「読書の秋」ということで、本日は読書について話をさせてもらいます。

　現在、読書週間の真っ最中です。　読書週間は、読書推進運動協議会という団体の推進する取り組みで、毎年１０月２７日から１１月９日（『文化の日』をはさむ前後２週間）で行われます。

　その歴史は稲付中の開校と同じで、６８年前の１９４７年（昭和２２）にまで遡ります。　終戦からわずか２年後のこの年、まだ街中にも人々の体や心にも、戦争の傷跡が残っていたに違いありません。

　そうした中、「読書の力によって、平和な文化国家を築こう」という決意のもと、出版社や書店、図書館、さらに新聞・放送といったマスコミ機関も加わって、第１回読書週間が始まったのです。

　毎朝、朝読書の時間を設けている稲付中では、毎日が読書週間だと言えます。　その読書の効能は「幅広い知識を得る」「豊かな人間性を培う」「文章表現能力や言語感覚を養う」等、枚挙にいとまがありません。

　ただ、それとは別に稲付中の朝読書には、「一日の学校生活を、落ち着いた雰囲気の中でスタートさせる」という目的もあることを、ぜひ皆さんには知っておいてほしいと思います。

　たとえ１０分間とはいえ読書に集中することで、慌ただしい朝の雰囲気を落ち着かせ、その状態で１時間目の授業に臨む …。　間接的にではありますが、朝読書は学力向上にも役立っているのです。

　さて、ここから先は、私の個人的な考えとして聞いてください。

　私が今までの読書経験から得た最大の幸運は、「人との出会い」です。　厳密に言うと「書物の中に描かれた人物との出会い」であり「登場人物の生き方やものの考え方との出会い」です。

　人の生き方や考え方を知ることは、自らの生き方を見つめ直すきっかけとなります。　私たちは、人との出会いを通して、自分はどう生きたいか、どう生きるべきかを考えるのです。

　しかし、一人の人間が、一生の間に経験できる人との出会いには、限界があります。　まして、その生き方や考え方まで知ることのできる人となると、数えるほどしかいないでしょう。

　読書には、そんな限りある希少な「人との出会い」を補ってあまりある効能があると、私は思うのです。　事実、私が人生において最も影響を受けた人物は、ある書物の中にいました。

　私は、その人を描いた小説を、１８歳の時に読みました。　以来、この歳になるまで、私はその人の背中を追い続けています。　その人のように生きるために、自分はどうあらねばならないかを考え続けています。

　困難や挫折に直面したときは、常にその人ならどうするかを考え行動に移しました。　そう考えると、書物の中にいたその人との出会いが、１８歳以降の私の人生を決めたといっても過言ではありません。

　さて、話を読書週間に戻しましょう。　今年の読書週間の標語は【 毎日が読書日和 】。　晴れた日には青空の下で、雨や雪の日には静かな室内で、たくさんの書物に親しんでください。

　もしかしたらその中の１冊に、皆さんの人生に関わるような「人との出会い」があるかもしれません。　この秋、皆さんにとってたくさんの【 一期一会 】があることを、願っています。