どのような見方・考え方を身につけさせるのか

昨年度の中学校での若手への授業アドバイスです。

3年生の数学は相似条件の学習でした。
前時の復習で、相似とは何かを確認します。子どもたちはノートを開いて見ていますが、友だちが指名されても顔が上がりません。指名された子どもが答えると授業者が内容を確認してすぐに、相似な図形の性質は何かとつなげます。しかし、子どもたちの顔は上がらないままです。大切なことであれば一人指名して終わりではなく、何人も指名して確認することが必要です。
授業者が相似な図形の性質を書いた紙を貼ると子どもたちはすぐに写そうとします。復習ですので写さなくてよいと授業者が指示をすると、初めて子どもたちの顔が上がりました。
授業者は対応する線分の長さの比、対応する角の大きさがそれぞれ等しいという性質を読み上げた後、相似な図形の性質を使うためには合同をちゃんと覚えていることが大切であると伝えます。ここで気になったのが、その間子どもたちの視線が定まらないことです。まだ板書を見ている子ども、下を向いてしまっている子どもとバラバラです。今一つ集中が感じられません。
続いて三角形の合同条件の復習をします。指名された子どもが答えて、それを授業者が確認しますが、子どもたちは指名されなければ関係ないという雰囲気で、授業者が黒板に書いたことを見ているだけです。子どもたちの授業に対するエネルギーが感じられません。復習なのですから、多くの子どもは答えられるはずです。まわりと確認するといった活動を入れるだけで随分雰囲気が変わると思います。
授業者はこの合同条件を覚えていれば、相似条件は簡単だと説明します。しかし、ここで言っている簡単とは、相似条件を覚えることです。数学的に相似条件をきちんと説明することはそれほど簡単ではありません。どのように考えればいいのか、そこを大切にしたいところです。

授業者は教科書を広げさせて課題を自分で読み上げます。与えられた三角形と相似比が1:2の三角形の作図をするのですが、子どもたちが課題をしっかりと理解する間もなく黒板に図をかき始めます。相似条件と作図の関係もよくわからないままです。合同条件は同じ形の三角形を作図するための条件と言い換えてもよいのですが、こういった作図と条件の関係をきちんと押さえていません。
黒板と同じようにノートに三角形ABCを書くように指示します。どのような三角形でも成り立つことが重要なはずなのに、わざわざ黒板と同じようにと指示する意味が分かりません。
授業者はポイントは三角形の相似比が1:2と説明します。しかし、本当にそうでしょうか。相似な図形という意味では、三角形の3つの辺の長さの比が一定であれば必ず相似になります。また、2つの角の大きさがそれぞれ等しければこれも必ず相似になります。ここで相似比が相似であることのポイントというのは今一つよくわかりませんでした。
授業者がこの説明をしている時も子どもたちの顔は上がりません。まだ図形を書いている子どもがほとんどです。ポイントというなら全員の顔を上げることを意識したいところです。授業者は1個だけ条件を足したいとしゃべりながら、図をかきます。すると子どもたちは一斉に写し始めます。ノートに写すことが最優先で、常に受け身です。まず考えようという姿勢を求めることが大切です。

授業者は図をかくのに「コンパス、分度器、三角定規どれを使ってもらっても構いません」と言いますが、数学の作図の定義では分度器は使えません。相似比を使って長さを決定するのであれば三角定規で長さを測ることが必要になりますが、これも作図の定義では利用できません。もちろん相似を学んでいる途中なので、与えられた比になるような線分をかくのは簡単ではないのですが、作図を意識するのであれば、「同じ角度をつくる」のに「分度器を使ってよい」、「与えられた比になるような線分をかく」のに「三角定規をつかってよい」というように、やりたい作業とそのための道具を明確に分けるとよいでしょう。そうすれば、「同じ角度をつくる」のは「コンパスと定規でできる」と置き換えることで、この後、数学的に正しい作図を学習する時に自然に移行することができるはずです。

できた人は他の方法も考えるように指示をして個人作業に入ります。子どもたちは見通しが持てていないのでなかなか手が動きません。10分以上個人作業を続けた後、机間指導中に目をつけていた子どもを指名して、板書させます。子どもたちは、板書の様子をよく見ています。しかし、書き終ったあとすぐに授業者が解説を始めます。せっかく書いている過程を子どもたちがしっかり見ているのですから、何をしていたのかを本人や見ていた子どもたちに問いかけたいところですし、どのようにしてこのやり方に気づいたのかといったことも聞きたいところでした。また、授業者が解説するのであれば、実物投影機などを使うことでムダな時間を省くことも視野に入れるとよいでしょう。
授業者がどのようにしてかいているのかを説明した後、これが合同条件のどこに似ているのかと問いかけます。それよりもまず数学的な根拠を問うことが大切なのですが、授業者の考え方ですぐに結論に誘導しようとしています。
指名した子どもの作図が、合同条件の「一辺の長さと両端の角の大きさが等しい」と似ていることを指摘して、相似条件を授業者が示します。しかし、この条件で相似な三角形がかける根拠ははっきりしません。相似の性質から対応する角の大きさが等しければ相似になると説明しますが、相似の性質と定義がこっちゃになっています。最初に説明した相似の性質が必要条件なのか十分条件なのかも曖昧です。そのため、三角形の3つの相似条件を授業者が説明するのですが、数学的に根拠がおかしな説明になってしまいました。結局授業者が結論を与えるだけで、子どもたちが活動を元に考える場面がありませんでした。数学としてどのような力をつけたかったのかはっきりしない授業になってしまいました。

中高等学校の範囲では相似を数学的にきちんと定義することはできないので、相似の扱いは難しいのですが、だからこそ子どもたちが論理的に考える場面をつくることが大切です。
拡大縮小を使って定義するのなら(拡大縮小の定義が実はされていない、できないのが問題ですが)、根拠を拡大縮小に求めることを意識したいところです。

この教材でどのような数学的な見方・考え方を子どもたちに身につけさせたいのか、そしてそのためにどのような活動するのかを意識することが大切です。子どもが考え、そしてその考えを深めていくことを大切にする授業を目指してほしいと思います。

この続きは明日の日記で。
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