鍛えられている学生に感心する

愛される学校づくり研究会で、授業アドバイスツールを使った授業検討について研究を行っています。夏休みには、岐阜聖徳学園大学の玉置ゼミの学生さんたちに先生役、生徒役として協力していただき、とても学びの多い研究会となりました。

ゼミの学生の中からじゃんけんで選ばれた4年生が授業者となり、道徳の授業に挑みます。玉置先生から教材研究と授業の流れを教授された後、仲間のゼミ生2人と一緒に授業の進め方やポイントを考えます。これらがすべて、当日の午前中のことです。午後からすぐに、本番です。現役の教師でもちょっとしり込みするシチュエーションです。日ごろから鍛えられていることがよくわかります。子ども役も誰がどのような子どもを演じるのかを考えて準備に抜かりはありません。

題材は、ネットトラブルを扱った教材です。ヨーロッパのサッカーファンの子どもが、自分のひいきの選手をネットでバカにされてそれに言い返し、中傷合戦になってしまいます。「挑発に乗って中傷し合わないで」と書き込みされて落ち込みますが、最後に、「言葉の向こう側にある顔を思い浮かべてみて」というコメントに、自分が相手のことを考えてコミュニケーションを取れていなかったことに気づくというお話です。

授業者は緊張で胃が痛くなったと言っていましたが、どうして、堂々と授業を進めます。範読をしながら、ちょっと集中できない子ども役に気づいて声をかけます。読むことにいっぱいいっぱいで子どもを見ることできない先生も多い中、立派です。ただ、集中できない子どもを集中させようとちょっとかかわりすぎているように思いました。
テキストを持たせていないので子ども役の顔が上がっていなければいけませんが、視線がバラバラなのが気になります。ところどころ内容について問いかけますが、単発で終わってしまいます。子ども役の発言を全体で確認したりする場面がほしいところです。
ていねいに範読しますが、間が一定です。「ここはちょっと立ち止まって考えさせたい」「状況を理解するのに時間が必要だ」というところでは、間を取るようにするとよいと思います。
問いかけに対しても間をもう少し意識するとよいでしょう。子ども役の手が挙がるとすぐに指名してしまいます。考えを持てるための時間を意識するとよいでしょう。「挙手を止めてまわりと相談させる」「挙手に頼らず意図的に指名する」といったことも選択肢に入れるとよいと思います。
範読が終わるまで、どうしても子ども役が活動する時間が少ないため、一部が集中力を失くしていました。子ども役がしっかりと子どもの気持ちになっていると思います。子ども役のレベルも高いのです。

主人公が明るい声で、「すごいこと発見しちゃった」と言った場面で、何を発見したのかと問いかけます。子ども役に考えさせた後、グループでどんな意見があったか「広げてみて」と指示をします。「広げる」というのは教師の側の言葉です。思わず出てしまったのでしょう。「お互いの考えを聞き合って、よくわからなかった質問したり、なるほどと思ったらそのことを相手に伝えたりしてね。あとで、どんな意見が出たか、どう思ったかを聞くからね」というように、具体的に活動を指示した方がよいと思います。

全体で考えを発表させます。発言者をしっかりと見て意見を聞くことができます。しかし、どうしても発言者だけを見ていて、まわりの子ども役の反応を見ることができません。他の子ども役の反応を見てつなぐことができるとよかったと思います。
子ども役はしっかりと発表を聞いているのですが、しだいに、発言者以外集中がなくなってきます。自然な子どもの反応を見せてくれます。ここでも子ども役のレベルの高さがわかります。
また、授業者はどのような意見も、まず「なるほど」と受容することができます。しかし、受容だけで価値付けがありません。道徳ですから「よい意見」といった価値付けではなく、「友だちの意見を聞いて、考えを変えた」「自分ならどうするかを考えた」「相手の気持ちを考えてみた」といった、行動や視点を価値付けするとよいと思います。

子ども役はなかなか主人公の気持ちと共感できないようです。「おれは無理」という言葉が出てくるのですが、これは自分のこととして考えている証拠です。この発言を活かして、「無理な人?」と全体に広げて、自分の気持ちに引き寄せて考えさせてもよかったかもしれません。
授業者はなかなか思った言葉を引き出せないので、どんどん説明が増えていきます。「すごいこと」という言葉にこだわっていたのですが、「明るい声」になったことに焦点化してもよかったかもしれません。主人公が怒っていた、暗くなっていた場面で、その理由をしっかり押さえておくことで、明るい声になった気持ちに共感することができたのではないかと思いました。
最後は、授業者の言葉でまとめましたが、子ども役から出てきた言葉を使ってまとめることができればと思います。

こうして授業の様子を書いてみると、授業者が学生であることを忘れているのに気づきます。厳しいことを書きましたが、プロの教師に対する視点です。子どもを受容することができるだけでも立派ですが、意見のある子どもを立たせて順番に発表させるといった授業技術も使うことができます。鍛えられていることがよくわかります。研究会の先生方からも、6年目と比べても遜色ないといったほめ言葉が聞こえてきます。
また、子ども役の学生も非常にレベルが高いと感じました。落ち着きがない、こだわりが強いといったちょっと気になる子どもを演じた学生は、まるでそれが素のようです。それ以外の学生も、状況に応じて自然な反応をしています。本当の子どもであれば、きっとこうなるという姿を演じているのです。並の若手教師では、これだけ子ども役になり切れません。玉置ゼミでは毎週のように学生同士で模擬授業を行っているようですが、その成果が十分に現れていました。
また、授業アドバイスツールを使ったアドバイス役の学生もなかなかでした。子どもとのかかわりについて焦点化して話をします。授業で何が大切かというポイントがわかっているのです。これもゼミで鍛えられているのでしょう。また、初めて授業アドバイスツールを触ったのに、見事に使いこなしていました。使い方が直感的にわかったようです。開発にかかわっている者としては、とてもうれしいことでした。

授業者、子ども役、アドバイス役、すべての学生が高レベルでした。4年生全員が来年は現場に立つようです。これからが楽しみな教師が誕生します。
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