【知立市立知立東小学校】 ちょっといい話

 核家族化が進み、身近な「死」に出会うことが少なくなった子供たち。6年生の「生命尊重」の内容項目で行った授業の終末に、教師自身の父親が亡くなったときの話をしました。
 毎日、仕事が忙しく、帰りの遅かった父は、そのとき50歳。疲れ気味の様子で「腰が痛い」「背中が痛い」「胃の調子が悪い」などと、よく母にもらしていましたが、高校生だった自分は、そんな父親を気遣う言葉をかけられませんでした。
 その日の朝も、ふだん通り仕事に出かけていった父。昼過ぎに珍しく電話があり、体調が悪いので、退社して帰宅するとのこと。帰ってきた父は、車を降りた途端にその場にへたり込んでしまいました。やっとのことで布団に横になりましたが、いつもと違う様子に心配になって「大丈夫」と声をかけると、「大丈夫だよ」という返事が返ってきました。
 その後の数時間で、父の容態は悪化し、救急搬送されましたが、「大丈夫」「大丈夫だよ」が父との最後のやり取りになりました。
 父が亡くなって20年以上が経ちますが、今でも時々、そのやり取りを思い出します。
 父の「大丈夫だよ」という言葉は、子供に心配をかけまいという優しさから出た言葉だったのでしょう。不思議と、つらいことや苦しいことがあったときに、父の「大丈夫だよ」という言葉を思い出します。
 身近な「死」は、もちろんつらく悲しく、乗り越えるのに時間もかかりましたが、今では心の中で、父が「大丈夫だよ」と優しく声をかけてくれるのをうれしく思えるようになりました。
 ふだんは、にぎやかな学級の子供たちが、真剣なまなざしでじっと静かに話を聞いてくれました。