愛される学校づくり研究会

【第16回】学校は警察じゃない! 苦情電話を撲滅せよ!(その1)


 「プルプルプル・・・・・・」(電話の鳴る音、電子音)
 「はい、小牧中学校です」
 事務職員のTさんが受話器をとる。
 「おたくの生徒さんが道を広がって歩いていて、じゃまになって困るからちゃんと指導してくれ!」
 電話を生徒指導主事のK先生にかわる。

 「大変申し訳ありません。学校の方で生徒にちゃんと指導しておきますから・・・」
 K先生は自分は何も悪いことをしていないのに、ぺこぺこ頭を下げながら電話の応対をしている。
 「それでは明日から早速登校指導をさせてもらいますから。・・・・・・はい、わかっております」
 「ガチャン・・・」(電話を切る音)
 「小牧高校の北の道での登校状況が大変悪いという、お叱りの電話でした」
 「早速、明日の朝、現場の指導をしたいと思います。Y先生とT先生お願いします」

 臆病者の私が心の中でつぶやく・・・
 「うーん・・・その場でど叱ってくれればいいのに・・・」
 次の日の朝早くから勤務時間外にかかわらず現場の指導に数人の先生たちが出かける。2、3日ほど続けると登校の様子も改善される。

・・・いたって平凡な苦情電話・・・とその対応

「プルプルプル・・・・・・」(電話の鳴る音、電子音)
 「はい、小牧中学校です」
 教頭先生が受話器をとる。
 どうやら、無許可自転車通学者がマンションの駐輪場に勝手に自転車を止めた模様・・・。

 「○○マンションで自転車無断駐輪事件発生! 手の空いているものは現場に急行せよ!」
 臆病者の私の頭の中で「リズムアンドポリス」が鳴り響く・・・。そして、若い先生たちの後を追って、最近めっきり遅くなった足で現場に。
 「ゼーハー ゼーハー・・・」(これはわたしの息切れの音・・・)

 「情報からするとどうやらこの赤い自転車と思われます」
 若手のT先生が目をきらりと輝かせながらその自転車を指している。
 「名前は書いてあるのか?」という私の問いに
 「いえ、書いてありません!」とさわやかな答え。
 「だれのかわからんのに、持って行くわけにはいかんな・・・。鍵がかかっているからパク車ではないな」
 「しょうがないから帰りに張り込みだ・・・。あーめんどくせー・・・」
 トボトボと学校に戻る。

 「ケーンコンカンコーン・・・」(電子音ぽいチャイムの音。授業終了。各学級は短級中)
 学年所属の先生たちで朝行った現場に出かける。今度はゆっくり歩いていけるので少し楽・・・。
 「よし、この建物と植え込みの間に隠れていよう。自転車の鍵を開けた瞬間に確保だ! タイミングを間違えるな!」
 若い学年所属のT先生、N先生にこういって一緒に身を隠す。

 15分経過・・・駐輪場に向かっている生徒の姿はない・・・。
 「おかしいなー、短級はとっくに終わっているはずなのに・・・」
 若いT先生がしびれを切らす。
 「まあ、焦らずゆっくり待とうゼー。部活のある生徒だったら、2時間待ちだ! 覚悟しておけ! 今日は天気がいいだけ幸せと思わないとな!」
 と年の功の見栄をはり、落ち着いた振りをして生徒を待つ・・・。

 30分経過・・・私の頭の中に「♪きっと君は来ない〜♪」・・・という山下達郎のメロディーが聞こえ始めた時・・・駐輪場に向かって歩いてくる2年の生徒の姿を発見!
 「先生!・・・き、来ました・・・こっちに向かっています・・・」
 若いN先生が興奮気味の声でつぶやいた。
 「待て!・・・焦るな! いいか! 自転車の鍵を開けたらGOーだぞ! くれぐれもタイミングを間違えるな!」
 私たちは植え込みと同化するように息を潜めその瞬間を待った。

 「ガチャッ・・・」
 例の赤い自転車の鍵を開ける音がした。
 「獲捕〜っ!」
 一斉に無断駐輪の生徒の前に飛び出す。生徒は、私たちの姿に金縛り状態で全く動かない。
 「現行犯だ〜っ! だぁだぁだぁーっ! うっしゃー」(これはオーバーアクション事実とはもちろん違う)
 「ごめんなさぁ〜い!・・・」
 生徒は観念し、素直に謝る。(この状況ではそうするしかない・・・)
 その場で、マンションの方に迷惑をかけていることや無断で自転車に乗ってきている自分の心の弱さなどについて厳しく指導し、帰宅させる。
 「先生待ちぼうけ食らわなくてよかったすね・・・」
 「しかし、俺たちの仕事って何なんだぁー!」
 「俺たちってひょっとして警察ぅ〜?!」

・・・これもいたって日常茶飯事の平凡な苦情電話への対応

「プルプルプル・・・・・・」(電話の鳴る音、電子音)
 「はい、小牧中学校です」
 たまたま生徒指導のK先生が電話をとる。
 「道を広がって歩いているのを注意したら、『うっせーくそばばぁ〜』と言われたんですね? わかりました。誰が言ったかを調べて注意しておきます。本当に指導が不十分で申し訳ございませんでした」
 また、自分が悪くもないのに生徒指導のK先生がペコペコ頭を下げながら電話の応対をしている。
 生徒からの目撃情報で3年の男子生徒E男であることが判明。すぐに呼び出し指導をする。

 臆病者の私が心の中でつぶやいた・・・
 「こんな日本に誰がしたぁ〜・・・。大人が子どもを叱れない社会になっちまったか・・・」
 学校外のことでも呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん・・・俺たちって社会の叱り役?

・・・これもいたって平凡な1年に何本もかかってくる苦情電話

時は30数年さかのぼり私臆病者の中学時代・・・。剣道部の部活の仲間3人との下校途中の出来事である。おいしそうによく熟れたイチジクを途中の畑で発見!
 「あのイチジクうまそうだな・・・」
 悪友の甘い誘惑・・・。
 「いっぱいなっているし、一つや二つや三つとってもばれんって・・・」
 悪友の甘い誘惑その2。

 部活を終え、腹も減っている・・・。そのころから臆病だった私は、とうとう悪友の誘惑に負けてしまった。3人で意を決して、同時にいかにも甘そうなイチジクに手を伸ばし、実をもぎとった瞬間・・・。
 「こらぁ〜!!! そこの3人の小僧たち、うちのイチジクとりやがったなぁ〜!!!!」
 鍬を肩に担いだいかにも頑強そうな畑の持ち主と思われるおっさんが走ってきた。
 「バカたれが! 人様のものとってどうする! このイチジクは俺様が丹誠込めて育てている大切な売りもんだ! バカたれがぁ〜!!!」
 「そこに正座せんかぁー! バカたれがぁ〜!」
 畑の脇のそのころはまだ舗装されていない道の端に3人並んで正座させられ、拳で頭を殴られ、さんざん注意をうけてやっと許してもらい解放される・・・。

 反省と恥ずかしさで落ち込んで家の前まで来ると、母親が竹箒を持って仁王立ちしている・・・。
 「ヤバイ・・・!」と思いながら覚悟を決めて家の玄関に入ろうとしたところ、母親の竹箒攻撃!
 「あんたぁ〜、イチジクとって叱られとったんだってねー! いい加減にしやーよ! いつも人様の迷惑になることだけはしなさんなと、言っているでしょーが! ホントお母さん情けないわー!」
 ビシバシビシッ・・・しばらく続く・・・
 「悪いことしてもちゃーんとお天道様が見ているんだからね! わかっとるのかこの馬鹿息子!」
 正座させられ叱られている情報が隣のおばちゃんによって提供されているのであった・・・。

 悪に対して地域社会は厳しいものであった。翌日学校に行くと当然友だちも先生もこの悲惨な事件の事を知っている。友だちからは、
 「ばかじゃねぇーの!」と冷たくされ、先生からもこっぴどく追い打ちをかけるように叱られ・・・。そして、いつものように部活でしごかれ下校する・・・。昨日のイチジク畑の前に来ると、あのおっさんの姿があった・・・。びくびくしながら、
 「昨日はおっちゃんの大切なものを勝手にとってすみませんでした・・・」と謝った。
 すると、
 「おめぇーたち、部活の帰りで腹すいているんだろー。これ食え、うちのイチジクは甘ぇーぞー! 食いたけりゃ、俺が畑にいる時にそう言え! 人様のもの勝手にとるのだけはやめろよ、坊主たち」
 「ありがとうございます!・・・」
 

・・・地域社会が厳しいけれど温かい・・・今と全然違う気がする・・・。これどういうこと?

(「学校は警察じゃない! 苦情電話を撲滅せよ!(その2)」につづく)

(2005年5月16日)

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●杉浦 嘉一
(すぎうら・よしかず)

小牧中学校教諭。学年主任、保健体育担当、剣道部顧問、伝統の駅伝部総監督。年度末に校内で密かに出す「人事ファン」(杉浦の人事異動予想紙)はあっという間に売り切れ。お茶目な中に本質を突く学校教育論を書かせたら右?に出る者はいない。子どもの傍らにいつもいる存在であるように学校中を動き回っている。