完成度の高い授業だからこそ授業観の違いが明らかになる

先日、愛される学校づくり研究会の例会が開かれました。2月6日(土)開催の「愛される学校づくりフォーラム2016 in東京」前の最後の会です。

この日は午前の部、午後の部それぞれの進行イメージの確認を行いました。
午前の部は「愛される学校づくり“公開”研究会」となっています。テーマごとに4人の会員が提案を行い、指定された登壇者と話し合いを行うというものです。
この日は提案者が簡単な提案を行い、それをもとにこの日の参加者から選ばれた登壇者と議論しました。このまま本番にしてもよいくらい面白い話し合いになりましたが、当日は提案も進行もこの日とは異なるものになると思われます。予定調和には絶対ならないというのがこのフォーラムの面白いところです。私は、「『授業の見方』を高めるには」というテーマで提案しますが、この日の議論を受けて、当日の話し合いをより面白くするようなものにしようと考えています。きっと登壇者の皆さんが盛り上げてくれると思います。登壇者もワクワクするようなライブ感を楽しみたいと思います。

午後の部は「楽しく、手軽に授業改善しよう」で、2つの模擬授業をそれぞれ異なった視点で検討しようというものです。この日は、当日とは異なる授業者による模擬授業をもとに、2種類のツールを活用して検討を行いました。
模擬授業は初任者指導員をされている会員が授業者です。単に初任者の授業を見て指導するだけでなく、自身が実際に師範授業をして見せている方です。まだまだ現役の方です。
模擬授業は小学校低学年の詩の授業です。学習用語を中心に、詩の読み取りのための視点を意識したものです。題材は高木あきこさんの「ぞうの かくれんぼ」です。この日のめあてを「詩を深く読むための○○○○を手に入れよう」と提示します。穴をあけることで、「何だろう?」と子ども役に興味を持たせます。上手なやり方だと思います。実際の子どもではないのでよくわかりませんが、「深く読む」とはどういうことか子どもたちが理解できるのかが少し気になります。最初に読んだ時と、授業を終わった時で詩がどのように違って感じるかを子どもたちに確認することで、「深く読めたね」と評価して、深く読むこととはどういうことかを教えるというやり方もあると思います。

空欄に入るのは「ものさし」です。この言葉もちょっと気になりました。「ものさし」とは何か基準があってそれの量を測るものです。比較するために使われるものです。低学年ですから上手い言葉が思いつきませんが、「どうぐ」の方がよいようにも思いました。
「この詩にまとまりがある」と簡単に説明して、「連」という学習用語を示します。1行空きでまとまりをとらえさせます。この詩が何連あるかと問いかけます。子ども役は1行空きを頼りに8連と答えますが、「よく見ると8連じゃない」と返します。さて、「よく見ると」と言われても「連」の定義が曖昧です。まとまりとは何かわかりません。「7連と考えると自然」という言葉が出てきますが、「自然」とはどういう意味でしょうか?相手が大人だからこういう言葉を使ったのかもしれませんが、子どもにとってはとても曖昧な表現です。「ヒント」という言葉も使います。これは授業者の求める答探しにつながる言葉です。「句読点に注目して連に気をつけろ」と言われても、授業者が言わせたいことはこれだなと予想するだけで、本質的に「連」とは何かはわかりません。3番目のまとまりの最後は読点で終わっています。だから次のまとまりとつながるので、一つの連とした方が自然だというのが授業者の説明です。そう言われて納得する子どもは素直かもしれませんが、思考しているわけではありません。授業者の答を受け入れているだけです。少なくとも、「連」を再定義しなければ、「連」とは何かは混乱してしまいます。では、なぜ作者はわざわざ1行あけたのでしょうか?そのことに疑問を持たない子どもでは困るのです。授業者は、そのことについて後で触れます。しかし、ここで疑問として明確にしておかなければ、常に授業者から説明されることを受け入れるだけの子どもになってしまいます。

子ども役に会話の部分を見つけさせる作業をさせて、できたら前に持って来るように指示をする場面がありました。できた子どもを評価することは悪いことではありませんが、前に持って来させることはあまり勧めません。並んで待っている間、子どもたちがだれたり、友だちの邪魔をして集中を乱したりします。よほどの実力者でなければ、その間に学級全体の様子を見ることはできなくなってしまいます。今回は時間がなかったせいもありますが、途中で終わり、全員できたかを確認できませんでした。これでは常に作業の速い子ども、できる子どものみが評価されることになってしまいます。○をつけるなら、何とか全員に○をつけることを考えたいところです。

「会話文」と「地の文」についての説明場面です。ここで子ども役に会話でない文を何というか問いかけます。「地の文」と答えた子ども役がほめられます。過去に学習したことであれば知識を問うことは復習ですので悪いことではありません。しかし、まだ学習していないことであれば、知識のある子どもだけがほめられます。こういった点も私には気になりました。

何度も出てきている表現を問いかけます。「ぞうさん」という発言に対して、「でてくるね」と授業者が評価し、それから子どもたちに同意の挙手を求めます。ちょっとしたことですが、先に授業者が評価してしまうと子どもの判断にバイアスがかかってしまいます。意図的に誘導したいのでなければ、子どもたちの判断を先にするとよいでしょう。
授業者は1連の「ぞうさんと ぞうさんと」と6連の「ぞうさんとぞうさんの」を取り上げましょうと言います。ここを取り上げることは大切なのですが、常に授業者が指示します。せっかく学習用語を元に読み取りを深めたいのですから、「対比」を先に定義してから、「対比」を探させたいところです。いろいろな対比が使われていますから、それぞれについて、どんな効果があるか子どもたちの言葉で言わせたいところです。
授業者は「対比」の説明を「比べること」としていました。それでは「比較」です。対比は、比べることで違いを強調する、明確にすることです。読み取りのための用語としては、「強調」されること、することという言葉が必要でしょう。「ぞう」「ぞうさん」の違いを対比として授業者は説明しますが、「対比」の説明を「比べること」としたのですから、そこから「違い」を見つけることとつなげておく必要があったと思います。その上で、その「違い」がどのような効果をもたらすかといったことを考えたかったところです。

授業者は繰り返しているところを取り上げて「反復」と用語を説明し、強調していると解説します。強調は子どもから出させたいところです。「うろ うろ うろ」を隠れているところを探していることの強調と説明し、「はなが じゃま」「みみが じゃま」「おしりが じゃま」の反復を、指名した子ども役に動作化させます。指名された方の動作に対して、授業者が補足して助けます。詩にそった動作化なのですから、子どもたちに確認したいところです。

「・・・も、・・・も、・・・も、」と「も」が3つあるのは、何を強調しているのかを隣と相談させます。まだ発言していない人で答えてほしいと言うのですが、なかなか手が挙がりません。授業者が常に正解かどうかを判断するので、子ども役は無意識に間違えたくないと思っているように見えました。大人だからこそ手が挙がらないのでしょう。
「隠れるところがないことを強調している、だから行を空けている」と、「連」を考える時の一つのまとまりなのに行を空けていることの説明をここでしました。時間がなかったからだと思いますが、こういった場合は、行を空けたもの、行を空けてないもの、2つを見比べることで子どもの気づきを引き出すとよかったでしょう。

授業後、子ども役から、詩の奥深さを学んだという声を聞くことができました。とても楽しかった、勉強になったということです。たしかに、この詩の深い読み取りはできたように思います。しかし、それは授業者によって気づかされたのであって、子ども自身が授業者の言うところの「ものさし」を使って見つけたわけではありません。読み取れたと思っていますが、読み取った結果を与えられているように感じました。とはいえ、これが授業者のねらいだったようにも思います。小学校の低学年が自分たちでそれほど深く読み取れることは期待できない。授業者が誘導しても、詩の面白さ、読み取りの奥深さを感じ、興味を持ってもらうことがまず先だ。そのための道具として、学習用語を意識させたい。使えるのはこれからだ。そのような主張に思えます。
ここで私が述べたことは、低学年の子どもでも自分で考えることができる、考えさせたいと思った時、授業をどうすればいいのかと考えたことです。授業者の、まず教えて面白さを体験させることが先と考える授業観との違いが現れているのです。

検討会では、学習用語を使いながら明快に詩を読み取っていることや、子どもとのやり取り、さり気ないICT機器の使い方など、この授業の素晴らしいところがたくさん指摘されます。授業者の目指すところを達成するという意味では、完成度が高い授業だったということです。だからこそ、授業観の違いがはっきりとし、この授業で多くのことを考え学べたように思います。どこを目指すかによって、授業のありようは大きく変わります。授業者と私の最終ゴールが大きく違うとは思いません。そこへの道筋、ステップが違うのです。しっかりと考えられた授業であるからこそ、その違いが明確に見えてくるのです。
フォーラム当日は、同じようにレベルの高い授業が2つ提案されます。そこでどのようなことを学べるのか、今からとても楽しみです。参加予定の皆さんにも大いに期待していただきたいと思います。
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