数学の問題を解く過程を構造化してほしい(長文)

前回の日記の続きです。

7年生の数学は、比例式の学習でした。
ワークシートの前時の復習の問題を解くことから始まりました。子どもたちは途中で困るとノートや教科書を開いています。手がつかないままじっとしているよりもずっとよいことです。一方、すぐに解き終った子どもが手持ち無沙汰にしています。できた子どもへの指示が必要でしょう。
隣同士で答の確認を行うよう指示をしますが、子どもがすぐに動きません。この授業に限らず、子ども同士かかわりあわないことが気になります。授業者がかかわり合うように声をかけると動き出すのですが、隣を無視して後ろとかかわり合ったりします。子ども同士の人間関係がどうにも気になります。子どもたちがかかわれないままムダに時間が過ぎていきました。こういう場合は活動を止めて、早く次に進むべきでしょう。

答を挙手指名で確認します。最初に指名した子どもが勢いよく答えますが、まわりの子どもが違っていると指摘します。このこと自体はよいのですが、先ほどの隣同士での確認場面の意味はなかったということです。
挙手は結構あるのですが、はなから答える気のない子どもも目立ちます。指名した子どもの答が正解だと、「いいですか?」「いいです」とすぐに次にいきます。子どもたちがきちんとかかわって、解き方を理解しているのならよいのですが、そうでなければ答だけを共有してもあまり意味はありません。何が大切なのか、何を復習すべきなのかをしっかりと意識することが大切です。また、「いいですか?」と友だちにチェックされるということは、自信のない子どもにとってはちょっときついように思います。問題が少し難しくなると挙手が少なくなる理由の一つかもしれません。

子どもたちが困っていた問題については、正解を確認した後、途中の式も確認をします。これはよいことですが、「式を書いてある人?」と問いかけても挙手する子どもは一人だけです。自信がないので手を挙げないのかもしれませんが、途中の式は必ず書くように指導しておく必要があります。
挙手した子どもを指名して、みんなに向かって説明をさせます。子どもたちに聞くようにと声をかけますが、顔が上がらない子どもが目立ちます。こんな問題はわかっているからと、聞かない子どももいるようです。子どもの説明が途中でちょっとあやふやになりました。授業者はそこで止めて、最初から説明をし直します。こうなると、先ほどの子どもの発言を聞くことの意味はなくなります。「○○さんの言いたいことわかる?」と、聞いている子どもと発表者をつなぐといったことをしてほしいと思います。聞くことの価値をどうつくるかが課題です。

比例式を解く時のポイントを内項どうし、外項どうしをかけることだと押さえます。悪くはないのですが、比例の単元で比例式を扱う本質を押さえてほしいと思います。比例するということは比の値が一定、等しいということです。そこを忘れていつも内項、外項の関係で考えると落とし穴にはまってしまいます。連比になるとわけが分からなくなってしまうのです。比の値(比例係数)を意識することが必要です。

比例式の項が多項式のときに、項と項の積は()を付けないとおかしくなりますが、ここでつまずいている子どもも目立ちます。式の扱いの基本が定着していません。これはこの単元で学習している比例式とは直接関係ありません。授業者はこのことを押さえますが、この問題を解く過程で軽く説明する程度では定着しません。子どもたちの基本的なつまずきについては、別にきちんと対応することが必要です。

x:(14−x)=2:5の比例式を解く途中の式を書かせると、いきなり5x=28−2xになっていました。一番大切なのは、x×5=(14−x)×2という比を数の関係に直す式ですが、これを省略するという悪い癖がついています。何が本質で、何が大切なのかをきちんと子どもたち理解させることが必要です。
友だちの説明を子どもたちはしっかりと聞きません。答が合っているので聞く必要がないという空気を漂わせています。答が合っていることではなく、きちんと説明できることが大切であるという価値観を持たせる必要があります。数学的なものの見方・考え方を意識して授業を進めてほしいと思います。

復習が終わって新しい課題に入ります。「牛乳とバターの分量費比を10:3にしてホワイトソースをつくります。牛乳を150g使用した時のバターの量をxgとして比例式をつくりバターの分量を求めなさい」という問題です。現実の問題に数学を適用させようというのでしょうが、比例することや解き方まで指定されているので、現実問題とは乖離しています。数学の問題のための問題になっています。授業者は問題文を読んだ後、いきなり、この文章から自分で比例式をつくるように指示しますが、子どもたちはしばらく手が動きません。問題を把握できていないのです。比例式をつくれとは書いてありますが、少なくともなぜ比例式になるのかといったことを子どもたちとやりとりする必要があったと思います。
子どもたちにとって現実的なものにするのなら、「牛乳200ccとバター60g使ってホワイトソースをつくるとおいしくつくれました。また同じようにつくろうとしたら牛乳が150ccしかありません。量は減っても構わないので、同じ味にするにはバターを何gにすればよいでしょうか?」といった問題にしたいところです。現実に当てはめる時に一番大切なのは、現実が数学的にどのように記述されるかです。ホワイトソースを同じ味にするには、材料の割合を一緒にするということです。まずここを押さえることが必要です。割合が一緒だということは、比が一定、比例式で表わせるというのは、子どもたちにとってそれほど自明ではありません。この部分をしっかり考えさせることから始めるのです。そこをすべてこちらから与えても、現実問題を考える意味はないのです。

自然に相談している子どもがいるのですが、まったくまわりとかかわらずに手詰まりになっている子どもも目にします。授業者は困っている子どもに対して個別に対応していますが、ここはまわりで相談している輪の中にその子どもを引き込むように働きかけたいところです。
つくった比例式を発表させますが、子どもたちの手はほとんど挙がりません。実際にはもっと多くの子どもが式を書けているのですが、積極的に答えようとしません。というか、この場面は自分が参加する場面ではないと、下を向いたり手遊びしたりしている子どもが目立つのです。授業者は柔らかい表情で、「書けている人はもっといたよ」と、やさしく子どもたちに参加を促しますが、挙手は増えません。結局挙手した子どもの一人を指名しました。挙手に頼らず指名し、指名した子どもの発言をしっかり受容することを積み重ねて、安心して発言できる雰囲気をつくるようにすることが必要だと思います。

発表された比例式に対して、なんでこうなったのかを問いかけますが、これはとても答えにいくい質問です。牛乳とバターの比が与えられているのですから、そのまま何対何だからとしか答えようがありません。比例式の定義や式をつくる時のポイントが明確になっていないので、子どもたちは説明する言葉を持っていません。「比例するというのは、比の値が一定であるということ」「比の値は何を基準にするかが大切」「基準となるものを分母に持って来る」「比例式にするのであれば、その順番が同じ」といった言葉を与えておくことが必要でしょう。
質問に反応したのか、ちょっと手を動かした子どもを授業者は指名しまた。式をつくることはできているので、他の子どもたちは聞く姿勢を見せません。子どもたちにとってはこの説明に価値はないのです。指名された子どもは、「牛乳と……」と口を開きましたが、そのまま凍ってしまいました。しばらく待ってから、授業者が「さっきのでよかったよ」と声をかけると、子どもは「牛乳とバターが150:xだから……」と言葉を続けました。それを受けて授業者が、「ここに書いてあるね。牛乳とバターの比が……」と問題文で確認しますが、何を押さえたいのかよくわかりませんでした。

続いて「姉と妹が50枚ずつ折り紙を持っていて、姉が自分の折り紙の何枚かを妹に渡したら姉と妹の持っている折り紙の枚数の比が11:14になった。何枚渡したか」という問題に取り組みます。子どもたちの動きが相変わらず遅いことが気になります。この問題を解くための見通しを持てていない子どもが多いようです。しばらく個人で取り組ませた後、グループにして相談するように指示しますが、子どもたちはなかなかグループになりません。人数の関係で隣同士が別のグループになるのですが、移動しようとしない隣の子どもの机を、無理やり移動させる子どもがいました。机を移動された子どもは、それ以上机をぴったりとはくっつけず、なかなかかかわりません。授業者はその様子に気づいて机をくっつけさせますが、それでも状況はあまり変わりませんでした。また、机を動かしてよそのグループに遠征する子どももいます。だれとでも話し合うことができないようです。

子どもたちのワークシートに式しか書かれていないことが気になりました。式もポイントとなるものが書かれていません。説明を書くことや考えを式で伝えるといった発想がないようです。また、授業者の板書にも言葉による説明が書かれていません。数学において、表現力を育てることと論理的な思考力を育てることは表裏一体です。説明を書くことを意識してほしいと思います。

しばらくすると、子どもたちのテンションが上がってきます。「先生できた」と大きな声を出す子どももいます。できたことがうれしいのはよいのですが、Try & Errorで見つけて、それで満足しています。答を出すことが目的化しているのが残念です。
作業中に一人の子どもを指名して、黒板に答を書かせますが、他の子どもたちはその内容を見ようとはしません。グループでかかわり合うでもなく、自分で解くことに集中しているわけでもなく、だらだらと時間が過ぎていました。

グループの隊形から元の形にもどして、先ほど指名した子どもに説明をさせます。困っている子どもも多かったのか、顔を上げる子どもは増えていますが、それでもきちんと体を前に向けて集中して聞いている子どもはわずかです。
説明は、一つひとつの式の計算を言うだけで、一番大切な比例式をどのようにしてつくったかはほとんど触れられません。一度説明をさせた後でよいので、ポイントなるところを「それってどういうこと」と焦点化しながら、もう一度詳しく説明をさせることが必要でしょう。
説明が終わると拍手をしますが、特に評価したり価値付けしたりはしません。すぐに授業者が説明を始めます。この時一人の子どもが黒板を指しながら隣に何か説明していました。何を話しているのか聞いて、その言葉を活かしたいところです。

授業者は問題を解くことをきちんと構造化していません。子どもの板書に従って説明をするだけで、書き足すこともしませんでした。説明は、xは何か確認するところから出発しますが、「何がわかればいい?」「何をxと置くとよいのか?」と、問題を解く視点から始めることが大切です。次に、条件から比例式をつくるところまでで、いったん立ち止まる必要があります。ここがこの単元で新たに学習したこととこの文章題の接点です。そして、関係を比例式で表わせれば、それを方程式に直すことが次のステップです。ここまでがこの単元での学習のポイントです。このことをしっかりと押さえれば、そこからは、一元一次方程式を解くだけです。最後に、解の吟味をします。これらのステップをきちんと立ち止まりながら確認し、どこでつまずいたのかを意識させることが大切です。
比例式に頼らず答を求めていた子どもがいたので、その答が正しいのかをどう確認するのかを問いかけます。解の吟味につながる場面なのですが、先ほどの比例式のxに値を代入して確かめました。そうではなく、問題文に沿って、「姉の折り紙の枚数はいくつになった?」「妹の枚数は?」「比は?」と確認することが大切です。

問題を解くこと、答を出すことが目的化して、論理的に思考すること、根拠を意識することが弱くなっていました。問題を解く過程をきちんと構造化し、それぞれを価値付けしていくことを意識してほしいと思います。

この授業でも、ペアやグループにした時の子どもたちの関係が気になりました。どのようにしていくとこの関係が変わっていくのか悩ましいところです。

この続きは次回の日記で。
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