「 東京で一番の学校は、どこですか？ 」 と尋ねられた時、そこに通う生徒、そこで働く先生方、そこにわが子を通わせる保護者や地域の方々のすべてが、胸を張って 「 稲付中学校です 」 と答えられるような学校を築くという夢です。

　そして、その夢を実現するために、稲付中では学習・生活の両面で、他の中学校以上に高いハードルを設けています。　その一例が、各教室や廊下の至る所に貼られている、これらのポスターです。

　こちらは 『 稲付中サブファミリー （ ＳＦ ） しぐさ 』 と書かれています。　本校とＳＦの小学校 ＝ 清水小、第三岩淵小、梅木小の４校で、義務教育の９年間を通して身につけさせたい１０の 「 しぐさ 」 を示したものです。

　「 時間を守って行動します 」 「 人の話を聞くときは、目と耳と心を相手に向けます 」 「 人に対して暴力をふるったり、人をいじめたりしません 」 などの 「 しぐさ 」 が、明記されています。

　こちらには 『 稲付中授業の６ヶ条 』 と書かれています。　すべての授業で共通して守る、６つの約束事を掲げたポスターです。　「 授業中の姿勢・態度 」 や 「 机の上に置いて良いもの 」 などに関する約束事が、挙げられています。

　この他、通称 『 ＮＷＮ４８ 』 と呼ばれるものもあります。　『 ＮＷＮ 』 とは 「 ならぬものは、ならぬもの 」 の頭文字で、校則とは別に、誰もが気持ち良く学校生活を送るために必要なルールやマナーを、４８項目に分類したものです。

　今ざっと紹介しただけでも、１０のしぐさ、６つの約束事、４８のルール・マナーと、あわせて６０以上ものきまりがありました。　ずいぶんたくさんあると思ったかもしれませんが、いずれも守るのが 「 当たり前のこと 」 ばかりです。

　つまり、「 東京で一番の学校 」 とは、「 当たり前のことが、当たり前にできる学校 」 でもあるわけです。　稲付中の一員になった以上皆さんも、一日も早くこうしたきまりを覚えて、実行できるようにしてください。

　そして、もう一つ、私が密かに抱いている夢も、教えておきましょう。　それは、今お話しした 『 ＳＦしぐさ 』 『 授業の６ヶ条 』 『 ＮＷＮ４８ 』 などを、「 すべて、なくしてしまう 」 という夢であります。

　と、言うと、「 たった今 『 実行してほしい 』 と言ったばかりなのに、話が矛盾している 」 と少し驚いたかもしれません。　わかりやすく説明しましょう。

　【 Ｂｏｙｓ ， Ｂｅ　ａｍｂｉｔｉｏｕｓ 】 （ 少年よ、大志を抱け ） の言葉で知られるアメリカの教育者・クラーク博士は、１８７６年（明治９）、開校したばかりの札幌農学校 ＝ 現在の北海道大学に、初代教頭として着任しました。

　その際、校舎内の廊下にたくさんの校則が貼られているのを見て、クラーク博士はこう言ったそうです。　「 規則で人間をつくることはできない。　この学校に、規則はたった一つあればいい。　それは、【 Ｂｅ　Ｇｅｎｔｌｅｍａｎ 】 だ。」

　【 Ｂｅ　Ｇｅｎｔｌｅｍａｎ 】　意味は 「 紳士であれ 」。

　「 Ｇｅｎｔｌｅｍａｎ ＝ 紳士 」 は男性を指す言葉ですが、これは札幌農学校が当時は男子校だったからで、皆さんは男女に関係なく 「 礼儀正しくて教養のある人間 」 と解釈してください。

　一人ひとりの生徒が、礼儀正しくて豊かな心をもち、人の立場で物事を考えられ、善悪の判断を間違えることなく行動できるのであれば、その集団に細かな規則やルールは不要でしょう。

　私が皆さんに期待するのは、そうした自律の精神です。

　１年生に限らず、後ろにいる２・３年生の皆さんも一緒になり、あらゆる校則やきまりが必要ない学校を目指しましょう。　それができたとき、稲付中は間違いなく 「 東京で一番 」 いえ、「 日本で一番 」 の学校になれると確信しています。

　【 Ｂｅ　Ｇｅｎｔｌｅｍａｎ （ 紳士であれ ） 】。

　この言葉こそ、１２１名の新しい仲間を迎えた平成２６年度のスタートにあたり、私がすべての稲中生に投げかける最初のメッセージです。　これから共に力を合わせて、夢の実現を目指しましょう。　私は、皆さんに期待しています。

　　　　　　　　　　　　　　　 平成２６年４月８日　北区立稲付中学校長　武田幸雄

　平成２６年度が始まりました。

　私がこうして皆さんにお話をする機会は、１年間に何回もありますが、例年、決まって同じ話をする節目の日もあります。　１年生が入学する前、つまり、１学期の始業式も、そんな日の一つです。

　３年生の皆さんは覚えているかもしれませんが、ちょうど１年前の今日、私は新２・３年生にある言葉を紹介しました。　それは、アメリカ合衆国第３５代大統領ジョン・Ｆ・ケネディーという人の残した言葉です。

　ケネディー大統領は、１９６３年、暗殺により４６歳という若さでこの世を去りました。　そのため、大統領を務めた期間は３年足らずですが、歴代大統領の中でも偉大な大統領として常に名前の挙がる人です。

　そのケネディー大統領は大統領になったとき、後に 「 Ａｃｔｉｖｅ　Ｃｉｔｉｚｅｎ 」（ アクティブ・シチズン ＝ 能動的な市民・国民 ） と題されるようになった就任演説の中で、次のように国民に訴えかけました。

Ａｓｋ　　ｎｏｔ　　ｗｈａｔ　　ｙｏｕｒ　　ｃｏｕｎｔｒｙ　　ｃａｎ　　ｄｏ　　ｆｏｒ　　ｙｏｕ ， ａｓｋ　　ｗｈａｔ　　ｙｏｕ　　ｃａｎ　　ｄｏ　　ｆｏｒ　　ｙｏｕｒ　　ｃｏｕｎｔｒｙ　．

　日本語に訳せば、【 国家があなたに何をしてくれるのか尋ねてはいけません。あなた自身が国家のために何ができるのかを、問わなければならないのです。】 といった意味です。

　以前も話しましたが、人間は他者との繋がりの中で生きています。　社会や集団、組織の中で、周囲の影響を受けたり、誰かに支えてもらったり、逆に周囲に影響を与えたり、誰かを支えたりしながら生きているのです。

　したがって、自分が幸福に暮らしたい、快適な生活を送りたいと願うのであれば、周囲の人々の幸福や、社会全体の快適な暮らしについても考える必要があります。

　学校も、小さな社会であり、組織、集団であります。
　先のケネディー大統領の演説に出てきた 「 国家 」 という言葉を 「 学校 」 に置き換え、さらに少しだけアレンジすると、こんなふうに言えると思います。

　【 ２年生・３年生へと進級した今、これからは、学校があなたに何をしてくれるか期待するだけではいけません。　あなた自身が学校のために何ができるかを考え、それを行動に移さなければならないのです。】

　先生や上級生、友達が、自分のために何かしてくれるのを待っているだけではいけない、ということです。　「 稲付中を東京で一番の学校にするために、自分にできることは何か 」 を考え、それを実行してください。

　大切なことは、皆さん一人ひとりが受け身ではなく、ａｃｔｉｖｅ （ アクティブ ＝ 能動的 ） つまり、自ら進んで周囲に働きかけられるようになることなのです。

　このようなお話は、中学校に入ったばかり、つい数日前まで小学生だった１年生にはできません。　だからこそ私は、ケネディー大統領の演説 「 Ａｃｔｉｖｅ　Ｃｉｔｉｚｅｎ 」 を、２・３年生しかいない１学期の始業式で紹介しているのです。

　落ちているゴミを拾う。　元気な挨拶を心がける。　はがれかかった掲示物を直す。　委員会や係の仕事に全力を注ぐ。　率先して集団生活のルールやマナー、モラルを守る … 。

　まずは小さなこと、ささやかなことでかまわないので、周囲への心配り、思いやり、奉仕の精神を持ち、具体的な行動に移してください。　やがてその積み重ねが、学校全体の質の向上や、快適な学校生活につながっていくでしょう。

　この１年間、皆さん一人ひとりが、稲付中を東京で一番の学校にするために　Ａｃｔｉｖｅ　　Ｓｔｕｄｅｎｔ （ 能動的な生徒 ） であってくれることを望みます。