提案性のある授業から学ぶ

ずいぶん間が空いてしまいましたが、前回の日記の続きです。

社会科の若手の授業研究は1年生の歴史、鎌倉時代でした。授業者は、以前は最初に雑談などをすることが多かったのですが、すぐに本題に入っていきます。
最初に鎌倉時代の武士の住まいの絵を見せて、読み取れることを3つ以上見つけるように指示します。漠然とした「気づいたこと」よりも「読み取れる」という言葉の方が、社会科として資料を見る視点が明確になると思います。3つ以上としたこともすぐに見つけた子どもが遊ばないための大切な指示です。ちょっとしたことですが、基本ができています。
「読み取れる」という言葉に対して「違い?」と授業者に聞き返す子どもがいました。比較して資料を見ることを日ごろからしているのでしょう。
子どもたちは武士の住まいの絵から、いろいろなことを見つけます。「前見たのと違って……」と平安時代の貴族の屋敷との違いという視点で話す子どももいます。この時、授業者はこの視点のよさを評価しませんでしたが、ちょっと残念でした。見張りのやぐらがあることなどが出てきたところで、「なぜ柵で囲っているの?」と問いかけます。子どもの考えを聞いたのち、「注目してほしいのは……」と授業者が焦点化していきます。ここは授業者が主体で進めすぎるように見えます。この日はこのあとやる「定期市」の学習に時間をかけたかったので、このような進め方になったようです。そうであれば、個々で読み取る時間を取らずに最初から全体で進めたほうが効率的だったかもしれません。その日の授業で何を重点的に扱うかで、進め方は変わってきます。いずれにしても、授業者の意図が授業から伝わってくるということは、よく考えて授業に臨んでいる証拠です。しっかりと授業研究をしていることがよくわかります。

「定期市」の様子がかかれた絵が提示されます。この絵から読み取ったことを発表させます。「武士でなくいろいろな人がいる」「何か売っている」といった言葉が続きますが、授業者はそれがどこにかかれているのかを確認しませんでした。ていねいに進めているのですが、資料をもとに確認してあげると、よくわかっていない子どもも参加しやすくなったと思います。「全体的に商売している人がいる」といった発言がありました。これに対しても、「商売しているのはどこでわかるの?」と聞き返したいところでした。こういった問いかけをすることで、「売り手」と「買い手」といった商売の基本的な要素に子どもたち自身で気づけると思います。
授業者はここで「定期市」という言葉を提示します。「四日市」といった地名から鎌倉時代に各地で月に3回市が開かれていたことを平安時代の「東の市」「西の市」との比較で説明します。平安時代との比較をしたことは歴史の変化を考えるためにとてもよい視点だと思います。
鎌倉時代に定期市が開かれるようになった理由をグループでまとめさせます。発表をすることを考えると、どうしてもまとめさせたくなりますが、これにこだわると多様な意見やよい意見が埋もれてしまう可能性もあります。順番にグループで発表するのではなく、「一人の子どもにグループでどんな意見が出たかをたずね、それをもとに同じような意見や考えをつなぎ、一通り出たところで次の意見を聞く」といったやり方も進め方の一つとして考慮するとよいでしょう。

子どもたちは資料集や教科書の記述から答探しをしていました。教科書の記述をそのまま発表するグループも目立ちます。答が教科書に書いてあるような課題ではこうなってしまうのは仕方がないことです。市が開かれるためには何が必要かをまず子どもたちに考えさせることから始めるとよかったでしょう。「商品が必要」「買う人が必要」といったことを引き出し、「鎌倉時代に定期市ができたのは、平安時代と何が違ったから?」と問いかけて、資料集や教科書を調べさせると面白かったと思います。また、平安時代との比較をしてまとめさせると、より深く理解することができたと思います。
「農作物の収穫が増えた」ことから余剰作物が商品となったことに触れられますが、定期市の絵では農作物以外の商品もたくさんかかれています。「農作物の収穫が増えた」だけで、なぜ他の商品も流通するようになったのかを問いかけたいところでした。購買力が増えることで経済が発展する構造に気づける場面だったと思います。
農作物の収穫が増えた理由として「土地の開墾」が出てきます。ここでも「土地が広がったら耕す人も必要になるけど、人はあまっていたの?」といった投げかけをしたいところです。効率化といった他の要素もかかわっていることから、いくつかの条件がそろわなければ変化が起こらないことに気づかせることができます。
資料集や教科書の記述の内容の確認までを早くして、そこからもう一歩深く考えさせる発問をしたいところでした。

授業者はこのあと、流通に貨幣が必要なこと、日本の貨幣の質の低下と中国からの貨幣の輸入についてかなりの時間をつかって説明しました。経済の発展にともなって貨幣の必要性が高まることについては既に学習していたのかもしれませんが、ここで子どもたちに問いかけて確認しておきたいところでした。悪貨が良貨を駆逐することについての説明もかなり詳しく行ったのですが、ここで扱った方がよかったのかどうかはよくわかりませんでした。江戸時代の改鋳の話の布石にはなるのですが、そこで扱ってもよかったかもしれません。

最後は、授業者が自分の言葉で簡単に全体をまとめて終わりました。時間がなかったのかもしれませんが、市(流通経済)が盛んになるための要素をまとめ、鎌倉時代に起こった理由と対にして子どもたちに自分の言葉で整理させたかったところでした。

授業後、社会科の先生方を中心に検討会を行いました。
うれしかったのが、授業者が自分の授業を振り返って課題を把握し、きちんと整理できていたことでした。この先生が力をつけてきた理由がよくわかります。また、この日は定期市に関連した流通面についてはあまり触れませんでしたが、それも意図的だということがわかりました。子どもたちに考えさせる内容を絞りたかったので、資料から荷物を運んでいる様子がかかれている部分を意図的にカットしたのです。教科書と違う資料を探した上で、こういった工夫をしていたことに感心しました。提案性のある授業をもとに教科の仲間で検討し合うことで、この学校の社会科の先生方は確実に力をつけてきています。互いが成長する構造ができているのです。

研修担当の先生はこういった研修の様子を発信してくれています。こういったよいかかわりが広がっていくことと期待しています。
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