新しいことに挑戦するからわかることがある

1学期に私立の中学校高等学校で授業アドバイスを行いました。
この学校では、1人1回グループを活用した授業を公開することになっています。この日は3人の授業を見せていただきました。

高校2年生の体育の授業は、3人ずつのグループで、いろいろなスポーツの起源をテーマに調べたことをレポートとして発表する授業でした。校内では使用禁止のため先生に預けてある携帯端末を、この時間は解禁しました。インターネットや電子辞書が情報源です。
子どもたちは何をすればよいのかはわかるのですが、何のためにという目的やどういうものができればよいのかという目標・評価が明確でないので、テーマを決定するための話し合いの根拠を持てません。グループになってからテーマについて「歴史の長いのがいいな」「オリンピックもいいぞ」といくつかの例を授業者がしゃべりますが、こういったことを子どもたちが考えることが重要だと思います。選んだ理由も発表の中に加えるべきです。そのためにも目標・評価を明確にする必要がありました。
作業中に体育館に貼ることや見やすいものにしてほしいことを伝えますが、最初に伝えておくとよかったでしょう。読んだ人にどう思ってもらうかを意識させることが、目標・評価につながります。
子どもたちは、よい雰囲気で作業をしています。発表者が決まれば他の子どもは他人事になることもよくあるのですが、そういったこともありません。子どもたちの関係のよさと、授業者の温かい雰囲気がよい状況をつくっているのだと思います。
子どもたちの発表はしっかりしていたのですが、調べたことをまとめただけです。それを基に子どもたちが考える場面がほしいところでした。
「歴史はあるがマイナーなスポーツを紹介して、そのスポーツをやってみたいと思わせるようなレポートを書く」といった課題にし、聞き手の子どもたちにやってみたいと思ったかどうか、その理由を聞いて再度作り直すといった活動にすると、より深く考えることができたと思います。
子どもたちがある程度主体的、対話的に活動することはできていました。それをどうやってより深い学びにするのかが問われます。

中学校の技術は、数学が主担当の先生の授業でした。人員の関係でしょうか、2学年合同での、のこぎりの使い方を練習する授業でした。子どもたちは授業者の説明を集中してよく聞いています。道具や使い方のポイントを具体的に示し、今習得しようとしている技能を使って最後はどんな作品をつくるのかといった単元のゴールも明確です。また、「できるだけたくさん練習をする」「材料の木を押さえて友だちの補助をする」「グループでワークシートに気づいたことなどをまとめる」といったこの時間の活動のゴールも明確になっています。
指示を受けた後、子どもたちは学年ごとの教室に分かれて作業をします。授業者がいなくても子どもたちが騒がしくなるといったことはありません。のこぎりを持つ子どもはやることは明確ですから、真剣に行います。補助もしっかりやっています。しかし、一度に切ることができるのはグループに一人で、補助も一人で十分です。一部の子どもが、しばらくすると遊びだします。子どもたち決してやる気がないのではなく、自分がすべきことがないのです。グループでやる必然性がなかったことがこの状態での原因だと思います。
木を押さえる以外にものこぎりの角度や、向きなどが正しくできているのかチェックしてアドバイスすることを指示はしてあったのですが、誰がアドバイスするのかといったことは明確になっていませんでした。ローテーションのやり方を指示して明確にすることも必要だったかもしれません。木を切る練習だけなので、切った木は特に何も使いません。基本的に個人での活動です。グループ全員が同じ幅に切って、後でつなげて何かをつくるといった課題であれば、仲間の切ったものにもっと関心が向いたのではないでしょうか。
グループ活動では、グループである必然性が重要であることをあらためて感じました。

高校2年生の政治・経済の授業は、ディベートでした。
授業者は子どもたちの反応を「いいねえ」とポジティブに受け止めることや、つぶやきをひろうこともできます。教室はよい雰囲気で、子どもたちも問いかけにはよく反応してくれます。しかし、授業者が一方的にしゃべる時間がちょっと長いように思いました。
最初にこの時間の活動の何を評価するかを示します。しかし、「チームで点数をつける」「○○するとポイントが高い」「○○だと得だ」と、評価が、こうすればたくさん点数がもらえるという、試験の点数と同じレベルのものになっていました。確かに子どもたちを動かすのには手っ取り早い方法なのですが、これでは子どもたちが消費者的になってしまいます。この授業でどんな力をつけたいのかを明確にして、それができているのかどうかを客観的にするのが評価です。このつけたい力と連動した評価にすることを意識してほしいと思います。
続いて、「国家は必要か」というテーマでディベートすることを伝え、進め方の説明をしますが、子どもたちが一つひとつを咀嚼して理解する時間が足りないように思いました。子どもたちはディベートの経験はあまりないようです。そのため、説明を聞いても具体的にどのようなものか、何をすればよいのかイメージできず、話についていけていないようでした。そのためでしょうか、グループの隊形になる時に子どもたちの動きが遅いことが気になりました。
通常のディベートと違い、あらかじめどちらの立場になるのかをグループで決めます。これは結構難しい進め方です。もしどちらの立場になるのかグループ内で意見が分かれたときに、決定するうまい方法がないからです。ここは、機械的に振り分けた方がよかったように思います。
どちらの立場になるのか決めた後、子どもたちはワークシートを個人で埋めていきます。その作業からなかなか抜け出せずに、かかわれていないグループがありました。授業者はその一人に「いっぱい書けているから話そう」とかかわるように声をかけました。それを聞いていたグループの他の子どもがその子どものワークシートを覗き込みました。子ども同士をつなごうとすることはとてもよいことです。この時、話す側に働きかけるのではなく、「○○くんたくさん書いてあるよ。みんなで聞かせてもらおうよ」と聞く側に働きかけると、よりグループ全体がつながりやすくなると思います。
活動中に、授業者が「ほしいキーワードが出た」「素晴らしい意見」といったことを口にしますが、そうすると授業者が考える正解があると子どもたちが感じ、それを見つける活動になってしまいます。そうではなく、自分たちの意見を持つことが重要です。「○○をキーワードにしたんだね」とちょっと大きな声を出して全体に考えを伝えたり、「なるほど」と受容するだけにしたりすればよかったと思います。
また、ちょっと行き詰まっている子どもには説明をしていましたが、この課題に対して必要と思われる知識や情報は、活動前に全体で共有しておくとよかったと思います。授業者から伝える方法もありますし、子どもたちにどうやって考えるかと問いかける方法もあります。事前に伝えずに、途中でどのようにして進めているのかを発表させてもよいかもしれません。
時間の関係でディベートは1組だけで行われました。賛成側の最初の立論は時間が2分与えられていたのに、15秒で終わってしまいました。「それでいいのか?」と授業者に言われて、あわてて他の子どもが自分のワークシート差し出します。グループとして考えがまとめられていなかったようです。これは反対側でも同様でした。また、直接ディベートに参加していない子どもたちは、何を意識して聞くのかがはっきりしていませんでした。ちょっとグダグダしましたが、子どもたちはいい加減に参加しているわけではありません。何をすればよいのかのゴールがはっきりイメージできていなかったので、うまく対応できなかったのです。
最初に、ディベートのイメージをはっきり伝えておくことが必要でした。実際のディベートの動画を編集して5分ほどにしたものを見せるといったことをするとよかったと思います。授業者と子どもたち、子ども同士の関係もよいので活動のゴールを明確にするだけで子どもたちの動きはずいぶん変わったと思います。

先生方が授業改善に挑戦し始めましたが、最初から上手くいくはずはありません。しかし、新しい試みをすれば、子どもたちの姿に何らかの変化があるはずです。そこから多くのことが学べます。やってみなければ始まらないのです。先生方の授業がこれからどのように変化していくのかとても楽しみです。
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