桜の木にも若葉が芽吹き、春の到来に躍動感を感じる季節となりました。新入生の皆さん、入学おめでとうございます。保護者の皆さま、お子様のご入学、まことにおめでとうございます。私たち教職員、在校生一同、新入生の入学を心より歓迎いたします。
　また、本日は、本校PTA会長 渡部 剛(たけし) 様をはじめ、ご来賓の皆様には、公私ともにご多用の中、本校の入学式にご臨席を賜りましたこと、高いところからではございますが、学校を代表して心より御礼申し上げます。
　私ども教職員一同、心を一つにして、知・徳・体のバランスのとれた生徒の人格形成に努めてまいります。皆様方におかれましては、新入生をはじめ、在校生に対しても限りない激励とご支援を賜りますようお願い申し上げます。

　さて、８９名の新入生の皆さん。皆さんは、今日から稲付中学校の生徒です。稲付中学校は、開校以来７０回目の入学式を迎えるという歴史を持ち、これまで多くの卒業生を輩出してきた伝統ある学校です。皆さんのお父様やお母様、身近な人の中にも、本校の卒業生である方がいらっしゃるかもしれません。
　皆さんは、こうした歴史と伝統ある稲付中学校の生徒の一員であるという、誇りと自覚をもち、有意義な中学校生活を送ってください。
　有意義な中学校生活と言いましたが、今、中学校への期待と不安の気持ちでいっぱいではないでしょうか。中学生になったら、あれもしよう、これもしようと心の中をたくさんの期待が駆け巡っているのではないかと思います。同時に、しっかりやっていけるのだろうか、先生や上級生は怖くないだろうかという不安もあるでしょう。しかし、不安というものは、分からないから感じるのであって、１月もすれば、立派な中学生となりますから大丈夫です。
　では、期待のほうはどうでしょう。皆さんの期待に、中学校は応えてくれるでしょうか。「期待通り」とか「期待外れ」とか言いますが、期待とはいったい何でしょう。
　期待の「期」の字は、ここでは、「あてにする」という意味です。期待の「待」は文字どおり「待つ」という意味です。つまり、期待とは、「あてにして待つ。」という意味になります。
　期待外れだったという人は、あてにして待っていたのに、中学校に入ったら、あてが外れたということでしょう。そこで期待外れと感じた時のために、一つお話をしておきましょう。

　昔、ある靴の会社がありました。作った靴を海外に輸出しようとして、南の島に２人の社員を派遣しました。島に着いた２人の社員は、そこでびっくりする光景を目にしたのです。何と、その島に住んでいる人は、みんな裸足で生活しているのです。
　皆さんならどのように思いますか・・・。
　しばらくして、一人の社員から国際電話がかかってきました。
「社長、残念です。この島の人はまだ誰も靴を履いていません。絶望的です。」
　その後、もう一人の社員から電話がかかってきました。
「社長、素晴らしいところです。この島の人はまだ誰も靴を履いていません。最高です。」
　２人の社員は、全く反対のことを言っていますね。
　この話の意味が分かりますか。
　最初に電話してきた社員は、当然みんなが靴を履いていて、自分の会社の靴が売れるだろうと期待していたのです。ところが、誰も靴を履いていない。どうやって売っていいかわからない。期待外れだったことに絶望しているのです。
　２人目の社員は、この島の人は誰も靴を履いていないので、みんなに買ってもらえるチャンスがあると思って「最高です。」と電話してきたのです。

　中学校に入学した皆さんはどうでしょうか。たとえば、期待して入った部活動があまり強くなかったとします。その時、「ああ、残念。がっかりだ。」と思いますか、それとも「最高だ、僕の力で私の努力で変えていけるチャンスがある。」と思いますか。
　これはまさに先ほどの靴のお話と同じです。
中学校が自分に何かをしてくれることを期待しているだけでは、いつまでたっても絶望が続くかもしれません。自分がこの学校で何ができるか、そして、何をしてあげられるかと考えた時、絶望は、希望に変わります。

　改めまして、保護者の皆様。　本日、皆様にとってかけがえのない大切なお子様８９名を、確かに稲付中学校でお預かりいたしました。これからの世の中はどう変わっていくか想像がつきません。どんな状況にも柔軟に対応できる力が必要です。
　先ほどの靴の話ではありまぜんが、誰も靴を履いていないから売れないという固定観念に縛られないことが重要です。　
　前例がないことに挑戦できる、やっていける人間に育てること。そのためには、目の前の状況から課題を見つけ、解決に必要な情報を集め、自ら考え対処できる力が必要となります。
　中学校は、学習面、生活面ともに、私たちが子供たちに求める内容も高度になってまいります。また、３年後には、義務教育を修了して新たな進路選択をすることとなります。
　稲付中学校の全教職員が、全力を挙げてお子様の成長のために努力してまいります。
　しかしながら、学校だけで目標を達成できるものではありません。学校と保護者の皆様が子どもを育てる大人の責任として、協力し合うことが、何より大切であると考えています。
　結びにあたり、本日ご臨席賜りましたご来賓の皆さま並びに保護者の皆さまに今後ともより一層のご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げ、式辞といたします。

平成２８年４月７日　北区立稲付中学校長　高田勝喜