ベテランの英語の授業の進化に感心する

前回の日記の続きです。

10月は英語の授業研究に参加しました。ベテランの先生のTTによる3年生の授業です。
授業者(T1)は常に授業に工夫をされている方です。"situation"や"root sense"を大切にした授業を目指されています。

TTをうまく活用しています。最初に2人でこの日学習する文法事項を組み込んだ会話を行います。子どもたちの集中して聞いている様子から、わかろう、わかりたいという意欲を感じます。
ハローウィンが近づいてきているのでT2がミートローフを2種類つくったと写真を見せながら英語で話します。中には体を乗り出して写真を見ようとする子どももいます。ここで授業者(T1)が"How did you make it? I want to know how to make it."と質問し、T2が"Ok. I tell you how to make it."と答えます。この"how to 〜"がこの日学習する文法事項です。授業者(T1)は、この表現を確認するために、"She said, “I tell you how to make it."“と繰り返します。
会話が終わった後、聞き取れたことを自然に確認し合っています。子どもたちの様子から、考えようとしていることがよくわかります。
授業者は余計な説明をせずに、もう一度会話を繰り返します。ミートローフをつくったというくだりはどの子どもたちは理解できているのか、とてもリラックスして聞いています。しかし、この日学習する文法事項の場面になると、一気に集中が増します。わからないところを理解しようと真剣に聞いているのです。
文法事項を学習するための"situation"がコンパクトに構成されています。とてもよい導入のための会話だと思います。
2回目が終わると子ども同士相談させます。子どもたちはしっかりとかかわり合っています。どうやってつくったのかを聞いていることは、理解できたようです。問題はここからこの日の文法事項をどう理解させ、使えるようにするかです。

授業者は、"I want to know what?"と問いかけ、焦点化していきます。子どもたちからは、言葉ができません。そこで、もう一度会話を見せます。
終わった後、"What dose ○○(授業者の名前)want to know?"と聞きます。焦点化してから会話を聞かせ、質問したので、今度は子どもたちから"how to make……"と声が上がってきます。普通ならここで授業者が説明をしたくなるところですが、隣同士で相談させます。とてもよい対応だと思います。
子どもたちは、よく話し合っています。会話の時にわからなくてちょっと集中力が切れていたような子どもも参加しています。わかった子どもはうれしそうに一生懸命に説明しています。授業者は子どもたちの様子を間に入って見ていましたが、声がおさまってきたので前に立ちました。T1、T2が前に立って姿勢を正して子どもたちを見ていると、自然に話をやめて授業者に集中します。一言も指示をせずにこの状態をつくりました。子どもたちがよく育っていることがわかります。

再び、"What dose ○○(授業者の名前)want to know?"と聞きます。子どもたちが口を開くタイミングがわからなくて止まっているので、"She"と誘い水を出しました。子どもたちは、"She" “wants" “to" “know"と一語ずつ言葉を出し始めます。その一言一言に授業者がうなずくと、それに合わせるように子どももうなずきます。"how to make it."と答を言い終ると授業者が拍手をします。それに合わせて子どもたちも一生懸命拍手をします。何も説明されずに、自分たちで答えることができたという満足感があります。一体感のある教室でした。
ここまで、授業開始から8分経っていません。非常に密度の濃い時間でした。

ここから、"○○(T2の名前), do you play Uno?" “Yes, I do." “She knows how to play Uno."と別の"situation"で練習です。しかし、ちょっと急ぎ過ぎのように思います。先ほどの"how to make"は1回言っただけです。全体で何度か繰り返し、定着させてから次に移りたいところでした。同様に"how to play ‘kendama'"と続きますが、子どもたちは黙って聞くだけです。続いて、"Do you write ‘bara' in kanji?" “No, I don't know."とやりとりをした後、今度は、"She"と文頭を言って、続いて"doesn't know how to write ‘bara' in kanji."を子どもたちに言わせます。聞かせて理解したことを使って、子どもたちに言わせるのはよいのですが、これまでの練習では肯定文ばかりで、いきなり否定文での練習です。ちょっと"contrast"が大きいように感じます。せっかく、少しずつ変化をさせて練習をしているのですから、都度子どもたち言わせて、練習量を増やしたいところでした。
“Do you swim fast?" “No, I don't."に対し、"She doesn't"に続いて"swim"と言いかけ、子どもたちが止まりました。"how to 〜"を使うパターンにならないことに気づいたのです。そこで授業者は、「困った時は?」と問いかけ、まわりと相談させます。子どもたちは笑顔でかかわり合います。
子どもたちがしっかり理解できたころ見計らって、もう一度"Do you play ‘kendama'?"から復習をします。"She knows how to play kendama."と言わせ、同様に"how to play Uno" “how to write ‘bara' in kanji"と練習します。先ほど困っていた"swim fast"も、今度は"She doesn't know how to swim fast."と言うことができました。

「今日やること大体わかった?」と問いかけるとほとんどの子どもたちの手が挙がります。続いて、"Earthquake happened in Tottori. Do you feel earthquake?"とその前の週にあった地震の話をします。授業者は前の席の子どもと何か話をし、"She knows how to protect yourself in earthquake."と全員に伝えます。"Do you know how to protect yourself in earthquake?"と子どもたちに問いかけると、何人かの子どもが手を頭にあてて地震から身を守る姿勢を取ります。外へ逃げるという子どももいます。子どもたちは英語を理解したという実感を持てていると思います。ここまで授業開始から15分です。子どもたち自身で考え理解する、よく工夫された展開でした。

続いて教科書に入ります。この日の内容は避難訓練の説明の文章です。鳥取の地震をうまくつなげていました。授業者は教科書を広げさせて範読します。ここまで、子どもたちはしっかりと聞いて理解していたので、教科書を見せずに理解させたいところでした。文法事項は既に理解できているので、新出の語句や不安なものだけをまず練習しておいてから、聞かせるのです。
何をしろと書いてあるのかを隣同士で相談させます。しっかりと聞き合えているペアもありますが、教科書を見て内容を理解しようとしていて、話しだせないペアもあります。時間の関係もあるでしょうが、できれば教科書なしで何度か聞かせてから、相談させたいところでした。文字面を追うことにあまりとらわれなくてもよいように思います。きちんと聞く話すができれば、読み書きは単語のつづりを覚えることでクリアできるはずです。子どもたちは集中して聞くことができるので、もっと聞く練習をさせるとよいでしょう。その上で、「わからなかったら教科書を見てもいいよ」と、本文を確認させればよかったと思います。
授業者は、緊急事態にどうしろと書いてあるのかを、地震の場合、火事の場合と教科書の英文を元に確認していきましたが、子どもたちはしっかりと答えることができました。

ワークシートを配って単語の練習を始めます。発音や意味を確認して練習しますが、ここからは従来の"pattern practice"です。これを否定しませんが、これらは本文を理解するために必要な情報です。であれば、本文に取り組む前にしっかりとやっておき、本文はそれを活用するための材料として使えばよいと思います。
子どもたちは、さきほどは、直訳にこだわらずに自分の言葉で説明していました。要約の形でそれをまとめさせればよいのですが、ワークシートには対訳があります。それを使って、日本語を英語に、英語を日本語に直す練習をペアで行います。子どもたちは相手の言葉の表す"situation"を英語や日本語で表現しているのではありません。言われた言葉をきっかけに暗唱しているだけなのです。せっかく"situation"を元に英語を理解していたのに、従来の暗唱の授業に戻ってしまいました。ペアを変えて練習をやり続けますが、だんだんテンションが上がっていきます。しっかり覚えてきたので、頭を使う必要がなくなっているのです。機械的な作業になってしまいました。
この練習の最後に、与えた時間内に全文を読めるか速読させます。速さを追求すると発音やイントネーションがおろそかになります。私には速読を英語の授業に取り入れる理由がよくわかりません。英語でコミュニケーションをとるための力と速読とは関係ないと思うからです。
また、この日学習した疑問詞+toが他の文の中に埋没してしまいす。ここは、子どもたちがこの日の学習したことを使う"situation"で、生きた言葉で会話をする練習をさせたいところです。疑問詞を使ってたずね、それをもとに疑問詞+toを使って言い換えるといった練習です。
導入部分と同じような教材研究が追加で必要になりますが、是非挑戦してほしいと思います。

最後は"listening"です。授業者は"listening"のポイントは何かを問いかけます。日ごろからこのことを意識しているのでしょう、子どもからは推測という言葉が出てきます。設問から、どういう言葉が出てくるのか推測して、聞き取りで注意をすべき言葉を考えるということです。3年生ですので受験を意識しているのはわかります。しかし、ちょっと本質とはずれているように思います。また、もし試験の形式が"listening"の後に問題文が提示されるようになった場合には全く役に立ちません。今後増えてくるであろうCBT(Computer Based Testing)なら、設問は後になると思います。
子どもたちに予測を相談させますが、しっかりとかかわり合えています。問題の文章を"listening"した後も、自然にまわりと相談しています。2回聞いた後、答にたどり着くまでにどんな単語が聞き取れたかを子どもたちに確認すると、いろいろな言葉が上がってきます。その上で、答の確認をしていきました。通常は答がわかって終わりになりますが、授業者は、何でそれでよいのか、もう一度聞いて確認させます。これはとてもよい活動です。わからなかった子どもは、答を聞いても聞き取れるようにはなりません。もう一度聞いて、自分が聞き取れなかったところ聞くことで力がついていくはずです。どの子どももとても集中して聞いていました。聞き終わった後、設問の答ではなく、話の内容を子どもたちに質問して確認します。設問の答を出すことではなく、聞き取ることを大切にしていることがよくわかります。受験対策と"listening"の力をつけること、両方を工夫していました。

この学校に赴任されてから2年目ですが、授業が本当に進化していると思います。ベテランが前向きに授業改善に取り組んでいることが、若い先生方に対してもよい影響を与えています。この学校の英語の先生方は、学年ごとに互いに相談しながら授業づくりをしています。若い方が多いですが、着実に力をつけています。ベテランの存在の大切さを改めて実感させられました。
この学校の英語が今後どのような進化をしていくのかとても楽しみです。

この続きは次回の日記で。
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