全員で共有することを意識する(長文)

ずいぶん間が空いてしまいましたが、前回の日記の続きです。

5年生の小学校の少人数による算数の授業です。
元気な号令と挨拶で授業が始まります。授業者は「いい号令だね」とほめます。ちょっとしたことですが、こういう言葉が子どもたちの意欲につながっていきます。
この日の課題となる問題を配ってノートに貼らせます。遅い子どもに早くするよう促します。早くすることを求めるのはよいのですが、名指しで注意するよりも早い子どもをほめることでよい行動を広げるようにするとよいでしょう。

この日の問題が今までと何が違うかを問いかけますが、多くの子どもはまだ作業を続けていたり、下を向いていたりして授業者の方を見ていません。一人の子どもが手を挙げるとすぐに指名しました。指名された子どもが起立すると、子どもたちはそちらの方に体を向けます。こういった規律がしっかりできているのに授業者が話す時には顔を上げることができないということは、授業者がこのことを意識していないのかもしれません。
指名された子どもが「帯分数の計算です」と答えると「いいです」という声が返ってきます。授業者はすかさず「帯分数って何ですか?」と子どもたち問い返します。数人が手を挙げるとすぐに指名します。一見するとテンポのよい授業に見えるのですが、最初の「帯分数の計算です」という発言をまだ全員が共有できていません。また、帯分数についても思い出そうとしている途中の子どももいるはずです。すぐに指名するのではなく、子どもがちょっと考える間、子ども同士で確認する時間を取るといったことをするとよいでしょう。
指名された子どもは「整数と分数が重なっている分数です」と答えます。授業者はすぐにこれだねと廊下側の窓に貼ってある授業のまとめの掲示を指さします。しかし、子どもの答は言葉足らずです。全体でやり取りしながら修正していくことが必要です。授業者は正しい定義をしなければいけないという意識が希薄なのかもしれません。重なっているというのはどういうことでしょうか?分数であれば何でもいいのでしょうか?こういったことをきちんと押さえることが必要です。帯分数は、分数を整数と真分数の和で表わしたもので、前に整数部分、その直後に真分数の部分を書くことで表わしたものです。「真分数」を押さえることが特に重要です。そのことによって、その分数は整数部分より大きく整数部分に1を足したものより小さいことがわかります。復習としてはここを押さえてほしいと思います。

帯分数の足し算ができそうかどうかを子どもたちに聞きます。ほとんどの子どもができそうと言いますが、授業者は「ちょっと心配な人?」と声をかけ、何が心配かを聞きます。不安な子どもに寄り添う姿勢はとてもよいと思います。「帯分数がじゃま」という返答から、「帯分数をやっつけよう」と、この日のめあて「帯分数の足し算と引き算の解き方を考えよう」を板書します。子どもの発言からめあてを引き出すところはいいのですが、発言者と授業者だけで進みます。ここでは、まず全体で困っていることを共有することが大切です。
子どもから「帯分数を消せばいい」というつぶやきが出てきます。「『消せばいい』、斬新だね」と受け、整数部分を「消しちゃうの?そんなことしていいの?」と返します。おそらく発言した子どもは帯分数でなくすればいい(仮分数にする)という意味で言ったのだと思いますが、授業者はそれを別の意味に解釈してしまったようです。子どもの考えを確かめるために「それってどういうこと?」と聞き直し、「○○さんの考えを聞こう」と全員で共有するか、「○○さんの言っていることわかる人いる?」とつなぐといったことをするとよいでしょう。

「問題が解けそうな人がいるけど、何となくではなくいつものように根拠と理由を説明して」と子どもたちに話しかけ、「まず何をする?」と問いかけました。根拠を大切にしていることはとてもよいことですが、手順を問いかけているようにも聞こえます。仮分数の足し算ならできることを確認しながら、「これがあるから厄介だ」と整数部分を指さし、見通しを持たせることも意識できています。見通しを持たせるためにも、先ほど述べたようにまず困っていることを全体で共有することから始めたいところです。この場面で身につけさせたい数学的なものの見方・考え方は、既知のものに帰着して考えることです。そのためにも、復習の場面で帯分数を仮分数に、仮分数を帯分数に直す練習をいくつかやっておくとよかったと思います。表記が違うだけでどちらも同じ数を表していることをちんと押さえおくのです。
子どもから「帯分数を仮分数に直す」という言葉が出てきました。すると、授業者はすぐに「じゃあ直して」と作業に移ります。ここで、このことを価値付けすることが必要です。「何で?」と問いかけ、「仮分数なら足し算できるから」という言葉を引き出し、「なるほど、仮分数ならやれるね」と、わかっていること、できることに帰着させていることを価値付けするのです。
指名した子どもを前へ出させて、帯分数を仮分数にする説明をさせます。指名された子どもは一生懸命に説明し、子どもたちもしっかりと発表者の方を向いて聞いています。授業者は発表者だけでなく、全体の様子をよく見ています。集中できていない子どもがいればすぐに対応できるでしょう。授業者のこういう姿勢が、子どもたちが集中して聞いている理由の一つでしょう。
途中で整数部分の3が6/2になることについて、授業者が追加の説明を求めます。決して悪い対応ではないのですが、他の子どもたちに「6/2って何のことかわかる?」とつなぐとよかったと思います。
説明が終わるとすぐに授業者が解説を始めます。せっかくていねいに子どもが説明したのですから、「○○さんの説明をもう一度言ってくれる人」とつないで、全員で共有しその説明のよさを価値付けしたいところでした。
続いて問題を解くのに何分ほしいかを子どもたちに聞きます。ここは時間で追うことよりも、できた後何をするかを指示しておくことの方が大切だと思います。4分と決めた後、答の書き方を説明しますが、何人かの子どもたちはすぐに問題を解き始め、説明を聞いていません。先に説明をしておくか、いったん問題を解くことをやめさせることが必要です。
机間指導をしながら○をつけていきますが、途中で時間が来てしまいました。「隣の人に説明できる?」と聞くと一人の子どもが「無理です」と返しましたが、多くの子どもは反応しません。授業者は全員の答を見たいからと2分延長しました。中には手持ち無沙汰にしている子どももいます。少人数なのでもう少し早く机間指導をし、早く終わっている子どもへの指示もしておくことが必要でしょう。

時間が来るとノートを交換して自分の考えた解き方を相手に説明します。日ごろからこういう活動をしているのでしょう。子どもたちは体を寄せ合い、よい雰囲気で説明を聞き合っています。続いて発表してくれる人と聞きますが、○もつけ、隣同士で確認もしているのに、挙手する子どもは半分くらいです。なんとか全員にしたいところです。挙手に頼らず指名することや、ペアでの活動を活かして隣の子どもの考えを発表してもらうといったやり方も視野に入れるとよいでしょう。
指名した子どもはしっかりと説明ができます。帯分数を仮分数に直す説明が終わったところで授業者が「なぜ仮分数に直すのか?」と問いかます。発表者は「計算できないから」と返します。授業者はそれを受容して続けさせますが、先ほどの子どもの説明の時と同様に、大切なことなので「計算できないってどういうこと?」ともう少し詳しい説明を求め、全体で共有したいところでした。
説明が終わった後、「よかった」「すごかった」といった評価を子どもたちから引き出します。こういったところもとてもよいと思います。ただ、反応する子どもが一部なのが残念です。もう少し子ども同士をつないで全員がかかわるようにするとよいでしょう。

次の子どもの説明では、「数が大きいから」と説明してから公約数で分子と分母を割りました(約分)。授業者は「数が大きいから?」と、3/2002と板書して「数が大きい、どうするの?」と問い返します。よい返しなのですが、ここも授業者と発表者だけでのやり取りになっています。全体をどう巻き込むかが課題です。
「数が大きいから」を「訂正」することを発表者に求めます。「訂正」という言葉は「間違えている」という指摘になります。発表者は上手く答えられず、結局授業者は他の子どもを指名して、「まだ、約分ができるからです」という言葉を引き出しました。ここでは、「○○さんは何をしたの?」「このことを何ていった?」と「約分」に気づかせ、その後で、言い直させるとよかったと思います。

「もう一段行こうと思えば行けるんだけれど」と仮分数の答を帯分数に直した子どもに発表させます。このこと自体は問題ありませんが、仮分数と帯分数をどう使い分けるのかということをどこかで明確にしないと、子どもたちはどちらで答を書けばよいのかわからなくなってしまいます。数学の世界では帯分数を使うことはまずありません。この時期だけ帯分数を使う意味を考えて、指導することが求められます。
授業者は解き方を振り返りながら、子どもたちに「ここまで何をした?」とステップごとに手順を子どもたち言わせます。子どもたちの言葉でまとめようとするのはとてもよいと思います。ただ、手順そのものだけでなく、必要に応じて「何でそうするの?」ともう一歩進めて根拠を問い返すとよいでしょう。

「仮分数に直さずにできるのか?」と問いかけて、「帯分数のまま計算ができる人?」と聞きます。すぐに何人かの手が挙がりますが、今初めて考えた子どもは反応できません。それにもかかわらず授業者は指名しますが、これではやり方を知っている子だけが活躍します。今初めて考える子どもの思考の時間を確保する必要があります。
また、帯分数のまま計算する方法は、足し算はよいのですが、引き算の場合は分数部分が引かれる数の方が小さいと整数部分から1を借りてくるということが必要になります。このあたりをどう扱うのかをきちんと考えて取り組むことが必要です。授業者はおまけのつもりなのかもしれませんが、扱いに注意が必要です。
指名された子どもは、答の分数部分が仮分数になってしまいました。その後を他の子どもが引き継ぎます。次の子どもは分数部分を真分数に直しましたが、約分を忘れました。別の子どもが引き継いで正解にたどり着きました。なかなかよい展開なのですが、やはり一部の子どもだけで進んでいます。一つひとつの場面で全員の問題として共有することを意識できるとよいでしょう。

授業者は、子どもたち全員に根拠を持って考えさせたいと思って授業を組み立てています。子どもの発表に、適切な切り返しをすることもできます。しかし、どうしても一部の子どもとのやり取りになって、他の子どもはただ友だちの説明を聞いているだけになってしまいます。子ども同士がかかわりながら、より深く考える場面をつくることを意識すれば、とてもよい授業になるはずです。これからの変化が楽しみです。

この続きは次回の日記で。
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31