愛される学校づくり研究会

【第12回】鉄は熱いうちに打て! 1年生の生徒指導が3年間を決める!<苦しいことをどんどんやらせよ!―駅伝編>その5

試走を繰り返しながら、生徒たちは自分の走りたい区間や、目標タイムを具体的に考えるようになる。当然のことながら、生徒の思惑通りには絶対にいかないのであるが…。練習の後期になると、それぞれが目標を持つということが重要になってくる。3年生については、Aチーム入りを目指しての壮絶な戦いが始まり、1・2年生についてもここまで練習してきたのだから、選手になるんだという気持ちが高まってくる。そして、早朝自主的に練習に取り組む生徒の数も学年を問わず増えてくる。11月の文化祭当日も、11月末学年末テストのテスト週間も駅伝部に休みはない。

 どの学校でも同じだと思うが、文化祭のコーラス大会の後、賞が取れずに落ち込んでいる生徒たちに、「過去は振り返るなー! 悔しさをバネにしろ! 夕日に向かって走れー!」と檄をとばし、テスト週間中でも、「適度な運動は、脳を活性化させる! 駅伝練習での粘りと根性は勉強にも役立つ!」などと都合のよいことばかり言い、練習に参加させる。ひょっとするとテスト週間まで練習をさせ、保護者の皆様からひんしゅくを買っているかもしれないと思いながら、それに気づいていないふりをしてごまかすことにしている。
 

「練習後期」
〜1500m・1000m計測で自信をつけさせちゃうぞ!
 「3年が飛び出せば、1年も飛び出しちゃう伝統作戦」〜

練習は、ペースランニング、ビルドアップ走、インターバルときつい内容が続き、たるんでいる生徒には容赦なく保護者の皆様にはお聞かせできないようなきつい言葉を浴びせ、ムチを入れる。それでも3年生は、ペースランニングでも、積極的に先頭に立ち1・2年生を引っ張るため徐々に練習の雰囲気がピンとはりつめた緊張感のあるものになっていく。こんな毎日を繰り返し、生徒は知らないうちに、自分が思っているよりも力をつけていくのである。
 11月末、駅伝大会が迫ってきたところで、年度当初のスポーツテストの結果と比較できるように、男子は1500m走、女子は1000m走の計測を行うようにしている。  これが3000mの計測であれば、

  「先生、ぼくちょっと足を痛めていて…」
  「私、朝からお腹の調子が悪くて…」

と計測をなんとかさぼろうとする生徒が何人かいるのであるが、1500m・1000mの計測とわかると、反応が全く違うのである。

  「今日は男子は1500m! 女子は1000mの計測を行う!」
  「やったー、1500m走だってー! 3000mの半分なんか最後まで全力で走れるぜー」
  「何か俺4分台出せそうな気がする…」
  「先生! 本当に1000mでいいんですか!? 嘘じゃありませんよね!」
  「1000mだってぇー…、私思いっきり走ろー!」

日頃最低5キロは走ってきた生徒たちには、1500m・1000mという響きがとても短く感じるらしい。招待選手グループと学年別に分けて男子は300mトラック、女子は200mトラックで3回〜4回に分けて行うのであるが、始めに招待選手グループを走らせるようにしている。特に3年生は、アップのときからやる気満々である。中には、3000mの計測でないことを知ったとたん放課などスキップしていた生徒もいた。

  「位置について…ドン!」

全員がほぼ全力に近いスピードで飛び出していく…。

  「300mラップ51秒! 4分台ペースだぞ! そのペースキープだ!」
  「1・2年生! 3年生の走りをよく見ておけよ!」
  「56秒に落ちたぞ! 粘れ! 根性だ!」
  「ラスト1周! 55秒で走ってこい!」
  「最後の1周は気持ちで押せ!」
  「4分38秒 39 40 41 ……… 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 5分! 1 2 ……… 30!」

男子は5分を切ることを3年間の目標にしていた生徒たちが、4分40秒台前半から4分59秒までの間に12、3人がなだれ込んで来た。女子も3分30秒あたりで集団がゴールしている。男子については、1・2年を含めて全てが5分30秒以内にゴールしている。女子もほとんどが4分以内でゴールだ。長距離を専門にやっているものは別にして、男女ともに立派な記録だ。この走りを見て、部活強制参加生徒、自主参加生徒も全力で飛び出していく。この姿が伝統となって引き継がれていくのだ。
 駅伝参加生徒一人ひとりの記録を名簿に書き込んでいく…。走り終わった後の生徒たちの顔は満足感に溢れている。

  「やっと4分台が出せた!」
  「スポーツテストのときより俺1分以上早くなった!」
  「こんなに速く走れると思わなかった!」

と力のついた進化した自分を確認し満足げである。
 それぞれが自分の進歩を自覚し、さらにやる気が高まったとき、次のような駅伝部報を生徒たちに渡し、大会に向けての気持ちを高め、どの区間になっても自信と誇りを持って走ろうとする意欲づけのための作戦にしている。
 

平成16年度 駅伝部報<No.4>

大会まであと10日! しかない……
忍耐・粘り・根性・努力・くそ意地が自分を成長させる!
残り少ない練習をいつも全力で取り組もう!


力のあるものは楽をすることを考えるな! 楽をしたところで自分の進化が止まる!
 「先生ぼく6区にしてください…」「3区なんか走らんよ〜」
 大会が近づいてくると必ず多くの人が口にする言葉です。上位のチームで走ることになりそうな人…なぜその区を走るのかよく考えてください。それは、あなたに「力があるから」です。9人でタスキをつないでいく団体競技の中では、自分のわがままは許されません。総合的なものを考えて走る区間を考えなければなりません。力のある人が力のいる区間を走るのは当然のことなのです。

 男子は130名、女子は80名いる中で、選手として走ることにどのチームに入っても誇りを持って欲しいと思います。駅伝部の中には、誰よりもまじめに練習に参加していても、選手として大会で走ることのできない人もいるということを忘れないでください。男子10チーム、女子7チームエントリーしてもそういう人がいるのですよ。練習で苦しい思いをしたのは、力のある人の2倍・3倍だったかもしれません。選手として今日配った試走名簿に名前が乗っている人は、そういった人の思いを受け止め走って欲しいと思います。

 12月4日(土)は、最後の試走になります。チームごとの勝負です。当然結果で、上位・下位チームの入れ替えもあります。大会はそこまで迫っています。自分の走る区間を精一杯走ることだけを考えてこれからの練習に取り組んでいって欲しいと思います。人間誰もが楽をしたいものです…。でも自分の能力を出し切ることなく、楽を覚えてしまったとき自分の進化が止まるのです。君たちの可能性は常に前向きな気持ちを持っている限り無限です。もう文句や愚痴をこぼしているときではありません。ひとつのことを最後までやり抜いたという君たちのさわやかな笑顔を期待しています。
 


駅伝に前向きにがんばれる人は、ここ一番で力を発揮できる!
 駅伝部での自分の取り組みをもう一度思い起こしてください。
 「苦しい…」「疲れる…」「さぼっているとぼろくそに言われ、怒鳴られる…」「はい、さようならと冷たく言われる…」
 それに君たちは2か月も耐えているのですよ。先生もこの時期までこれだけの人数が残ることを想像していませんでした。「根性なし男くん」たちが音を上げ、12月には男女合わせて120名程度に絞られると考えていました。その期待を君たちはしっかりと裏切ってくれました。君たちの「くそ意地」に感心しています。

 おかげで、試走のメンバーの配置を決めたりするのにも膨大な時間をかけることになってしまいました。家に帰り駅伝関係の集計や、作戦を練っていると次の日になってしまうことも何度かありました。練習も1部2部3部制をとると、授業が終わってから3時間くらい外に出っぱなしということもありました。「こんなあほらしいことやっとれるかい!」と思ったことも何度もありましたが、そんな気持ちを吹き飛ばしてくれるのが、練習に前向きに取り組んでいる人の姿でした。

 練習に前向きに取り組んでいる人の姿は本当にすがすがしいものです。いまだに少し中途半端な気持ちで参加している人がいるのが残念ですが、「苦しいことに前向きに取り組める人」は駅伝だけでなく、いろいろなことに前向きに取り組んでいける人だと思います。特に3年生では、今まで駅伝に前向きに取り組んできた人で、進路に失敗した人を見たことがありません。苦しいことから逃げることなく立ち向かっていこうとする姿勢が、ここ一番の大きな力になるのだと思います。「努力は自分を裏切らない!」ことを信じ、あと10日間悔いのない練習をしていってくれることを期待しています。


■業務連絡コーナー
(1) 駅伝メンバーは11月30日の最終エントリーのために考えたものであり、残り10日の練習で変更することが大いにあり得ます。チーム入れ替え「今日からお前は○○だ作戦」で走る人を変えます。
(2) 所属部活、ジュニア活動で板挟みになりながらがんばっている人については12月4日の試走に参加できない場合、どこかでコース確認をする日をつくりたいと思っています。今日中に試走に参加できない人は申し出てください。(一度もそのコースを走ったことのない人優先)
(3) 寒くなってきました。練習メニューに入る前に自主的にアップを行う習慣を身につけてください。
(4) 寒くなってきました。帰るときの防寒具を準備するようにしてください。
(5) 大会前日の練習後恒例?になっているバナナパーティーを行う予定です。
(6) ここに来て練習をさぼることが絶対にないようにしてください。
(7) 残りわずかの練習期間です。愚痴をこぼさず楽しくいい雰囲気で練習していきましょう!
(8) 12月4日が雨の場合………どうしたらよかんべか 雨天決行か? 平日夕方走りに行くか? 危機的状況…その時連絡、中止にはせず業務連絡会開催!

 

(鉄は熱いうちに打て!1年生の生徒指導が3年間を決める!<苦しいことをどんどんやらせよ! 駅伝編>その6につづく…)

(2005年2月28日)

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●杉浦 嘉一
(すぎうら・よしかず)

小牧中学校教諭。学年主任、保健体育担当、剣道部顧問、伝統の駅伝部総監督。年度末に校内で密かに出す「人事ファン」(杉浦の人事異動予想紙)はあっという間に売り切れ。お茶目な中に本質を突く学校教育論を書かせたら右?に出る者はいない。子どもの傍らにいつもいる存在であるように学校中を動き回っている。