本日は、ご多用中にもかかわらず、本校第67回卒業証書授与式に際し、北区教育委員会を代表されて教育委員会・事務局次長・田草川昭夫様、ならびに、大勢のご来賓の皆様にご臨席を賜りました。
高い所からではございますが、学校を代表して心より御礼申し上げます。
保護者の皆様におかれましては、お子様のご卒業、誠におめでとうございます。 至らないところも多々あったかと存じますが、私たち教職員は、この3年間全力でお子さんの指導に当たってまいりました。
本校の教育活動に対し、今日まで賜りました皆様のご理解とご協力に、厚く御礼申し上げます。
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さて、3年生の皆さん。
私は、皆さんのことが大好きでした。 そんな皆さんへの思いを、最後にどんな形で伝えようかと、私はこの数日間ずっと考えてきました。 そして、こう決めました。
今から私は、皆さんに三つの告白をします。
といっても、たいした内容ではありません。 ただ、自分の気持ちをまっすぐ伝えるには、その方法が一番良いのではないかと思ったのです。 どうか少しの間、我慢して聞いてください。
まず最初の告白は、今かかっているこの曲のことです。 もうわかっていると思いますが、これは皆さんが後ほど歌う『JUPITER』です。
この曲は、5年前に東日本大震災が発生した際、被災地を励ます曲として、東北地方で多くリクエストされたことで知られます。
合唱曲としての『JUPITER』を作ったのは、世界的な作曲家・指揮者として知られる松下 耕さんです。 先週行われた合唱コンクールで、金賞を受賞した3年2組の皆さんが歌った『信じる』の作者としても知られます。
実は、私が稲付中の前に勤務していた学校では、毎年その松下さんが率いる合唱団のコンサートを開催していました。 そして、最後はこの『JUPITER』を、松下さん自らの指揮で、3年生と一緒に歌っていただくのが恒例でした。
この曲は、第72回NHK音楽コンクールの全国大会で、全国代表校の中から選抜された中学生が歌った曲でもあります。 そんな選りすぐりの中学生用に松下さんが編曲したので、きわめてハイレベルな合唱曲といえます。
東日本大震災が発生した5年前、稲付中に着任した私は、音楽科の萩谷先生に尋ねました。 「この学校の3年生に『JUPITER』を歌わせられますか?」
残念ながら、萩谷先生の答えは「NO」でした。 そして、次の年も同じ質問をしましたが、萩谷先生の答えもまた同じでした。 3年目と4年目、私はもう尋ねることさえしなくなりました。
ところが、稲付中で迎えた5回目の秋、音楽室から皆さんの歌う『JUPITER』が聞こえてきたではありませんか。 後で萩谷先生に伺ったところ、「今年の3年生なら、歌えると思いました」との答えが返ってきたのです。
学校改築に伴い、この体育館で挙行できる卒業式も今回が最後。 そんなメモリアルな卒業式で、皆さんが最高難度の合唱曲に挑む背景には、そうした5年越しの経緯があったということ…。
それが、私の最初の告白です。
二つ目の告白です。
今でこそ「東京で一番の中学校」というフレーズは、私たちが共有する夢のキーワードとして使われています。 では、いつから稲付中が「東京で一番の中学校」を目指すようになったか、皆さんは知っていますか?
実は、皆さんが入学したときからなのですよ。 3年前の入学式、私は皆さんにこう語りかけました。 「『東京で一番の中学校を築く』という夢は、皆さんと力を合わせれば十分に実現可能な夢だと、私は信じる。」
「3年後、皆さんには『東京で一番の中学校で学んだ』という誇りを胸に、稲付中の門を巣立っていってほしい。 その夢への挑戦が、今始まった。」 …皆さんは忘れているでしょうけど、私は確かにそんなことを話したのです。
さらに3年前、皆さんの入学と同時に変えたものが二つあります。 それは、教育目標と制服です。 教育目標は、創立以来変わらなかったものを、皆さんの入学に合わせて66年ぶりに改定しました。
制服のモデルチェンジについても、皆さんは現行の制服で入学した最初の生徒です。 つまり、夢も目標も外見も、そのすべてを刷新したのが3年前。 皆さんの入学は、まさに新生稲付中のスタートでもあったのです。
この生徒となら、学校に新しい価値を創り出せるかもしれない。 皆さんは、そんな可能性を感じさせる生徒でした。 そして今、私は自分の目に狂いはなかったと、心からそう思えています。
これが、二つ目の告白です。
さて、最後の告白です。
3年生の皆さん。 私は、皆さんのことが大好きでした。 だから、それを時々言葉にして伝えてきました。 「私は、皆さんのことが大好きですよ」と。 しかし、実は今、そのことを少し後悔しています。
どんなに皆さんのことが好きでも、もう明日からはそれを伝えることができない。 だとしたら、「時々」ではなく、もっともっと、毎日毎日でも、皆さんが聞き飽きるほど口にして伝えてくればよかった…。 そう後悔しているのです。
3年生の皆さん。
皆さんは、これから先の長い人生で、もしかしたら自分のことを嫌いになることがあるかもしれません。 自分が生きている価値を見いだせずに、消えてしまいたいと思うことがあるかもしれません。
そんなときは、どうか今日の私を思い出してください。 皆さんは、一人の校長に、一人の人間に、そこまで愛される存在だったのです。 それは、皆さんが、そこまで愛されるに値する、魅力あふれる存在だったからなのです。
私も、これから先の教員人生で、また別の学校でさまざまな生徒に出会うことでしょう。 もしかしたら、自分とは全く異なる価値観をもつ学校で、自分の思いが全く伝わらない生徒に出会うかもしれません。
でも、そんな時には、私も皆さんのことを思い出すことにします。 皆さんと稲付中で過ごせた3年間があったから、これからも私は、生徒と夢を共有できる校長であり続けられると思います。
最後にもう一つだけ、おまけのカミングアウトをしておきます。
皆さんと共に夢見てきた「東京で一番の中学校」。 その夢が実現できたかどうかは、校長の私が判断することではありません。 その答えは、生徒である皆さん一人ひとりが出してください。
ただ、私にも、一つだけ断言できることがあります。 それは、3年間皆さんと同じ船に乗り、同じ旅を続けてこられた私は、間違いなく「東京で一番幸せな校長だった」ということです。
3年前、この稲付中学校に入学してきてくれて、どうもありがとう。 3年前、私に出会ってくれて、一緒に旅をしてきてくれて、本当にありがとう。 今、船は港に着きました。
そして、皆さんがそうであるように、私も一度船を下りて、4月からまた別の船で、新たな航海に出ます。 だから、お別れだけど「さよなら」は言わずにおきましょう。 どうか皆さん、お元気で。
Bon voyage!(ボンボヤージュ!) 良い旅を!
平成28年3月18日 北区立稲付中学校長 武田幸雄