者はこの答を受容してそのまま次の問いに移りましたが、ここは他の子どもにつなぐなり、「円とドル?」と返すなりして、もう少し為替について正確な説明を全体で共有することが必要です。
「どんな時に円高になる?」とい問いかけて、列指名で答えさせます。子どもが答を考える間、笑顔で待つことができますが、発言すると復唱してすぐに板書をして次の問いに移ります。子どもたちは「需要が上がった時」というように事象で答えますが、授業者はそれに対して、「何の需要が上がった時?」「需要が上がるとどうして円高?」と問い返すことはしませんでした。数人の答を聞いた後に授業者が解説しましたが、ちょっと問い返したり、他の子どもにつないだりすれば、子どもたちの発言だけで説明ができると思います。
一部の子どもは教科書を見たり、ノートで確認をしたりしていましたが、そういった行動を評価してほしいところです。一方、多くの子どもは自分が指名されていないので他人事で、発言を聞いていません。授業者が板書すると、以前に学習した内容であるにもかかわらず写します。こういった一問一答で進むと、「こういう時に円高になる」と結果や結論だけを覚える子どもに育ってしまいます。こういった場面では、為替の仕組みをもとに、根拠を論理的・合理的に考えさせたいところです。

グループの隊形にしてからこの日の課題を提示し、くじ引きで用意した2つの課題のどちらかを割り振ります。一つは、円高、円安の時、輸出と輸入、海外旅行が有利になるか不利なるかの表を与え、空欄になっている海外旅行の欄を埋めたのち、それぞれの理由を説明するというものです。もう一つは、国内旅行より海外旅行の方が贅沢できる場合について、国の名前を挙げて、どのくらい贅沢できるか具体的な数字を使って説明するというものです。中学生にもわかるように、言葉だけの説明ではなく図などを上手く使うようにと条件を付けました。こういう条件を付けることで子どもたちの発表や表現の質を上げることができます。多くのグループが、図や表で表現しようとしていました。
時間を区切って個人で考えてから相談するグループ、作業を分担して進めているグループ、用意されたiPadを囲んで考えているグループと進め方はいろいろです。何をどのようにして調べているかといったことも含めて、この課題解決のアプローチを共有する場面を持ちたいところでした。とはいえ、グループによって課題が異なるので実際にはやりにくかったかもしれません。

授業者が課題を2種類用意したのは、1つ目の課題の円高と海外旅行の関係の発表と、2つ目の課題の発表を関連づけることで、為替と物価の関係に気づかせたいという意図があったからのようです。子どもたちは自分の課題のことしか考えませんから、発表の場面まで2つの課題は結びつきません。1つ目の課題はそれほど難しいものではないので、先に全体で考えて確認し、2つ目の課題を共通にして取り組ませてもよかったかもしれません。そうすることで、色々なことを共有しやすくなったと思います。
また、新しい学習指導要領では課題を見つける力が重視されています。こちらから課題を与えるだけでなく、子どもたち自身に疑問を持たせるような場面をつくることも考えてほしいと思います。今回の内容であれば、海外旅行をテーマにして、実際の為替の動きを対米ドルと現地通貨で与え、いつ旅行に行くとよさそうか(目的も買い物、観光等いくつかあるとよいかもしれない)を取り敢えず考えさせます。その時の実際の現地の物価がどうなのかを調べさせる(与える)と、子どもたちは予想と違うことに気づき疑問を持つと思います。それぞれの疑問を整理し、子どもたちに解決させるという進め方も面白いかもしれません。

子どもたちはこういったグループでの学習に慣れているようです。授業者も笑顔で机間指導しながら、子どもたちにポジティブな声かけをしています。子どもたちが安心してグループの活動に取り組んでいました。
男子1人と女子3人のグループでのことです。活動の最初から男子の表情がかたく孤立していました。しかし、授業者は机間指導を優先して、この男子と女子をつなごうとしませんでした。女子3人がかかわることができていたので、このグループの問題に気づかなかったのでしょう。全体的に上手く活動できているからこそ、学級全体の様子を観察して、こういった対応の必要なグループに気づくことが大切になります。

この時間では発表に至りませんでしたが、中間発表でもよいので出力させる場面がほしいところでした。グループによって進捗状況は異なります。途中で足場をそろえるためにも課題解決のアプローチを共有することを意識してほしいと思います。

授業者は以前と比べて笑顔も増え、子どもたちとの関係もよくなってきています。グループ活動も上手く取り入れているようです。結論や結果ではなく、過程の共有を意識することが次の課題だと思います。素直に授業改善に取り組んでいるので、どう変化するか、公開授業が楽しみです。

この続きは次回の日記で。
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