子どもたちに見通しを持たせてほしい

前回の日記の続きです。

5年生の算数は、入場券と乗り物券の組み合わせの値段からそれぞれの値段を求める問題でした。入場券と乗り物券5枚で1000円、入場券と乗り物券7枚で1200円です。
子どもたちはコの字型で座っているのですが、なぜコの字型にしているのかがよくわかりませんでした。ほとんどの場面で授業者は黒板の前で話をし、子どもたちは授業者に向かって話をします。友だちの話を聞くよりも板書を写すことを優先している子どもが目立ちます。また、授業者の反応から友だちの発言がずれているとわかると、発言の途中でも挙手をする子どもが目立ちます。一見すると明るい学級なのですが、人間関係に少し不安を感じました。

同じものは何かを子どもに問いかけます。子どもから、授業者が黒板に貼った入場券や乗り物券の大きさや形が同じという意見が出ました。授業者は「なるほどすごいことに気づいたね。さらっと流していこうか」と受け、笑いながら「形、大きさいっしょ」と板書します。受容しているようにも見えますが、子どもによってはバカにされているように感じるかもしれません。授業者は発言した子どものことがよくわかっているので大丈夫なのでしょうが、ちょっと気になる場面ではありました。
続いて違うことは何かを発表させます。子どもたちは、何でもよいから違いを発表しようとします。手が挙がるのはよいことなのですが、発言の算数的な価値付けをしていくことが大切です。
同じもの、違うものを考えることの意味は何でしょう。授業者の指示にそって考えるのではなく、「こういう時はどうするといいかな?」と子どもから比べるという発想を出させ、数学的な見方・考え方を育てたいところです。指示されて作業をしても見方・考え方は育たないことに注意してほしいと思います。

続いて、線分図に表わすよう指示しますが、線分図で表わすとよいと、子どもたちに判断させることが必要です。入場券と乗り物券の組み合わせの値段を表すいくつかの方法を出させ、子どもたちに評価させることが必要です。異なった方法で表わして、それぞれを基に考えさせ、どれが上手くいったかを考えさせるといった方法もあるでしょう。
2つの組み合わせを線分図で書かせますが、授業者は「入場券は一緒」とその部分を書いて、違っているところを書き足すように指示します。子どもが動き始めてすぐに、「同じ値段のものはキチンと同じ幅で書いてください」とヒントを言いますが、作業に入る前に線分図のポイントを子どもたちと確認しておく必要があったと思います。

指名した子どもに線分図をかかせます。書き終わった後、「余分のところは消してあげよう」と図の一部を消します。「えー」という声が子どもたちから上がりますが、「これ以上いらないでしょう」と授業者は無視します。不要なものを消すこと自体は悪いことではないのですが、このようなやり方をすると、授業者の求める答探しになっていきます。こちらからすれば不要と思えるものも、本人には理由があるかもしれません。必ず本人に「これは何?」と確認して、「なくてもいい?」と同意を求める必要があります。

授業者はここで急に声を大きくして、「さて」と黒板に向かって説明を始めます。子どもたちを集中させるために声を大きくしたのでしょうが、子どもたちの多くは作業中で、顔は上がりませんでした。
乗り物券の枚数を確認して、線分図に切れ目を入れ、「線分図と言われたらこういうものを書いてください」とまとめますが、子どもたちは説明を聞かずに結論を写します。これでは、自力で線分図をかけるようにはなりません。
授業者は「線分図をかくのが目的ではありませんね」と言いながら、次に進みますが、線分図をかくにあたって、その目的をはっきりとはさせていませんでした。線分図をかけば入場券、乗り物券の値段がわかるといった見通しを子どもたちは持てていません。
「それではちょっと同じものに目を向けたいと思います」と説明を始めますが、子どもたちは線分図を写すことに手一杯です。書くのをやめるように言いますが、これだけ多くの子どもが線分図をかけていない状況で先に進んでもあまり意味はありません。全員がきちんと線分図をかけるようにすることを優先すべきでしょう。

2つの線分図の違いが2マス(乗り物券2枚)であることを確認して、これがいくらかわかるかを問いかけます。挙手は1人ですがすぐに指名します。子どもたちの手が挙がらないということは、ここまでの説明がよくわかっていないということです。もう一度子どもたち自身で考える時間を持つ必要あります。
200円と言う答に子どもたちが反応しないので、「ここはいくらかわかりますね」と返し、「200円」という声が出たので、「どうですか?」と全体に問いかけました。「賛成です」という声に「皆さん、賛成ですか。ありがとうございます」と返します。賛成と言いなさいと強要しているようにも感じます。「賛成です」と答えている子どもの数はそれほど多くはありません。それも自信を持っているようには見えません。それを「皆さん」と言ってしまうのはかなり乱暴です。少なくとも、他の子どもに、答ではなくきちんと理由を説明させ、全員が納得する場面をつくる必要あったと思います。

授業者は「同じものに目をつけると違いがわかります」と説明しますが、違いを見つけることがなぜ必要なのか、なぜ先に同じものを見つけなければならないのかといったことが明確でありません。どのような見方・考え方につながっているのか意識してほしいと思います。
「差し引いて」と説明をした後に、「差し引く」とはどういう意味かを子どもたちに問いかけます。突然国語の授業になってしまいました。辞書的な意味ではなく、実際に算数の場面をもとに、こういう計算、操作を差し引くと言うとシチュエーションで教えることが本筋でしょう。

違いが200円であることを再び確認して、「今日は何が知りたかったの?」と問いかけますが、子どもたちはほとんど反応しません。ミステリーツアーのごとく、授業者の指示、説明を聞いていただけになっていました。
式を書かせますが、今度は式が中心になっています。式が線分図のどこを表わしているのか、どう対応しているのかを結びつけなければ、線分図のよさはわかりません。一つひとつの活動がバラバラになっていました。

子どもたちに見通しを持たせることと、この教材で身に付けさせたい見方・考え方を意識して授業を組み立ててほしいと思います。

この続きは次回の日記で。
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