どのような力をつけるための題材なのかを意識する

前回の日記の続きです。

7年生(中学1年生)の数学は正と負の数の応用で、仮平均を使って平均を計算する課題でした。
授業者は子どもが集中するまで待てるようになっています。話をし始めたところ教科書を触っている子どもがいたので、いったん話をやめて教科書を閉じさせました。子どもの様子がよく見えるようになっています。
この日の課題は1か月の博物館の入場者数を基に、何曜日にイベント開けばよいかを考えるものです。ここでワークシートを配ります。子どもたちは配られたワークシートを見ながら、「平日がよさそう」「火曜日がいい」・・・とつぶやきます。授業者はそれを復唱します。子どもたちがうまく興味を持ってくれているようです。しかし、それを全体で共有しません。「どうして平日がいいの?」と聞き返すことで、現実の問題と数学がつながっていくはずですが、すぐに各曜日の入場者数の平均を求めてほしいと指示します。

子どもからは、入場者が少ない日にイベントをやればよいという考え以外にも、もともと来客が多いのは来やすい時だからその日にやった方がよいといった考え方も出るかもしれません。いずれにしても曜日ごとに入場者数がどう違うかを考える必要があることを子どもから出させたいところです。曜日ごとの入場者数を比較するのにどうすればよいのかを問いかけて、平均という言葉を引き出すとよいでしょう。単に数値的な答だけでなく、グラフにして見るといった考えが出てくれば大いにほめ、どんなグラフにするとよいかを問いかけて、平均の必要性を導いてもよいでしょう。子どもたちからすぐに平均が出てくれば、「平均は計算がめんどうくさいから、合計で比較してもよいでしょう?」と揺さぶります。深く考えずに平均だと考えている子どもに、曜日によって1か月に何回あるかは違うから、比較するには平均を取らなければいけないということに気づかせることができます。この日の授業は平均の意味を考えることが課題ではありませんが、こういった機会に数学のもつよさや統計の意味を考えさせることが大切だと思います。

小学校の時にどうやって平均を求めたかを問いかけます。子どもからは「全部足してその数で割る」というつぶやきが出ます。授業者がそれを復唱すると、今度は「どれか1個を基準にしてやる」という声が上がります。授業者はそれを受けて、今日は1個を基準にして平均を求めてもらいますと結論づけますが、まず、最初の「その数で割る」という言葉が何を意味するか確認して、平均の定義をはっきりさせることが必要です。「その数で割るってどういうこと?」と問いかけて正しい表現に直させ、平均とは何かを全体で確認するのです。
ここで、授業者は金曜日を例にして平均を求めさせます。「一番少ないのは430」と自分で基準を決めます。ここでは、何を基準にすればよいのかを子どもたちに問いかけ、その理由を言わせることが大切です。グラフを使って「どこを基準にするの?」と聞くのも面白いでしょう。また、子どもから一番少ないところという考えが出てくれば、「一番大きいところじゃダメなの?」「一番じゃなきゃダメ?」と揺さぶることでこの日のねらいに近づけたることができます。
小学校の時に一番少ないものを基準にしたのは、負の数を使えなかったからということや、基準より大きいものと小さいものに分ければ小学校でもできるといったことを子どもたちに気づかせたいところです。基準との差を正負の数を使って考えることで一元化できることを子どもたちから出させたいのです。これが、この課題のねらいなのです。

子どもたちに計算させ、全体で確認します。平均を求めた後、突然、基準にした数のことを「仮平均」と定義し、仮平均を440にした時の平均を求めるように指示します。すでに平均は求めた後なのですから、なぜこのようなことをするのか子どもたちにはわかりません。単に指示されたことをやるだけになります。しかも、ワークシートには手順が書かれていて、その穴を埋める作業をするだけで、数学的な思考はしていません。手順を教わる、覚える授業になってしまいます。

答の確認では、途中の計算を一つひとつていねいに行います。計算練習をしているようにも思えます。そうならば、もっとたくさんの問題を解かせればよいでしょう。ここでは、何を大切にしたいのかをはっきりさせる必要があります。
授業者は仮平均が違っても、答は同じになると確認します。あたりまえと言えばあたりまえですが、グラフなどを使って視覚的に納得させるとよいでしょう。もちろん、「元の数は(基準)+(差)と書き直せるので、合計は、(基準×標本数)+(差の合計)となることから、標本数で割ることで平均は(基準)+(差の合計÷標本数)つまり(基準)+(差の平均)となる」という説明でもよいでしょう。ただ、この考え方を扱うのなら、ちょっと難しいので、教師が説明するのではなくグループの課題とした方がよいと思います。

続いて残りの曜日の平均をグループに割り振って求めさせます。仮平均をいくつにすれば楽になるか考えてやるように指示しますが、いきなり教師が指示しても意味はありません。仮平均を使ってとりあえず1回やっただけなので、楽になる、楽にしたいという感覚もないでしょう。どんな方法でもいいからもっと計算をさせて、それから考えるべきだと思います。常に、授業者が子どもたちを自分の求める結論に誘導しているようで気になります。また、この作業をグループでやることにどのような意味があるのかよくわかりません。子どもたちが額を寄せ合って考える、悩む場面がないからです。

グループ毎にどんな仮平均が出たかを確認し、理由も聞きます。あるグループで中途半端な値を仮平均として提案した子どもがいたのですが、グループで一つに決めた時の理由がはっきりしません。その子どもなりにちゃんと理由があったはずですが、うまく聞きだせませんでした。ちょっと残念でした。
子どもたちは、他のグループの発表を聞いても、グループごとに問題は異なりますから「そうなったのね」で終わってしまいます。仮平均を使った平均の求め方を理解している子どもは集中力を失くしてしまいます。何を考えさせたかったのかよくわかりませんでした。

正と負の数は基準とどれだけずれているかを比較するのにとても便利です。この時間はこのことをまず一番に押さえるべきことです。仮平均の活用であれば、どこを基準としても平均は計算できる。自分に都合のよいところを基準にすればよい。これだけです。都合のよいというのは、どういうことかは各自でいろいろと考えてみればよいのです。「切りのよい数だと、差を求めるのが簡単だ」「本当の平均に近い数だと、差の合計が少なくなって、割り算が楽だ」といった言葉が出てくればそれで十分です。真ん中あたりの数を仮平均にするとそのまま平均となるような例があるのはそのためです。

授業者は、子どもを受容する力が上がっています。子どもとの人間関係もよいと思います。発言を迷っている子どもを様子から判断して指名することもできます。次の課題は、教科書で扱っている題材が数学的にどのような力をつけるためのものなのかをもっと考えることです。そうすることで、どのような活動に時間を割くべきかが見えてくると思います。また、それによって、子どもの発言をどのようにつなげばよいかもはっきりすると思います。今まで以上に、教材研究に力を割いてほしいと思います。

この続きは次回の日記で。
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