新年早々、よい出会いがある

昨日、ある先生とお会いし相談を受けました。その方が大学院生時代に研究会で何度かお会いした方です。学校が地域や民間の力をもっと活かすことができるのではないかと考えられていて、情報を求められてのことでした。この仕事を続けていると、学生時代のことを知っている先生とたまたま出会うことがあります。成長した姿を見せていただけることは本当にうれしいことです。今回は、わざわざ連絡を取って会いに来て下さったのですが、さすがにこのようなことは稀です。ちょっと驚きました。

市町で状況は違うのですが、その方の勤務先の学校ではなかなか外部の力を学校に活かすことが難しいようでした。部活動の指導を外部に委託するといったことを提案しても、事故があった時の責任が取れないといったマイナス面ばかりが指摘されるようです。こういったことは学校独自で判断することはなかなか難しいと思います。行政がある程度方向性を示すか、校長会から提案するといった方法を取らないとなかなか実現できません。まだ立場的にも若手の域を出ていない教員の力で動かすことは難しいことです。だから私に相談してくれたのだと思います。残念ながら私は直接の答は持ち合わせていません。他の市町でどのような取り組みがあるのかをお教えするくらいしかできませんでした。

多くの場合、学校と外部のあり方について考えるのは管理職やミドルリーダーです。今回のように若い先生がそのことに関心を持つことは滅多にありません。ちょっと驚きました。話をいろいろと聞いていると、子どもたちだけでなく、企業や一般の方に対する教育にも興味があるようで、そのための勉強もしているそうです。視点が違っていたのは、そういったことが影響しているのでしょう。この先どのようにキャリアアップしていくかということを考えているので、教師を辞めて別の世界に入っていった私の経験も聞きたかったようです。これからどのような教師に成長していくのか、それとも別の世界に飛び込むのかはわかりませんが、前向きに自分の世界を切り開こうとしていることはよくわかりました。
自分のキャリアの着地点をそろそろ考えなければいけない年齢になった私ですが、この方に刺激を受けて、まだもう少しいろいろなことにチャレンジしてみたいと思ってしまいました。新年早々よい出会いがあったことに感謝です。

小学校の外国語活動の今後を考える

小学校の外国語活動は、「音声を中心に外国語に慣れ親しませる活動を通じて、言語や文化について体験的に理解を深めるとともに、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度を育成し、コミュニケーション能力の素地を養うことを目標として様々な活動を行う」ことになっています。「慣れ親しむ」「言語や文化の体験的理解」「コミュニケーション」がキーワードです。英語の力をつけることが目標とはなっていません。英語が専門でない小学校の先生方が教えることを考えれば妥当なことだとは思います。その一方で、実践的な英語力を子どもたちにつけるということが盛んに言われています。外国語活動の時間を下の学年でも必修化することや、教科化も打ち出されています(文部科学省「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」参照)。
現在行われている外国語活動の授業の多くは、とにかく子どもたちが英語を使ってゲームやアクティビティをすればよいというものです。英語力をつけるという視点で見れば、あまり効果があると思えないものがほとんどです。英語を使うというだけで、子どもたちの精神年齢からすればあまりに幼稚なゲームを行うために、外国語活動の時間をばかばかしく感じる子どもも出てきます。中学校に入った時点で英語嫌いになっている子どもも結構いると聞きます。

これまでの外国語活動の時間は、とりあえず小学校で英語を扱うという既成事実作りだったように思えます。「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」を見ると、小学校高学年では、そのねらうところが、将来的に英語力をつけるための基礎を身につけることに変わってきています。授業の担当者も含めて、その内容も大きく変わることになるのでしょう。多くの自治体で、「慣れ親しむ」「言語や文化の体験的理解」「コミュニケーション」を意識した英語活動のカリキュラムを多くのエネルギーをつぎ込んで、独自に作成しました。現場の先生からすると、せっかく外国語活動の授業に慣れたのに、また新しい流れに対応することが求められます。そろそろ、中途半端に現場に任せるのではなく、小中高を通じて一貫した英語教育のカリキュラムを明確に提示することが必要だと思います。
現場の先生方に大きな負担なく、子どもたちに英語力がつくようなカリキュラムが組まれることを願っています。

クイズの有効な使い方

子どもたちはクイズが好きです。ちょっとしたクイズですぐに盛り上がります。しかし、根拠なく無責任に答を想像しているから盛り上がるということも言えそうです。知らなければ答えられないような、単に知識を問うようなクイズは子どもたちが深く考えないことが多いので、授業では多用しない方がよいと考えています。
しかし、すべてのクイズを否定するわけではありません。クイズを効果的に使っている先生もたくさんいらっしゃいます。私が面白いと思う使い方や場面を紹介したいと思います。

既習事項の知識を定着させる場面では、クイズは有効です。既習事項ですから答えられてあたりまえです。子どもたちは積極的に参加してくれます。知識ですので、考える時間は不要です。1問に時間をかけずにテンポよく次々に出題するのがコツです。授業の最初にこのようなクイズをすることでウォーミングアップにもなります。ただし、子どもたちのノリがよいからといってあまり時間をかけてはいけません。あくまでも知識の定着や確認であって、思考しているわけではないからです。

この日学習する事項について、初めにクイズを出すことも授業を活性化するのに有効です。例えば、理科の実験などで、結果を2択か3択のクイズにします。根拠となるものがないので考える時間を与える必要はありません。直感でいいので選ばせるのです。答は実験すればわかるので教えません。子どもたちは選択することで、自分の選んだ答が正解かどうか気になります。当事者意識を持って実験に取り組みます。
また、子どもたちで答を確認することができないようなものはすぐに答を与えて、「えっ、どうして」と疑問を持たせることもよい使い方です。疑問や興味を持つことで、その理由を知ろう、考えようとするので、積極的に授業に参加します。

子どもたちが知らない知識や、根拠もって考えられないようなことは、教えることが基本になります。しかし、それでは子どもたちはただ説明を聞くだけで受け身になってしまいます。例えば、社会科で資料の絵を見て、○○となっている理由を考えさせたいとしましょう。知識が不足していることもあり、子どもからはなかなか意見が出てこないかもしれません。そこで、クイズにするのです。一から考えることは難しくても、選択肢を用意することで、答を吟味することができます。この場合は少し時間を与えて子どもに相談させます。選択肢が糸口になって、子どもなりに根拠を持って考えることができるからです。理由を発表させてもよいでしょう。この後で答を提示すれば、正解をただ受け入れるのではなく、その正解を選んだ根拠も自然に意識されます。積極的に思考するとともに、強く印象付けることができるのです。

クイズは一つ間違えると子どもたちのテンションばかりを上げ、学習への集中を乱すことにもなりかねません。有効な場面や使い方を意識して上手に活かしてほしいと思います。

「楽しく、手軽に授業改善をしよう」第9回公開

愛される学校づくり研究会」のWEBサイトで、教育コラム「楽しく、手軽に授業改善をしよう」の第9回「愛される学校づくりフォーラム2015 in大阪」の内容と「授業検討ツール」の活用報告が公開されました。

ぜひご一読ください。

年末年始のお休み

明日より1月4日までお休みをいただきます。
日記もお休みをいただき、1月5日(月)より再開いたします。

今年も1年おつきあいをいただき、ありがとうございました。

楽しい忘年会

先日、学校評議員をしている中学校のおやじの会の忘年会に参加させていただきました。

この日もいつものように楽しいお酒でした。自分たちの子育ては終わっても、地域の児童館の運営にかかわったりしている方々です。自然に最近の子どもたちや施設の運営、イベントの話に花が咲きます。口先だけの批評家ではなく、子どもたちと実際に触れ合っている方が感じることですから、説得力が違います。私は地域の視点で子どもたちを見ることがほとんどありません。そんな私では気づけないことをたくさん教えていただけます。
お酒も入っているので、議論になったりもします。それがまた楽しいのです。意見がぶつかっても、お互いに子どもたちのことを第一に考えていますので、その一点で必ず認め合えます。何の利害関係もなく、地域の大人として子どもたちに何ができるか、その思いでつながっているのです。認め合えている方々だから、忌憚のないことが言い合えるのです。とても素敵なことです。

私にとって、たくさんのことが学べる場です。しかし、それよりも何よりも、皆さんと一緒にお酒を飲み、お話しできることが楽しいのです。このような会に毎回お誘いいただけることをとてもうれしく思っています。楽しい時間ありがとうございました。また、誘ってくださいね。

青少年健全育成会議に思う

学校評議員をしている中学校区の青少年健全育成会議に参加させていただきました。

青少年センターや各学校からの子どもたちの様子の報告のあと、グループごとに子どもたちのよいところや気になることを話し合います。地区長さんや民生委員、PTA役員、地域コーディネーターなど地区の子どもたちとかかわり合いの深い方が率直に意見交換します。各グループの発表では、毎年のように子どもたちの挨拶ができないことが取り上げられます。家庭のしつけの問題や知らない人と話して犯罪に巻き込まれないように教えられているといったことが理由として挙げられます。これも、毎年同じです。子どもたちと地域の人が挨拶し合える関係、距離になっていないことも一因でしょう。中学校では子どもたちと地域の大人が交流をする行事もいくつか行われていますが、状況を改善するには至っていないようです。
毎回参加して同じような課題が出てくるということは有効な対策がとれていないということです。失礼な言い方かもしれませんが、この会議としてこの課題に対して何とかしようとしているのかが疑われてしまいます。そろそろ、地区として子どもたちが挨拶できるようにするための取り組みを真剣に考えなければいけないということではないでしょうか。子どもたちの登校の時間に合わせて玄関の掃除をして、挨拶をするといった取り組みをしているところもあるそうです。こういったことを考える時が来ているように思います。
毎回子どもたちのことを真剣に考えている地域の方がたくさん参加する会議です。だからこそ、形だけに終わらずに具体的なことを決定できる会議として機能してほしいと思います。

佐藤正寿先生からたくさんの刺激と視点をいただく

先日行われた、三重県教育工学研究会の冬季セミナーの第1部「学力向上に活かすICT活用」に参加してきました。奥州市立常盤小学校副校長の佐藤正寿先生による「学力向上に活かすICT活用模擬授業」と「ICT活用のヒントをさぐる」という講演でした。

「学力向上に活かすICT活用模擬授業」の前半は、まずは拡大して見せることのよさを全員に対しての模擬授業で伝えます。「百聞は一見に如かず」というように、言葉での説明ではわかりにくいこともスクリーンに映して見せればすぐに伝わります。
資料を見て「気づいたこと」という発問がよくありますが、これで答えられる子どもはよくできる子どもだけだと佐藤先生はおっしゃいます。私も同感です。「気づいたこと」では何を答えていいかよくわかりません。こういう時に佐藤先生は「何が見えますか」と答えやすい発問をします。目に入っても意識して見ていないものに目を向けさせる発問です。また、必要に応じて、「どのくらいある?」「どちら側にある?」といった切り返しを行います。ちょっとしたことに思えますが、この切り返しで子どもたちの考えを深めます。何をどのように切り返すかは、授業者がその資料で何をねらっているのかと直結する部分です。授業者の教材研究が見えてくるところです。
社会科では資料で気づいた事実をもとに、解釈することが大切になります。しかし、「解釈しなさい」では、それこそ「気づいたこと」以上に子どもたちとって答えにくい発問になります。「○○がある(のは)、」「○○だから」といった話型を使うことで「事実」を「解釈」することがどういうことかを伝えます。抽象的な用語を教える時に大切な発想です。ICTの活用を例にして、大切なことをさりげなく伝えてくださいます。
佐藤先生はフラッシュ型教材を使ったクイズも上手に利用されます。私はクイズを行うことをあまり勧めません。多くの場合、知らない知識を問うことになるので、考えても答えが出ません。単にテンションが上がるだけになるからです。佐藤先生の場合は、利用シーンが非常に明快です。一つは知識を定着させる復習の場面、もう一つは解釈を考えさせる場面です。前者はその有効性がすぐに理解できると思います。後者は事実に対していくつかの解釈を選択肢として与えるものです。解釈と言ってもなかなか考えることができません。子どもから出てきた解釈は的外れなこともあります。「それって本当?」とゆさぶり、いくつかの選択肢と共にクイズにすることで、手がかりが全くつかめない子どもにも、それなりに根拠を考え(想像)させることができます。また、答を選ぶことで立場が明確になります。正解したかどうかにかかわらず、真剣に聞くことになり知識として印象にも残り、定着します。このようなクイズを行う時に佐藤先生は考える時間をあまり与えません。子どもたちの手持ちの知識から論理的に正解が出るようなものであれば時間をかける意味もありますが、そうでなければ時間のムダです。このあたりは実に明快です。この他にも、簡単なクイズを授業の課題につなげるといった使い方もされますが、いずれにしてもシンプルで時間をかけないことが大切です。その点でICTはとても有効な道具となります。
今回面白いと思った発問に、数を想像する問の答をペアで聞きあわせたあとで「同じくらい?」「違う?」と聞くものがありました。根拠を持って考えることができるものでないので、話し合っても意味がありません。しかし、このように問いかけることで他者とかかわることをより意識するようになります。「同じ」ということで子ども同士がつながったり、「違う」ということでどちらが正しいのかより興味を持って説明を聞こうとしたりするでしょう。単純なクイズでも、ちょっとした工夫でいろいろな効果が期待できます。私なりにクイズの活用方法を整理することができたのは大きな収穫でした。
資料の見せ方で、「隠す」ことも佐藤先生はよくされます。故有田和正先生がよく使われていた手法です。資料の一部隠すことは、ICTでは簡単にできます。忙しい先生方にとってありがたいことです。隠すから知りたくなります。ここで、隠したものを実はこうだったと見せることもできますが、答をその場で教えないという方法もあります。答を知りたいと思った子どもは、自分で調べようとします。身の回りのことであれば、実際に足を運んで調べることでしょう。ただ調べなさいでは意欲はわきませんが、隠すことで子どもたちの意欲を引き出し活動につなげることができます。いつものことですが、佐藤先生のお話はICTをテーマにしても常に授業の本質的な部分を外しません。

続いて、12人の子ども役を相手に壇上で1単位時間の模擬授業です。5年生の社会科「災害の起こりやすい国土」でした。
佐藤先生のいつもの進め方ですが、最初にICTを活用してテンポよく復習し、短時間でウォーミングアップを行います。
津波の写真をもとに、何が見えるかを問いかけて興味づけを行います。子ども役の発言のよさをきちんと評価します。発言の内容だけでなく、発表の仕方もほめています。授業規律が意識されています。
「日本ではどのような自然災害が起きているのか」という課題と、この日のゴール「ノートにまとめること」を最初に提示します。最近よく言われるユニバーサルデザインの視点でも、活動のゴール(目標)を提示することは大切なことです。見通しを持って活動することができます。目標を明確にすることは、評価の基準を明確にすることにもつながります。活動と評価は常にペアで考えることが必要です。
子ども役に自然災害の種類を書き出させ、情報交換させます。ペアやグループの活動では、かかわり合うことがよかったと思えるようなものにすることが大切です。佐藤先生は「数が増えます」とかかわり合うことのよさを言葉にして伝えます。子どもたちによさを明確に意識させることで、積極的にかかわれる姿勢を育てようとしているのでしょう。
子ども役の発表を一つひとつ聞き終ってから板書をします。子どもの発言をしっかりと受け止めることが意識されています。災害に対して子どもの知っている例やその被害を聞き返して、単なる用語からより現実感のある生きた言葉に変えていきます。こういった切り返しも大切です。
全員の考え引き出すために、まだ発表されていないものを書いてある人を起立させて順番に聞いていきます。自分と同じ考えが発表されて座った人をすかさずほめます。授業規律のつくり方の基本も外しません。
災害種類を左右に分けて板書していました。日ごろからこのような板書を心がけていると、子どもたちがどこに書くかを意識して見るようになります。「どっちに書くと思う?」「どっちに書けばいい?」と聞きながら書いてもいいでしょう。「地殻変動」と「気象」に分けていたのですが、この「分類」は社会科では大切な視点です。佐藤先生の授業では、こういった社会科を貫くメタな視点が大切にされています。
続いて、「どこで」「どんな」災害が起きているかを問います。資料の必然性がある問いです。可能であれば子どもたちに地図帳などを使って探させることも大切な活動です。資料は「探す」「読み取る」「(もとにして)考える」という3つのステップが大切ですが、「読み取る」活動しかない授業も多く見ます。佐藤先生は子ども役に探させることをしました。あらかじめ配られていた資料があったというか、それしかないので、あまり意味がある活動ではないのですが、子どもに資料を探させることを参加者にあえて意識させたかったのでしょう。
続いて4人グループで「3つの資料から言えることは何か?」を考えます。何を答えていいかわかりにくい課題です。ここでも、発表の形式を指定することで、思考の方向を明確にしています。「例えば○○、だから○○」という話型使います。そして、発表には白地図を使うように指示します。白地図を使うことで自然に地理的な条件を意識させることができます。視覚化は重要な表現方法であり、広い意味で言語活動の一つだと私は考えています。教科を超えた子どもたちに身につけさせたいスキルです。
グループの発表を必ずポジティブに評価します。発表の内容そのものをほめるのでなく、「指定したキーワードが入っている」「習ったことを使っている」「理科の知識を使った」といったメタな視点で評価していました。この課題だけでなく他の課題でも活用できる再現性のあるものです。こういう評価をすることで、見方・考え方が身についていくと思います。
結論は、「日本はすべての自然災害が起こりやすい。だから防災が大切」というものなのですが、それで終わりません。災害をもたらす日本の国土のプラス面を聞くのです。「火山があるから温泉がある」「雪によって米も育つ」というように別の視点で見ることで子どもたちの視野を広げることができます。佐藤先生が子どもたちにつけたい学力が非常に明確に伝わる模擬授業でした。ICT活用を超えて、多くの学びがありました。

「ICT活用のヒントをさぐる」という講演は、「定義」と「分類」をすることでデータが意味あるものになるというドラッカーの話をベースに、分類という視点でICT活用や授業技術をとらえるものでした。
特に社会科の資料の型を「解説型」「追究型」「視覚型」「整理型」と分類し、それぞれの活用方法の違いを整理した話は大変参考になりました。資料だけでなく、授業のいろいろな予想を私なりの視点で分類してみようという気持ちになりました。とてもよい刺激を受けました。

私にとって実に刺激と学びの多いでセミナーでした。このようなセミナーを参加費無料で行うというのはとても大変なことです。多くのスタッフが手弁当できびきびと働かれていることに感激します。佐藤先生の素晴らしい模擬授業と講演、そしてセミナーを企画しスタッフとして支えられた三重県教育工学研究会の皆さんに心から感謝します。本当にありがとうございました。

介護研修で自分たちのよさに気づいていただく

先日、介護現場の組織力を考える研修を行ってきました。

参加された方々は自分の仕事をきちんとこなせる人ばかりです。しかし、研修に参加できない方も含めた、組織としてのレベルアップを考えることが必要です。
最初に、新人が仲間として加わった時に、どのようなことを意識するかを考えていただきました。皆さんが一番気をつけていたのは、コミュニケーションでした。個々の仕事の進め方、利用者の情報を教えるといったことも当然ありますが、新しいメンバーとコミュニケーションをとることが大切だと考えているということです。この答を聞いて、とてもうれしく思いました。介護の仕事は自分に与えられた仕事をこなせばいいという発想では、上手く回っていきません。不測の事態も多くあり、互いにカバーし合うことが大切です。その基本となる職員間のコミュニケーションを一番に考えているということは、カバーし合うことを意識できているということです。

続いて、新しい仲間に伝えたいこと、教えたいことについて話し合ってもらいました。もちろん基本的な介護のことを知っていることは前提です。そこで話し合われる内容は、自分たちの施設で大切にしていること、自分たちのよさになるはずです。日ごろは意識していない自分たちのよさがたくさん出てきました。意識することで、自分たちがとるべき行動がより明確になり、質が向上します。このこともこの活動のねらいです。
「あなたの所見は○○が素晴らしいので、若い先生に参考にするように指導しました」とベテランに伝えると、その方の所見がますますよくなるといった話をよく聞きます。それと同じことです。

最後に、どうやって伝えればよいかを考えていただきました。実際にそのように行動してもらうためには、相手に話すだけではうまくいきません。このことを皆さんはよく理解していました。
日ごろ自分がやっていること、意識していることがたくさん出てきます。その中でも多かったのが、「自分がやって見せる」「相手ができていないことを注意するのではなく、考えてもらう」「ほめてよい行動を増やしてもらう」といったことです。この施設の評判がよい理由がわかる気がします。
私から、いくつかアドバイスをさせていただきました。やって見せているつもりでも、相手が気づいてくれなければうまくいきません。仲間のよい行動を目にした時に、そのよさを伝え合うことで、気づかせること、意識させることができるようになります。また、そのような行動をすると認められる、ほめられることを知ると自分もやろうという気持ちになります。
ただ「考えて」と言われても、叱責されたように感じることもあります。「私は答を知っているけれど、あなたは知らないのだから考えなさい」と言われているようにも思います。そうではなく、「一緒に考えてみようか」という寄りそう姿勢を見せることが大切です。
ほめるためには、ほめられる行動をとってもらうことが必要です。時には、ほめるためにその人の得意な仕事をさせるという発想も大切です。よい行動をしたらほめようというのではなく、ほめられる場面をつくろうという発想も時には必要なのです。

日ごろ意識していない自分たちのよさに気づいていただくことができた研修になったと思います。自分たちのよさを、自信を持って伝えあうことができる職場であってほしいと思います。
この日も皆さんの考えから、私もいろいろなことを考え、学ぶことができました。とてもよい機会をいただいていることに感謝です。

タブレットPCを活用した授業実践から学ぶ

愛される学校づくり研究会の例会がありました。今回は、「愛される学校づくりフォーラム 2015 in大阪」の内容の決定と、タブレットPCを活用した授業の報告でした。フォーラムの内容については、「「愛される学校づくりフォーラム2015 in大阪」の申込み開始」でお知らせしたとおりです。

最近、タブレットPC1人1台の環境での活用研究が多く行われています。特に協働学習での活用を視野に入れたものが増えているように思います。今回の会員の授業実践も、数学の図形領域における、情報の共有を意識したものでした。
四角形の各辺の中点を結んでできた図形について、どんなことが言えるかを考える授業でした。タブレットPCの活用はちょっと横に置いておいて、数学の授業という視点で見れば、子どもたちを揺さぶりながら四角形の定義を確認したり、「数学で成り立つというのはいつでも成り立つということで、1つでも反例があれば成り立つと言えない」という基本をしっかり押さえたりと、数学的なものの見方・考え方が意識された骨太なものでした。力のある授業者であるが故に、タブレットPCを活用することによって、使わない時と比べて授業が本当によくなったかどうかが問われます。
タブレットPC上で描いた図を自分のタブレットPCで全員分見られるというソフトの機能を使って授業を進めました。しかし、子どもたちが全員分の情報を処理する時間を授業時間内に取れるかどうか疑問に感じました。視点を持って見ることをしなければ、それ程早く処理できません。この機能を活かすための前提は何かがまだはっきりと見えていないのです。もちろんそれをするのが研究なのですが・・・。
別の授業で子どもから「○○さんの意見を見ろ」という言葉が出たそうです。なかなか素敵な言葉です。友だちの考えを共有することのよさが現れています。グループでまとめてしまえば、よい考えが埋もれてしまう可能性もあります。そういう点で、全員の考えを共有できるのは魅力的です。しかし、情報量が多すぎて一つひとつの考えの理解が薄まって、かえってよい考えに気づけない可能性もあります。ただ共有するだけで「○○さんの意見を見ろ」という声が引き出せるのかは疑問があります。そのために必要な条件がきっとあるはずです。この条件を考えてみたいと思いました。よい視点をいただきました。
授業の一部分を見ただけですので、正確なところは何とも言えませんが、今回の授業であれば「グループでたくさんの図を描かせて、共通していることを発表させる」ことをしたのち、「他のグループの意見が本当に成り立っているかどうか、成り立たない例があるか確かめるために、成り立ちそうもない図を描かせてみる」といった、意図的に図を描く活動をさせた方が面白かったように思います。これであれば、タブレットPCにこだわらず、紙と鉛筆、実物投影機でも十分にできます。今回の教材でタブレットPCを活用するのであれば、幾何ツールのように動的に形を変えることができるものを利用した方が、ICTのよさを活かせるように思いました。
また、今回は利用しませんでしたが、使用したソフトにはキーワードで分類するといった機能もあるようです。何となく面白そうな機能です。しかし、実際の授業を考えると、この機能を使ってキーワードで分類して整理する力をつけるのか、キーワードで分類することで問題解決する力をつけるのかといった、どのような力をつけようとするのかが問われます。
授業で子どもたちにつけたい力とソフトの関係が明確でなければいけません。どんな授業を想定しているのか興味がわきます。
タブレットPCの活用を否定するつもりも、今回の授業を否定するつもりもありません。いや、むしろ期待しているのです。授業実践を積み重ねて初めて見えてくるものがあります。今回利用したソフトの開発会社は、素晴らしい先生方に実践をお願いしているようです。教育ソフトの開発に長年携わっていた者としては、これらの実践を通じて、タブレットPCが子どもたちの学びにとってなくてはならない道具へと進化していくことを願っています。

今回のような学びの多い情報提供をもとに意見を交換ができるのも、この研究会の魅力の1つです。「愛される学校づくりフォーラム 2015 in大阪」のコンセプトは、愛される学校づくり研究会の公開研究会です。学びあえる研究会のよさをお伝えできればと思っています。

来年度教師力アップセミナーの講師選定会議

来年度の教師力アップセミナーの講師を決める、運営委員会を行いました。この話が出てくると年末を実感します。

どのような方をお呼びするといいのか、今話題にすべきテーマは何かという視点から検討します。道徳の教科化をにらんで、道徳の授業の充実を考える必要があることが話題になりました。しかし、今道徳を話題にすると、評価が論点になってしまうのではないかという懸念もあります。今年の講演で野口芳宏先生がこのことについて明快な考えを示していただけたので、来年度は道徳を特に扱う必要はないという結論になりました。
小学校英語がゲームを主体とする単なる活動になっていて、英語の習得につながっていない例をたくさん目にします。外国語活動の中学年への拡大、教科化への流れを考えると、その内容を見直すようなことも必要ではないかという考えも出されました。しかし、曲りなりも外国語活動が定着して授業が成立している中で、その見直しを提案しても先生方はその必要性を感じないだろうという結論になりました。私たちが考える課題と先生方が感じる課題が一致するわけではありません。皆さんに聞きたいと思っていただくようなテーマを決めることはなかなか難しいことです。

特別支援を必要とする子どもを普通教室でどのように対応していくかというのは、先生方にとって関心の深い話題です。それと関連して教科書がユニバーサルデザインを意識したものに変わったということが話題になりました。授業にもユニバーサルデザインの考え方を取り入れることが大切です。普通教室における特別支援の他に、ユニバーサルデザインを意識した授業についても企画しました。
また、若い先生が増えている昨今、彼らにとって関心の高いテーマを扱うことも大切です。中でも学級経営は切実な問題です。これを外すわけにはいきません。同時に、成長していただくことを意識して、教師修行についての講演も企画しました。
最終的は、国語、社会、算数(ユニバーサルデザインと合わせて)、理科の各教科、学級経営、特別支援、教師修行というテーマで講師の候補者を選びました。
何人かの方にはもうすでに快諾をいただいています。2月の初旬には皆さんに詳細をお知らせできると思います。

学級経営の大切さを思わぬ形で実感する

現在研究中のコンピュータを利用した能力診断・開発のプログラムを試していただいている小学校で、授業を参観させていただきました。診断結果や能力の変化の様子に、学級間でばらつきがあるので、実際に子どもの姿を見てみたいと考えたからです。

この学年は3学級なのですが、1つの学級は積極的に取り組み、ほぼ全員の能力が順調に向上しています。次の学級は比較的能力の高い子どもたちの伸びが大きく、もう1つの学級は取り組みが消極的で伸びのばらつきが大きく、能力が下がっている子どもも目立ちます。この違いがどこから来ているのか興味があったのです。
今年度の学級編成の時には、ほぼ均一になるように分けたそうですが、学級の様子を見ると明らかに違いがわかります。順調に子どもたちが伸びている学級は授業規律が比較的よい状態で、授業者の指示に子どもたちがよく従っています。一方、ばらつきの大きい学級は、授業でも子どもたちの様子がばらばらです。子どもたちの集中力が続かず、ごそごそする子どもが目立ちます。それも特定の子どもというより、入れ代り立ち代りです。その中間の学級は、授業者が意識していることはきちんとできているのですが、気にしていないことはあまりきちんとできません。どちらかというと放任のように見えます。能力の高い子どもの伸びが大きいのは、彼らの意欲がもともと高かったからかもしれません。
今回試していただいたものは、ゲームや作業を通じて能力診断・開発を行うものです。このようなものであれば、子ども一人ひとりの興味関心で取り組む姿勢が決まるのではないかと考えていたのですが、どうやらそうではなさそうです。コンピュータ教室で一斉に利用するといったやり方だったので、学級の雰囲気が大きく影響したようです。

あたりまえのことかもしれませんが、同じプログラムでも学級としての取り組む姿勢がその効果に大きな影響を与えることがわかりました。逆に子どもたちの変化から、学級経営の状態がわかると言えるかもしれません。本来のねらいとは違うのですが、学級の状況の診断に利用できる可能性もありそうです。
今回、この学校に協力いただくことで、とても興味深い知見を得ることができました。今後他の検査との相関も調べたりしながら、役立つ情報を還元したいと思います。

若い先生方のエネルギーを感じる

先日私立の中高等学校で授業アドバイスと打ち合わせを行ってきました。打ち合わせは、2学期も終わりに近づき、来年度に向けてどのように研修を進めていくかという内容です。

文部科学省がアクティブ・ラーニングを提唱しています。大学入試制度も大きく変化しそうです。しかし、そのような流れの中にあっても、特に高等学校の先生方は知識をいかに伝えるかという授業観からなかなか離れることができていません。自分の経験したことのないものに挑戦するには勇気を必要とします。特にそのような経験をせずに歳をとった方に、変われと言うのはかなり厳しい要求です。少なくとも具体的にどのようにすればよいのかを示す必要があります。また、当然のことですが、その必要性も納得しなければいけません。大学入試制度が明確になってから、他の学校の様子を見てからという日和見的な発想ではなかなか動き出すことができません。大学入試制度の変更に対応するためには、その制度の対象になる生徒が高等学校に入学する時点で準備を済ませている必要があります。あと2年しか準備期間はありません。先生方にその意識を持ってもらうことから始める必要があるでしょう。
2年間で、先生方の学力観、授業観を変えていくとともに、授業の目指すべき具体的な姿を共有できるようにするためには、積極的に新しい授業に挑戦し、互いに学び合うことが大切です。大きな所帯の学校ですからていねいに進めることが求められます。まずは、中心となる先生方でこの方向性を確認することから始めることになります。しかし、それと同時に迅速な対応をしていかなければ出遅れてしまいます。知恵の出しどころです。

この日もいくつかの授業を見ました。若い先生が変わろうとしてくれていることを感じます。本人はまだまだその成果を実感できていないかもしれませんが、子どもとの基本的な関係は確実によい方向に向かっています。教材研究やちょっとした工夫が活きるための基盤ができつつあると思います。焦らずに授業改善に挑戦し続けてほしいと思います。
新しいスタイルの授業に挑戦している英語の授業は、子どもたちの姿がとてもよくなっていることを感じました。絵の示している状況を英語で表現する課題にペアで挑戦します。互いに体をしっかり向け合って取り組みます。詰まった相手に対して、一生懸命説明する姿が見られます。互いに助け合う関係になっています。教室全体に安心感があふれているのが印象的です。
教師の代わりに子どもが前に出て、授業を進めます。絵で示される状況を指名された子どもが答えます。詰まった時は、まわりの子どもが助けます。しかし、内容が復習なので、わかるようになった子どもは集中力が落ちています。一問一答ではなく、せめて確認のために全員がリピートするといったことをする必要があると思います。下位の子どもたちということもあってこの時間は復習がほとんどでした。子どもたちは英語に対する苦手意識が薄れています。やればできるという、自信も育ちつつあります。毎時間1つでいいので、新しいことを習得するようにカリキュラムを工夫するとよいでしょう。適度なプレッシャーが子どもたちをより伸ばしてくれると思います。

この学校の学力観、授業観を変えてくれると期待しているのが英語科です。この日も授業後に、これからの英語の授業の方向性について、若手の先生が何人か相談に来てくれました。文法中心ではない授業へと本当に変化していいのか、悩んでいるようでした。今までのやり方を否定することはとても大変なことです。しかし、さすがに若い方は柔軟です。新しいスタイルに挑戦しようとしてくれています。彼らのエネルギーが教科の先生方を変え、それが全教科、学校全体に広がっていくことが理想です。
この先、まだまだ困難はあると思いますが、きっとこの学校全体がよい方向へ変わっていくと思いました。

これからが楽しみな若い先生の課題を考える

先日、小学校で今年度2回目の授業アドバイスを行ってきました。市内の全小学校での授業アドバイスの一環です。この日は、3人の若手の授業アドバイスを行いました。

1年生の算数は、繰り下がりのある引き算の授業でした。
13個なっている柿の実から9個取った残りはいくつという問題をデジタル教科書の図を見ながら把握します。「何をした?」と子どもに問いかけます。「柿を採った」という発言を認め、他にはないかと聞いたところ、「柿狩り」という言葉が出ました。授業者は柿「狩り」の説明をして、発言を「ありがとうございます」と認めました。同じことだと軽く扱わずに、きちんと受け止めて認めていることに、子どもたちに対する授業者の姿勢を感じました。こういった難しい言葉を子どもが使った場合は、その説明を発言者にさせるとよいのですが、この時間は算数であることや授業のねらいには直接つながらないことなので、このような扱いでよかったと思います。
数図ブロックについて、「何に使うか?」と問いかけるのですが子どもたちは戸惑います。どう答えていいかわからないのです。数図ブロックを使って「何をした?」とより具体的に聞くと子どもは答えやすかったと思います。特に低学年では、ちょっとした言葉の使い方で子どもの思考や発言は影響されます。授業者がねらう言葉を引き出すためにはどのような言葉を使って問いかけるとよいのかを子どももの目線で考えることが大切です。
何算かを考えるのに問題文のキーワードから考えさせます。文中に「のこり」という言葉があるから引き算という説明です。このように問題文の単語から演算を考えさせるという教え方をよく見ますが、これは注意してほしいと思います。キーワードだけを頼って、問題文を理解しようとしなくなるのです。問題文を理解して、その表わす状況からどういう計算をすればいいのかを考えるようしなければいけません。今回であれば、柿の実が全部で13個ある、そこから9個を採るということを問題文の絵をもとに操作し、求めるものは13個から9個を取り去った残りであることを確認して、引き算だと考えるのです。いきなり問題文から式を出すのではなく、間に具象をはさむのです。この具象を、必要に応じて半具象の数図ブロックやリボン図に置き換えて考えます。計算そのもののやり方を考えるのであれば、数と対応がつく数図ブロックを使いますし、演算だけに注目するのであれば、数が抽象化されているリボン図が使われます。
13−9で、3から9は引けないことを簡単に押さえました。これは大切なことです。「13は10と3、3から9は引けないね、どこから引こうか?」というように考えるヒントとなる視点を与えてもよいでしょう。数図ブロックをもとに計算の仕方を考える時に、思考の方向性を与えることができます。
数図ブロックを使って考えたやり方を、指名して前で発表させます。最初の子どもが10から6を取りました。減減法です。授業者は減減法が出てくることを予想していなかったようです。6の説明をせずに、3から順番に取っていってと説明をしました。中途半端に説明するよりは、同じように考えた人がいるかどうかだけ確認して、説明は後に回した方がよかったでしょう。
次の子どもは、10から9を取って残った1と3を足します。次に指名した子どもは、10から1を取って3に足しました。子どもからすごいと拍手が起こりました。ここは、しっかり押さえたいところです。どこがすごいかを子どもに問いかけ、1はどこからでてきたかを確認して、「10は9と1」と補数につながる言葉を出させたいところでした。この考え方を全員に納得させることが必要だったと思います。
せっかく子どもから出てきた考えですが、操作をさせて確認はしませんでした。ここまで数図ブロックで考えてきたのですから、それぞれの考え方を実際に操作することで理解させることが必要だと思います。
10から9を「取って」1、1と3を足して4という操作を式に戻って説明する時には、10から9を「引いて」となっていました。おそらく授業者は意識せずに言葉を置き換えてしまっていたように思います。また、10をさくらんぼ図で1と9に分けてから計算する練習をいきなりするのですが、10から1を引くのと、10を9と1に分けることの間にはギャップがあります。大人から見るとギャップにも思えないことを、子どもに寄り添い、子ども目線でクリアしようとすることが大切です。

5年生の国語は、論語でした。授業者は日ごろから子どもをしっかりと受け止めているようです。子どもたちはよい表情で授業に参加していました。ただ気になったのが、子どもが発言している友だちの方を見ないことです。子どもの言葉をつなぐことを意識して、聞く姿勢をつくることが大切です。
教科書では書き下し文しか扱いませんが、授業者は白文を用意しました。ディスプレイに映し出します。漢字ばかりであることを押さえて、漢字について学習したことを確認します。「漢字について前に勉強したね」という授業者の言葉に「あー」と反応する子どもがいました。しかし、授業者は自分で説明をします。せっかくの反応ですから、これを活かしたいところでした。
続いて、ワークシートで書き下し文を与えて音読します。せっかく白文を提示したのですから、白文と書き下し文の関係を説明したいところです。「もともとは、中国語でそのまま読むもの」「日本には中国から漢字が伝わっていたので、漢字の意味と読みはわかる」「中国の言葉を日本語で読めるようにして考えられたのが書き下し文」「これによって、当時の人は中国語を読めるようになった」。こういったことを押さえておきたいところです。
子どもたちに音読をさせますが、目標がはっきりしていません。すらすらと読むのか、言葉の区切りを意識するのかといったことを明確にするとよいでしょう。
続いて、国語辞典を与えて文の内容(意味)を考えさせます。目指すところが、書き下し文から言っていることをなんとなく理解することなのか、書かれていることを理解してその上で解釈することなのか、はっきりしていません。白文を使ったのであれば、漢字事典を使ってもよかったかもしれません。白文の漢字の中で、書き下し文でそのまま使われているものとそうでないものがあることに気づかせても面白いかもしれません。どうあるべきということではなく、何をさせたいかです。
現代語の辞典なので出てこない言葉もあります。「ず」といった古語の助動詞についてはある程度情報を与えるか、白文の漢字「不」の意味から想像させるといったことも必要かもしれません。
子どもに発表させますが、どこでそう思ったのか、調べたのか、想像したのかといった手段を共有しません。せっかく辞典という道具を与えたのですから、どう使ったかを共有したいところです。何人かの意見を発表させますが、同じように考えた人がいるのか、根拠を聞いて納得したのかといった、つなぐことをしません。最後に教科書の説明を読んでこの活動は終わりました。子どもたちは頑張って活動しましたが、その目標や評価ははっきりとされないままでした。
続いて音読の練習をさせますが、やはり目標や評価基準がはっきりしません。グループで発表し合う時になって評価カードが配られ、基準が示されました。これでは後出しじゃんけんです。子どもたちは、評価基準を意識せずに音読して、それ評価されるのであまり緊張しません。テンションが上がります。グループの代表を選んで発表させますが、評価を意識した音読でないので、だれが代表になるか選べません。代表の音読もあまり集中して聞いていませんでした。
1時間に内容を詰め込み過ぎたため、一つひとつの活動のねらいがぼやけたものになってしまいした。

6年生の英語は、カリキュラムがこの市の共通のものなので、授業者が工夫できることはないかという視点で見ました。6年生になるとある程度慣れているのか、子どもの参加の姿勢に差を感じます。ビデオを見ながら発音練習する場面などは、きちんと発音しない子どももいます。全員が口を開けるようにするためには、何度も繰り返すことが必要です。ビデオではなかなか難しいのですが、リモコンで一時停止させて、教師が再度言わせるといったことが必要です。
授業者はALTが主の場面でも、常に笑顔で子どもたちを見ていました、この学級の雰囲気がよい理由がよくわかります。
授業者は、外国語活動に対して前向きです。うまく授業に取り入れられるかわかりませんが、具体物で”situation”をつくって英語の意味を考えることや、逆に与えられた”situation”を英語に直すといったやり方があることを具体例で伝えました。また、単語の練習で絵と文字が一緒になっていることが気になることも伝えました。言葉を覚えこととスペルを覚えることは違います。「話す・聞く」と「読む・書く」の順番を意識することをお願いしました。

3人ともとても素直で、前向きでした。子どもたちの関係もよいようです。一つひとつの活動で子どもにどうあってほしいのか、何が目標なのかを意識して授業に臨むことで大きく進歩すると思います。これからが楽しみな若い先生方でした。

「愛される学校づくりフォーラム2015 in大阪」の申込み開始

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「愛される学校づくりフォーラム2015 in大阪」の申込みがいよいよ開始されました。「愛される学校づくり研究会」の公開研究会として、会員が「愛される学校のつくり方」を提案する午前の部と、「楽しく、手軽に授業改善」するための方法について、会員の模擬授業をもとに考える午後の部の2本立てです。

午前の部は、「愛される学校づくり研究会」の定例会で校長職(経験者を含む)である会員19名が発表した「私の愛される学校のつくり方」の中から、特に外部の方にも聞いていただきたい5名の実践を提案します。提案をもとに、今回は外部の方も交えて「愛される学校のつくり方」について協議を行います。参加された皆さんの愛される学校づくりにきっと役立つことと思います。

午後の部は、私たち会員の授業者による道徳、算数のミニ提案模擬授業をもとに、2つの授業検討法を活用して授業研究を行います。提案授業を見るだけでも損はさせませんが、今年度は、参加者にも私たちの提案する授業検討法を体験していただくことや昨年度から大きく進化したICTを活用したシステムによる新しい授業検討のあり方の可能性を実感していただくことで、「楽しく、手軽に授業改善」するための具体的なヒントをつかんでいただけると思います。
引き続き、2つの授業研究をもとに、「楽しく、手軽に授業改善」するためのポイントについて、授業者とコーディネーターでまとめます。学校だけでなく、個人レベルでの授業改善を目指す方にも役立つ内容になると思います。私が連載している教育コラム「楽しく、手軽に授業研究をしよう」をお読みいただければ、当日はより楽しめることと思います。

なお、昨年度、一昨年度とも申込み締め切り前に定員となりました。お早目の申込みをお勧めします。

日 時  平成27年2月21日(土) 10:00〜16:30(受付開始 9:30)
会 場  梅田スカイビル(タワーウエスト3F「ステラホール」)
参加費  1人 3,000円

なお、入場券を事前に申し込んだ方には、「EDUCOM教育フェア2015」の招待券が届きます。この招待券は、当日昼食券と引き換えができます。

詳しい案内と、申込みについては、愛される学校づくり研究会のHPフォーラムのコーナーをご覧ください。

学校評価の進め方について学ぶ

先日、平成26年度「学校の総合マネジメント力の強化に関する調査研究」中間成果報告会に参加しました。この日は、国際大学CLOCOMの准教授の豊福晋平先生からの「教育委員会による学校評価支援の方策」についての報告でした。

詳しくは書くことができませんが、ある教育委員会における学校評価のデータの分析を例にして、とても興味深い話をたくさん聞くことができました。
お話をうかがって感じたのは、アンケートなど有用なデータを得ても、それを基にどう評価するかの方法論が明確でないと活かすことができないということです。極端に言えば評価者の能力で、その価値が変わってしまうのです。とはいえ、学校や教育委員会にはそういった専門的なスキルをもった方はいません。何とか現場でもできる標準的な評価の手法を確立する必要があると思います。
専門的な評価分析については、その方法を含めていろいろあるとは思いますが、今回豊福先生が行われた因子分析はとてもおもしろい結果と考える視点を提供してくれました。豊福先生はあえて現場の様子を見ずにデータだけから客観的に言えることを提供します。それを受けてその結果をどう解釈するかは現場の人間の仕事です。そのような結果が出た原因を考えると、現場の人間には必ず思いあたることがあると思います。その視点をもとに考えることで有効な改善策を導き出すことができるはずです。予算的な問題もあるかもしれませんが、地元の大学と協力し合うことで、こういうよい分業ができる可能性があるとの提案は納得できるものです。

豊福先生の提案された、評価モデルの構造化も納得性のあることでした。
「学校はどうなりたいのか 評価観点・カテゴリの決定」「到達度・進捗度を何で知るか 評価根拠の設定」「結果はどうか・何を対策・提案したか エビデンスログの収集」「次にどうあるべきか 学校活動の総括と提言」とフェイズを明確にして何をすればよいかを明らかにするのです。特に、意識したいことが学校の教育活動で得られた成果です。学校が何をやってそれがどのような成果を出したのか、そのことを第三者にわかるようにすることが大切です。これがエビデンスログです。学校にはこういった発想はありませんから、これを意図的、かつ効率的におこなう方法を具体的にすることが大切です。豊福先生からの具体的な提案は、大いに参考になりました。

学校評価を効率的、かつ有効なものにするための視点やヒントをたくさん得ることができました。よい勉強をさせていただきました。ありがとうございました。

道徳で子どもたちが話を創ってしまう

昨日の日記の続きです。

授業研究は6年生の道徳をTTで行いました。若手がT1、ベテランの教務主任がT2です。
読み物は、大舞台に立つことを夢見ている売れない手品師の話です。父親を失くし、母親が夜遅くまで働いているため、さびしくて夜中にしょんぼりしゃがんでいる男の子に出会った手品師は、自分の手品でその子を慰めてやります。すっかり元気になった男の子と翌日も手品を見せることを約束しましたが、思いもかけず大劇場の舞台に立つチャンスがやってきました。しかし、その舞台に立てば男の子との約束を破ることになります。悩んだ末手品師は男の子との約束を選びました。こういう内容です。

最初に友だちと約束をして守れなかった経験を子どもたちに聞きます。T1は子どもの発言を共感しながらしっかりと受け止めます。子どもたちに何を言っても受け止めてもらえるという安心感を与えてから、資料を配りました。子どもたちに配ったものは、手品師が大舞台に立つか男の子との約束を守るかで悩むところまでしかありません。T1は範読した後、内容の確認を行います。手品師に夢があったことを押さえ、男の子に手品を見せた時、翌日の約束をした時の手品師の気持ちを聞きます。子どもたちの発言に対して余計な言葉は足さずに進めていきます。発表後またすぐに挙手した子どもがいます。T1は、また手を挙げてくれたことをほめました。発表したらもう自分の出番はないといった雰囲気にならないように意識してのことでしょう。常に参加することを子どもたちに求めようとしていること感じます。
感心したのが、内容の確認が終わるまでの時間を非常に短くしていることです。押さえるべきことを、手品師はどちらを選ぶかという主課題を考えさせるために必要な最小限のことに絞っています。教師の発言もしっかり削ぎ落しています。事前に模擬授業等を通じてずいぶん研究をしたであろうことは想像できます。おかげで主課題に十分な時間を取ることができました。

子どもたちに手品師がどちらを選ぶか考えさせ、「約束を守る」「迷っている」「大劇場の舞台に立つ」かを反応器として準備した紙コップの色で示させます。意見を聞いて考えが変わった子どもを指名することで深めていこうという訳です。
子どもたちの意見は、物語の結末としてどのようなものがよいかを考えたように見えるものがほとんどです。他人事、妄想、ご都合主義と言ってもいいものです。「自分の実力を磨いていればチャンスは来るはずだから、約束を守る」「大舞台で成功して有名になれば、男の子も喜んでくれる」・・・、子どもたちは勝手にハッピーエンドになるような話を創るのです。中には「自分だったら」と自分に引き寄せて意見を言う子どももいましたが、T1はそのことを意図的に取り上げませんでした。「自分だったらと言ってくれたけれど、自分でも同じようにする?」と投げかけてもよかったかもしれません。
結局、どちらの意見も手品師にとって都合のいいように話を創っているだけでした。このようなやり取りであれば、反応器で意見が変わった子どもを指名しても本時で考えさせたい「誠実」にはつながっていきません。自分の都合や相手がどうであるかに関係なく、約束したことは守るのが「誠実」です。T1は子どもの意見を受容することを意識するあまりに、揺さぶることをしませんでした。「もう一生チャンスはないかもしれないよ」「男の子はずっと待っているかもしれないよ」「それでもいい?」といった言葉を返してもよかったと思います。
「じゃあ、みんなが思った行動を取ったあと、手品師はどんなことを思うかな?男の子はどう思うかな?」という問い返しもあります。
また、前提を変えるという方法もあります。「もし、男の子が両親もそろっていてさびしい思いをしていないとしたら、どうだろうか。意見を変える?」と聞いて、もう一度考えさせると、ねらいである「誠実」につながる意見が出てくるかもしれません。それでも約束を守るという子どもは、「約束したことだから」という理由を言ってくれる可能性が高くなります。
道徳では、子どもたちは他人事の意見、教師が求めそうな答をとりあえず言う傾向があります。本音を引き出すためには、焦点化したり、揺さぶったりともうひと押しして再度考えさせることが必要です。

この後、後半の結論部分を読んで手品師の気持ちを言わせました。この展開であれば、後半を与える必要はなかったかもしれません。
子どもたちに「うそやごまかしのない正直な行動をとってよかったこと」を書かせて発表します。子どもたちは「正直に言ってよかった」というような「正直」に引っぱられたことを書いていますが、「正直」であることと「誠実」は少し違うように思います。この話で考えたことと子どもたちの書いたことがずれていたことが気になります。もちろん、そのような経験がなかったのかもしれませんし、問の文言に問題があるのかもしれません。が、とにかくこの時間に考えたことが子どもたちの振り返りに影響していないのです。子どもたちはこの時間で変容したのかどうかよくわからなくなりました。似たような経験がなさそうなことであれば、やはり過去を振り返るのではなく、これからどうしたいのか、どうするのかを考えさせるとよいでしょう。最初と最後に全く同じ問いに対する考えを書かせてもよいでしょう。比較することで変容に気づくことができます。
T1の説話も子どもたちと同じく「正直」に焦点があたったものでした。「誠実」というのは伝えにくいものなのかもしれません。道徳のむずかしさを感じさせられました。

授業者は、展開例をなぞるのではなく読み物の結論を主人公の気持ちになって考えさせるというやり方に挑戦しました。この学校で今進めている道徳の殻を破ろうとしてくれました。このことで、子どもたちが読み物の続きを考える時、話を創作してしまうことに気づくことができました。とても大切な情報です。子どもたちに自分のこととして考えさせるためにはもう一工夫必要であることがわかりました。このことが授業研究なのです。次回の授業研究がこの気づきを活かしたものになってくれることを願います。

道徳の授業の進め方を考える

小学校で授業アドバイスを行ってきました。今年3回目の訪問です。今回は通常学級の6名と特別支援の先生の授業アドバイスと若手の授業研究でした。特別支援以外はすべて道徳の授業でした。

道徳の授業はどの学級も副読本の「明るい心」を使い、展開例に従って授業を進めていました。資料の読み取りを助ける、場面の絵が全学年分そろっているので、それを上手く活用していました。ただ、この副読本では最後に自分の経験を振り返って終わるというのが基本的な流れです。しかし、過去ではなく明日からどのように行動するかということが大切になります。このことを子どもに迫ることを意識してほしいと思います。

1年生はまだ経験の浅い講師の授業でした。しかし、子どもたちによい表情が見られます。授業者が笑顔で子どもたちと接することを意識するようになった結果でしょう。子どもたちが集中したよい状態で授業は始まりました。
私たちが見ているので緊張したのでしょうか。授業者はしゃべりが少し早く、子どもたちの理解を超えたスピードです。また、資料の読み取りで説明が続くのでせっかくの子どもたちの集中が切れてしまいました。特に1年生は受け身の時間が長いとだれてしまいます。子どもたちはよく反応してくれるので、子どもとのやり取りを増やし、子ども同士をつなぐことを意識するとよいと思います。

5年生の授業は、主人公と母親とのやり取りを何組かの子どもたちに前で実際に演じさせていました。子どもたちはとても楽しそうに、集中して見ています。演技終了後に主人公の気持ちを子ども役に聞きます。子どもたちに感情移入させるよい方法の一つでしょう。ただ注意したいのは、この時の主人公の気持ちを全員に考えさせたいのかどうかです。もし、全員に考えさせたいのであれば、何人も指名して意見を言わせたり、互いに聞き合ったりする場面が必要になると思います。
この授業のねらいとはずれるかもしれませんが、主人公以外の視点で考えることも子どもたちに客観的に自分を見つめさせる有効な方法です。この読み物の主人公は母親の言葉をちゃんと聞かずに約束を破ることになったのですが、母親はどんな気持ちで声をかけたかを考えさせるのです。
授業の一部分しか見ていないので何とも言えないのですが、授業者はどこに時間をかけたかったのか、ちょっと疑問に思いました。というのは、子どもたちが演技をしていたのは読み物の最初の方です。経過時間から言って、後半の場面について考えさせる時間が足りなくなるのではないかと思ったからです。道徳では、読み物の内容理解よりは、子どもが自分のこととして考える時間の方が大切です。限られた時間の中でどうバランスを取るかを意識してほしいと思います。
副読本の展開例を参考にしながらも演技をさせるといった独自の工夫をしていることはとてもよいことと思います。子どもたちとの人間関係がよいこともあって、こういう工夫が有効と感じることが多いと思いますが、それとは別の視点、この工夫が授業のねらいにつながっていったかどうかも意識することもできると、より有効な場面で活用できるようになると思います。

4年生は自らを律することを意識させる課題でした。
子どもが主人公の気持ちを考えて発表するのですが他人事のようです。この主人公はこう考えたという読み取りになっていて、自分のことになっていません。子どもたちの内面に迫ることが大切です。主人公のした行動にそって考えるだけでなく、「あなたならどうする?」と考えさせたり、「状況が違ったらどうだろう?」と別の条件で主人公の行動を想像させたりすることも視野に入れてほしいと思います。

3年生は、ちょっと落ち着かない子どもがいる学級です。面白いのは私たちの姿を見て、子どもたちの様子が変わったことです。見られていることを意識したようです。
授業者は子どもたちに作業をさせている問など、すぐに机間指導をします。落ち着かない子どもが気になりすぎて、その子に素早く対応できるようにしているのです。この学級の子どもたちと授業者の関係は悪くありません。子どもたちの多くは、それほど問題はないのです。過敏にならずにゆったりと構え、普通の子どもをしっかり見守ることの方を優先してほしいと思います。この学級の子どもたちは、受け身の時間が続くと集中力が切れます。反応はするので、どんどん指名して意見を言わせると積極的に参加するはずです。思い切って子どもたちにたくさん活動させることを意識するとよいと思います。

2年生の1つ目の学級は、子どもたちにとって、この課題が自分のものとなっていないことが気になりました。一部に友だちの意見をちゃんと聞いていない子どもがいるのです。
授業者は子どもの意見をしっかり聞くのですが、それを受けてすぐに板書をしてしまいます。授業者が板書して黒板に向いている時に子どもたちの集中力が切れることも気になります。道徳では板書を写す必要がないからでしょうか、板書中は子どもたちにとってはリラックスタイムになっています。もっと子どもを指名して意見を言わせ、その上で子どもたちを揺さぶって自分に引き寄せて考えさせることが必要です。自分のこととして考えると、友だちの意見が気になります。子どもたちは、表面的に主人公の気持ちをなぞっているだけだったのです。

2年生のもう1つの授業は、子どもたちと授業者の関係のよさが印象的でした。
子どもたちは一生懸命に意見を言います。どんな意見でも授業者が温かく受け止めるので、そのことで子どもたちは満足してしまいます。発表して先生に認めてもらうことが目的化しているのです。ただ受容するだけでなく評価することで、その中身を意識させることも大切になります。この授業は道徳ですので評価は必要ではありませんが、「○○さんと似た意見の人?」と子ども同士をつなぐなどするとよいでしょう。教師と子どもだけでなく、子ども同士で認められることを意識するようになり、子ども同士の関係もよくなります。また、友だちの意見を聞こうとするようになり、意見や考えがつながって深まるようになります。

特別支援は、算数の授業でした。授業者は根気よく笑顔で子どもに接しています。子どもは序数と基数の違いや関係がよく理解できていないようです。1、2と物の数を数えることはできるのですが、数の大小がよくわかりません。7と8ではどちらの数が大きいかわからないのです。授業者はどう教えればいいか悩んでいました。
物を数えることはできますから、7つと8つの物を用意して、1つ、2つと声を出しながらそれぞれから同時に移動させます。7つまで来たところで、一方が7つあることとどちらが多いかを確認します。確認したところで8と数え、8つあることを確認して、8の方が多いことを納得させます。この方法で上手くいくかどうかわかりませんが、実物を使いながら、序数と基数をつなぐことをする必要があると思います。

見せていた方々それぞれに進歩している部分があり、だからこそ個々の課題が明確になっているように思いました。

授業研究については明日の日記で。

北原延晃先生から学ぶ

先日、英語の授業実践で定評のある東京都港区立赤坂中学校の北原延晃先生の研修会に出かけました。3回シリーズの第3回目でやっと時間を取って参加することができました。

今回は、今までの研修をもとに若手が行った実践発表とそれを受けての北原先生の指導と講演でした。
3名の方の授業実践を見て感じたのが、北原先生の授業を参考にしたかどうかは置いておいて、子どもを見ていない、活動の目標が明確でないというように、授業の基本に関してできていないことが多かったことです。また、”situation”で理解させるのではなく、英語を日本語に対応させて教えていることも気になりました。子どもが英文をオウム返しで覚える活動が中心では、英語を使えるようにはなりません。自分の伝えたい”situation”を英語にすることが大切です。
北原先生は私が感じたことと近い視点で指導され、私にとってとても納得できるものでした。ということは、北原先生は活動の目標を明確にして、”situation”で理解させようとしているということです。前2回の研修で彼らは北原先生からそういったことを学べていなかったのです。話を聞いたり、実践を見たりしても、そこから何を学ぶかは人によって違います。表面的な技術ではなく、本質をつかみ取ることはそう簡単ではないようです。このことは私も授業アドバイスをする上で、心しておかなければいけないことです。

講演では、文法の導入と練習の授業をどうつくるかということを具体的に教えていただきました。
北原先生の授業では、子どもたちは英文を読みながらジェスチャをします。基本的に英単語とジェスチャは1対1です。こうすることで英語の構造が身につきます。田尻悟郎先生の単語と絵を対応させた英作文練習やGDMのライブに通じるものがあります。
また、次にどのような文の練習をするか予想させます。過去の学習内容から予想させるというのは、「次に先生は何て言うと思う?」といった子どもたちを能動的にするためによく使われる発問と似た発想です。教科を越えて使えるやり方がたくさんあることを実感します。また、復習している内容をどこで学習したかを意識させることもしています。これも、大切な発想です。答を聞くだけでは、「ああそうだった」と一瞬思い出すだけですぐに記憶から消えていきます。どこで学習したかを意識させそこに戻ることで、その文という点ではなく、そこで学習した一連のことを思いださせることができます。これも教科を越えてよく使われるやり方です。
“I ○ dinner every Sunday.”という文の○にあてはまる単語を考えさせます。”have”では日曜日にしか夕食を取らないことになりますから、ちょっと変です。”situation”を考えると、”cook”が答だとわかります。食事当番の表を与えて、文を作らせます。単に覚えさせる英語ではなく、”situation”と連動させています。基本的に優れた英語の授業に共通する考え方です。
考えてもわからないと時には、”Hint please.”と子どもに言わせ、わからなければ聞くという姿勢を身につけさせようとしています。これも、教科を越えて子どもたちに教えたいことです。また、できる子どもを活かしながら、最後の一人ができるまで待つという、全員参加の姿勢も素晴らしいと思います。

北原先生の授業は英語という教科面の工夫に目を奪われそうになりますが、教科を超えた基本的な姿勢にその本質があるように思いました。英語の授業としてだけでなく、子どもが全員参加し、考える授業はどうやってつくるのかという点でも大いに学ぶことができました。よい学びの機会を持てたことを感謝します。

授業アドバイスの手ごたえを感じる(長文)

先日、小学校で授業アドバイスを行ってきました。市内の全小学校での授業アドバイスの一環で、今年度第2回目でした。

6年生の算数は、順列の学習でした。子どもの表情がとてもよいことが印象的でした。子どもたちと先生の関係がよいことがよくわかります。授業者は笑顔で、とにかく子どもたちをよく見ようとしています。子どもたちが安心して授業に参加している理由がよくわかります。
先輩に教わったということですが、算数の授業では子どもたちに「算数博士になる」という目標を意識させていました。「は」は「はや(速)く」、「か」は「かんたん(簡単)に」、「せ」は「せいかく(正確)に」で「はかせ」です。算数的なものの見方考え方を子どもたちに意識させるよい方法の一つだと思います。
子どもたちの考えを大切にして授業を進めていきます。3人がリレーをする時の走る順番が何通りあるかを個人で考えさせた後、グループで話し合わせます。グループになると止まっていた子どもも動き出します。どの考え方がいいかを「このやり方は速いけれど、簡単なのはこちらだ」と「は・か・せ」で議論しています。子どもたちが評価の基準を持っていることのよさを感じることができました。
指名した子どもに考え方を説明させます。子どもは友だちの説明に対してしっかり反応できます。授業者は上手く説明できない時には他の子どもに説明をさせますが、きちんと本人にそれでよいか確認します。基本がきちんと押さえられています。わからない子どもに対して、友だちの説明がわかったかの確認もしっかりします。「わかった」と答えたあと、「自分の言葉で言ってくれる?」と言わせました。一瞬緊張しましたが、たどたどしいながらもなんとか自分の言葉で説明し、終わったあと笑顔になったのが印象的でした。
3つの順列の適用題はすぐにできたのですが、4つの順列の問題で子どもたちがつまずいています。2番目がそれぞれ3つあるのに、2つになってしまっています。3番目で止まっている子どももいます。授業者には予想外だったようですが、できる子どもを指名して板書しながら説明させました。よいヒントになったのですが、指名された子どもは最後まで書いてしまいました。ここは、途中で止めた方がよかったでしょう。
子どもたちが4つの順列の樹形図を書けなかったのは、3つの順列の時に「は・か・せ」の「せ(正確)」を確認しなかったことが原因と思われます。授業者は、指導案では漏れがないか確認することを意識していたのですが、実際にはきちんと押さえませんでした。「正確であること」=「正しい」=「漏れがない」をきちんと確認する必要があったのです。第1走者をリストアップした時に、「これで全部?」「他にはない?」「絶対?」と確認し、理由を言わせます。第2走者でも同様です。1番目、2番目、3番目と順番を意識しながら、「これで全部か」をしつこく確認するのです。子どもたちは1番目、2番目、3番目と樹形図を横に追いかけて書いています。そうではなく、1番目はこれで全部、2番目は・・・と縦に書かせることが必要だったのです。一つひとつの順列を書くことではなく、もれなく書きだす書き方を意識させなければいけなかったのです。3つの場合で子どもたちがあまり抵抗なく正解を出せたので、授業者は確認を怠ってしまったようです。
とはいえ、子どもたちはとてもよい雰囲気で学習していました。だからこそ、教師が何を押さえ、焦点化し、共有するかが問われるのです。

3年生の体育の授業は、ポートボールでした。
子どもたちは準備運動をしっかりとやっています。集合解散も素早く行えます。次の練習のためにボールを取りに行かせたところ、かごへは素早く移動しましたがそこで困ってしまいました。ボールがどれだけ必要かわからなかったのです。指示があいまいでした。指示をし直した後、子どもがボールを持って戻ってくるのに、移動が遅くなっていました。子どもたちは、今度は早く移動することを意識していなかったようです。
これに限らず、授業者が明確に指示をしなかったことや、子どもにこうなってほしいと意識していないことを子どもたちはできません。あたりまえと言えばあたりまえですが、一つひとつの場面で目指す子どもの姿がはっきりさせることが大切です。
例えば、ドリブルの練習一つとっても、毬つきをしている子どもがほとんどです。ドリブルのポイントを意識して練習している子どもはいません。バウンズパスもどんな場面で利用するのかを教えていません。ただ、活動しているだけの練習でした。
この日は試合形式の練習です。ドリブルなしで全員がボールをキャッチするまで、シュートをしてはいけないという特別ルールですが、違反した時にどうやって再開するといったことは説明しません。子どもたちはゲーム中に戸惑ってしまいました。
子どもたちはやみくもに動いています。授業者は試合中に「シュート」といった指示を出しますが、子どもたちは指示されたことをとっさにやっているだけで、自分で判断したわけではありません。これでは技術は向上しません。また、試合のないチームの子どもはぼんやりとしているだけです。
最初に今日の試合形式の練習でのポイントが何かを説明することが必要です。もし説明しないのであれば、短い時間で全員に経験させ、他のチームのプレイも見せて、どうすればうまくゲームを進められるか相談させることが大切です。
授業者は自分が意識したことは子どもに徹底できる力はあると思います。要は、何が大切か、子どもたちにどうなってほしいかをきちんと意識することです。このことを強くお願いしました。

この市では5、6年生以外も外国活動を行っています。4年生の外国語活動を見ました。この日は家族を表わす単語を家族の写真や絵を使って”Who is this?”に答えることで練習するものでした。市全体で共通のカリキュラムがあるので、授業者の問題ではないのですが、英語を習得するという意味では、非常に問題のある授業でした。
語学の習得の初期段階では、「聞く話す」と「読む書く」は混在しない方がよいと言われています。単語書かれた絵で発音練習していることが気になります。文字を覚えてくれればラッキーという程度だとは思いますが、単語を覚えるのにはノイズとなります。また、Classroom Englishを使うのですが、肝心の言葉の説明は日本語でします。”brother”や”sister”は日本語で説明するとおかしくなります。兄と弟、姉と妹の区別がないからです。英語を日本語に1対1で対応付けることは避けるべきです。”situation”を理解することで身につけることが大切です。All Englishでねらうべきはこの部分なのです。ここで日本語を使ってしまっては意味がありません。
“What is this?”に対して”This is ○○.”という会話も気になります。確かに写真や絵を間にはさんでの会話は”this”でやり取りできますが通常は”situation”で変わります。”it”になることもあります。同じパターンだけで練習して習得してしまうと、混乱して修正しにくくなります。きちんと”this” ”that” “it”の違いを身につけさせる必要があります。
また、単語の練習で班ごとに列で順番に”father” “mother” と一つずつ順番に答えさせる場面がありました。一人が一つの単語言うだけです。他の班はそれすらもなく聞いているだけです。活動量の余りの低さにびっくりします
最後はいつものようにゲームです。この日は各自が描いた家族の絵をもとに、じゃんけんに勝った人が“What is this?”と絵を指さして、相手が”This is ○○.”と答えるものです。交代して終わりますが、ゲームのポイントを得るのはじゃんけんに勝った人だけです。英語の活用と関係のないところでゲームの勝敗が決まります。外国活動の目標が外国語と関係のないところに行ってしまいます。
担任がだれであっても外国語活動の授業ができることを目標にしたカリキュラムということはわかるのですが、ぼつぼつ次のフェーズに行くことを考えてほしいと思います。私が言うべきことではないかもしれませんが、そのことを教育委員会や校長会にはお願いしたいと思います。

6年生の音楽の授業は、かなり教材研究をしたと思わせるものでした。
授業の最初に全員で合唱しますが、歌う前にポイントを具体的に確認します。子どもたちは笑顔でとてもよい姿勢で歌っていました。ポイントを意識していることがよくわかるものでした。
この日はホルストの組曲惑星から木星の鑑賞でした。曲想の変化に注目させるのですが、「曲想」が何かが明確になっていません。この時間を通じて理解することでもよいのですが、音楽の用語をきちんと押さえながら進めることが大切です。曲を聞かせてから、子どもに感想を言わせます。つぶやきを拾ったときは、きちんと全体に対して発表をし直させます。とてもよい対応です。しかし、そこで自分で説明を始めてしまいます。もう少し他の子どもにつなぐことをしてほしいと思います。
ホルンの音が前に出ていることを説明して、再度聞かせます。説明で終わってしまっては気づけなかった子どもはそのままです。これもよい対応です。ただ、その場面を子どもたちで気づけるようにすることを意識するとよかったと思います。具体的には、ホルンの音が出てきたら手を挙げるといった指示です。
ホルンが6本と多いことを説明するのですが、子どもたちはピンときません。そもそも通常何本か知らないからです。教えてもいいですが、通常のオーケストラの写真と惑星を演奏しているオーケストラの写真を比べて見せても面白いかもしれません。特徴である、ホルンとティンパニーの構成の違いに気づくことができたかもしれません。
曲の感想をイメージで答えさせます。ここから音楽的な表現につなぎたいところです。子どもからは、「音が低いから」「ゆったり」という音楽表現につながる言葉が出てきますが、その場では深めたりつなげたりはしませんでした。
子どもたちの発言が終わったあと、そのイメージがどこから来ているか音楽表現に関する用語を出して、音楽的な根拠を求めました。視点を与えるのはいいのですが、用語の意味が全員に理解されていなければいけません。まずは、簡単に説明するか、子どもに確認したいところでした。何度も聞かせて鑑賞を深めさせようとしているのですが、友だちのイメージを聞くだけではなかなか深まりません。授業者は過程や根拠をつなぐことを意識せずに、子どもの感想を聞いては自分で説明をしてしまいます。結局教師がしゃべりすぎの授業になってしまいました。子どもはしっかりと感想を書いています。その感想をつなげることを意識すべきでした。
「同じような感想を持った人いる?」「それって曲のどういうところで感じた?」「同じようなことを感じた人いる?」「あなたはどんな感想を持った?」と根拠となる表現と感想をつないでいくのです。その上で、もう一度聞くと曲に対する理解が深くなったと思います。
どんなことを感じたというアプローチもいいのですが、逆に「作者は、木星はどんな星というイメージをもっているのか?」を課題としてもよかったかもしれません。より作者の表現を意識することになるからです。
「木星」という曲について本当によく教材研究をしていました。教材研究をするとどうしてもそのことをしゃべりたくなるのが人情です。そうではなく、子どもの言葉をつないだり深めたりする過程で教材研究を活かすという発想をしてほしいと思います。あくまで、子どもに気づかせることを基本とするのです。

授業後、個別に授業アドバイスをしました。どなたもとても素直に聞いていただけます。この姿勢であれば、必ず進歩すると思います。事実、前回に引き続き授業を見せていただいた方は、私のアドバイスを確実に自分のものにしていると感じました。私も自分のアドバイスに手ごたえを感じることのできた授業でした。こういう経験をさせていただくと私も元気が出ます。ありがとうございました。
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