授業改善の新たな動きを感じる

私立の中学校等学校で授業アドバイスを行いました。

夏休み前で子どもたちの集中が切れる時期でしたが、全体的にはよく頑張っていたと思います。
中学校はタブレットの導入のこともあり、先生方が意欲的に授業を工夫しているように感じました。こういった意識の変化はうれしいことです。
1年生はまだ、幼さが残りますがまじめに授業に参加しています。ただ、授業で自分たちに何を求められているのか、どのような姿勢で授業に臨まなければいけないのかがよくわかっていません。子どもたちの行動を価値付けしながら、授業に向かう姿勢を育てる必要があるでしょう。
2年生は、基本的にはよい状態なのですが、一部の元気な子どもと他の子どもの温度差のような物を感じます。積極的に反応しない子どもたちもノートを写したりはします。受け身の活動だけでなく、もっと他の子どもとかかわる必然性がある活動を組み込むようにしてほしいと思います。
3年生は、最近ちょっとした事件があったためか、子どもたちが落ち着きをなくしているようです。夏休みで一度気持ちがリセットされること願います。
高等学校の子どもたちは、全体的によく頑張ってはいるのですが、特に3年生で授業開始直後の授業者の話に対して集中度が低いように思いました。作業になると集中は戻るのですが、これも長く続くと切れてきます。相対的には、1年生がよく頑張っているように思います。当たり前かもしれませんが、子どもたちの参加度、集中度は、グループ活動、個人の作業、授業者の説明の順に下がっていきます。集中度が低くても授業は十分に成り立っていますが、これでよしとせずに、先生方にはより高いところを目指してほしいと思います。

この日はいくつかの英語の授業を中心に見させていただきました。
3年生の英語では、自分の考えや気持ちを英語で表現することに挑戦しいていました。レベルの高いクラスでは、世界の子どもたちが直面している貧困などの問題について各自でテーマを決め、自分の考えを高校2年生の後輩に英語で伝えることが課題です。色々な情報をネットなどで調べて、日本語で考えをまとめてから英文にするのですが、自分の考えをわかりやすく伝えるためのレトリックも指導されています。子どもたちは集中して取り組んでいますが、中には息が切れている子どももいます。英文をつくる以前に、自分でテーマを決めることからつまずいているようです。終始個人作業を続けるのではなく、要所要所でグループ活動を取り入れるとよいと思います。互いのテーマを聞きあったり、下書きを読みあったりするのです。友だちの物を参考にしてもよいとすることで、苦しい子どもの動きは変わると思います。
もう一つのクラスは、エッセイに挑戦していました。ここでも、レトリックを意識させています。エッセイなので、日本語ではそれなりのものが書けているのですが、日本文を英語に直接訳そうとするために、文構造のおかしな英文になってしまいます。話す・聞くはいちいち日本語に直さずにできるようになったのですが、読み書きはまだ苦しいようです。書くこと以前に、英文を読む量が話す・聞くに比べて圧倒的に少ないことも、こなれた英文を書けない理由の一つのように思います。一昔前の子どもたちであれば、イソップ物語や聖書物語のような読み物は内容が想像つくので、ある程度のスピードで読めます。こういった読み物をテキストに使うことで量をこなすことができたのですが、最近の子どもたちはこういった基本的な読書の素養がありません。読む量の確保はなかなか難しい問題です。この学校における英語教育のこれからの課題です。

1年生の英語表現の授業は、発音や、リスニングが中心です。
“star”か”store”かを英文を聞いて聞き分けたりするのですが、聞き分けることができても確認で読ませると発音がおかしい子どもがたくさんいます。正しく発音できているかどうかの確認が課題です。口の開け方などを隣同士で確認するような場面が必要かもしれません。
この日のテーマは電話での会話です。リスニングを通じて表現を学ぶのですが、電話では最初の挨拶は”Hello.”であるとか、名乗る時に、”My name is ○○.”とは言わずに”This is ○○ speaking.”といった基礎知識を、最初に全体で問いかけて確認します。中学校の時に英語が得意だった子どもがすぐに反応しますが、覚えていない子どもはついていけません。一部の子どもの発言で授業が進んで行きます。ちょっとまわりと確認するといったことをして、できるだけ多くの子どもが参加できるようにしたいところです。気になったのが、”Hello.”を日本語の「もしもし」と直接対応させていたことです。英語と日本語を1対1に対応させるのではなく、電話でのあいさつは英語では”Hello.”、日本語では「もしもし」と電話でのあいさつという”situation”で対応させることが必要です。表現したい、されている”situation”をそれぞれの国の言葉で考えるように習慣づけさせたいところです。
一連の会話をCDからの音声で聞き取りますが、ただ聞くだけでは聞き取れない子どもがたくさんいます。何度聞いても”situation”がよくわからなかったり、聞き取れない単語があると思考がストップしたりしているのです。
授業者は一つひとつの単語をすべて聞き取れなくても、大体何を言っているのかわかるはずだと、全体の大きな流れを聞き取ることをするように指導します。ヒントを言いながら何度も聞かせますが、聞き取れない子どもは次第にあきらめムードになって、早く答を教えてほしそうです。聞き取れている子どもも、もうわかっているのでやはり集中力を失くしていきます。
子どもたちに聞き取れた単語やキーワードを言わせたり、どんな”situation”か、まわりと確認したりするような場面が途中で必要でした。また、授業の最初に行った、単語の聞き取りの影響か、子どもたちは一つひとつの単語を正確に聞き取らなければいけないという意識が強かったように思います。そうなると、知らない単語は絶対に聞き取ることはできないので苦しくなってしまいます。こういったことにも注意が必要です。子どもたちが知らなそうな単語があれば、事前に「こんな単語が今日は出てくるよ。どこで出てくるかな?」と練習しておくことも必要でしょう。
電話での会話といっても、CDで聞くだけではなかなか”situation”は理解できません。リスニングの前に、「どんな時に電話する?」「電話で起こりそうなことは?」と固定電話で友だちと連絡を取る”situation”や起こりそうなことをいろいろと考えさせておくというのも一つの方法です。こうすることで子どもたちが会話の”situation”を理解しやすくなると思います。
リスニングでは、何回も聞かせるだけでは聞き取れるようにはなりません。子どもが自分で「聞けた」「わかった」と思える場面をどうつくるかが大切になります。そのための活動や投げかけを工夫してほしいと思います。

この日は、何人もの先生から相談を受けました。
「グループに1台のタブレットを使わせているが、1台だとなかなか自分が使う順番がこないという不満が子どもたちから出ている。子どもたちのタブレットを利用する意欲が高くなっていて、1人1台の必要性の手ごたえを感じている」という話がありました。注意してほしいのは、この状態で、1に1台の環境になると、子ども同士のかかわりが薄くなる可能性があるということです。タブレットを使う時に子どもが他者とかかわらないからです。そうでなく、何を調べているか他の子どもが見たり、これも調べたらと横から声をかけたりしてかかわり合うことが大切です。そのためには、タブレットはグループの真ん中においてみんなから見えるようにして使うといったルールを決め、今の内にタブレットを使ってかかわり合う経験を積ませることが必要です。
また、自分の授業を公開して一緒に考えてもらおうとしておられますが、一部の方しか参観してもらえないのでどうしたらよいのか悩んでおられました。自主的に自分の授業を公開しようとする方が出てきたことをとてもうれしく思いました。この学校が変わっていくためにはとても大切なことです。焦らずに少しずつでよいので、授業を参観することが自分たちの学びにつながることを知ってもらうようにしてほしいと思います。参観した方にちょっとしたメモでよいので授業から学んだことを書いてもらい、それを公開するといった方法もあります。授業を参観しなかった人も交えて、感想を聞き合うような場を設けてもよいでしょう。教科を越えて授業について話し合うような雰囲気ができることを期待します。

知識とそれを基に考えるようなワークシートを中心として授業をされている先生は、子どもたち自身で答を出すことを大切にして、正解を教えないようしているそうです。正解を教えないので、子どもが大きな間違いをしていないか、全員のワークシートをチェックしています。よい試みだと思います。しかし、チェックに時間がかかるのでどうすればよいのかという相談でした。一つは、チェックするところを、子どもたちに考えてほしいことなどの、本当に見たいところに絞ることです。では、他の部分はどうするかというと、できるだけ子ども同士で解決させるのです。子どもたちは、聞き合うことがまだうまくできていないようですが、根拠となる資料や記述を共有するといったやり方をきちんと教えるのです。確認の時間をつくり、グループ内で意見が違ったところを全体で取り上げるという方法もあります。ワークシートに、どこを参考にしたかを書く欄をつくっても面白いかもしれません。何人かの子どものワークシートから参考にしたところを抜き出して印刷し、正解の代わりに次の時間に配るのです。
新しいことに挑戦するから、新しい課題が見つかります。それを解決すれば、また次の課題が見つかるはずです。こうして、授業改善のサイクルを回し続けるのです。よいサイクルがまわり始めていると思います。

また、ある先生はグループの答を黒板に書かせましたが、それを見て意見を変えてもよいという指示をされていました。考えを深めるための一つの方法ですが、それまでに時間を使いすぎて、実質的にはもう一度考え直す時間をとれていませんでした。時間を与えれば考えが深まるわけではありません。子どもたちがある程度の考えを持てて、それ以上深くなりそうもなければ、早めに切り上げて発表させればよいのです。その後、グループ間の意見の対立構造を焦点化したり、考えを揺さぶるような問いかけをしたりして、もう一度グループに戻すことで考えを深めることができます。

学校の中で、授業改善に対する新たな動きが起こり始めています。この動きをより大きなうねりにできれば、学校全体が大きく進化すると思います。
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