挑戦するから次の課題が見えてくる

前回の日記の続きです。

高校2年生の英語表現の授業は、フラッシュカードを活用した英作文を試みていました。
子どもたちはあらかじめ与えられた日本語の短文とその英訳を覚えます。タブレットを使ったフラッシュカードを使って練習しますが、単に日本文と英文を1対1で暗記する練習になっています。「飛行機が揺れる」という短文には”airplane turbulence”を使っていましたが、子どもたちが日本語の「揺れる」を”turbulence”だと思ってしまう危険性があります。英語では、船が揺れるは”pitch” “roll” “rock” “toss” ”yaw”などを”situation”で使い分けます。日本語では揺れの種類を意識しないので、1対1に対応しないのです。
授業者は瞬間的に言葉が出るようにしたいと思っていますが、日本語をきっかけにしていては実際にはなかなか使えるようにはなりません。”situation”に対して言葉が出るようにする必要があります。また、フラッシュカードの内容に脈絡がありません。「飛行機が揺れる」「相手の名前をうかがう」といった全く関係のない”situation”の文が混ざっています。歴史の年号を覚えたりするときの方法です。ある”situation”の中で瞬間的に必要な言葉を話せることを目指すのであれば、あまりよい方法ではありません。子どもたちは丸暗記をして定期試験で出題される問題に正解することで満足してしまうのではないでしょうか。
例えば挨拶の例文を使えるようにするのであれば、ペアでロールプレイすればよいと思います。その際、固定したシナリオでなく、わざと小さい声で聞き取りにくくしたりしていろいろな”situation”をつくり、それに合わせて言葉を選ばせることがポイントです。”situation”に応じて” I'm sorry but I didn't catch your name.”と名前を聞き直したり、単に”Pardon me.”と単純に聞き返したりする練習をするのです。瞬間的に言葉が出るようにする訓練とはこういうものだと思います。
全体を男女2列に分けてゲーム形式で競わせます。スライドに映し出された日本語を先頭の者が交互に答え、規定時間内に答えられなかったら負けで、次の人と交代です。活動的に見えますが、先頭の者以外はほとんどの時間何もしていません。また、競わせてテンションを上げることにあまり意味はありません。それよりも、自信のない子ども、負けた子どもの気持ちを考えるとマイナスの方が多いように思います。また、男女で競わせていることも気になります。
工夫をしようとしているのですが、英語の学習に対する考え方が、従来の紙の試験対策から抜け出ていないことが残念です。英語という教科で子どもたちにどんな力をつけるのかをもう一度考えてほしいと思いました。

高校1年生の物理の授業は、勾配をつけたレールを使って鉄球を水平に打ち出し、狙ったところに落とす実験でした。
一部の子どもが中心になって進めているグループ、わからないことを友だちに聞いているのですがうまくコミュニケーションが取れていないグループなど、グループ毎にいろいろな姿を見せていました。
授業者はグループをめぐりながら、アドバイスをしたり、ミニ授業をしたりしていますが、基本は教師主導で教えています。多くの子どもは活動的ですが、互いにかかわり合いながら考えが深まる場面はありません。個別のグループに深く入りすぎないようにして、全体を見ながら子ども同士のかかわりを促すことを中心に指導するとよいでしょう。題材勝負の授業になっていました。
なかなか先に進めないグループ、どんどん進んでいるグループと状況に差がついていました。途中で一旦活動を止めて、どこで困っているのか、どのようにやったのかといったことを共有する場面も必要です。
子どもたちが、互いにかかわりながら考えを深める授業とはどのようなものかを考えてみてほしいと思います。そこに意識が行けば、力のある方なので授業は大きく進化すると思います。

公開授業ではありませんが、中学校の授業をいくつか見せていただきました。
共通して感じるのが、1人1台のiPad導入を機に先生方が授業を変えようとしていることです。そのエネルギーが子どもたちによい変化をもたらしいています。全体的に表情が明るくなり、授業に対する意欲が感じられます。
2年生の英語の授業では、意識して子どもたちの発表場面を増やしています。英単語を日本語でこうだと1対1に対応させるのではなく、”context”にそって色々な言葉で表現させ、ニュアンスを理解させようとしています。とてもよい姿勢だと思いました。
積極的に意見を言える子どもがいる反面、参加できない、ついていけない子どもの姿も目立ちます。わからない子ども、かかわれない子どもをどのようにして参加させるかが課題です。特にこの学級では、よく反応する子どもが授業の主導権を奪う傾向があります。反応する子どもとのやり取りだけで授業を進めるのではなく、他の子どもを巻き込むようにコントロールすることを意識してほしいと思います。

2年生の社会の授業では、子どもたちがiPadを積極的に活用していました。
子どもたちはすぐに検索をする癖がついています。このこと自体は決して悪いことではないのですが、友だちが発表している時にまだ自分のiPadを見ている子どもの姿が見受けられます。授業者が次の作業の指示をしている途中に触っている子どももいます。iPadの活用を前提にした授業規律をつくる必要があります。
今までのあらかじめ教師が準備した資料をもとに考えたり、課題を解決させたりするのではなく、どんな資料があるとよいか、何を調べたらよいかといったことから子どもたちに考えさせるとよいと思います。自分で考え、いろいろ調べることで、問題解決能力が育てられるはずです。

3年生の社会の授業は新しい人権をテーマに子どもたちに考えさせる場面でした。
工事中の高いビルと工場の煙突から煙の出ている写真をみて問題点を住民の立場で考える問題や、がんの告知を本人ではなく家族にして、治療方針をどうするか判断させるということの問題点を考えるといった問いが書かれたワークシートを使います。最近の北朝鮮のミサイル問題を意識したものも含まれています。子どもたちに考えさせることを大切にしたいという授業者の思いが感じられます。
ただ、ワークシートの問いが「問題点を考える」「問題となる箇所がある」となっていることが気になりました。これは試験問題の問いの形式です。出題者が考える正解があることが前提で、それを見つけなさいという答探しになります。グループを積極的に活用しているので、例えばがんの告知の問題であれば「あなたが本人だったらどう思う?」と、「どんなことを思う?」「それは誰の立場?」といったことを互いに聞き合うとよいと思います。
子ども同士の机が離れているグループや他とかかわれない子どもも目にします。授業者は机間指導しながら子どもたちとかかわりますが、グループ全体とではなくグループの一部とのやり取りになることがありますが、かかわれない子どもをますます分断することにつながります。個別にかかわることよりもつなぐことを意識してほしいと思います。
子どもの意見に対して「(先生は)考えていなかったけどそうかもしれない」という言葉を返す場面がありました。子どもの意見を受容しようとしているのですが、聞きようによっては「それは授業者の考える答ではない」と言っているようにも聞こえます。「なるほど、そう考えたんだね」と受容し、積極的に評価したいのであれば「よい考えだね」と足すとよいでしょう。
発表の場面では、子どもたちの発表を授業者が「よいと思う」「(・・・ように考えてくれて)うれしい」と受容的に評価しています。このこと自体はよいのですが、他の子どもにどう思うかを聞く必要もあると思います。授業者が納得するだけでは、結局先生の求める答探しになってしまうからです。子どもたち全員が納得する場面をつくることが大切です。
積極的に授業改善に取り組んでいる方です。新しい授業スタイルに挑戦しているからこそ、次の課題が見つかります。一つひとつの課題をクリアしていくことで授業は大きく進歩すると思います。今後の変化が楽しみです。
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