用語の定義や見方・考え方を意識してほしい

前回の日記の続きです。

7年生(中学校1年生)の社会は気候の学習でした。
最初に、前時に学習した気候帯について、どんな気候帯があったかを問いかけます。半分くらいの子どもがノートを開きます。「まずは名前だけを言ってくれればいい」と挙手に頼らず指名します。指名された子どもはノートを開こうとしていましたが、指名されるとノートを閉じました。答は記憶で答えなければいけないと無意識に思っているのかもしれません。「サバナ気候」という答に対して、「あったねー」と受容した後に、「気候帯なんだよね」と気候帯と板書して、「帯とつくもの何かない?」と返します。
続いて「○○さん覚えている」と指名します。指名された子どもはノートを見ながら答えましたが、授業者は無意識のうちに知識を覚えることを求めていました。
この場面では、子どもたちは「気候(区分)」と「気候帯」の違い、関係がよくわかっていませんでした。ならば、まず子どもたちに問いかけるのは、「気候帯とは何か?」です。用語の定義や、なぜそういう考えが必要なのかを子どもたちが理解することが無ければ、社会科は知識を覚えるだけの教科になってしまいます。
前時の学習場面がわからないので何とも言えませんが、「帯」となっている意味もきちんと押さえたいところです。地球儀を見ながら、同じ緯度であれば日照時間や太陽高度は変わらないことに気づかせることで、気候と太陽に密接な関係があることが理解できます。
また、中学校ではケッペンの気候区分を基に気候帯を学習しています。ケッペンの気候帯の特徴は、平均気温と年間降水量を基に植生を意識してつくられていることです。植物(樹林)が育つかどうかで、非常に寒い地域、非常に乾燥している地域は植物が育たないので、最初に区別します。植物を意識することは、人が生活するために大きな要素となるからです。ここに社会科の本質の一つが表れます。社会科における見方・考え方を学ぶ大切な場面なのです。

この日の目標は「世界の気候についてもう一度考える」です。気候について考えるとはどういうことなのでしょうか。授業者そのことを意識していなければなりませんが、授業からはよく伝わりませんでした。
この日のワークシートを配って、グループをつくります。グループをつくってから教室の隅に置いてある電子黒板でいくつかの地域の雨温図を見せますが、見にくい子どもたちはどうしても手元のワークシートの方を見てしまいます。グループの隊形にして説明をする意味はありませんから、説明をしてからグループにするとよいでしょう。

この図を何と言うかを問いかけ、何が書かれているのかを確認します。ここで注意をしなければいけないのが、この雨温図には通常のものとは違い平均気温と年間降水量が書かれていることです。気候帯を大きく決定するのはこの2つだからです。しかし、授業者は「雨温図の見分け方はやったね」と言うだけで、このことに触れませんでした。ここに示した雨温図と気候帯を結びつけ、その理由も考えるという課題を提示し、「みんなの知識を結集して」と言って作業に入りました。
ここで、気候帯の数と雨温図の数が同じということが気になります。これだと試験問題の正解探しになってしまいます。また知識を結集すると言いますが、使うべきは各気候帯の定義です。これがわかっていないのに、雨温図を見て考えるのはおかしなことです。因果がごちゃごちゃになっています。

子どもたちは、一番熱いから熱帯というように、提示された雨温図の相対で答探しをします。逆に言えば、雨温図が一つしかなければ答を出せない可能性があります。同じ熱帯でも、熱帯雨林やサバナ、熱帯モンスーンなどの雨温図もいくつか混ぜることで、同じ気候帯に属していても雨温図の特徴が違うことに気づかせたいところです。そこから、そこに住む人々の暮らしが異なるはずだと考えさせ、より細かい気候区に分ける必然性につなげたいところでした。

子どもたちに結果を発表させ、その理由を問います。授業者は指名した子どもの発言がみんなに聞こえたかどうかを確認して、聞こえなければもう一度言わせます。みんなに伝えることが目的だと言って身体の向きを変えさせたりもします。全員に伝えることを意識させています。とてもよい姿勢です。ただ、話す側だけでなく、聞く側にも「しっかり聞こう」と意識させたいところです。互いに伝えたい、理解したいという意識を持たせることが大切です。また、1グループに発表させて終わりではなく、何人も指名します。一人の発表に対して、その意見をどう思うかとつなげることもします。意見をつけ加えようと挙手した子どもには、「いいよ」とほめることもできます。全員参加で、子ども同士をかかわらせることを意識できています。

気候の特徴を言わせて、それを理由にしますが、特徴と定義は違います。ここの因果関係は明確にしたいところです。熱帯である理由に、夏に降水量が多くて、冬に降水量が少ないという意見が出ました。授業者はこれをレベルが高いと評価しましたが、降水量の月ごとの特徴は気候帯とは直接関係ありません。子どもたちは、気候帯と細かい気候区分が混乱しています。授業者は実は乾季と雨季があることからこれはサバナ気候だと説明しますが、かえって混乱する可能性があります。これ以外にも、夏に乾燥するからといった気候帯と直接に関係のない理由が出てきます。温帯の雨温図の時に、温帯の中にいくつか気候があると、気候帯と細かい気候区の関係に初めて触れました。もっと早くに押さえておくべきだったと思います。
また、寒帯の理由を「平均気温が一番低いから」という発表がありました。もし雨温図の中に寒帯が入ってなければ、この考え方では間違えます。しかし、授業者は、何人かに納得したかと確認して、反対がないのでそれでよしとしてしました。これでは、試験問題の解き方を教えていることになってしまいます。

次の課題は地図上の都市と雨温図を結びつけるものです。この課題を先ほどよりは「実践的」と評しましたが、意味がよくわかりません。何となく試験問題を意識していたのでしょうか。こういった言葉が気になります。
気候帯は、多くは地図の緯度で決まりますが、内陸かどうかや高度にも影響されます。そういった地形がわからない状態で考えさせても、結局、資料等を見て答を探すことになってしまいます。社会科としてどのような見方・考え方を育てたいのかがよくわかりませんでした。

授業者は、子どもの発言を受容し、全員参加で子ども同士をつなげることも意識できています。しかし、なぜ気温や降水量に着目して気候が分けられるのか、それが人々の生活とどのようにかかわるのかといった社会科の見方・考え方が意識できていません。この後、気候ごとの人々の生活を学習しますが、そこで初めて触れるのでしょうか。この単元を通じてどのような見方・考え方を身につけさせたいかを意識する必要があります。
また、どうしても試験に出るような問題とその答の出し方を意識しているように感じます。何を根拠にすればよいのか、根拠となる定義や特徴とその違いといったことを意識して授業を組み立ててほしいと思います。

中学生のレベルを超えていると思いますが、グループでやるなら、正しいケッペンの気候帯の定義を基に、雨温図がどこの気候帯になるのかを考えさせても面白いと思います。条件文が入った定義ですから、国語の読み取りの力も必要です。また、式に雨温図の数値を当てはめる必要もあるので、数学の力も必要です。教科横断的で子どもたちのいろいろな力が必要なので、グループで活動する必然性も出てきます。ジャストアイデアですが、こんな授業も面白いかもしれません。

前向きに授業改善を続けている先生です。見方・考え方を意識することで、授業は大きく進化すると思います。今後が楽しみです。

この続きは次回の日記で。
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30