どんな力をつけるのかを明確にして授業を組み立てる

以前の日記の続きです。

国語の授業研究は、2年生の「どうぶつ園のじゅうい」という教材で、時間を表わす言葉に着目して文章を整理する場面でした。

子どもたちは授業者の指示に従って素早く行動します。授業規律がしっかりできていることがわかります。また、授業者とのちょっとしたやり取りの中で子どもたちの笑顔がたくさん見られることから、授業者と子どもたちの人間関係のよさもわかります。学級経営がきちんとできている教室でした。

授業者が、文章を短冊にしてバラバラにしたものと台紙を見せます。短冊ごとに色がついています。子どもたちは「なんじゃこりゃ」と楽しそうに反応します。この日の活動に興味を持ったようです。2人に1つずつ配り、これから行う作業について説明を始めました。目の前にものがあるにも関わらず、ほとんどの子どもが顔を上げてしっかりと話を聞いています。この文章を並び替えるのが課題です。「この文章に注目したよ」というところに線を引くように指示しますが、並び替える基準がはっきりしないので、どこに注目するかと言われてもよくわかりません。

授業者は、並べ替えることはせずに、注目した言葉に線を引くことだけをペアで相談してやるように指示しました。しかし、どのように並べ替えるのかがはっきりしていないので、互いに相談するにも根拠を明確にすることができません。短冊が一つずつしかないので、分担して作業をするペアがいます。また、一方の子どもが場を仕切って道具を独占しているペアもいました。相談するという授業者のねらいとはずれた行動が目につきます。相談しながら協力して作業することが、子どもたちにまだ定着していないようでした。「個人で別々に線を引いた後、同じ所と違うところを確認する」「互いに理由を聞き合い、納得できたところに線を引く」「納得できない、意見が分かれたとろは違う色で線を引いておく」といったスモールステップに分けて作業をする必要があったように思います。

子どもたちが作業を終えた後、線を引いたところを元に順番に並べ替えるように指示をしますが、ここでどのような力をつけたいのかが問われます。時間に着目して正しく並べ替えることが第一になのか、時間に着目することを子どもたち自身に気づかせる、意識させることが第一なのかで、進め方は変わります。時間に着目して並べ替えることが第一あれば、線を引く作業の前に、時間を示す言葉に着目することを確認する場面が必要だったでしょう。そうではなく、子どもたち自身に気づかせたいのであれば、どこに線を引いたかを確認し、時間を表わす言葉使って順序立てることの価値付けをすることが必要です。順序立てて表現すると文章がわかりやすくなることを意識させることは、読解力だけでなく、表現力をつけるためにも大切なことです。

子どもたちのテンションが高くなります。根拠を持って相談しながら進めるのではなく、自分の思ったように並べ替えようとして短冊を奪い合っている姿が目につきます。子どもたちは授業者の指示に従って動いているだけで、何を根拠に考えるかという戦略がないままに活動しているのです。

授業者は子どもたちが並べ替えたものを写真に撮って、電子黒板を使って表示します。同時に複数を表示すると言葉までははっきりと見えませんが、色によって順番の違いはわかります。拡大コピーしたものが用意されていて、短冊の内容が必要な時にはそれを黒板に貼ることで対応します。なかなか面白い使い方でした。
子どもたちの意見が分かれているところが色によってわかるので、そこを焦点化して、どの言葉に注目したかを問いかけます。子どもたちの手はよく挙がります。「時間」とつぶやく子どももいましたが、授業者の耳には届かなかったようです。指名された子どもたちは、「朝」「昼過ぎ」と答えていきます。線を引けなかった子どもにも、それでよいかを確認します。よい対応なのですが、なぜよいのかという根拠が共有されません。結論ばかりが強調されます。子どもたちが線を引けていない文章もあります。線を引けた子どもに聞きますが自信がなさそうです。授業者はとりあえず発表されたところに線を引いておこうかとしましたが、ここは、「なかった」「線を引けなかった」子どもに、「何がなかった?」「どんな言葉を探していたの?」と聞くことで、視点が明確になり焦点化できたと思います。その上で、もう一度線を引く作業をさせたいところでした。やはり線を引いたところを確認するのは、並べ替える作業の前にしておいた方がよかったと思います。
朝、昼といった1日のいつ頃かが絶対的にわかる言葉がない文章で、「1日の終わりに」という言葉に線を引いた子どもが発表します。それまで、大きな声で「いいです」と言っていた子どもたちが反応しません。その中で「あー」という言葉を漏らす子どもがいます。よい場面です。しかし、授業者はそれを拾わずに、とりあえずそこに線を引いて、「ここまでで並べ替えてみよう」と先に進めました。ここは、「あー」といった子どもに、「どういうこと?」と問いかけたいところでした。

意見の分かれたところで、本文の言葉を根拠に説明できる子どもがいますが、子どもたちはあまり反応しません。友だちの意見を理解するのに時間がかかっているのです。しかし、その言葉を受けて授業者が、説明をして「これでいい?」と結論づけてしまいます。友だちの説明を聞いて納得した、わからないということを全体で共有しながら進めることが必要です。もう一度、ペアやグループにして相談させることも有効でしょう。
結局子どもたちがペアで活動していた時間は、あまり思考していなかったのです。そのことがいけないのではなく、いったん活動を止め、焦点化してからもう一度活動させるのです。線を引けなかった子どもに、相対的に時間の流れがわかる言葉に注目することに気づかせ、再度作業をさせることが必要だったと思います。

「1日の終わりに」「家に帰る」という言葉で、最後に来る文章がどちらかで意見が分かれます。授業者はここでもう1度相談させ、それから全体で確認します。
1人の意見に対して、「いいです」と声が上がります。授業者はそれで結論づけずに同じでもいいからと他の子どもにも意見を発表させます。よい対応です。次に発表した子どもの意見は、結論は同じでも理由が異なります。2人の意見を聞いて、子どもたちに動きが出ます。まわりにいる子どもと話を始めたのです。授業者は「いい?」と何人かに声をかけ、納得したことを確認して結論づけましたが、いいかどうかではなく、その子どもの言葉でもう一度説明させたいところでした。

子どもたちは、正しい順番に並べ替えるという作業をして正解を確認しましたが、結局何が大切だったのかははっきりしないままに終わりました。子どもたちにどういう力をつけたいのか、そのために何が大切なのかが明確になっていなかったように思います。
授業者は、子どもとの関係もよく、授業規律もしっかりとしています。だからこそ、課題もはっきりと見えてきます。子どもたちにどんな力をつけるのかをしっかりと意識し、そのためにどのような組み立てをするのかを考えることが大切です。この教材ではどのような見方・考え方を育てたいのかをまず考えることから教材研究を始めてほしいと思います。
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