"situation"をもとに考えさせる英語

1学期に訪問した中学校の授業研究でのことです。

3年生の英語の授業で、TTでの現在完了の学習場面でした。
最初に授業者2人で簡単な”skit”を見せます。子どもたちは集中して聞こうとする姿勢を見せていました。内容は、”Have you finished your homework yet?”と聞き、”No, I have not.”と答える。しばらく時間が経った後、同じように聞かれて、今度は”Yes, I have just finished my homework.”と言うものです。
続いて、山に人が登る場面を紙の人形を使ってT1が見せます。”She is climbing the mountain.”と何度も言いながら紙人形に山を登らせます。山の頂に上った時、”She has just climbed the mountain.”と言いました。子どもたちは集中して聞いています。授業者と同時に”just has”を口にしている子どももいました。その反面、よくわからないという顔をしている子どもたちもたくさんいます。授業者は子どもたちをよく見て授業を進めています。その様子に気づいて、再び同じことを繰り返しましたが、子どもたちはよくわからないという顔のままでした。現在完了の基本的な形と訳は前時までに教えていたようですが、現在完了形と単純な過去形との違いを理解するのは子どもたちにとっては難しいことです。例えば、日本語では”I have seen the movie.”も”I saw the movie.”も、「映画を見た」と表現し、意識しなければ区別しません。このような違いを子どもたちにわからせようという、難しい場面でした。

日本語を使わずに、”situation”をもとに教えようとする授業では、このように子どもたちがわからないという表情をする場面によく出会います。”All English”で教えることがこれからは求められますが、こういう場面が多くなると思います。この状態は決して悪いことではありません。子どもたちが理解しようとしているからです。この後の学習で「ああ、そういうことか」とわかる場面があればよいのです。1時間の学習の中で一人ひとりがわかるようになる瞬間をどこかでつくることが大切になります。

今日はこのことを学習すると言って、プリントを配りました。
“I have just finished my homework.”はどんな意味ですかと子どもたちに問いかけます。子どもたちは「私はちょうど宿題を終わったところです」と訳します。同様に”She has just climbed the mountain.”の意味も問いかけて答えさせます。しかし、これらは単なる日本語訳です。”She climbed the mountain.”とどう違うのかはこの日本語だけではよくわかりせん。そのため、子どもたちは口を開いて訳は言えますが、よくわからないという表情を見せるのです。
こういったことを学習するためには、”contrast”が大切になります。時制的に教えるのに、進行形との”contrast”も意味はあるのですが、日本語訳を使ってしまうと混乱するのは「終わったところです」と言っても「終わった」という過去形とどう違うかがよくわからないことです。意図的に”just”という直後を表わす言葉を使っているので、まだ何となく理解できますが、”just”が無い現在完了形と過去形の違いは分かりにくいのです。ここでは、過去形との”contrast”の方が理解するには適切なように思いました。例えば、” Have you seen the movie?” ”Yes, I have.” “When did you see?” “I saw it last night.”といった”situation”です。

授業者はプリントに書かれている説明を読み上げます。「have+過去分詞は、今やり終わったところだという完了の意味を表します。……」と日本語で説明しますが、子どもたちは完了と言われてもよくわからないと思います。日本語では、日常的に完了を意識することはあまりないからです。日本語で説明するのであれば、”have”を意識した説明をするべきでしょう。過去分詞で表わされる状態になっている(身につけている)ということですが、だから”have seen the movie”であれば、映画を見たことを持っている、つまり経験があるということを意味するのです。”I have seen the movie.”ならば、”So, I know the story.”となるわけです。現在完了の意味する「○○した状態になっている」ことは、「終わった」という「完了」、「やったことがある」という「経験」、「その状態がまだある」という「継続」や「結果」を表すと分類することができますが、本質的には同じことなのです。
「完了用法」に線を引かせ、続いて「経験用法」というように日本語で説明しました。”situation” も意識しているのですが、それを使って考えさせることを徹底できず、子どもたち自身に気づかせるところまで行かなかったのが残念でした。”situation”と”contrast”を使って、どう違うのかを子どもたちにもう少し考えさせてほしかったと思います。

完了用法でよく使われる、”just”や”already”の文における位置の説明をした後、例文での音読をします。この音読は何が目標なのでしょうか。子どもたちは英文を見て読み上げます。この後、暗唱させるのですが、”situation”を意識して、自分で言葉を紡ぎ出すことで、言語として獲得させることが大切だと思います。最初に”skit”を見せましたが、こういう”situation”を与えて、それを英語で表現するという練習をもっとたくさん組み込むとよいでしょう。

次々に相手をローテンションしながら、プリントの例文をペアで練習します。一方が例文を読んで、それを相手が繰り返します。子どもたちは男女の別なく楽しそうに参加しますが、どうしてもテンションが上がりやすくなります。暗唱するための前段階なのですが、言ったことをそのまま繰り返せばよいので、単純な作業になりやすいからです。また、発音は互いにチェックしていないので、かなり乱暴な発音も見受けられます。
早く終わっている子どもが例文を覚えようとしているのを、授業者はきちんとほめています。こういうことがよい授業規律につながっています。
続いて全体でもう一度読んで、発音の修正も行いました。この後、授業者が日本語訳を言って、子どもがその例文を答えるという活動を行います。プリントは左右で日本語と英語が分かれているので、子どもたちは英語の面を見て答えます。言葉を発するのではなく、正解を選んで読んでいるのです。続いて、ペアで同様の活動を行いました。覚えることが中心になっていますが、”situation”を表すものを見せてそれを英語で表現するといった、話すことを意識した活動を取り入れても面白いと思います。また、例文は完了と経験が混ざっていましたが、この2つの区別を意識させたいのであれば、同じ動詞で、その違いがわかるような例で練習をした方がよいと思います。

黒板に絵を貼って、その絵の表わす”situation”に合う文を言わせます。主語を固定して、使う動詞は例文の中のどれかと同じものになっています。考えて英文を出力させるよい方法ですが、この練習では、現在完了で表現すべき”situation”であるかどうかは意識する必要はなく、必ず現在完了形を使う前提で、どの動詞を使うかを学習した例文の中から選んでいるだけです。過去形か現在完了のどちらを使う”situation”なのかを判断するものにしたいところでした。
子どもたちは、例文をそのまま使うのではなく、動詞を考える必要があるのでテンションは落ち着いています。一通り終わった後、授業者が絵ごとに答を言って”repeat”させました。先ほどと比べると声が大きくなります。授業者の正解をまねすればよいからです。続いて個別に指名して答えさせます。同じ絵を使って否定にすることにも挑戦させました。考えて言葉を出させることを意識していてよいのですが、一人答えてすぐ次の絵に移りました。そのため、指名されなかった子どもは他人事で前を向いたままです。集中して聞いているようには見えません。同じ絵で何人か言わせ、続いて全体で確認をさせるようにするとよいでしょう。一つひとつ自分が参加する場面があれば、他人事にはならないからです。

いろいろな”situation”の絵がかかれたワークシート配ります。表現するために必要な動詞の練習をして、その絵の”situation”を英文で表わすのが次の課題です。個別に子どもたちは作業をします。スモールステップを意識して一連の活動が組み立てられていますが、結局、最後まで、現在完了が過去形と”situation”としてどう異なるのかが明確にならなかったように思います。現在完了を静止画で理解することは難しいと思います。”contrast”がわかりやすい、時間を意識した”skit”を工夫 するとよいと思います。

授業者の工夫がいろいろな場面で感じられました。ただ、英語を話せるようになるための要素よりも、紙の試験の対応の方が強く意識されているように思います。3年生で高校入試の問題を意識しないわけにはいかないので悩ましいところですが、例文の暗唱に頼りすぎない進め方を工夫してほしいと思います。

この日見た子どもたちの様子で、特に気になったのが1年生でした。学級内の子どもたちの姿がばらばらになってきて、授業規律が乱れ始めていました。入学時は小学校でのよい学習習慣があったので、先生方が授業規律を強く意識しなくても上手くいっていたのですが、よい部分をほめて強化したり、中学生として身につけてほしいことは何かをしっかり指導しなかったりしたことが、この状態をつくったようです。リセットして、授業規律を一から確立させることが必要なことを伝えました。
2年生は子どもたちに自信をつけさせることをお願いしていたのですが、うまくいきはじめたようです。授業に向かうエネルギーが上がってきたのを感じました。このままよい方向に進んでくれること願いました。
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