子どもたちの学習意欲を感じるエピソードを聞く

私立の中高等学校で授業アドバイスを行ってきました。この日も先生方と一緒に子どもたちの様子を参加しました。どの先生も真剣に子どもたちの様子から学ぼうとしていただけました。また、自身の課題について質問をしてくださる方もあります。先生方の中によりよい授業をしたいという思いが高まっているのを感じます。とてもうれしいことです。

子どもたちが落ち着いて授業に集中している姿をいたるところで見ることができます。例年と比べてもとてもよい状態で、どの先生も子どもたちのよさを実感されています。いつも言っていることですが、この子どもたちのよい姿を引き出したのは、先生方の力が大きいのです。子どもたちを受容し授業を工夫する先生方が増えています。先生方一人ひとりの意識が変わることで子どもたちの姿も変わっていくのです。

今まで予習をしてくる子どもはほとんどいなかったが、教科書を読んできたとうれしそうに報告する子どもが増えてきたというお話も聞きました。今まで教師が説明していたのを子どもたち自身で教科書を元に考えさせるようにしたところ、子どもたちの意欲が変わってきたというのです。その先生自身も今まで以上に授業が楽しくなったとおっしゃっています。子どもたちと先生が互いによい影響をおよぼし合っているのです。

冬休み明けの英語科の課題実力テストについて、面白い話を聞くことができました。課題の長文を元に質問に答える問題で、解答は日本語でも英語でもよいとしたそうです。わざわざ英語で答える子どもはほとんどいないだろうと思っていたが、かなりの子どもが英語での解答に挑戦していたそうです。設問は課題そのままではなかったのですが、先生が思っていた以上に解答できていたようです。試験が終わってから気づいたそうですが、課題の解説・解答を配るのを忘れたいたそうです。しかし、子どもたちはそのことにだれも疑問をはさまなかったようです。いい課題に真剣に取り組んでなかったのかとも思えますが、決してそうでないことは試験の結果を見ればわかります。先生の示す正解を求めるのではなく、自分で学習して答を見つけることが当然になっているようです。自分で考え理解することがこの学校の英語学習の基本となっているのです。英語の学習に対する意欲も非常に高くなったようです。英語検定の受験者数が例年の数倍になっているそうです。
この他にも、子どもたちと英語にまつわる面白いエピソードをいくつか聞くことができました。ある先生が子どもを呼び出したのですが、たまたま2人とも同姓だったそうです。一人しか来ないので、「もう一人は?」とたずねたところ、「The other ○○君は……」と答えたそうです。日本人にはなかなか正しく使えない”the other”をちゃんと使えています。試験に出る知識としてではなく、言葉として理解できています。
こんな子どももいるそうです。「先生、今から俺ら10分間英語だけでしゃべるから、先生もなんか英語でしゃべってよ」と言うのです。先生が英語でしゃべると、うんうんうなりながら英語でしゃべろうとします。その子どもは決して英語が得意というわけではありません。でも、自分たちは英語がしゃべるようになっている、しゃべりたいという気持ちがいっぱいなのです。こんな意欲的な子どもが育っているのはとてもうれしいことです。
先生からでてきた言葉は、「うちの子どもたちはすごい!」です。先生方は優秀な学生だった方ばかりです。中堅の高等学校では、自分の高校時代と比べて子どもたちが劣って見えて見下してしまうことがよくあります。しかし、子どもたちの潜在能力・可能性は決して低くはないのです。その潜在能力を顕在化させることが教師のつとめと言っていいかもしれません。そのことに先生が気づいている言葉です。
この子どもたちの英語への意欲向上に大きな役割を果たしているのが、GDMという英語教授法です。これまで、中学校の学習内容を再構成して基礎固めをしていましたが、高等学校の内容を教科書も使いながらGDMの手法で学習するという新しいフェーズに入ってきました。これまでは、既存のGDMのカリキュラムをベースにできたのですが、これからは未知の世界です。先生方にとってはこれまで以上に教材研究に多くのエネルギーが必要です。学校英語でのGDMの第一人者が先生方の熱意にほだされ、手弁当でカリキュラムの作成や指導・アドバイスをしてくれています。この日も、朝から授業を見てその場ですぐにアドバイスをしてくださったそうです。そのアドバイスを受けて修正することで、次の授業では大きく改善されたようです。
英語の先生方は授業研究に多くの時間を費やしています。その時間をつくるのにとても苦労しています。ここまでやってこられたのは、チームで一緒に考え作業を分担しているからです。こういったチームワークが他の教科でも見られるようになることを期待したいと思います。

さて、一つ気になるのが、非常勤講師の先生です。子どもたちの姿が他の授業と比較しても、今一つよくない傾向があります。時間の制約があり先生方と情報交換したり、研修に参加したりできない方が多いのです。そのため、この学校で今起こりつつある変化について共有できていないのです。子どもたちにとって先生側の事情は関係ありません。一方的な講義や、板書を写すだけの授業は、自分たちが活躍できる授業と比べればつまらないものに見えます。ある授業では、両手を前に大きく伸ばしてうつぶせに寝ている子どもが何人もいました。普通子どもは、見つからないように気を使って眠ります。露骨な態度をとっているのは、「寝たくならない授業をして」という先生へのメッセージなのです。このメッセージを受け取ってほしいのですが、なかなか難しいところがあります。今後の課題の一つです。

この日で、ほとんどの先生方と一度は一緒に校内を回ることができました。先生方が授業の改善に挑戦するようになって、教科や個別の授業ごとに課題も見えてきているように思います。次回からは、いくつかの授業をじっくり見て先生方と一緒に授業について考える時間を取りたいと思います。いよいよ次のステップに進む時が来たようです。これから学校全体にどのような変化が起こってくるかとても楽しみです。
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31