授業のねらいと子どもの思考の過程を意識する(長文)

1学期に行なった小学校の授業研究でのことです。

授業は4年生で、算数の図を使って説明する発展学習の時間でした。
子どもたちが元気よく挨拶できる、活気のある学級です。挨拶の後、授業者が机の上に算数の準備ができていることをほめた上で、「この日は何もなくて大丈夫です」と言うと、子どもたちは素早く用具を片付けました。授業規律もしっかりしている学級です。授業者はいろいろな場面で子どもたちの行動をポジティブに評価していましたが、このことがその要因の一つだと思います。

この日の課題を黒板に貼り、目で読むように指示します。ほとんどの子どもが黒板を見てしっかりと読んでいました。その後、「読んでくれる人?」と声をかけますが、挙手は半分くらいです。子どもたちの様子からもっとたくさんの手が挙がると思ったのですが、ちょっと意外でした。授業者は「ありがとう」と言ってから、「声のいい○○さん」と指名します。指名された子どもは大きなはっきりした声で問題を読み上げました。それを受けて授業者は「ばっちり聞こえましたね」とほめます。子どもたちをしっかりと認め、ほめることができています。
この日の課題は、「35cmの高さの椅子の上に子どもが乗ると175cmになる時、高さ55cmの踏み台に乗ったらどれだけの高さになるのか」を考える問題です。
授業者はすぐに「いつもどおりわかっている大事な数字(正しくは数・数値?)を教えてください」と問いかけました。よく目にする進め方なのですが、私はこのような問いかけを最初にするのはよくないと思っています。問題にある数に目をつけるというのは、単なるテクニックです。そもそも大事かどうかはどうやって判断しているのでしょうか。現実の問題では、必要のない数値もあります。こういう問いかけをしていると、子どもたちは単に問題に書かれている数値を拾ってその数値を使って式を立てようとしてしまいます。中学校入試によくある、数値が具体的に示されていない問題は手がつきません(実際にこのような問題を新任の先生方に研修で解いてもらったところ、とても苦戦されたことがありました)。ここでは、まず問題文の状況を把握させることが大切です。その上で、わかっていることは何か、知りたいのは何かを押さえるのです。また、直接数値では示されませんが、椅子も踏み台も同じ子どもが乗るというのも大切な条件です。この問題解決では、図を使ってこれらのことを考えることが大きなポイントです。思考の順番が違っているのです。
考える時間がほとんどないので子どもたちはすぐに反応できません。挙手する子どもは1/3ほどです。それですぐに指名してしまうのは乱暴だと思います。子どもたちが自分の考えを持つための時間がほしいところです。指名した子どもは「35cm、175cm、55cm」と答えますが、授業者は「ありがとう」を言った後「高さ35cm、……」と言葉を足します。「高さ」を勝手に付け加えることも問題ですが、問題の状況をきちんと把握していないところで、「高さ」と言っても多くの子どもはよく理解できないと思います。
授業者は言葉を足して確認するとすぐに、「聞かれていることは何ですか?」と問いかけます。今度は挙手がもっと少なくなります。授業者が、まずこれらのことを押さえることが問題を解くために大切だと思っているのであれば、子どもたちが考えるための時間を取るべきです。授業者に確認はしませんでしたが、挙手しないだけで子どもたちはちゃんと理解していると思っていたのでしょうか。もしそうであれば、挙手に頼らず意図的に指名すべきでしょう。
指名された子どもは「何cmの高さになりますか」と答えますが、どこのことかはこれだけではわかりません。「わかった?解けそう?」と授業者が問いかけますが、子どもたちは反応しません。解けそうな子ども、困っている子どもを挙手で確認しましたが、困っている子どもは1/3以上いました。
そこで授業者は「どんな風にすると答が出るかを考えてもらいます」と言ってから、「自分の気持ちが言える人?」と問いかけました。挙手は4、5人です。どんどん発言できる子どもが減っています。授業者と反応できる子どもだけで進んで行きます。子どもたちの多くは、発表者の方を見ません。友だちの言葉を理解して考えようとはせず、後から授業者が説明するのを聞けばよいと思っているようです。子どもに発言させる意味はほとんどありません。どうやったら全員が参加できるかを考えることが必要です。
2番目に指名された子どもは、55cmから35cmを引いて、その差を175cmに足せばよいと説明します。解き方としてはほぼ完璧です。授業者は、それを聞いてわかった人と問いかけますが、挙手は半分程度です。難しかったという子どもは4、5人です。残りの子どもたちは、どういう状態なのかとても気になります。
「『難しいな』という時にどうやってやったらいいんだっけ?」と子どもたちに問いかけますが、そもそも半分の子どもたちはわかったと反応しています。彼らにとってこの問いかけは意味のあるものではありません。ここでも、挙手で指名しますが、挙手は数名です。しかも、わかったと手を挙げた子どもたちです。困っている子どもに考えさせなければ、いつも答を与えられてそれに従って活動するだけになってしまいます。
指名した子どもの「図で考える」という答を受けて、「図に表わして答を求めて説明をしよう」と今日のめあてを提示しました。子どもたちの挙手が正しければ、半分の子どもたちとっては言葉の説明を聞いて答が出せそうなのですから必然性のないめあてです。授業の展開そのものに疑問が出てきます。

子どもたちは配られたワークシートにめあてを写しますが、意欲が感じられません。多くの子どもたちがここまでの展開についてこられてないからです。「自分の考えを図にかいて考えて高さを求めます」と指示をしますが、日本語が少し変です。何をすればよいのかよくわかりません。自分の考えを図にかくとはどういうことでしょうか。問題を図で表わして、その図をもとに解き方を考えるというのが自然な流れでしょう。考えを持つために図を使うのです。授業者は解けたら、説明を考えると指示をしますが、図は考えるための道具なのか、説明のための道具なのかはっきりしません。もちろんどちらにも使えるのですが、授業者のねらいは説明するために図を使うことのように感じました。そうであれば、まずどうやって解くのかが先だと思います。しかし、先ほどの「どんな風にすると答が出るか」という問いかけの答は全員できちんと共有できていない状態です。すぐに答を求められない可能性があります。まず、図を使って考えることから始めるべきでしょう。それができれば、その図を使って説明すればよいだけです。
多くの子どもたちは見通しが持てていないために、手がつきません。授業者はすぐに気なる子どものところへ行って個別指導を始めますが、まず全体の状況をみるべきでしょう。全体の状況を把握できていれば、このまま進めてはいけないと判断できたはずです。
予定の時間になって、もう少し時間の欲しい人がいるかを確認します。たくさんの手が挙がるので2分間延長しましたが、有効なことではありません。できていないから時間がほしいだけで、延長したからといって何とかなるわけではないのです。

答が出たという子どもは、約半分ほどです。この状態で、グループで友だちがどんな図をかいたのか、どんな式を書いたのか、考え方を交流するように指示しました。子どもたちのグループ隊形になる動きが、最初の道具を片づけた時と比べてずいぶんと遅いことが気になります。この活動に対して意欲的になれていないようです。何をすればよいのかよくわからないからでしょう。
グループ隊形になったところでいったん止めて、活動の方法を、「図だけを比べてから」、「説明できる人から説明し」、「わからない人は教えてと聞き」、「聞かれたら説明をする」ようにと指示をします。図で考える、説明することがめあてであるのなら、まず図をかけるようにすることまでを何とか自力でできるようにしたいところです。図を与えられてからでは、自分でかけるようになることは難しいと思います。最初の椅子に乗ったというところだけの図を共有して、もう一つの図を自分で書かせるといったことをすべきでしょう。
図をかけていない子どもは動けません。いくつかのグループでは固まったままです。図がかけている子どもが多いグループは活発に自分の説明をし始めます。授業者は全体を見ていないので、動けていないグループに対して対応をできません。わかっている子どもが活動するだけで、時間をかける意味があまりありません。

全体で、「友だち話し合って新しい発見があった人?」と問いかけます。かなりの数の手が挙がりました。まだ困っている人も確認した後、「どんな風に考えたか教えてください」と問いかけました。挙手は1/5ほどです。ここで指名して発表させれば、またわかっている子どもだけで授業が進んでしまいます。せっかく「新しい発見があった人」がいるのですから、どんな発見かを発表させて困っている人につなぎたいところでした。
指名された子どもに、実物投影機を使って発表させます。発表を聞いていない子どもがいることが気になりました。授業者は発表者の方ばかりに注目していてそのことに気づきません。全体を見て、全員に注目させることを意識してほしいと思います。同じような図をかいている子どもを確認し、他の子どもを指名します。授業者は説明を意識していましたが、図と式と説明をきちんとつなげることが大切だと思います。「図だけを見てどんな式になったかを考える」、「図でそれぞれが問題文のどことつながっているのか、どこのことを表わしているのかを言わせる」「式の計算の結果が図のどこのことかを示させる」といったことをするとよいでしょう。
指名された子どもたちの説明は、子どもの背の高さをまず求めるものでした。2人の子どもの発表を聞いた後、授業者がこういう感じだったねとあらかじめ準備した図を黒板に貼ります。これでは、子どもたちは先生の求める答探しをするようになってしまいます。子どもたちの発表を価値付けして、それをそのまま活かすようにしてほしいと思います。

椅子と踏み台の高さの差を使って解いたと子どもに発表させます。それを聞いて理解できた子ども、よくわからなかった子どもを確認しました。わからなかったと手を挙げた子どもには「正直でよい」とほめます。よい対応なのですが、どちらにも手を挙げない子どもがたくさんいます。全員どちらなのかをはっきりさせないと自分のこととして参加しません。
ここで授業者は、今の発表者の考えを自分の言葉で説明をするように問いかけます。よい展開なのですが、指名された子どもはその場で立って説明をします。式を言葉で説明することになっていました。言葉の説明ではわかりにくいので図を使いたいのですから、前に出て図をもとに説明させることが必要です。椅子の高さと踏み台の高さの差は図のどこに現れているのかといったこと問いかけをしながら、式と図の関係をきちんと押さえることが必要です。図にどうやって表すか、図でわからないところ、知りたいところをきちんと整理することから始めなければ、図をもとに考えることはできません。そこがしっかりできていれば、そのまま解き方の説明になるのです。

結局多くの子どもたちは、わかった子ども、授業者の説明を聞くだけで、自分で図をかき、その図をもとに考え、その考えを説明する場面がありませんでした。
子どもたちの思考の順序をスモールステップで考え、どこまでをどのようにして到達させるのか、どうやって共有化するのかを考えて授業を組み立てる必要あります。この授業では、子どもたちに図を使って考えさせるのか、自分の考えを図で整理して説明させたいのかがはっきりしないまま進んでしまったことが混乱の大きな原因だと思います。前者であれば、まず問題の状況を図で表わすことをしっかりとさせる必要があります。後者であれば、どんな考え方にせよきちんと答を出させることが重要です。
授業者は子どもたちを受容することやほめることができます。発表をつなぐための基礎となる技術もあるので、子どもたちを全員参加させるために何が必要かも考えてほしいと思います。授業のねらいや子どもたちの思考の過程を明確にすることと合わせて意識すれば、大きく進歩するはずです。今後に期待したいと思います。
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