短期間で大きく成長された先生

2学期末に中学校で体育の授業のアドバイスを行ってきました。授業者は2か月前に授業アドバイスをした方です(子どもたちにどうあってほしいかを意識することの大切さを感じた授業参照)。どのように変化しているのかが楽しみでした。

3年生の担任であるのに、この時期に研究授業をやろうという意気込みに感心しました。授業力向上を真摯に望んでいることがよくわかります。
この日は創作ダンスの授業で、前回と同じく3年生の2つの授業を見せていただきました。
どちらも前回と同じ子どもたちなのかと思うくらい様子が変化していました。視線がしっかりと授業者に向いて、表情もとても明るく感じられます。集合してまわりと話していた子どもも、授業者が口を開くとすぐに口を閉じて集中します。自然で柔らかい雰囲気なのですが、行動もとても速くなっています。準備運動のランニングも列が短くなっています。体育において大切な授業規律が格段によくなっていました。
この状況をつくっているのは、明らかに授業者です。顔が上がるまで、笑顔で子どもたちを待てます。顔が上がれば視線を合わせて笑顔でうなずいています。ランニング中も子どもたちから視線を外しません。柔軟運動をしている時の動きもなかなかでした。補助をする時もできるだけ全体を見られる位置を意識し、顔がよく動いています。支援が必要な子どもに素早く気づけています。常に学級全体がどのような状態であるかをしっかりと把握できていました。子どもたちをよく見ること以外にもいろいろと意識していたはずです。何秒で集合したとホワイトボードにメモしたりして目標を持たせることもしていたそうです。すでに素早い行動が定着したのでそういったことも必要なくなったようです。2ヶ月の間にそこまでになっていたのです。
前回、この学校の子どもは緩いという評価をしましたが、私の見誤りでした。授業者が求めれば、規律のあるしまった行動をとれる子どもたちです。

授業の課題は「とぶ」をテーマに2分ほどのダンスをグループで創作することです。最初に「とぶ」から湧くイメージをワークシートに書かせます。「とぶ」と漢字にしないことでイメージを広げようとしたのでしょう。何人かの子どもたちに発表させてから、手順を説明します。テーマとイメージを線でつなげ、今度はそこから連想されるものをつないで樹形図をつくっていくのです。このイメージを広げる作業を全体でやって見せます。子どもたちの発言をしっかりと受容し、言葉が出てこない子どもに対しても笑顔で待つことができています。子どもたちもとても集中しています。
迷うところではありますが、最初のイメージを書かせる前に「とぶ」という言葉をもう少し耕しておいてもよかったかもしれません。例えば「『とぶ』には、どんなとぶがある?」と問いかけることで、「飛」「跳」と漢字を出させ、「飛翔」「飛躍」「跳躍」といった言葉につなげておくのです。こうすることで、具体的なダンスにつなげやすいイメージが出やすくなるように思います。
イメージの樹形図を元に、「はじめ→なか→おわり」のストーリーをつくることを指示します。クライマックスを工夫するようにと伝えますが、具体的にどのようにすればよいのかを考えるための方法がはっきりしません。「明るい⇔暗い」「高い⇔低い」「動⇔静」「強い⇔弱い」「速い⇔遅い」「平面⇔空間」「直線⇔曲線」「集まる⇔散る」といった変化のキーワードを意識させたいところです。時間があれば、途中でどのようなことを考えているかを発表させてキーワードを共有させるという方法もありますが、今回のように発表までを1時間で終わるのであれば、活動の前にどのような変化があるのかを子どもたちに考えさせる時間をとるとよかったでしょう。

「やることをわかった人?」と確認をして手を挙げさせます。ただ確認するのではなく外化させているのも指示を徹底するために必要なことです。子どもたちは、グループに分かれた後、素早く活動を開始します。口頭の指示だけでなく実際に全体でやって見たことで何をすればいいのかよく理解できていたようです。

振り付けを考えている時に一部の子どもがグループから離れていました。授業者はそのことに気づいて素早くその子どもたちに声をかけました。声をかけられた子どもたちは、すぐに輪の中に入っていきました。よく子どもたちの状況を見ていました。
子どもたちはよくかかわりながら活動していましたが、残り時間がそろそろ気になってきます。全体に対して残り時間を伝えることで、せっかく集中して活動している子どもたちの動きをとめたくなったのでしょう。直接グループのところへ行き、タイミングを見計らって残り時間を伝えます。なかなかの対応だと思います。

発表の順番をじゃんけんで決めますが、意外と時間がとられます。こちらで指示したり、あらかじめ一定の規則を決めておいたりする方がよいかもしれません。
発表にあたってタイトルとどのようなストーリーなのかを伝えさせます。時間がないので難しいのですが、そのストーリーがどのような課程で決まったのかを共有することができると今後の創作の参考になったと思います。
授業者は、発表者と見ている子どもたちの両方を見られる位置に立っています。しかし、実際には両方を同時にはなかなか見られません。どちらを見ればよいのか困っているようでした。口頭での発表であれば、聞いている子どもを見ていても話の内容を聞くことができますが、動きを見る発表ではそうはいきません。基本的に発表者を見ることが中心になります。見ている子どもたちの様子はチラチラと素早く集中しているかを確認することでよいと思います。気になる子どもがいるのであれば、その子どもを意識的に見るようにします。

子どもたちは、「空飛ぶ絨毯」「コンサート」「カエルに返る」……とユニークで面白いストーリーをつくっていました。中には体操服を脱いで印象を変えたり、光のあるところで演技をしたりと演出に工夫をするグループもあります。しかし、ストーリーをつくることや演出にばかり意識が行ってしまい、創作ダンスの表現としては中途半端なものになっていたように思います。ストーリーとダンスの動きをつなげるための手立てがはっきりしていなかったことがその要因として挙げられます。先ほど述べたような変化のキーワードを意識させておくことが必要だったように思います。
授業者はワークシートに「体全体(表情・指先)で伝えよう!」と書いておいたのですが、あまり意識されているように見えません。授業者がこの活動を通じてどんな力をつけたいのかが明確になっていないために、子どもたちも意識できていないのです。「構成力」なのか「表現力」なのかどちらだったのでしょうか。「構成力」であるならば、「はじめ」「なか」「おわり」それぞれがどのような「ストーリー」なのか、「クライマックス」はどこかを明確にさせる必要があります。「表現力」であれば、それをどのような動きで表現するのかです。もちろん両方でもよいのですが、それをキチンと意識させ、評価することを授業に組み込む必要がありました。「はじめ」「なか」「おわり」「クライマックス」に分けてストーリーをつくり、それぞれに「速い」「回転」「上下」といったダンスの動きにつながる「キーワード」を決めさせといったことをするとよかったかもしれません。こうすることで、単なる感想ではなく、「構成」や「表現」がどうだったのか、具体的に評価することもできたと思います。

子どもたちはとても集中して互いの発表を見ていました。真剣に自分たちが取り組んだからこそ他のグループの演技も気になるのでしょう。
一方の学級でおもしろい出来事がありました。一人だけ顔が上がらない子どもがいたのです。後で聞いたところ、なかなか教室に入れない子どもだそうです。しかし、グループの活動の時は、積極的でないにしろ友だちとかかわりながら参加していました。とはいえ、発表の場面ではやはり他のグループの発表を見ていません。ところが、自分たちの発表が終わった後、顔が上がり他のグループの発表を笑顔で見ていたのです。きっとグループの一員として発表できたことがうれしかったのでしょう。とてもよいものを見ることができました。
また、授業終了後授業者が何も言わないのに使った黒板をきれいに消している子どもがいました。さすが3年生といったところです。

体育の教師にとって特に大切な授業規律や指示の徹底はかなりできていました。前回と比べて大きく進化しています。短い期間にこれだけの変化があったということは、素直に自分の授業を見なおして改善したということです。また、基礎となる力がしっかりとあったということでもあります。私のアドバイスという、ちょっとしたきっかけで大きく進歩するということは、逆に言えばそのような機会がこれまでなかったということです。
次の課題は、「できる」ようになるためにどのような「活動」が必要なのかを明確にすることです。「できる」ようになるための「手立て」を授業者がはっきりとわかっていなければいけません。当然、何をできるようにするのかという「ゴール」がシャープになっている必要もあります。これが教材研究です。授業規律や指示の徹底と違ってそう簡単なことではありません。体育の教師としての力量が問われるところです。しかし、意識して毎日の授業に臨み、子どもたちの事実から学んでいけば必ず力はついていきます。素直で、前向きな方なので、きっと着実に進化していかれることと思います。

授業者からは、教室での保健の授業をどうすればよいのか困っているということを相談されました。どうしても知識を一方的に教え、板書を写させることになってしまうようです。知識と考えさせたいことをきちんと分けて授業を構成する必要があります。機会があれば、またアドバイスさせていただきたいと思います。

若い先生の成長を間近で見ることができ、とてもうれしく思いました。この仕事をやっていてよかったと思えた時間でした。ありがとうございました。
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