新しい風が吹いていることを感じた訪問

先週は、私立の中学校高等学校で授業参観しました。

高等1年生の英語は、GDMを今年度から担当する先生方の授業を見せていただきました。
GDMに初めて挑戦する2人の先生は当初と比べてずいぶん進歩していました。子どもたちも理解しようという気持ちが前面に出て、よく集中していました。気になったのが、”Everybody”と全体で答えさせる場面で、全員の口がしっかりと開いていないのに”Very good!”と次に進んでしまうことです。余裕がないため子どもの様子を見ることができないのでしょうが、答えられなかった子どもは自分が答えなくても”very good”なんだと感じて、参加意欲が下がり、わからないままになってしまう危険性があります。正しく言えている子どもに対して、”Ok, good!”とそれでよいことを伝えてから再度全体で言わせると、”Ok”と言われた子どもは自信を持って大きな声を出すようになります。そうするとわからなかった子どももどういえばよいかわかるので、声が出るようになります。1回で終わらずに、全員の声が出るまでこれを繰り返すとよいでしょう。また、なかなか声が出なければ、ちょっと隣同士で確認し合ったり、一つ前の活動に戻ってもう一度やり直したりする場面をつくることも必要です。すぐには難しいかもしれませんが、意識して少しずつできるようにしてほしいと思います。
他の学校でGDMの経験のある先生は余裕があるのですが、子どもたちのテンションが上がる場面が少し目につきました。そういった場面だけ参加している子どもが目につきます。基本の場面をきちんと全員が参加して理解することを優先するようにしてほしいと思います。
気になったのが、どの学級でも参加せずに他のことをしている子どもが少しいることでした。この子どもたちは、「今使われている単語なんか知っているから」とバカにして参加していない可能性があります。GDMは英語を日本語に置き換えて覚えるのではなく、本来の意味を”situation”で理解する学習方法です。わかっている気になっていい加減にしていると、正しく理解できずについていけなくなってしまいます。自分がよくわかっていないことに気づかせるためにペアでの活動場面を意図的に取り入れることが必要でしょう。
今年度で高校1年生から3年生まで、すべてでGDMを取り入れることになりました。当然これまで経験していなかった方もかかわることになります。子どもたち以上に多くのことを学ばなければなりません。先生方が新しいことに挑戦できることが、この学校の強みになっていくと思います。

若手の数学の授業は解と係数の関係の場面でした。
授業者が説明している時に子どもの顔が上がっていないことが気になります。一人芝居になっていました。
解と係数の関係について、解の公式を使って一方をα、他方をβと置き、α+β、αβを計算させます。これでは数学ではありません。なぜそんな計算をしなければならいのでしょうか。解の公式がない高次元の方程式ではどうなるのでしょうか。一元n次方程式を解くことと、基本対称式を解くことは同値であることが根本にありますが、解の公式から始めることは本末転倒です。代数学の基本定理から導き出されるべき解と係数の関係の本質を外しています。せめて、2次方程式を解くのにx2+(a+b)x+abの因数分解を使って解くことは解と係数の関係を使って解を求めていることに他ならないといったことを子どもたちに気づかせるような展開を考えてほしいと思います。
数学の基本、本質を押さえた授業を目指すことが大切です。

今年度からこの学校に赴任してきたベテランの理科の先生の高校1年生の物理の授業を見せていただきました。子どもたちに学習したことを実際に生かすことを経験してほしいという授業でした。
落下する物差しをつかむことで反応速度を測ろうという実験です。ワークシート配り、精度を高める工夫をするといった実験としての評価の観点を説明しますが、具体的にどういうことかよくわかりません。また、子どもたちがしっかりと聞く態勢になっていないのに説明していることも気になりました。厳しい言い方になりますが、ちょっと一方的な説明になっていました。きちんと子どもたちが理解しているのか確認をしながら、コミュニケーションを取ることが必要です。実験も授業者がやり方をすべて指示します。子どもたちは言われた通りに活動するだけです。最初にペアの相手が離した物指しを何センチのところでつかめるかを実験し、結果を黒板の表に書き込みますが、何のために書き込むのかはよくわかりませんでした。反応の速い人がいるといったこと以外に、この表を使う場面は最後までありません。一つひとつの活動の意味をもう少し明確にしておくことが必要です。
続いて、何秒で反応したか計算してみようと課題を提示しますが、子どもたちはその必要性を感じていません。最終課題は、つかんだところで反応時間を測る測定器をつくることですが、どうやってつくるかは授業者が指示をしています。ここでも何をつくるのかよくわからなかった子どもがたくさんいたため、時間が経ってから再び説明をすることになりました。子どもたちの理解を確認する場面が必要だったということです。
グループで考えさせるのですが、わからなくても聞くことができない子どももいます。授業者は机間指導しながらそういった子どもに個別に対応をしていましたが、せっかくグループを使うのであれば、子ども同士をつなぐことに徹するとよかったと思います。
時々わからない子どものために、授業者が黒板を使って簡単な解説をしますが、子どもたちの顔はあまり上がりません。わかっている子どもは聞く必要がないからです。最終的に授業者が教えるのであれば、グループで考えさせる意味はあまりありません。「どこで困っている?」と問いかけ、「何を使った?」「どんな考え方をした?」と問題を解く過程を共有し、再び自分で解かせたいところでした。
結局、具体物を例にした問題演習と変わらなかったのが残念でした。
課題を子どもたち自身のものとするためには活動内容をすべてこちらで決めない方がよいように思います。素人の思いつきですが、次のような展開を考えました。
ただの棒を用意して、その棒をつかむゲームを子どもたちにさせ、誰の反応速度が速いかを問うのです。「どうして速いってわかる?」とたずねると、つかむまでの時間を元に答える子どもとつかむ位置を元に答える子どもがいるはずです。そこで、ストップウォッチや巻き尺を用意して、客観的に誰が速かったかの記録を取らせます。自分たちはどうやって測定するかを考えさせ、どんなこと注意をするか、工夫するかといったことを考えさせます。これが授業者の考える実験の評価につながっていくと思います。ストップウォッチを使って時間を測ったものと、つかむ距離を測ったものをどうやって比べるかを考えることを課題とします。また、どちらが正確かを考えると、ストップウォッチで測る時には、測定者の反応速度も影響するので誤差が大きくなり、精度を高めるには距離を測る方がよさそうだ気づきます。一方、反応速度とつかむ距離は比例しないことから、指標としては時間の方がよいことにも気づけます。こういったことから、距離を時間に直すために、長さの代わりにつかむ位置で反応速度がわかるように目盛りをつけて測定器をつくる意味が見えてきます。長さを使って時間を間接的に測るという経験は、「直接測れないものも、それと物理的な関係がある他の物を測ることで測定できる」という科学的な見方・考え方を知ることにもつながります。
実験や授業のネタの引き出しの多い方です。だからこそ、先生主導で与えるのでなく子どもたちが主体的になるような授業の組み立てを意識されると、素晴らしい授業が生まれると思います。とても意欲的で研究熱心な先生です。私の話も真摯に聞いてくださいました。これからどのように変化されるか次回授業を見ることがとても楽しみです。

中学2年生の社会科の地理分野の授業をタブレット導入の中心となっている先生と一緒に参観しました。
子どもたちは授業者の話を一生懸命聞こうとしています。授業者の問いかけによく反応してくれますが、反応する子どもだけとのやりとりになってしまいます。その反応を受けてまた授業者がしゃべります。結果として一部の子どもが反応するだけで多くの子どもは受け身の状態が続くので、集中力を失くす子どもが目につきます。しかし、子どもたちの状態は決して悪いわけではありません。集中力を失くしても、場面が変わればまた復活します。やる気はあるのです。ちょっとまわりと相談する場面をつくるだけでも大きく様子は変わるはずです。先生は伝えたいことがたくさんあるので、どうしてもしゃべりすぎることが多いのですが、子どもたちが活躍する場面をどうつくるかを考えることが大切です。自分が説明しなければわからないと考えるのではなく、子どもたちが自分で調べ、学ぶことが一番の方法だと考え、その必然性のある課題や場面をつくることを意識してほしいと思います。
こういったことをお話ししながら授業を見ていたのですが、話を聞いていた先生は他人事ではなく自分のこととして真剣に自分の授業を振り返っておられました。この姿勢が素晴らしいと思います。こういう方たちが原動力になっているのでしょう、中学校の先生方の雰囲気がよい方向に変わりつつあります。1人1台のタブレットの導入と合わせてどのような変化がみられるかとても楽しみです。

いろいろな面でこの学校に新しい風が吹いていることを感じます。次回の訪問がとても楽しみです。
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