多様な考えをどう理解するか

昨日の日記の続きです。

3年生の授業は分配法則を上手く利用して計算を簡単にすることを考えるものでした。
「べつべつに」「いっしょに」の2つのやり方で計算する問題の答が板書してありましたが式と答えしか書いてありません。算数の授業ではこのような板書に出会いますが、子どもたちがこれを写しても結論がわかるだけです。「どうやって考えたのか?」、「この式の意味は何?」「この数はどこから来たのか?」といったことは、そこからはわかりません。口頭で説明したのかもしれませんが、その場で全員が理解し定着していなければ、後で振り返るためのものが必要になります。理解、定着を図るために練習問題があります。しかし、本当に理解しているのか、手順を覚えているだけなのかは、ただ解かせただけではわかりません。説明を求めたり、そのことを活用するような別の問題に挑戦したりすることが必要です。

「『いっしょに』の問題だから『いっしょに』できる」という言葉が出てきました。「掛ける数が同じ」(「掛けられる数が同じ」)であることをきちんと押さえていなかったようです。問題文では「○○と△△を□人に配ると……」といった自然な書き方がされます。「同じ」数だけ配るといった言葉は出てきません。「いっしょに」を考えやすいように配慮しています。だからこそ、「べつべつに」計算しているものを「いっしょに」できるためには、「掛ける数が同じ」(「掛けられる数が同じ」)を押さえておかなければいけないのです。

子どもが答を板書して、それに対して「いいです」と反応したのは一人でした。子どもたちに反応させたいのであれば、全員に何らかの反応をさせるべきです。いつも反応するはずであれば、子どもたちが「いい」と思っていないのですから、どういうことか問い返す必要があります。しかし、授業者は「それでは」と次に進んでしまいました。
子どもの答に対して「正解です」と授業者が判断する場面がありました。知識などの確認場面ではよいのですが、考え方を問うような場面では子どもたちに判断させることが必要です。根拠を持ってこれが正しいと言える子どもに育てることが求められます。常に先生が正解かどうかを判断すると、先生の求める答探しをするようになってしまうことに注意してほしいと思います。

「いっしょに」で考えた式と「べつべつに」で考えた式を指して、「こっちの式とこっちの式は同じ」と説明します。混乱する子どもが間違いなく出てくる言葉です。子どもにとってはどう見ても式は違うからです。大人は数学で2つの式を等号で結ぶことに慣れていますが、子どもにとってはそのような等しいという概念はギャップがあります。「こっちの式とこっちの式は同じ答になるね」「こっちの式とこっちの式はどちらも同じ○○を計算する式になっているね」といった言い方をする必要がありました。
この日の分配法則の問題の活用場面を考えると、「(○×△)+(□×△)の式で△が同じだから、(○+□)×△といっしょにできる」ことをここでもしっかりと押さえておく必要がありました。

(1234×□)−(234×□)の形の問題で、□に9、8を入れて素早く解いて見せます。素早く計算できる理由を考えて発表する場面で、「1000」違うからという意見が出ました。このことを再度説明させます。「8と9で1段違う」という言葉が足されました。なかなか面白い説明です。ここで授業者は「今、言ったことを説明できる人」と子どもにつなぎました。よい展開です。「1段ずつわかっていく」という言葉が返ってきます。一連の説明で1段という言葉が出てきているのですが、唐突です。この1段という言葉の意味するところを理解できた子どもはこの議論についていけますが、そうでない子どもには不可能です。この段が何を意味しているかを確認する必要がありました。
結局子どもの発言を引き取って授業者が説明を始めました。答が□の部分の数に「0をつけとくだけだから」と説明します。根拠を意識せずに表面的な規則で説明しますが、段を使って説明した子どもの考えはそういうことではなさそうです。2年生の時の九九の表で考えたことを連想したのでしょう。□の中を9、8と変えていくことが、九九の段が順番に数を変えていることにつながって、段と言ったのだと思います。九九の表で掛ける数が同じだと、1段ずれれば掛ける数だけ違ってくるという性質を思い出したに違いありません。ここで、その意味するところに気づけていれば、九九の表と結びつけて、「1000を掛けている」「9×1000、8×1000」「1000×9、1000×8」といった言葉を引き出すことができたと思います。ここを起点にして、この授業でねらっていた分配法則につなげることができたはずです。
「9と9は同じだから」という意見が子どもから出てきました。これは、授業者のねらいにつながる意見です。授業者はすぐにこの意見に飛びついきました。しかし、これまで議論していた段の考えとは直接つながらない考え方です。子どもたちは、突然違う考えに方向転換してしまったので、ますます混乱してしまいました。

子どもたちが考えるための足場となるもの(この例であれば、「べつべつに」計算しているものを「いっしょに」できるためには、「掛ける数が同じ」)が、はっきりしないままに進んでいたので、かえって多様な意見が出てきて面白かったのですが、授業者が焦点化できませんでした。
子どもたちの多様な考えを活かすためには、思わぬ考えが出た時に対処する力が求められます。子どもの発言は言葉足らずで、理解できないことがよくあります。それを授業者が無理に理解して対応しようとするよりも、子ども同士のかかわりの中で少しずつその考えを明確にしていくようにした方がよいのです。不思議なことに、言葉足らずの表現でも子ども同士は理解し合えることがよくあります。子どもたちに助けられながら授業者も理解していけばよいのです。その上でどう深めるか、他の考えとつなげていくのかといった次の対応を考えるのです。

多様な考えが出ることはとてもよいことですが、対応を間違えるとかえって子どもたちが混乱するだけになってしまいます。多様な考えを活かすには子どもたちの助けを借りるという発想を持つとよいでしょう。

この続きは次回の日記で。
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