見方・考え方を学ぶ場面をつくる

昨日の日記の続きです。

2年生の理科は動物の分類の授業でした。
まず、ワークシートを配ります。子どもたちはワークシートや教科書を開いて見ていますが、授業者がしゃべり始めてもその様子は変わりません。先にワークシートを配ると、子どもたちはどうしてもそちらに気を取られてしまいます。顔を上げさせ、子どもたちを集中させてから話すことが大切です。
授業者はこれまでに学習したことをしばらくしゃべった後、この日は動物の分類、仲間分けをすることを知らせます。この時間にとって復習が大切であれば、授業者がしゃべって確認するのではなく、まわりと相談して確認させるとよいでしょう。子ども自身で確認することが大切ですし、受け身の時間はできるだけ少なくしたいものです。また、この日の課題が唐突に提示されたことも気になります。子どもたち自身の課題になるような工夫がほしいところでした。
教科書を開かせ、「読んでくれる人」と声をかけますが、挙手はそれほど多くありません。相変わらず下を向いたままの子どもが目立ちます。授業者は手を挙げてくれて「ありがとう」と言ってから、指名をしました。この場面に限らず、「ありがとう」という言葉がよく出てきます。「ありがとう」を言えるのはとてもよいと思いますが、その割には子どもたちから授業に取り組む意欲があまり感じられないのが気になりました。

授業者は「飛ぶ」「泳ぐ」「大きい」「小さい」といった分け方もあるが、理科としてやるためには「体のつくり」で見ていかなくてはいけないと結論づけます。続いて、モルモットで医療の実験をすることを話し、トカゲではいけないのかと問いかけますが、子どもたちが考えたり話したりする時間を取らずに、すぐにトカゲよりモルモットの方が人間に近いと解説を始めます。常に授業者が結論を示します。疑問に思ったり、考えたりする場面がないまま、結論が与えられると、子どもたちはどうしても受け身になってしまいます。子ども自身の課題とするためにはどのような活動が必要なのかを考えてほしいと思います。科学史的な視点で時代と共に分類が変わったものを示してそれはなぜだろうと問いかけたり、飛ばない鳥は鳥なのか、私たちが鳥を鳥として認識しているのは何なのかといったことを考えさせたりといったことをしてもよかったと思います。

授業者は、今日は5つの分け方を元に分類すると説明して、教科書の続きを読ませます。この日のタイトルを板書した後、まず背骨がある動物とない動物に分類することを板書して説明を始めます。多くの子どもたちは板書をすぐにノートに写すのですが、その一方で肘をついたり、ぼんやりしたりして写そうとしない子どもも目につきます。
一通り板書が終わると、授業者は「まだ書けていない人?」と問いかけますが、それに対して子どもたちは反応しません。中にはまだ書けてない子どももいます。しかし、授業者は特に追加で確認することなく話し始めます。
「背骨のある動物を何と言うか?」「背骨のない動物を何と言うか?」と一問一答でワークシートの穴埋めの確認をします。確認するたびに板書しますが、その間子どもたちに背を向けたままで、子どもたちの様子を見ることがありません。黒板を向いたままの時間がかなりあります。
ワークシートにそって答の確認をしますが、ほとんどが知識の問題です。子どもたちはワークシートの穴を埋める作業をしているだけで何も考えることはありません。これでは、最初から穴を埋めたものを与えても同じです。
結局、用語の穴埋め、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類の分類を「呼吸器官」「子の生まれ方」「からだの表面」などの与えられた視点でどう違うかを調べて書き込むといった作業がほとんどで、子どもたちが考える場面はありませんでした。穴埋めの答を発表し、それを授業者が板書して一方的に解説することに終始しました。

生物分野は知識を教える場面も多いのですが、それでも理科としての見方・考え方をきちんと子どもたちが学ぶ場面をつくる必要があります。知識は教科書や資料集で調べれば手に入ります。なぜ体のつくりで分類をすべきなのか、まず背骨のあるなしで分けるのはなぜなのかといった疑問を子どもたちに持たせ、その理由を考えるといった活動を行い、その科学的な価値を子どもたちが実感する場面をつくるといったことが必要になります。
また、子どもたちに問いかけても、反応をきちんと求めていません。双方向のコミュニケーションになっていないことが、子どもたちが積極的に授業に参加していない要因の一つです。
こういった点を意識して授業を見直せば、大きく進歩すると思います。

この続きは次回の日記で。

どのような見方・考え方を身につけさせるのか

昨年度の中学校での若手への授業アドバイスです。

3年生の数学は相似条件の学習でした。
前時の復習で、相似とは何かを確認します。子どもたちはノートを開いて見ていますが、友だちが指名されても顔が上がりません。指名された子どもが答えると授業者が内容を確認してすぐに、相似な図形の性質は何かとつなげます。しかし、子どもたちの顔は上がらないままです。大切なことであれば一人指名して終わりではなく、何人も指名して確認することが必要です。
授業者が相似な図形の性質を書いた紙を貼ると子どもたちはすぐに写そうとします。復習ですので写さなくてよいと授業者が指示をすると、初めて子どもたちの顔が上がりました。
授業者は対応する線分の長さの比、対応する角の大きさがそれぞれ等しいという性質を読み上げた後、相似な図形の性質を使うためには合同をちゃんと覚えていることが大切であると伝えます。ここで気になったのが、その間子どもたちの視線が定まらないことです。まだ板書を見ている子ども、下を向いてしまっている子どもとバラバラです。今一つ集中が感じられません。
続いて三角形の合同条件の復習をします。指名された子どもが答えて、それを授業者が確認しますが、子どもたちは指名されなければ関係ないという雰囲気で、授業者が黒板に書いたことを見ているだけです。子どもたちの授業に対するエネルギーが感じられません。復習なのですから、多くの子どもは答えられるはずです。まわりと確認するといった活動を入れるだけで随分雰囲気が変わると思います。
授業者はこの合同条件を覚えていれば、相似条件は簡単だと説明します。しかし、ここで言っている簡単とは、相似条件を覚えることです。数学的に相似条件をきちんと説明することはそれほど簡単ではありません。どのように考えればいいのか、そこを大切にしたいところです。

授業者は教科書を広げさせて課題を自分で読み上げます。与えられた三角形と相似比が1:2の三角形の作図をするのですが、子どもたちが課題をしっかりと理解する間もなく黒板に図をかき始めます。相似条件と作図の関係もよくわからないままです。合同条件は同じ形の三角形を作図するための条件と言い換えてもよいのですが、こういった作図と条件の関係をきちんと押さえていません。
黒板と同じようにノートに三角形ABCを書くように指示します。どのような三角形でも成り立つことが重要なはずなのに、わざわざ黒板と同じようにと指示する意味が分かりません。
授業者はポイントは三角形の相似比が1:2と説明します。しかし、本当にそうでしょうか。相似な図形という意味では、三角形の3つの辺の長さの比が一定であれば必ず相似になります。また、2つの角の大きさがそれぞれ等しければこれも必ず相似になります。ここで相似比が相似であることのポイントというのは今一つよくわかりませんでした。
授業者がこの説明をしている時も子どもたちの顔は上がりません。まだ図形を書いている子どもがほとんどです。ポイントというなら全員の顔を上げることを意識したいところです。授業者は1個だけ条件を足したいとしゃべりながら、図をかきます。すると子どもたちは一斉に写し始めます。ノートに写すことが最優先で、常に受け身です。まず考えようという姿勢を求めることが大切です。

授業者は図をかくのに「コンパス、分度器、三角定規どれを使ってもらっても構いません」と言いますが、数学の作図の定義では分度器は使えません。相似比を使って長さを決定するのであれば三角定規で長さを測ることが必要になりますが、これも作図の定義では利用できません。もちろん相似を学んでいる途中なので、与えられた比になるような線分をかくのは簡単ではないのですが、作図を意識するのであれば、「同じ角度をつくる」のに「分度器を使ってよい」、「与えられた比になるような線分をかく」のに「三角定規をつかってよい」というように、やりたい作業とそのための道具を明確に分けるとよいでしょう。そうすれば、「同じ角度をつくる」のは「コンパスと定規でできる」と置き換えることで、この後、数学的に正しい作図を学習する時に自然に移行することができるはずです。

できた人は他の方法も考えるように指示をして個人作業に入ります。子どもたちは見通しが持てていないのでなかなか手が動きません。10分以上個人作業を続けた後、机間指導中に目をつけていた子どもを指名して、板書させます。子どもたちは、板書の様子をよく見ています。しかし、書き終ったあとすぐに授業者が解説を始めます。せっかく書いている過程を子どもたちがしっかり見ているのですから、何をしていたのかを本人や見ていた子どもたちに問いかけたいところですし、どのようにしてこのやり方に気づいたのかといったことも聞きたいところでした。また、授業者が解説するのであれば、実物投影機などを使うことでムダな時間を省くことも視野に入れるとよいでしょう。
授業者がどのようにしてかいているのかを説明した後、これが合同条件のどこに似ているのかと問いかけます。それよりもまず数学的な根拠を問うことが大切なのですが、授業者の考え方ですぐに結論に誘導しようとしています。
指名した子どもの作図が、合同条件の「一辺の長さと両端の角の大きさが等しい」と似ていることを指摘して、相似条件を授業者が示します。しかし、この条件で相似な三角形がかける根拠ははっきりしません。相似の性質から対応する角の大きさが等しければ相似になると説明しますが、相似の性質と定義がこっちゃになっています。最初に説明した相似の性質が必要条件なのか十分条件なのかも曖昧です。そのため、三角形の3つの相似条件を授業者が説明するのですが、数学的に根拠がおかしな説明になってしまいました。結局授業者が結論を与えるだけで、子どもたちが活動を元に考える場面がありませんでした。数学としてどのような力をつけたかったのかはっきりしない授業になってしまいました。

中高等学校の範囲では相似を数学的にきちんと定義することはできないので、相似の扱いは難しいのですが、だからこそ子どもたちが論理的に考える場面をつくることが大切です。
拡大縮小を使って定義するのなら(拡大縮小の定義が実はされていない、できないのが問題ですが)、根拠を拡大縮小に求めることを意識したいところです。

この教材でどのような数学的な見方・考え方を子どもたちに身につけさせたいのか、そしてそのためにどのような活動するのかを意識することが大切です。子どもが考え、そしてその考えを深めていくことを大切にする授業を目指してほしいと思います。

この続きは明日の日記で。

どのような力をつけるのかを意識した教材研究

昨年度のことです、私立の中高等学校で新人研修の内容の相談と学校全体の授業参観を行いました。

教科指導部主任は中教審答申などもよく読み込んでいます。11月の新人研修では「主体的」「対話的」「深い学び」の3つをキーワードにして授業公開を行ってもらおうという提案です。
具体的に次のようなものです。

「主体的」
・生徒が興味・関心を持って課題に向き合っているか
・どのような時にそれがたかまるか
「対話的」
・「教師×生徒」「教材×生徒」「生徒×生徒」の間に対話が見られるか
「深い学び」
・深い学びにつながるための設問、課題であったか
・生徒に何をどのように発言させる必要があるか

この視点を元に、教科会では、

1.授業のゴールの明確化
2.生徒はなにができればよいのか
3.生徒のどのような姿を見たいのか
4.そのために何を課題として与えるのか

について話し合ってもらいます。
授業公開の2週間前には、授業を見せていただき事前にアドバイスをすることになりました。新人の研修ではありますが、新人の授業を通じて多くの先生に新しい取り組みや工夫について考えていただく機会になることを願いました。

この日は若手の高校1年生の数学の2次方程式の授業を見せていただきました。
グループの形で問題を解かせます。時間が来れば答合わせをしますが、わからなければ友だちに聞くようにと、グループの隊形にしてから活動の指示をします。ちょっとざわついている子どもがいるので、「聞いていますか?」と注意をしますが、口調がちょっと上から目線なことが気になります。「聞いてね」と声をかけることから始めた方がよいと思います。解くべき問題の指示の後はいつも通りの指示なのでしょう。話を聞かずに問題を解いている子どもが目立ちます。子どもたちにどうあってほしいかをきちんと意識して授業規律を確立してほしいと思います。

問題のレベルが彼らには低いのでしょうか、子どもたちは相談することなく黙々と問題に取り組んでいます。ある程度時間が経つと解けてしまってすることがなくなっている子どもが目立ちます。ムダ話をしたり、机にふせったりする姿が目立ちだしました。できた子どもへの指示が必要です。
せっかくグループの隊形で問題に取り組むのであれば、みんなの知恵を集めなければ解けない課題を設定することを考えるとよいでしょう。子どもたちが自然に頭を寄せ合うような課題に挑戦させてほしいと思います。

答の説明を子どもたちに発表させます。一問ずつ各グループに割り当て、全員で前に出て説明をします。説明するのは問題ごとに一人ですが、何回か回ってくるので、毎回異なる人が説明します。発表する問題が決まると子どもたちは相談を始めます。
一問ずつ発表するグループが変わるので、そのための準備や移動にムダな時間がかかります。あまりに簡単な問題は説明するほどでもありません。説明で何がポイントなのかもはっきりしないので、評価や価値付けもありません。この単元、この教材では何が大切なのか、どのような考え方を身につけさせたいのかを授業者が明確に持っている必要があります。
因数分解で1元n次方程式が解けるのは、「0 Deviser(2数とも0でないのにかけて0になるような数)」がないこと、つまり「かけて0なら必ずどちらかが0」になるからです。例えば、一元2次方程式(x-2)(x-3)=0の解がX=2,3という説明で、xに2を入れると0になるから、3を入れると0になるからは、正しくないのです。確かに2と3は解になっていますが、それは十分条件であって、必要条件についての説明にはなっていません。方程式を解くとは、その方程式を満たすすべての解を求める(必要十分条件)ことです。こういったことをきちんと押さえていないのです。

子どもたちは、一生懸命取り組んでくれますが、数学的にどのような力をつけるのかが授業者の中で明確になっていなければ、「活動あって学びなし」になってしまいます。問題演習であっても、教材研究はとても大切なのです。

介護支援員の研修で講師を務める

昨年度、市の介護支援員の研修で「コミュニケーションとクレームの対応」について講師を務めさせていただきました。
私自身介護に関しては素人なのですが、今回はファシリテータの方の助けを借りながら利用者の視点で皆さんと一緒に考えさせていただきました。

どのような仕事でもそうですが、コミュニケーションの基本は「聞くこと」、つまり相手の「伝えたいこと」「望むこと」を正しく理解しようとすることです。最初に、この視点で日ごろ参加者の皆さんが意識していることを聞き合っていただきました。さすがに日ごろから利用者とその家族と一緒にケアプランを作成されている方々ですから、いろいろなことを意識されていました。
コミュニケーションを取る上で大切なことは、常識だと思っていることが人によって異なるということです。ちょっとした行き違いやすれ違いが起こることも避けられません。言った言わなかったの議論をしても水掛け論になってしまいます。相手の伝えたいことを正しく理解できなかった自分が悪かったと考え、次にどうすればよいのかを考えることに切りかえる必要があります。

利用者の方が、「介護はいらない」と言ったとしても、その発言の裏には様々な思いがあるはずです。その思いが何なのかを知る必要あります。そこで、具体的な場面でどのような確認が必要かを聞き合っていただきました。実際にどのような例があったのかを思い出していただき、多くの意見を聞くことができたと思います。しかし、すぐに「どうしてですか?」「○○だからですか?」と聞き返せば、相手の言葉の否定や詰問になってしまいます。まず、相手の言葉を復唱して受容することが必要です。こういったことも実際に練習していただきました。
また、利用者やその家族に自分の言葉が正しく伝わるかどうかはとても大切です。どのような言葉を使えば伝わるのかを意識することが必要です。介護の専門用語を使うことで正確になるのかもしれませんが、相手の方に伝わるかどうかはまた別です。伝わる言葉を選ぶようにしてほしいと思います。そして、正しく伝わったかどうか相手の反応を見てきちんと確認することを常に心がけることが大切です。また、相手の方がなるほどとうなずいても正しく理解しているという保証はありません。相手の反応を見ながら、ていねいなキャッチボールを心がける必要があります。
相手にとって一番よいと思う提案をしても必ずしも納得してもらえるわけではありません。無理に説得しようとせず、相手の希望をまずしっかりと受け止め、尊重するようにしましょう。提案を受け入れられなくても落ち込む必要はありません。考え方は人それぞれです。それよりも、どれだけ相手の方の話を聞くことができたかを大切にしてほしいと思います。

クレームの対応については、具体例を元に考えてもらいました。最終的には、グループ毎、参加者にケアマネージャー、利用者、利用者の家族役になってロールプレイをしていただき、他のメンバーがファシリテータとなって学び合っていただきました。皆さん、自分の経験を最大限に生かし、特に利用者、利用者の家族役は迫真の演技でした。このロールプレイを通じて多くの事例に接することができたと思います。どのグループも、真剣ですが、とても楽しそうだったことが印象的でした。

どなたも、利用者と利用者の家族のことを真剣に考え誠実に接していることが伝わってくる研修でした。だからこそ、最後に私からは「頑張りすぎないでください。利用者とうまくいかなくて担当を変えられても、落ち込まないでください」とお伝えしました。「あなたが担当する利用者は他にもいるはずです。そのこと引きずって笑顔がなくなってしまえば、多くの方に影響してしまいます。人には相性があります。誰とでもうまくいくことはあり得ません。別の方に担当が変わることで、その方も相性のよい方に出会うチャンスができたのだと前向きにとらえてください」そうお願いして終わらせていただきました。

皆さんの話を聞かせていただいて、私にとってもとてもよい学びとなりました。このような機会をいただけたことに感謝します。

概念や数学的なものの見方・考え方を大切にしたい

前回の日記の続きです。

2年生の算数は、2の段のかけ算の授業でした。
子どもたちはコの字型に机を並べて、授業を受けています。授業者は子どもたちのノートを見ようと机間指導をしますが、コの字型で机がくっついているので中に入りにくくなります。また内側の列の子どもを見るのに机の前から見ることになりますから、どうしても死角が大きくなります。コの字型は子ども同士がかかわり合うことや、授業者が全体の様子を把握するのに向いていますが、机間指導をしながら個別指導をするのには向かない隊形です。隊形に応じた指導、または指導に応じた隊形を意識することが必要です。

問題演習の答え合わせを、○をつける人と式を書く人、答を書く人に分けて指名します。できるだけたくさんの子どもを活躍させたいのでしょう。○をつける人は、この問題で大切になる言葉や数字に○をつけるというものです。文章題を解くのにこういったやり方する方も多いのですが、なぜそこに○をつけるのかという根拠がはっきりしません。定型の問題を解くためにしか使えない方法です。文章に書かれた状況を理解し、その状況を抽象化していく過程が大切です。また、式を書く人と答を書く人が違うというのは子ども同士がうまくつながらない可能性があります。式を書いた人の考えを説明するといったかかわり方に変えるとよいでしょう。
式を書いた子どもがその説明をします。授業者は5個ずつがいくつ分かを問い返します。子どもたちはもうずいぶん練習をして、すぐにかけ算だとわかるのかもしれませんが、まだ定着していない子どももいるかもしれません。まず、文章が表わす状況を図などで半抽象化し、それを元にかけ算の式になることを理解させるといった活動も視野に入れるとよいでしょう。

子どもたちを起立させて、5の段の九九の練習をします。黒板に5の段の九九が提示されています。大きな声が出ているのですが、口の開かない子どもも目につきます。自信のある子どもには後ろを向かせて、繰り返します。全体で声が出ているのですが、後ろを向いている子どもが必ずしもきちんとできているわけではありません。しかし、口は見えないので誰ができていて誰ができていないのかはわかりません。全体練習は、声ではなく全員の口の開き方を見ることが大切です。後ろを向く代わりに目を閉じるように指示するという方法もあります。口の開き方、目を開くかで定着度がわかります。
授業者は、全体に対して拍手しながら「素晴らしい」とほめますが、子どもたちはあまりうれしそうにしませんでした。全体でほめられても自分がほめられたと思わなくなっているのかもしれません。

2人乗りのゴーカートを使って2の段のかけ算を学習します。まず1台に2人乗せて「何人ですか?」と問いかけます。「2×1は」と子どもたちが挙手をしている時に言葉を足します。図や数図ブロックを使えば答はすぐにわかります。何人乗っているかの答ではなく、この答を出す式が2×1の掛け算として表わせることを理解することが大切です。指名した子どもは「2×1は2です」と答えます。これは式です。細かいことかもしれませんが、授業者は「何人ですか?」と問いかけています。式に続いて、「だから2人です」まで答えさせたいところでした。
式が2×1で表わせることの確認はせずに、1台から4台までを考えるように指示します。かけ算の答がいくつになるかが学習の中心になっています。九九を覚えることがゴールなのですが、扱っている事象がかけ算になることをしっかりと押さえることが必要です。今はかけ算の学習だから迷わずにやれますが、求めるものが何算を使えばよいのかに気づくことはそれほど簡単なことではありません。かけ算とはどのようなものかを理解させることをもう少していねいにやりたいところです。

授業者はゴーカートが2台になったら数図ブロックをどう置くかと問いかけて、作業させます。大切なことは、2の固まりで扱うことや2ずつ増えることです。しかし、すぐにいくつになったか答を聞きます。これでは、かけ算の概念とブロック操作が結びつきません。
子どもたちは挙手をしますが、手を挙げない子どもも目立ちます。わからないのか、答えたくないのか、どちらなのか気になりました。授業者はコの字の奥の方に行って気になる子どもに「ゴーカート2台、2台」と声をかけますが、死角が大きくなります。コの字型はこの授業者のスタイルにはあっていないように思いました。
いくつになるかではなく、まずブロックがどのようになるかを全体で共有することが大切です。ただ並べるのではなく2つの固まりを意識して並べさせることとでかけ算の概念を理解させるのです。かけ算とブロックの関係がきちんと理解できれば、答はすぐにわかります。その上で、掛ける数が変化する時、答がどのように変化するのかをブロックをもとに気づかせるのです。

4台までの答を確認した後、「何か気づいたこと」と気づいたことを書かせます。その前に、「1台に何人?」「いつでも?」「2台になると2人がいくつ?」「3台になると?」といったやり取りをしておくとよいでしょう。
子どもから「2ずつ増える」といった考えが出てくれば、「何が増えれば?」といったことも問い返すとよいでしょう。こういった場面で関数的な視点を育てることも大切になります。

九九を覚えることはこれからの計算の基本となる大切なことです。しかし、単に覚えさせるのであれば、暗唱の時間をたくさん取ればよいのです。そうではなく、こういった九九の答を考える場面をつくるのは、その作業を通じてかけ算とはどういうものかを子どもたちに具体的に理解させることや数学的なものの見方・考え方を身につけさせるためです。このことを意識して授業を組み立ててほしいと思います。

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